専業主婦、園城寺怜のプロ麻雀観戦記   作:すごいぞ!すえはら

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第49話 関係者控え室と迷子の泉とふなQ

 

 園城寺怜は、横浜ロードスターズの本拠地、ベイサイドマリンスタジアムの関係者控え室に連行されていた。

 特に悪いことはしていない。スタジアムの観客席の最前列にテンションが上がった怜がサングラスを外してしまい、身バレして人が集まり大騒ぎになったので、隔離された次第である。

 

 最初は遠巻きに、席の周りを様子を伺うような麻雀ファンに取り囲まれただけだったが、一緒に試合観戦に来ていたアホの泉が「園城寺先輩、はやくサングラスと帽子つけてください!」と慌てて叫んだため、警備員が出動する大惨事になってしまった。

 

「だいたい、泉が悪いな……うん」

 

 関係者控え室は、オフィス調の内装となっており、大きなテレビモニターとパーソナルソファーが置かれている。高校インターハイの選手控え室も、似たような作りだったので、少し懐かしさを覚えた。

 一緒に来ていたふなQと泉が、迷子になってしまったことは残念だったが、まあなるようになるやろと怜は考えていた。

 

「スタジアムまできて、モニター観戦はションボリですわあ……」

 

「見れるだけいいじゃないか、控え室もインターハイみたいでそう悪くないだろう?」

 

 これだけの騒ぎを起こしてまだ普通に麻雀観戦するつもりでいる怜のことを、愛宕監督がそう慰める。昔の教え子が、控え室に捕らえられていると聞きつけて、遊びにきてくれた。

 

「横浜の監督も、もう長いですね?」

 

「そうだな、もう麻雀の監督をすることはないと思っていたが……縁あってさせてもらっているよ。怜には悪いと思うこともあるが」

 

「私のことは気にせんでください、愛宕監督には迷惑かけただけですから」

 

「インターハイの優勝旗まで貰って、迷惑なんてことはないさ」

 

「ただ……もっと早くに怜のことは止められたと思っている。千里山の監督を辞めたくらいで、責任をとれたとも思えない……すまない」

 

 愛宕監督はそう言って怜に頭を下げた。

 会うたびに千里山高校時代のことを愛宕監督から謝られるのだが、個人戦で無理をしたことについては、愛宕監督に止められていたとしても出場を強行したことは間違いない。

 そのため、謝られても居心地が悪くなるだけで反応に困るので、適当にお茶を濁しながら、違う話を怜はふることにした。

 

「試合の準備はええんですか?」

 

「ん……まあ常にベンチにいなくちゃいけないわけでもないしなあ、今日の先鋒はメグだし、前半は慌ただしくなることはないなあ」

 

 愛宕監督の自信のありそうな発言を聞いて、怜は今年の横浜のチーム事情を聞いてみることにした。

 

「横浜最下位やけど……脱却の兆しってあるんでしょうか?」

 

「揺杏や弘世をはじめとして最近は若手の台頭が著しいし、セーラも先鋒として安定してきた来年は期待してくれ」

 

「なにより、宮永もいるしな!」

 

 当たり前のように、来年のことを話してくれる暗黒が板についてきた愛宕監督に、怜は苦笑いを浮かべた。もう今年は、最下位から浮上できる見込みはないらしい。

 戦力がいないので、若手が毎年台頭する不思議世界が完成していた。

 

 試合が始まるので、ベンチへと戻っていった愛宕監督が置いていった缶のミルクティーを飲みながら、怜は先鋒戦と次鋒戦をモニターで鑑賞する。

 テレビとは違って、点数状況は出るものの実況がつかないので少々退屈だ。しかし、これはこれで牌の動きや選手の表情がよくわかっていいかもしれない。

 

プロ麻雀トップリーグ 中堅戦

恵比寿 163600

佐久  134700

神戸  90600

横浜  11100

 

 前半は慌ただしくなることはないと言っていた愛宕監督だったが、先鋒のダヴァンが大乱調で、4万点失点し先鋒区間途中で降板した。

 バトンタッチした消火班の小走さんも、ダヴァンがつけた火にガソリンを投げ入れるような不注意な闘牌を見せつけ、試合は大炎上の様相を呈した。

 お笑いであれば完璧な試合展開なのだが、一応横浜ロードスターズも、真面目に試合をやっているらしく、モニター越しに映し出される愛宕監督の顔には悲壮感があった。

 しかし、愛宕監督の横に腰掛け、ベンチで平和そうにみかんゼリーを頬張っている宮永さんの顔には、特に悲壮感は見られなかった。むしろ少し幸せそうに怜には見えた。

 

 愛宕監督の顔芸と、宮永さんのモグモグタイムを面白おかしく鑑賞していると、意外な来客者が声をかけてきた。

 

「園城寺さん本当にきていたのですね。すばらです!」

 

「あ、花田ちゃん久しぶりやなあ」

 

 今日の先鋒戦では大活躍だった恵比寿の若きエース花田煌が、アイシングサポーターをつけたまま控え室まで遊びにきてくれた。

 

