専業主婦園城寺怜はふなQに連れられて、東の港街、横浜に来ていた。
「神戸に比べるとショボいけど……な、なかなか横浜もやるやん」
中華街の屋台で買った大きな豚まんを頬張りながら、横浜の人の多さに怜は驚いていた。横浜に来たのははじめてで、横浜ロードスターズの本拠地ということしか知らなかった。
旅行をするにあたって、洋榎から横浜の街並みに関する知識を収集しておいたのだが、東京の属国みたいな寂れた港街という情報はなんだったのか……
「人が多いから離れないでくださいね、六大学も見終わりましたし、これからどうします?」
「とりあえずご飯やろ、お腹空いたわ」
六大学リーグで地味に活躍する泉の勇姿を応援してから、横浜にきたので結構良い時間になっていた。朝から移動しっぱなしでかなり疲れたので、席に座って休みたいというのもあった。
「やっぱり中華にします? 2人で中華いうのも、なかなか選びにくいものありますね、後2人くらいいれば、中華並べられるんですけど……」
ふなQは少し周りを見渡しながら、どのお店で食べようか悩んでいるようだった。
怜はパチモンの中華街のガイドブックを読みながら、良さげなお店が書かれたページがあったので、ふなQに見せてアピールする。
地図がよく読めないので、ふなQに連れて行って貰う必要があるからだ。
「お粥さん食べたいで!」
中華粥専門店、混老頭。
落ち着いた雰囲気の店内で、中国茶を飲みながら、ふなQと怜の2人はお粥の到着を待っていた。怜はアワビ粥、ふなQは鶏粥をそれぞれ注文した。
「うち、大学麻雀ちゃんと見たのはじめてやったけど、あんまりレベル高くないなあ……」
「六大学はレベル高いとは言いますけど、大学麻雀は玉石混交やから……プロ麻雀や園城寺先輩が闘ってきたインハイのトップ層とはまた違いますよ」
ふなQがそう言いながら、怜の前に置かれた青磁の湯呑みにお茶を注いでくれた。
「サンキューや、あのレベルの低い試合を見て、この人プロで活躍しそうとかわかるんか? 泉が一番活躍してそうに見えたんやけど」
「園城寺先輩もわかってるやないですか」
「え?」
「今日見た中で、ドラフトにかかる可能性があるのは泉だけです」
「ま、まじかー」
あまりのレベルの低さに怜は、大学麻雀界の未来を憂慮した。ふなQからタブレットを受け取り、今日の泉の牌譜を振り返る。
千里山にいるときよりだいぶ守備が上手くなって、安定感が出たような印象を受けたがそれだけだ。とくにこれといって、目立つものがない。
だいたい見終わったので、ふなQに無言でタブレットを返した。
「ほんまは、対木さんや原村さんも見たかったんですけど……今日はでませんでしたね」
「おもちの人やな」
怜はそう言いながらも、原村さんの闘牌にはあまり惹かれるところがなかったので、ふなQというより神戸の本命は、対木さんなんやろなと推測した。
「プロ指名されるされないの基準ってなんなんや? 実績だけじゃないやろ?」
「一概には言えませんけど……大学生なら将来性だけじゃなくて、ある程度の完成度も欲しいところですね、即戦力も期待しているので」
「逆に高校生なら能力や将来性を重視して欠点には目を瞑ります、完成度が低い所は伸びしろとしてかえって、プラス評価されたりします」
「園城寺先輩の同年代なら、松山にドラフト2位で入団した宮守出身の臼沢プロなんかは、能力重視でとって成功した例ですね」
麻雀の選手のことになるとふなQは、饒舌に語ってくれる。駆け出しとは言え現役スカウトの意見なので非常に参考になる。
お粥の前に点心が出てきたので、早速怜は海老焼売をモグモグすることにした。
「竜華や弘世さんが臼沢さんと同じドラフト2位だったり、結構ドラフトって不思議な世界よな」
「清水谷先輩は三年生の個人戦で調子が最悪じゃなければドラフト1位もあったかと、弘世プロに関しては完全に巡り合わせですね」
