プロ麻雀のペナントレースも終わり、少し肌寒くなる季節。
寒さが厳しい冬の時期を巣の中にじっと閉じこもって、エネルギーの消耗を抑えて春をまつ動物達がいる。
そんな、ニホンヤマネさんやハイイログマさん達と同じように、寒い時期を冬眠して過ごす動物が神戸のマンションにもいた。
コタツで一生懸命みかんの白い筋を剥く者、園城寺怜。
その人である。
「竜華おらんと、白いところ自分でとらへんといけないから大変やわあ……」
その動物は幼少期は、みかんの白い筋(正式名称アルベド)を剥かなくても、みかんを食べることができた。
しかし、怜はつがいになってからパートナーから白い筋を取り除かれたみかんのみを与えられて過ごしたため、白い筋を取り除かないとみかんが、食べられない体にされてしまったのだ。
学問的にはこうした現象を、後天性遺伝形質または、単に獲得形質と呼ぶ。
「やっぱり冬の間は外に出ないに限るわあ、はよ、竜華帰ってきてくれへんかな」
怜はそう言いながら、タイトル戦のパーティー会場の中継を見るために、テレビをつけた。
最優秀雀士 天江 衣
最多勝 天江 衣
最優秀防御率 清水谷 竜華
最優秀獲得素点 松実 玄
首位打点 大星 淡
最優秀先鋒 花田 煌
最多セーブ 姉帯 豊音
最優秀中継ぎ 野依 理沙
新人王 上埜 久
ーゴールデンハンドー
先鋒 戒能 良子
次鋒 鶴田 姫子
中堅 雀明華
副将 野依 理沙
大将 姉帯 豊音
鳳凰 宮永 咲
名人 宮永 咲
雀聖 宮永 咲
牌王 宮永 咲
山紫水明 宮永 咲
名将 獅子原 爽
十段 宮永 咲
玄ちゃん以外、超一流の雀士が並ぶなかにいる竜華の名前を見つけて、少し誇らしい気持ちになる。
今季、竜華は26セーブをあげ、麻雀界を代表するクローザーに成長した。負けは獅子原さんにつけられた1敗だけで、セーブ機会では全勝。後輩への接し方以外、非の打ち所がない選手と呼ばれるまでになった。
やっと、ここまできたのに引退するのは辞めてほしい。怜は竜華に麻雀を続けていて欲しかったし、竜華遠征中の幸せゴロゴロタイムが減ってしまうことが嫌だった。
「まあ、本人の気持ち次第やしなあ……」
怜は剥き終わったみかんを口に放り込んでから、タブレットを起動し掲示板を開いた。
宮永さんが個人タイトル以外で選出されていなかったので、掲示板の住民は荒れているだろうなと、怜は予測していたが、案の定大変なことになっていた。
【八百長】プロ麻雀タイトル発表7【クソ選出】
163名前:名無し:20XX/11/12(木)
ななしの雀士の住民 ID:yok0rmaz
6冠して、無傷の23セーブで格の違いを見せたのに
最優秀選手に宮永が選ばれないとかあるんですかね?
193名前:名無し:20XX/11/12(木)
ななしの雀士の住民 ID:ebirawgr
試合見てないんやろ
201名前:名無し:20XX/11/12(木)
ななしの雀士の住民 ID:tokichan
あくまで最優秀選手は、団体戦で活躍した選手に贈られる賞やから
24勝した天江さんがとるのは妥当やろ
211名前:名無し:20XX/11/12(木)
ななしの雀士の住民 ID:yokrmawg
>>201
協会の犬だ、吊るせ
220名前:名無し:20XX/11/12(木)
ななしの雀士の住民 ID:harmrsan
>>201
咲さんかわいい!
咲さんかわいい!
ほら、言ってみなさい
231名前:名無し:20XX/11/12(木)
ななしの雀士の住民 ID:yokrrglaa
松山の選手ばっかりじゃねーか
パーティー会場爆破するぞ
256名前:名無し:20XX/11/12(木)
ななしの雀士の住民 ID:yokoidaz
宮永は今季天江に一度も負けたことないんだよなあ
というか、獅子原以外に誰にも負けてない
289名前:名無し:20XX/11/12(木)
ななしの雀士の住民 ID:yokoidaz
>>256
清水谷も獅子原にだけ負けてたし、獅子原地味にすごいよな
301名前:名無し:20XX/11/12(木)
ななしの雀士の住民 ID:ebirmjwg
>>289
派手にすごいの間違いでは?
311名前:名無し:20XX/11/12(木)
ななしの雀士の住民 ID:sakrmjwj
>>289
7冠阻止した神雀士がすごくないわけないんだよなあ……
320名前:名無し:20XX/11/12(木)
ななしの雀士の住民 ID:heamrwa!
その獅子原相手に、松実玄は全勝してますのだ!
玄ちゃん>>>獅子原爽>宮永咲
は明らかですのーだ
360名前:名無し:20XX/11/12(木)
ななしの雀士の住民 ID:harmrsan
記者投票でも姉帯のほうが上とか、そんなオカルトありえません
訴訟も辞しませんよ、クズ運営ども
405名前:名無し:20XX/11/12(木)
ななしの雀士の住民 ID:matrmjwj
真にクズなのは、運営ではなく
守護神を23試合しか登板させられない横浜ロードスターズなのではないか?
