自分の書きたいものを書いて、感想が貰えると非常に励みになりますね。書いていることが伝わっていると嬉しくなったり、色々と予想を立てていただいたり……
「う、うちはやらへんからな! 泉がかけろや!」
「嫌ですって! 園城寺先輩が誘われてついて行ったんじゃないですか!」
「別にうちが誰とご飯たべても勝手やろ!」
深夜の料亭でどちらが竜華に連絡するかを押し付け合う二人。かなり見苦しい光景である。
3分間の言い合いの末、泉が竜華に電話をかけるということで話がついた。しかし、いざ電話をする段になって、スマートホンを持ったまま半べそをかく泉に、すがり付かれたため結果的には、怜が電話することになった。
「しゃーないなあ、うちがかけるわ」
怜がそう言って、泉からスマートフォンを受け取った。待ち受け画面が、パッと切り替わり着信があることを伝えてきた。もちろん竜華からである。
思わず、通話拒否のボタンをタッチしそうになったが、後ですごく面倒なことになりそうなので、頑張ってそのまま出ることにした。
「もしもし、園城寺です」
『とき! 大丈夫!?!! 泉とふなQとはぐれたって聞いたけど怪我してない!?』
ものすごく切迫した様子が、電話越しに伝わってきた。
「大丈夫や、今は宮永さんと花田ちゃんとご飯食べてるで——あ! あと末原さんも」
『宮永さん? 麻雀してへんやろな?』
「してへんで、お座敷で和食食べてるんや」
『よかった』
安心した様子で、竜華はそうつぶやいた。
それから竜華から泉ともう合流していることを確認されたり、はぐれてしまった時は電話してほしいなどの注意を受けた。
怒られると思っていたが、ただひたすらに心配されていたということが、竜華の口調から感じられたので、竜華に少し悪いことをしたなあと怜は思った。
『次からはちゃんと連絡しないとダメやで? わかった?』
「うん」
『それじゃあ、少し泉に代わってや』
「うん」
そう竜華から言われたので、消音ボタンを押してからスマートフォンを泉に渡そうとすると、おててを後ろに回して体全体を使って交代を拒否してきた。仕方がないので、いないことにしてあげようと怜は思った。
「泉、今トイレいっててなーまだ戻ってきてないんや」
『あ、ほんま? それなら少し待ってるわ』
「うん」
もう一度消音ボタンを押してから、大丈夫怒ってへんからと言ってスマートフォンを泉の前に置いた。
「ほ、ほんとうに怒ってませんよね」
「安心して、ご機嫌やから大丈夫や」
怜がそう後押しすると、泉がおっかなびっくりスマートフォンを手に取って通話を始める。
「あ……お電話かわらせていただきました、泉です」
おい
「あ……はい」
なんですぐでえへんの?
部屋に竜華の低いよく通る声が響く。
電話を耳にあて、気をつけをしたまま固まる泉。
その様子を宮永さんが息を潜めたまま笑っている。口元を可愛らしく両手で押さえながら、肩を震わせる愛らしい姿を披露してくれた。
よく聞こえなかったが電話越しに竜華からなにか言われたらしく、カクカクとブリキのおもちゃみたいな動作で歩行して、泉は部屋の外に消えて行った。
障子が閉まる音がして、静寂が訪れる。
「千里山もヤバいやんけ!? おまえらの高校絶対おかしいわ!」
末原さんのツッコミが入る。明らかに練習メニューと体質がおかしい新道寺女子高校と、今まさに後輩が先輩にシメられる現場が繰り広げられた千里山女子高校。麻雀名門校、女子校、上下関係……役満である。
「今日のはたまたまやし……新道寺と一緒にして欲しくないわあ」
怜がそう言って空になったグラスを持つと、花田ちゃんがオレンジジュースを注いでくれた。勝手に仲間意識を持たれているようだが、本当に千里山は厳しい高校ではないので迷惑である。
「末原さんは、姫松でどんな高校生活を送ってきたんです?」
宮永さんはデザートのキウイをフォークで刺しながら末原さんにそう尋ねた。
「ん……そら、麻雀部みんなで仲良く練習して全国の頂点を目指すべくやな」
「すばらです! 私と同じですね」
「絶対違うわ!」