ふなQの話によると直前の大会成績もかなり選考に左右されるらしい。麻雀の技量だけでなく、性格、家庭環境、生活習慣まで調査されることもあるという。
「そ、それなら高校3年の時にはうちの生活までスカウトに、隅々まで調査されてたんやろか!?」
「いえ、園城寺先輩、松実さんあたりになってくると、一位指名で確定してるのでかえってあまり素行面は調査していないかと、競合状況と怪我の具合だけですね、そのレベルの素材は」
「多少素行が悪くても、麻雀強ければ全て許される世界なので」
たしかに、玄ちゃんは歌舞伎町のおもちパブで酔っ払って、床に寝ているところを週刊誌に激写されたりするなど、素行面に問題あるものの、あいつアホやなと言われつつも好意的な目で見られることが多い。少しは麻雀も強くて、品行方正な宮永さんを見習ってほしい。
やっぱり、玄ちゃんは駄目やなと怜は確信を深めた。
「例えば、宮永咲のドラフトの年なんか宮永さんが一番良いって全雀団わかってるのに6雀団競合になったりすることないやん? あれはなんでなん?」
怜は前々から思っていた疑問をふなQにぶつける。
「競合って獲る方としても不確実でやっぱり嫌なんですよ、そうなると宮永さんを諦めれば良い選手がとれる面が出てくるんです」
「それでうち(神戸)は大星さんいったんですけど、普通に大宮と競合になって失敗しましたね……それなら、宮永に特攻してハズレなら、一般ファンからは文句言われないでしょうけど、そういう事情もあるんです」
なるほどなあ……怜は、ふなQの言い分に納得した。
「逆にふなQ世代の玄ちゃんと天江さんがドラフトの目玉だった年なんかは、選びやすかったんちゃうの?」
「それがそうでもなかったらしいです、天江さんと玄ちゃんで3.3ということなら、それで特攻していけばええんですけど……その年はそれ以外の選手も充実していたので」
そう言って、ふなQはタブレットの画面にタッチペンで当時の一位指名を書いてくれた。
松山 天江 衣
恵比寿 天江 衣→荒川憩→花田煌
横浜 天江 衣→荒川憩→花田煌→雀明華
佐久 赤土 晴絵
神戸 赤土 晴絵→荒川憩
大宮 松実 玄
「凄まじい迷走ぶりやな……」
玄ちゃんの競合指名を嫌い、逃げた赤土さんのほうで競合するという、お笑いをかますエミネンシア神戸。外れ指名で荒川さんをくじ引きで勝てたから当時は許されたものの、負けていたら、編成部は神戸ファンから吊し上げモノである。
「これ、大宮が一番驚いたんと違いますかね……当時の松実さんは4雀団競合!とか言われてましたし」
「まあでも、ドラ1指名された選手全員それなりに活躍しとるし大誤算はなかったやろ」
「日本人登録で雀明華いって拒否された横浜だけはなにがしたかったのか、不明でしたけどね……話がついてるから、いったんじゃなかったのかと」
「編成部も暗黒なんやろ」
横浜がくじ引きで勝って天江さんが横浜に入っていたら、横浜ロードスターズが強豪になってた未来もあったかもしれへんと怜は思った。
「というか、鶴田さんいかへんの?」
「当時の鶴田さんはあんまり評価高くなくて、ドラ1って感じではなかったですね……それなら、社会人や大卒の即戦力いきたかったチームが多かったです。大宮はもしかしたら、とりたかったかもしれませんが、先に松山に拾われましたね」
「なるほどなあ……未来から見ると結構不思議な指名しとるところもあるなあ」
怜がそう言ったところで、頼んでいたお粥が到着した。
鮑が豪華にお粥の上に並べられ真ん中に揚げたパンとネギが添えられている。見た目からして美味しそうである。
怜はレンゲでふーふーしてよく冷ましてから、お粥を口に運んだ。
神戸のパチモノの中華街の料理のくせに、言葉が上手く出てこないほど美味しい。
「と、東京の料理にしてはやるやんけ……ま、まあ悪くあらへんな」
東京の料理ではなく中国の料理なのだが、そのへんは怜には関係ない。
もちろん美味しかったので、街の文句を言いながら最後まで全部食べた。