11月。プロ麻雀オフシーズン最大のイベントが開催される。
プロ麻雀ドラフト会議である。
正式名称、プロ麻雀トップリーグ新人選手選択会議は6雀団の戦力を均衡させることを目的として、19XX年から実施されている。各チーム5名まで選手を指名することができるので、年最大30名のプロ麻雀選手が新たに誕生する。
また、指名順位ごとに、年俸上限と契約金の金額も指定されており、今年のドラフト1位の契約金は、例年通り1億5000万円だ。
「今年のドラフトは不作って聞いてたけど、やっぱ楽しみやなあ」
怜はドラフト会議がはじまるのを、ソファーに座ってわくわくしながら待ち構えていた。
今年の注目選手は、大学生や社会人が多く知り合いが指名されることが予想される。なにかの間違いで、芦屋さんとか選ばれへんかなと怜は期待していた。
「あとは、ほんまに亦野さんが一位指名されるのかも気になるし……高校時代知ってると考えられへんけど」
昔見たスポーツ番組で亦野さんと原村さんが注目選手だと、言っていたような気がするので、この2人の動向に注目しようと怜は思った。あとはふなQは、対木さんも上位指名は間違い無いと言っていた。
「ついでに、泉の動向もあるし……最後まで観てあげるか」
泉は、高校時代に指名漏れを経験している。指名される当落線上にいたから、仕方がないとはいえ可哀想だった。それから4年がたってまた当落線上にいるので、当時のスカウトの目は、正しかったのかもしれないが……
「まあ秋に頑張ってたしな、いけるやろ」
半分願望まじりにそう呟いてから、怜はタブレットを起動し、掲示板を見ることにした。今日は竜華はエミネンシア神戸の選手代表として、ドラフト会議に参加するため東京へ行ってしまっている。一人で観るのは少し寂しい。
【即戦力】ドラフト会議実況27
211名前:名無し:20XX/11/5(木)
ななしの雀士の住民 ID:tokichan
神戸は対木さんで間違いないかな?
239名前:名無し:20XX/11/5(木)
ななしの雀士の住民 ID:emi8mrza
>>211
いや、流石に亦野いくだろ
というか亦野いってくれ、ハズレでも文句言わんから
260名前:名無し:20XX/11/5(木)
ななしの雀士の住民 ID:emirwjzg
>>211
亦野回避して、対木や原村いって競合するのだけは避けたたい
265名前:名無し:20XX/11/5(木)
ななしの雀士の住民 ID:emi34mrw
玄ちゃんと天江を回避して、赤土晴絵にいって競合してハズす雀団があるらしい
290名前:名無し:20XX/11/5(木)
ななしの雀士の住民 ID:emi9mrwa
>>265
せめて荒川じゃなくて花田とってればなあ
301名前:名無し:20XX/11/5(木)
ななしの雀士の住民 ID:hearwazg
>>290
うちも玄ちゃんじゃなくて花田が良かったで
ちな大宮
320名前:名無し:20XX/11/5(木)
ななしの雀士の住民 ID:sakmrwa0
>>301
さすがに草
守護神にまで成長したのに、自チームのファンから花田のほうが良かったとイジられる玄ちゃんを肴にしながら、怜はジャスミンティーを飲み始めた。竜華が出かける前に作ってくれた。華やかな香りがして、なかなかおいしい。
タブレットを眺めていると、各チームとも1巡目の選択希望選手の提出が終わり、ドラフト会議の司会を務める三科アナウンサーのとてもよく通る声が響いてきた。普段の実況の際の冷静な声と違って、情感たっぷりに読み上げるので、怜はこの声が芝居がかっていてあまり好きではない。しかし、風物詩なので好きな人は好きなのだろう。
『それでは、各雀団の第1巡選択希望選手を読み上げて参りたいと思います』
第1巡選択希望選手
横浜ロードスターズ
亦野 誠子
先鋒 帝国新薬
第1巡選択希望選手
佐久フェレッターズ
安福 莉子
大将 同聖社大学
第1巡選択希望選手
エミネンシア神戸
対木 もこ
先鋒 立直大学
第1巡選択希望選手
ハートビーツ大宮
亦野 誠子
先鋒 帝国新薬
第1巡選択希望選手
恵比寿ウイニングラビッツ
安福 莉子
大将 同聖社大学
第1巡選択希望選手
松山フロティーラ
安福 莉子
大将 同聖社大学
松山フロティーラの指名選手が終わったところで、会場から大きな歓声が上がった。
帝国新薬の亦野さんが2雀団、同聖社大学の安福さんが3雀団からの指名を受けた。
「やっぱ神戸は対木さんだったかーうちの読みもなかなか冴えてるやん!」
【不作】ドラフト会議実況29
96名前:名無し:20XX/11/5(木)
ななしの雀士の住民 ID:tokichan
当たったで(((o(*゚▽゚*)o)))
>> 211名前:名無し:20XX/11/5(木)
>> ななしの雀士の住民 ID:tokichan
>> 神戸は対木さんで間違いないかな?