花田ちゃんに末原さんはそう吐き捨てた。花田ちゃんの中で高校生活の全てが、とてもすばらな思い出に昇華されているのがとんでもないなと怜は思った。
花田ちゃんは団体全国優勝を経験している事は羨ましいが、学校生活は一切羨ましくない。宮永さんも実績はともかくとして、悲惨な人生を送ってきたことは間違いなさそうなので、自分が似たような人生を歩むことは遠慮被りたい。
「その点、末原さんはエリートやからなー羨ましい限りや」
「私がエリート?」
怜がそう言うと、末原さんはキョトンとした顔をした。末原さんは自分がどれだけ恵まれているのかあまり自覚がないらしい。
「クラブチームから推薦で、名門姫松高校に入学。一年生から試合に出て、監督から期待され伸び悩みながらも、三年生には姫松の大将を務め全国の舞台で活躍そしてプロ入り……絵に書いたような麻雀エリートやろ」
「うちなんて2年の秋までベンチ外や」
怜がそう言い終えると、花田ちゃんが深く頷いた。
逆に末原さんの経歴で、どうしたら凡人とかそういうネガティブな事を言うようになるのか、怜からすれば不思議なくらいである。
おそらく、全国レベルの魔物達に負け続けた結果なのだろうが、最後の団体戦では姉帯豊音や獅子原爽に競り勝っていたりと、末原さん自身も十分に化物の領域に足を踏み入れている。
「そ、そんなこと考えたこともなかったわ…………」
そう言って末原さんはビールを飲むのをやめて、空になったグラスをじっと見つめていた。
「センスあるんやから頑張れや。結果が残せなくてもええやん、自分を疑わずに一歩一歩前に進んでいければ」
「末原さん、あきらめたらあかんで!」
怜は末原さんの手をとってそう激励した。諦めなければ次に繋がっていく怜はそう思っていた。
アメジストのような瞳から、ただ幾重の涙が零れ落ちていく。声もなく末原さんは、ビールグラスに映った自分の姿を見て泣いていた。
「園城寺……」
末原さんが震える声で怜の名前を呼んだ。
「ん? どうしたん」
「今こんなやけど……また、私が麻雀できるようになったら、高校時代みたいに……卓を囲んでくれへんやろか?」
「もちろんや! いてまえいてまえ!」
そう言って、怜は末原さんの背中をばーんと力強く叩いた。
「すばらですねえ……キャプテンはこのために末原さんを呼んだんですか?」
花田ちゃんは、小さい声で宮永さんのグラスにジュースを注ぎながら問いかけた。
「ん……違いますよ、末原さんを同席させたのはイジり倒して園城寺さんとの間を持たせたかっただけです……2人だけで会ったら、絶対ギスギスするだろうから」
「そういうことにしておいてあげます」
飄々と答える宮永さんのことを、花田ちゃんは先輩らしく優しく見守っていた。
末原さんが決意の涙を流している時、恐怖と悲しみの涙を流し続ける雀士が、ヨロヨロとお部屋の中に入場してきた。
二条泉さんである。
「あ、泉まだおったんか? どうしたんやそんなに泣いて?」
「園城寺ぜんばいいいい!!! ごうべへ帰りまじょう!!!!」
「え? 嫌やわあ、明日も横浜観光せなあかんし」
最初は田舎と馬鹿にしていたが、中華街やレンガ通りに、麻雀スタジアムとなかなか横浜という街が気に入ってきていた。
あと2、3日は観光がしたい。横浜名物のサンマーメンとかいう、五目ラーメンもまだ食べていない。
「こ、神戸までお送りしますから……お願いします! お願いします!!!」
「えーだから、嫌やって」
怜が帰ることを拒絶すると、泉は子供のように大声をあげて泣き出し始めた。
話に熱中していたので気がつかなかったが、部屋の時計の針を見ると、とうに日付が変わっていることを示していた。泉が部屋を出てから1時間以上経っている。
「あー帰るから、帰るから泣きやんでやーこんな夜中に店に迷惑すぎるやろ……」
怜は泉の頭を雑に撫でながら、帰ることを約束してあげた。旅行に付き合ってくれたのに竜華に詰問されて泣かされるのは、泉とはいえちょっぴりだけ可哀想だった。
「あ、でも帰る前に明日のお昼はサンマーメンさん食べるで!」