会場にスーツ姿で緊張した面持ちの末原さんが登場する。それに合わせて集まった多く報道陣のフラッシュが降り注ぐ。
末原さんは、濃いグレーのジャケットの下に淡いラベンダー色のシャツを着ていた。髪の色とシャツをあわせていて、なかなかオシャレだなと怜は思った。
204 名前:名無し:20XX/12/30(金)
ななしの雀士の住民 ID:sakmd21n
ドラフト指名された時とこの瞬間が末原が1番注目されていると思うと泣ける
210 名前:名無し:20XX/12/30(金)
ななしの雀士の住民 ID:matbr2sl
>> 204
この番組で取り上げていることを考えたら確実に今でしょ
216 名前:名無し:20XX/12/30(金)
ななしの雀士の住民 ID:emi5smr2
>> 204
悲しいなあ(´・ω・`)
「末原さんのインターハイのこととか、結構熱心な高校麻雀ファンしか覚えてなさそうやからなあ」
高校時代の末原さんは、高速和了や選手への研究を生かした対応など、見るべきポイントは怜から見てもいくつかあった。
下級生のうちから試合に出て、それなりに結果を出しているため、自分にはないものを持っていると怜は羨ましく思うこともあった。
「あー怜、また悪趣味な番組みとるなー」
そう言いながら、キッチンから数の子とタコのぶつ切りが乗った皿をもって竜華がやってきた。
料理中につけていたチェックのエプロンを外しているから料理はひと段落したらしい。
「って、末原さんやんけ!!!!!!」
竜華は、ほとんど怜と同じような驚き方をしてテレビを凝視する。
「プロでは対戦したことあらへんの?」
「あらへんなーほんの少しの間だけ一軍にいたこともあるような気がする。いや、ないかも……」
「曖昧すぎるやろ」
そうツッコミをいれると、竜華はごめんごめんと言いながら笑っていた。
テレビの中ではトライアウトの東風戦が始まり、真剣な表情の末原さんが牌に向き合っている。
「末原さんもクビかあ……なついわぁ」
そうつぶやくと竜華は、数の子を二つ小皿に取り分け、かつお節とお醤油をかける。
そして一口食べてから竜華は少し顔をしかめる。
「まだ、しょっぱいわあ」
そう言って竜華は皿を片付けようとしたので、怜は箸を取り数の子を食べてみることにした。
塩抜きが甘くて、若干しょっぱいがこれはこれでおいしいなと怜は思った。
「おいしいわ、結構いけるで」
「ほんまに? 塩が抜けてなさすぎだと、思うんやけど」
「しょっぱさを醤油が中和してくれているんやな」
塩分を塩分で中和する。
怜は高血圧まっしぐらの発言をして、数の子にさらに醤油をかけようとすると、竜華から止められた。
「ちょ、塩分とりすぎやから!!!」
そう言って怜から皿を優しくうばいとり、キッチンへ数の子を片付けた。
数の子もっと食べたかったわあと思いながら、怜はタコのぶつ切りをパクつく。
末原さんと同卓しているのは、今年戦力外通告を受けた30代のベテランプロと20代と思われる若手のプロ2名だ。
ツモ! 1000・2000
姫松の超特急と言われた速度を十分に生かして、末原は快調に和了を重ねていく。
561 名前:名無し:20XX/12/30(金)
ななしの雀士の住民 ID:sakap3j7
末原、いけるやん!
592 名前:名無し:20XX/12/30(金)
ななしの雀士の住民 ID:tokichan
末原さんはほんま手作るの早いで
高校時代から末原さん見てたからわかる
605 名前:名無し:20XX/12/30(金)
ななしの雀士の住民 ID:ebi6g3kd
>> 592
ええな
流れてた末原さんの試合、周りの面子豪華すぎ、普通に見たいわ
615 名前:名無し:20XX/12/30(金)
ななしの雀士の住民 ID:ebi6g3kd
>> 592
インターハイで同卓してたひとみんなプロになるのに、なんで末原さんはプロになれないんや?
615 名前:名無し:20XX/12/30(金)
ななしの雀士の住民 ID:tokichan
>> 615
クビになったから過去に遡及して、プロになってないことにするのやめーやwwwww
「きっちり当たり牌握り潰してオリてるやん、末原さんいけるでー」
「んー、そうやなあ」
盛り上がる怜とは対照的に、竜華はテレビを冷ややかな目で見つめていた。
その反応を見て怜は不安になる。
「え? これ末原さんあかんの?」
「ん、そんなことないでー」
末原さんはトライアウトで3和了して一位の成績を残し、少し安堵を浮かべた表情で、卓を降りた。
「でも、トライアウトって各チーム取る選手はもう決まってて、怪我がないかどうかの最終チェックみたいなもんやから、あんまり成績意味ない」
「そうなん!?」
「だって、このレベルで活躍できたからって参考にならんやん、トライアウトで活躍出来なくても怪我の状態次第じゃ、取られることもあるし」
怜は、竜華のあまりにも夢も希望もない意見を聞いてビビる。ビビりすぎて、こたつのうえに落としたタコを竜華が素早く回収する。
プロに入ってからの竜華は天真爛漫としたところがなくなり、現実的というか、冷たい印象を受けることが多くなったように怜は感じた。
——トライアウト素晴らしい活躍でしたね
『ありがとうございます、自分のいいところそれがしっかりアピールできたかなと思います』
——緊張はあった?