205名前:名無し:20XX/11/5(木)
ななしの雀士の住民 ID:emirwazg
>>96
やるやんけ
222名前:名無し:20XX/11/5(木)
ななしの雀士の住民 ID:sak3rwag
競合はやめてくれ
301名前:名無し:20XX/11/5(木)
ななしの雀士の住民 ID:matrmazg
まさかの安福が3雀団wwwwww
320名前:名無し:20XX/11/5(木)
ななしの雀士の住民 ID:ebi6rmazg
>>301
いうほどまさかか? 例年でもドラ1レベルの選手やろ
個人的には亦野いってほしかったけど
335名前:名無し:20XX/11/5(木)
ななしの雀士の住民 ID:yokrwa4r
原村とかいう学歴とおもちだけの女
指名、なしw
320名前:名無し:20XX/11/5(木)
ななしの雀士の住民 ID:ebirmazg
>>335
みんな勝つためにやってるからね、しょうがないね
「亦野さんはあの亦野さんだからええとして……安福莉子って誰やねん。泉と同い年なのに、インターハイ出てないからわからへん」
怜はそう呟いてから、安福さんの情報をインターネットで検索する。
同聖社は関西最強の大学として名高いが、怜は関西人のくせに大学麻雀は、東京麻雀6大学リーグしかないと思っているため関西の情勢に疎い。同聖社は、麻雀強豪校ではなく二条泉さんが進学を拒否した学校として、怜の中では名高い学校であった。泉に拒否されるくらいだから雑魚に違いない。
アマチュア麻雀ドットコム
劔谷高校→同聖社大学
安福莉子
4年次春 0勝1敗5S
4年次秋 0勝0敗8S
寸評
安定感と支配的な闘牌が持ち味の大学麻雀界最高の守護神。高校インターハイ出場経験あり。
1年時は慣れない雀卓と環境に苦戦する部分もあったが、3年生の春には才能が開花。無傷の7セーブをあげ、関西学生選抜でMVPを獲得した。
「劔谷高校って椿野さんのところやん……あれ? もしかして、ウチ闘ったことあるんちゃう?」
3雀団の監督によるくじ引きが行われ、アレクサンドラ監督の手が高々とあがり、会場に歓声があがった。交渉権を獲得したのは、松山フロティーラだ。
「また、松山かいな……こいつらドラフト強すぎやろ、全勝やんけ」
ドラフト会場の控え室で待機していた安福さんが、報道陣のインタビューに答えている様子が映し出された。なんとなく顔を見たことがあるような気もするので、たぶん対戦してるんやろなと怜は思った。今度竜華に聞いてみよう。
松山の代表選手の姉帯さんからチームタオルを肩にかけられて、2人仲良く写真を撮られている姿を見て怜は、少しほっこりした。
『それでは続きまして……帝国新薬亦野誠子選手の抽選を始めさせていただきます。両監督は壇上へお上がりください』
やや緊張気味の横浜ロードスターズの愛宕監督とは対照的に、大宮の瑞原監督はカメラに手を振りながら壇上へ登った。
透明なアクリル板の中に入った2通の封筒。
愛宕監督、瑞原監督ともに左手で封筒を掴み取った。
『それでは、開けてください』
三科アナの声が響き、両監督は開封を始める。
瑞原監督の両腕が高々と上がり、大きなガッツポーズが披露されると、会場から歓声と大きな拍手が湧き上がった。交渉権を獲得したのは、ハートビーツ大宮だ。
その様子を見て愛宕監督は頭を抱えてから、何度か自分を納得させるように頷いて封筒をアシスタントの女性に手渡した。
——それでは、交渉権を引き当てました大宮、瑞原はやり監督です。おめでとうございます。
『はややーありがとうございます。本当に良かったよー』
——1位指名を早々と公言して、2チーム競合の抽選という形になりました。2分の1でした。どんな気持ちでした?