訴訟だの会場爆破だの物騒な話が続いた後に、最終的に横浜ロードスターズが弱すぎるのが悪いという、当たり前すぎる結論に堂々巡りをするのも、疲れてきたので怜はタブレットを閉じた。
「実際23試合じゃあ、評価されようがないやんけ……というか、新道寺の人多すぎやんな」
先鋒、守護神、セットアッパーまで充実したメンバーが揃っている。タイトルの獲得こそならなかったものの、花田ちゃんの二枚目の先鋒として友清さんもいる。
新道寺女子高校のメンバーだけでチームを組んでも優勝できるのではないかと、怜は思った。守備型の雀士が多いのは、校風なのだろうか?
そんなことを怜が考えていると、テレビ画面にとんでもない映像が映り込んだ。
宮永さんが上埜プロのネクタイを優しい手つきで直している。
そして、2人の顔が近づいて……熱っぽい視線で見つめる宮永さんに、上埜プロは顔を赤らめて少女のようにドギマギしていた。
「う、うわあ…………こ、これ、テレビで映したらあかんやろ」
見ているほうが恥ずかしくなってしまうような映像に、怜は思わず目を背けるが、続きが気になってチラチラと見てしまう。
宮永さんに優しく頬を撫でられて、完全にメスの顔になった上埜プロが、キスをせがむように目を閉じたのを確認して、怜はチャンネルを慌てて変えた。
真面目そうな七三分けのニュースキャスターに画面が切り替わって怜は一息ついた。
「ぜ、全寮制女子高校やばいわぁ……」
泉がやったら絶対に吹き出してしまうような、ベタベタな展開を芸術的に完遂してしまう宮永さんの手法に驚愕しながら、怜は新道寺女子の真の恐ろしさを実感した。花田ちゃんもできるのだろうか……
——な、なにはともあれ、気持ちを切り替えなあかんな!
「せっかく竜華がタイトルとれたし、お祝いしたいなあ」
プレゼントを買いに行こうか悩んだが、コタツから足が抜くことが出来ない。冬はどうしても外出が億劫になる。
気づけば、竜華と一緒に行った有馬温泉以来外に出かけていない。
完全に引きこもりである。
「これ、来年から泉がプロ入りしたら出かける相手おらへんくなるな……」
切実な悩みを抱きながら、怜はスマートフォンを取り出してタクシーを呼び始めた。
タクシーを呼んでしまえば、出かけるしかなくなるとの判断だが、お化粧もお着替えも済んでいないのに呼ぶのは、無謀としか言いようがない。
「え? 5分でくる? …………はい、大丈夫です。はい」
電話を終えて怜は大慌てで、着替え始めたが財布がなかなか見つからなかったりと、前途多難のお出かけとなってしまった。
❇︎
なんとか、身支度は間に合わせてショッピングモールへ行ってきた怜は、自宅まで帰還した。
お化粧など、マスクと眼鏡さえかけてしまえば、どうとでもなるものである。人間やる気になればなんとかなるのだ。
「やっぱりお祝い事には、イチゴのショートケーキやな!」
そう言いながら、テーブルの上でショートケーキのホールを眺めていると、タイミング良く竜華が帰ってきた。
というより、9時に帰ってくるのは、流石に早すぎないだろうか? パーティー会場は東京だったはずだ。急いで帰ってきたのだろうか。
「ただいまー、怜ご飯はもう食べた? お腹すいてない?」
「おかえり、もう食べたで! 久しぶりにお出かけしたんや」
「あ、ほんま? 寒くなかった? 大丈夫?」
竜華が着ていたグレーのジャケットをハンガーにかけて、ブラシを当てながらリビングに歩いてくると、すぐにダイニングテーブルの上にあるケーキに気がついてくれた。
「竜華! 初タイトルおめでとう!」
怜がそう言って、プレゼントに用意した赤いタータンチェックのカシミアマフラーを、首に巻いてあげると、竜華はジャケットを持ったまま、固まってしまった。
「ど、どうしたんや……パーティー会場やし、お腹いっぱいやったか?」
「あ、ありがとう……とき。嬉しすぎて涙が止まらへんわ」
竜華は、ハンガーとジャケットを床に置いて、マフラーに雨粒がかからないように、何度も何度も両手で目元を拭った。
そんなに感動してくれるとは思っていなかったので、怜のほうが動揺してしまった。
竜華が落ち着くのを待ってから、紅茶を淹れてもらって、一緒にケーキを食べることにした。
ダイニングテーブルに怜のお気に入りのティーカップが並ぶ。
ダージリンの甘い香りと琥珀色の水面。
竜華が切り分けてくれたショートケーキのイチゴをフォークで刺して、口に運ぶと甘酸っぱい味が広かった。
「あ、怜。うちのイチゴさんも食べる?」
「竜華のために買ってきたんやから、竜華が食べてや」
「ふふっ、ありがとう」
竜華と一緒に食べるショートケーキは幸せの味がした。
甘い甘い生クリームを竜華と2人で、ずっと食べていよう。私は、今とっても幸せだと怜は自分に言い聞かせた。