「まさか、花田ちゃんがプロ麻雀選手になるとは思わなかったわあ……今日の闘牌もすごく良かったし」

 

「ありがとうございます。でも、それ高校時代どんな評価だったのか気になりますねぇ……」

 

「うちが対戦した時と3年のときが、別人すぎてびっくりしたわあ……新道寺そんな変わったん?」

 

「ま、まあ……色々すばらな出来事がありましたからね」

 

 新道寺の話になったら露骨に目を逸らし始めたので、宮永さんが入部してからずいぶん変わったのだろうなと思った。

 宮永さんがキャプテンになってからの新道寺の練習は信じられないほど、厳しいという話は怜も聞いていた。

 

「地獄の練習を乗り越えて、恵比寿のエースになった花田煌かっこええわあ……」

 

「ありがとうございます。エースになるまですごく時間かかっちゃいましたけどね。本当はインターハイの先鋒でエースとして園城寺さんと戦いたかったです」

 

「うちもやで」

 

 花田ちゃんの麻雀に対する熱い思いを聞いて、インターハイの思い出が怜の脳裏を過ぎる。エースとしての覚悟を持って臨む団体戦には特別なものがあり、その感覚を共有して花田さんと麻雀をしてみたかった。

 

「それはそれとして……すばらな出来事って、例えばどんなことがあったんや?」

 

「んーそうですね……って!?言わなきゃ駄目ですか!?」

 

「ランキング形式で、新道寺にいて辛かった経験第3位の発表や! 1番辛かったこととかは言わなくてええで」

 

 こう言っておちゃらけた雰囲気をだしておけば話せる範囲で、教えてくれるだろうと怜は思って花田ちゃんに話をふった。

 

「ま、まあ第3位だけなら……大丈夫でしょうか? 新道寺のこと園城寺さんと話したい気持ちもありますし」

 

 そう言って花田ちゃんは、後ろを振り返ってから話し始める。

 

「新道寺は練習がきつくて、一年生は練習がキツくて寮から脱走したり、練習に来なくなって行方不明になっちゃう子が必ずいるんですよね。半分くらいは辞めるので、基本的には去るもの追わずなんですけど」

 

「ふんふん」

 

「5月か6月くらいだったかな? 一年生の名前は伏せますけど、すごく有望な子が寮から脱走しちゃって……戦力ですし、練習の合間に私と友清さんで探し回ったら、校舎の裏で麻雀牌を両手で持って泣いてたんですね」

 

「うわーきついなぁ……」

 

「だから、私と友清さんの二人がかりで、その一年生のことを袋叩きにして、部室に連れ戻して麻雀をさせてたんですけど」

 

「は?」

 

「逃げ出したことが宮永キャプテンにバレちゃって、そんな人いらないから退部しろという話になってですね…… 」

 

「へ、へえ……」

 

「その子、部室で他の三年生からも蹴られまくって放心状態だったので、宮永キャプテンに上手く謝れなかったんですよ……あの時は焦りましたね」アハハ

 

「」

 

「それで、私がその一年生の代わりに、みんなの前でキャプテンに土下座して許して貰ったんです」

 

「」

 

「私にとっては辛い思い出でしたが、その子は練習にも積極的に参加してくれるようになりました。後には、精神的にも成長して、期待通りレギュラーにもなれたみたいですよ。すばらですね!」

 

「全然、すばらくないわ!? やばいやろその高校!?」

 

 話の始めから最後まで、一点の曇りもなく黒だった高校時代のエピソードに、怜はドン引きした。最後がなんか良い話風になっているのもなんかやばい。

 

「これが新道寺のやり方ですから、厳しい中にも愛情があるそんな高校です!」

 

 花田ちゃんは、キラキラとした目で新道寺女子の素晴らしさを語る。純真な語り口で話されると、先輩と後輩との絆を描いた良い話のようにも思えてきた。

 怜は心の底から花田ちゃんに、興味本位で高校時代のことを聞いたことを後悔しはじめていた。

 

「あ、募る話もありますしこれからご飯でもどうですか? キャプテンも誘って一緒に行きましょうよ」

 

「え、あーどうしようかな……でも試合まだあるしなあ…………」

 

 どうしても、花田ちゃんの透き通った目の輝きが、不穏なものに見えてしまう。怜は出来れば断りたかったので、試合がまだ残っていることをアピールした。

 

「え? でももう終わりましたよ?」

 

 テレビモニターの中で、末原さんが恵比寿の三尋木さんに跳満を放銃してゲームセットになっていた。怜は心の中で末原さんに悪態をついた。

 

「そ、それなら、ご一緒させてもらうな」

 

「ありがとうございます。おいしいお魚料理とお肉料理どっちがいいですか?」

 

「お魚さん食べたいわあ」

 

「それなら、いきつけの落ち着いた雰囲気のすばらな料亭があります」

 

 花田ちゃんはスマートフォンを手に取ってウキウキで段取りを進めていった。

 どうやらもう逃げられそうにない。

 

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