『いやードキドキしたよー』
——見てからのガッツポーズ、早かったですね
『うん、あれね! 一番先に開いてやろうと思ってて、そんな気概で臨んだのが良かったのかも⭐︎』
——それでは、監督の方から控え室にいる亦野誠子選手になにか一言
『白糸台で一緒だった淡ちゃんも、渋谷さんもいます。大宮はとても良いチームで、すぐに馴染めると思います。一緒に大宮でプレーしましょう!』
——ありがとうございました。おめでとうございます。
瑞原監督のインタビューの間、テレビ画面の左上に映っている控え室の亦野さんも、1位指名が決まってホッとしているようだった。下位でしか指名されずに、社会人リーグへ進むことになってしまった過去を払拭し、新たな決意を内に秘めた素敵な笑顔だ。
「亦野さん良かったなあ、頑張ってや」
怜は、亦野さんに激励の言葉をかける。戦犯とかアレ呼ばわりしていても、知り合いが指名されるのはやはり嬉しいものである。
残る1位指名は、くじ引きを外してしまった横浜、佐久、恵比寿の3チームだ。原村さんもまだ残っているし、外れ1位指名でも競合があるかもしれない。3チームとも、選択決定までに、長い時間がかかることが予想された。
カメラが控え室にいる亦野さんに、切り替わりインタビューが始まった。
——亦野選手、ドラフト1位指名。おめでとうございます。
『はい、ありがとうございます』
——大宮に決まりましたが。今のお気持ちを教えてください。
『そうですね、素晴らしいチームにとってもらえたことはとても嬉しいです。白糸台高校の2人と、また肩を並べて麻雀ができるのを楽しみにしています』
終始笑顔の亦野さんにインタビューが続けられるなか、唐突に画面が切り替わった。ドラフト会場に登壇している1人の中年の女性が映し出された。
「なんや、このおばさん……」
亦野さんのインタビューが中断されてしまったことに、怜は不快感を覚えながらもテレビ画面を見つめる。
『プロ麻雀ドラフト会議をお送りしております。えーただいまのくじ引きで当たりくじを引きましたのは、横浜雀団でございます。確認のミスがございました。誠に申し訳ございませんでした。当たりくじは横浜雀団でございます。』
【亦野大宮】ドラフト会議実況60
343名前:名無し:20XX/11/5(木)
ななしの雀士の住民 ID:hearw8dz
は?
360名前:名無し:20XX/11/5(木)
ななしの雀士の住民 ID:tokichan
は?
411名前:名無し:20XX/11/5(木)
ななしの雀士の住民 ID:hea6rdjz
は?
573名前:名無し:20XX/11/5(木)
ななしの雀士の住民 ID:yokmrzjw
どういうこと?
603名前:名無し:20XX/11/5(木)
ななしの雀士の住民 ID:ebirmazg
見間違えてガッツポーズするやつwwwwwwwwwwwwwwww
680名前:名無し:20XX/11/5(木)
ななしの雀士の住民 ID:yok0mrwa
なんかよくわからんけど
亦野貰ってええんか?
830名前:名無し:20XX/11/5(木)
ななしの雀士の住民 ID:sakmrwaw
>>680
ええで
843名前:名無し:20XX/11/5(木)
ななしの雀士の住民 ID:heamrwaz
え? これ亦野駄目なん
どういうこと?