『ないといえば嘘になりますけど、平常心で臨めたことが結果につながったのかなと思います』
——今後の進路は?
『まだ、わからないですね……プロ麻雀チームから話があればすぐにでもと言えるのですが、まだわからないです…………トライアウトも終わったのであとは待つだけですね』
末原はそう言ってトライアウト会場を後にした。
「末原さん連絡あるかなあ?」
「あるとええなあ」
竜華はそう言いながら、パソコンでプロでの末原さんの牌譜を検索して眺めている。
若干、竜華の目が怖くなってきたので怜の方から話しかけることにした。
「竜華の目から見ると末原さんってどんな選手なんや?」
「高校の時は結構意識してたところもあるんやけど、今プロの牌譜とかみると、普通やな…………速度以外はとくに見るところもない、本人も自覚あるだろうけど」
「守備はええんちゃうの? 速度あって和了率高いなら中継ぎいけそうやん」
「守備は下手やな」
竜華はそうばっさり切って捨てる。
「毒舌やなー、いつからそんな嫌な女になってしもうたんや」
怜はそう言って泣いているフリをすると、竜華は少し慌てて言った。
「ちょ、嘘泣きでもそんなこと言うのやめてーや! ……末原さん絶対チーム見つかる! いい選手だから!」
「どのへんがいい選手なんや?」
「えっ? んー……速度とか?」
末原さんに対するなんの根拠もないフォローを続ける竜華が、おかしくて笑ってしまった。
プロ麻雀は高校3年間大将で守護神をつとめた、大星さんの守備でも下手と言われてしまう世界だ。だから、竜華の評価がプロの中では正しい評価なんだろうなと怜はなんとなく思った。
トライアウトから5日後、取材スタッフは末原の自宅を訪れる。
末原にプロ麻雀チームからの連絡はまだない。
——オファーはまだ?
『……そうですね、社会人チームや独立リーグの話は数件頂いているのですが……』
——保留中?
『ええ、まだプロチームから声がかかるのかもしれないので……無理を言って待ってもらってます。先方の理解もあって本当にありがたいです』
——高校や大学の監督やコーチは考えていない?
『えーそうですね、まだ23ですし……プレイヤーとして続けていきたいなと。1度クビになって、社会人リーグに行ってから再度プロ契約したケースもあると聞きますし』
prrrrrrrrr…… prrrrrrrrr……
末原さんの携帯が鳴る。
『あ、すみません電話とりますね。はい! もしもし、末原です。はい! はい! 本当ですか!? ええ、ありがとうございます! はい、すぐ行きます!』
末原さんが電話を切り、安堵の表情を浮かべる。
——どこから?
『横浜です、育成で横須賀の2軍の練習に参加できないかということでした、少しでも興味があれば来てもらって話がしたいと、言っていただきました』
——おめでとうございます
「末原さん、契約ゲットや!!!」
「ときーやったなー!」
2人でテレビの前で末原さんを祝福する。
867 名前:名無し:20XX/12/30(金)
ななしの雀士の住民 ID:sakap3j7
よかおめ
868 名前:名無し:20XX/12/30(金)
ななしの雀士の住民 ID:tokichan
いけるやん!
870 名前:名無し:20XX/12/30(金)
ななしの雀士の住民 ID:ebi8m6up
アマチュアと育成契約してて草
875 名前:名無し:20XX/12/30(金)
ななしの雀士の住民 ID:yok3mpd7
アマチュアやんけ!
892名前:名無し:20XX/12/30(金)
ななしの雀士の住民 ID:ebi9dpma
横浜ロードスターズがアマチュアだという風潮
一理ある
その後、末原は横浜ロードスターズの育成選手として正式に契約した。
年俸約400万、戦力外通告を受けてから収入は3分の1になった。
——これからの目標は?
『まずは、二軍で結果残して本契約したいですね、それから一軍のあの雀卓に帰り咲きたいと思います』
——頑張ってください
『はい、精一杯頑張りますのでこれからも応援のほどよろしくお願いします!』
こうして末原のトライアウトが終わった。
これからの末原が、一軍の雀卓に立つまでの道のりは険しい。
ただ、それでも。
プロ麻雀選手は
一歩ずつ前に、進む。
〜プロ麻雀戦力外通告、クビになった女たち〜 終