横浜郊外の一軒家。江口セーラのおうちに怜とふなQはお世話になっていた。
「積み木はちゃんと箱の中に戻そうね!」
「はーい!」
江口レーコ(3歳)は、裕子お母さんの指示をよく聞いて、一生懸命に積み木を片付けていく。
怜は基本的に雑誌を読んでも片付けないし、ご飯を食べても必要に迫られなければ食器を片付けない。
「あそびおわったあとに、おかたづけができる」の項目において、神戸のにじゅうよんさい児は、横浜のさんさい児に大きく差をつけられていた。
怜が発育でリードしている「みんなで、麻雀ができる」の項目でも、来年か再来年には追いつかれそうなので、もう少し危機感を持つべき状況だ。
「裕子さん、ごはん美味しかったです、ごちそうさまやで」
「ふふっ、お粗末様でした」
怜がそうお礼を裕子さんに言うと、お風呂場から出てきたセーラが怜に声をかけた。
「怜、横浜にはどれくらいおるんや?」
「んーとくに予定はないなあ……明日と明後日の六大学とトップリーグ見るのは決まってるんやけど」
「お、いつまででも泊まってけ泊まってけ」
セーラはそう言ってくれているが、流石に悪いので泊まるのは今日だけにして、明日からはホテルに泊まる予定である。
「とき、とまってけ、とまってけ」
レーコちゃんもセーラの真似をして、泊まっていけと言ってくれている。
怜は好かれているが、ふなQは何故か少しレーコちゃんに嫌われている。メガネが怖いらしい。
セーラが10代で7つも上の女子アナウンサーと結婚したのはびっくりしたが、その後コウノトリさんにも恵まれ、家族仲良く暮らしているようで何よりである。
怜も高校卒業と同時に結婚したため、10代で結婚したことには特に不安は抱かなかった。
裕子さんは今はアナウンサーの仕事を休止して、子育てに専念しているので怜と同じ専業主婦だ。なお、その実力には大きな差がある模様。
積み木には飽きてしまったのか片付け終えていたが、今度は麻雀牌を一枚一枚マットの上に積んで、崩すという遊びにレーコちゃんはチャレンジしていた。
「江口先輩みたいな、プロ麻雀選手になってくれるとええですね」
ふなQがその様子を見てセーラにそう言ったが、セーラは娘に麻雀をさせることには、消極的なようだった。
「んー本人がやりたいって言うなら、それもええかもしれへんけど……俺の意思でやらせたいとかはあらへん」
楽しそうに麻雀牌で遊んでいるので、怜は少し面白いものを見せてあげようと思い、レーコちゃんの持っている牌と同じ牌を裏向きのまま集めてきてあげた。
キョトンとしているレーコちゃんの前で、牌をめくっていく。自分の持っているのと同じ一索が三枚並んだのを見て、レーコちゃんは大興奮だ。
「すごい!」
「せやろーさすがやろー」
レーコちゃんの反応に気を良くして、怜は裏向きになっている牌の中から、萬子を1から9まで順番にめくってあげた。
「そ、それどうやってるんです?」
「タネも仕掛けもあらへんでー」
裕子さんが本当に驚きながら、半信半疑で怜の手品を観察してきたので、怜は牌を弄るのをやめることにした。竜華と違ってこの程度のマジックしかできないので、まじまじと観察されると少し恥ずかしい。
「まーじゃんしてみたい!」
怜が牌を触っている様子を見て、レーコちゃんがそう高らかに宣言してくれたので、怜は散らばった牌を全部裏向きにしてから、13枚牌を適当に選んで表向きにして置いた。
「一枚ひいてきて一枚捨てて、良い感じにするんや!」
「やってみる!」
一切ルールを教えずに、やらせてみる怜のスタイルにセーラとふなQは驚いた顔をしていたが、レーコちゃんは真剣そのもので牌を拾っては捨てていく。レーコちゃんは、セーラそっくりのボーイッシュな外見をしているので、小さいセーラが一生懸命考えているようでなんとなく微笑ましいなと怜は思った。
「ええ感じになった?」
5分くらいたってから14枚になったタイミングでそう怜が、声をかけてみるとまだ納得がいかないらしい。
「もう少し……鳥さんあつめる!」
それから4回ほど牌を交換してから目当ての牌を引けたようで、自信満々でレーコちゃんは怜に牌を見せてくれた。
「できた!」
清老頭が揃いそうな手牌になっている。ほぼ完成しているのだが、一索が4枚あるので、なかなか完成しそうにない。
「まだ完成してへんな」
そう怜が言うと、レーコちゃんは目を伏せて悲しそうな顔をしたをした。
怜は一索を四枚とって端の二枚を伏せてから、もう一枚とってくるように促した。
「これで良い感じの引いたら和了できるで」
「よーーーし!」
意気込んでいるレーコちゃんの手が真っ先に裏向きのー筒に伸びて、いくのを見て怜は思わず身構えた。
小さな手で一筒を掴むと、そのまま表向きにして手牌に加えた。
「やるやんけ!!! ツモや!」
「ツモやーーー!!!」
嬉しそうにレーコちゃんはそう宣言した。
せっかくの和了なので怜がレーコちゃんの頭を撫でてあげると、得意げにもう一回ツモ宣言をしてくれた。
「レーコ良かったね!」
「うん!」
裕子さんがレーコちゃんのことを褒めると、もう一回やると言ってやり直しを求められたので、牌を全部裏向きにしてからまた適当な牌を13枚だしてあげた。
また真剣な表情でレーコちゃんは絵合わせを始めた。
「な、なあ怜、今なんかしたんか?」
セーラは、怜のことを訝しむように問いかける。
「なにもしてないで、自分で選んでるの見たやろ?」
大量に裏向きになっている牌の中で、当たりは一筒と九索の四枚しかなかった。それを一発で引いてきた豪運の理由をセーラは、怜に求めたのだろうが、とくに仕掛けはない。嶺上開花、清老頭、四暗刻と怜にも不思議なくらいに、出来すぎた和了だった。
「そのうちすごいプレイヤーになるかもしれへんなあ……大きくなったら、一緒に麻雀やろうや」
「うん!」
怜がそう言うとレーコちゃんは、元気よくお返事してくれた。
么九牌が好きなのかと思い、怜は南を裏向きのままレーコちゃんの近くに持っていきツモらせて、反応を伺ってみることにした。ツモるなりすぐに遠くにポイされてしまったので、好きなのは老頭牌だけらしい。
ルールを理解していないため、刻子しか揃えられないのに、揃うペースが異様なほど早い気がする。
セーラと怜が食い入るように、その様子を見つめていると、レーコちゃんの動きが停止した。せっかく五筒が三枚重なったのに、絵合わせゲームには飽きてしまったようだ。
レーコちゃんは、おままごとのお皿を持ってきて、そこに点棒をおもむろにぶち込む。更にトマトとレタスのおもちゃと、一索を放り込んで怜に渡してくれた。
「ぱすた!」
点棒はパスタちゃうやろというツッコミを心の中でしたものの、一応24歳のお姉さんなので、お礼を言って料理を受け取とることにした。
「ありがとなー、一索入ってるみたいやけど?」
怜がそう質問すると、自信満々でレーコちゃんは教えてくれた。
「とりにく!」
「こ、この鳥食用なんか!?」
もう少しばかり、怜と一緒に麻雀をするのには時間がかかるかもしれない。