923名前:名無し:20XX/11/5(木)
ななしの雀士の住民 ID:matmrzaz
最速でガッツポーズしたら、交渉権獲得出来そうになるとかあるんですかね……
【波乱】ドラフト会議実況61
36名前:名無し:20XX/11/5(木)
ななしの雀士の住民 ID:ebirwagg
白紙クジ最速ガッツポーズネキwwwwww
106名前:名無し:20XX/11/5(木)
ななしの雀士の住民 ID:hea6wrwa
は? マジで亦野横浜なん?
ありえないやろ、死ねや
206名前:名無し:20XX/11/5(木)
ななしの雀士の住民 ID:yokmiwai
なんで愛宕は指摘しないんや?
276名前:名無し:20XX/11/5(木)
ななしの雀士の住民 ID:yok3mrwa
>>206
指摘したから、訂正されたんやろ?
305名前:名無し:20XX/11/5(木)
ななしの雀士の住民 ID:sakmrwaw
愛宕監督これ確認してなくね?
開封してない
511名前:名無し:20XX/11/5(木)
ななしの雀士の住民 ID:yokmriwa
開封してないwwwwwwwwwwwww
無能すぎて笑う
711名前:名無し:20XX/11/5(木)
ななしの雀士の住民 ID:ebimrzawg
ガッツポーズで威圧して、相手に封筒の中身を確認させないスタイルwwww
コントかな?
736名前:名無し:20XX/11/5(木)
ななしの雀士の住民 ID:emivvrim
>>711
なお、成功しかけた模様
ドラフト会場が騒然となりブーイングが巻き起こるなか、カメラが亦野さんの方に切り替わった。
インタビューしている記者とは、別の記者が言いづらそうに亦野選手に声をかけた。
——見間違えていたようで、実は交渉権を獲得したのは、大宮ではなく横浜だったようです。
『え?』
はじめは、なにを言っているのかわからないという顔をしていた亦野さんだったが、みるみる顔が青ざめていった。
先ほどまで亦野さんは、満面の笑みを浮かべていたのに、一転この世の終わりのような顔を披露する。一瞬のうちに絶望を叩きつけられ、満開の笑顔の華が萎びていく様子を怜は久しぶりに見た。
無言のまま目をパチパチとさせ続ける亦野さんの様子が、しばらくお茶の間に提供された。
その沈黙を打ち破るかのように、控え室のドアが勢いよく開けられて、長身の美女が無邪気な笑みを浮かべて入室してきた。
今年の横浜ロードスターズの代表選手を務める弘世さんだ。
『亦野! プロ入りおめでとう!』
弘世さんは本当に嬉しそうに亦野さんの両肩に、ブルーのチームタオルをかける。半ば放心状態の亦野さんの目から、更に光が失われたように見えたのは、怜の気のせいだろうか。
『あ……弘世先輩、お久しぶりです』
『久しぶり、また同じチームで麻雀ができるとは思ってなかったよ。本当に良かった。一緒に頑張ろうな』
そう言ってから弘世さんは、亦野さんと両手でグータッチを決める。カメラのフラッシュが一斉に切られるが、両者の表情の落差が激しすぎて、記事に使えるのか疑問である。
『わからないことがあったら、なんでも相談してくれよ』
『……はい、ありがとうございます』
『ん? どうしたんだ元気がないな。あ、報道陣の前だからか。こういう場面では、泣いても良いんだぞ! 恥ずかしいことじゃない。念願のプロ入りで、しかもドラフト1位。すごいじゃないか!』
弘世さんは、亦野さんが報道陣の前で嬉し涙を流すのを恥ずかしがっていると、勘違いしている。元気がない理由は全く別のところにあるのだが、弘世さん本人は全く気がついていないようだった。
弘世さんは、また後輩と一緒に麻雀ができると嬉しそうに両手で、亦野さんの肩を叩いた。
弘世さんのキラキラとした笑顔と、報道陣のフラッシュに当てられて、亦野さんの両肩にかかる横浜ロードスターズのチームタオルが、青く輝いていた。