空いっぱいに満月が輝いている。
暗闇の海を渡る無数の星々をかき消して、煌々と光る月。
航海を続ける船団を飲み込むように、圧倒的な支配の波が他家を駆逐した。
海底撈月。
天江さんの跳満和了が炸裂する。
細かな牌の工夫を、徒労に終わらせる圧倒的な支配力が彼女の武器だ。
プロ麻雀トップリーグ
副将戦 第二半荘 東3局
横浜 亦野 誠子 134,700
松山 天江 衣 118,600
大宮 渡辺 琉音 86,300
佐久 上埜 久 60,400
亦野 誠子 ROOKIE
ドラフト1位 個人戦順位 NEW
白糸台→帝国新薬→横浜
0勝0敗5H
2雀団競合の注目のドラフト1位ルーキー。他家を圧倒する和了速度を武器に、横浜のセットアッパーに定着。新人王候補筆頭。
天江 衣 昨年度成績
ドラフト1位 個人戦順位 2位
龍門渕→松山
24勝2敗0S
昨年度最優秀雀士に輝いた日本麻雀界を代表するポイントゲッター。自身2度目の最多勝を獲得し松山の優勝に大きく貢献した。
渡辺 琉音 昨年度成績
ドラフト2位 個人戦順位 32位
白糸台→大宮
7勝10敗14H
大宮のベテラン選手。細かい麻雀に対応できる器用さとパンチ力のある闘牌が売り。
上埜 久 昨年度成績
ドラフト5位 個人戦順位 25位
清澄→信濃大→フリー→DS石油→帝国新薬→
佐久
10勝5敗0H
新人王を獲得した佐久のポイントゲッター。
悪待ちを駆使した心理的な駆け引きの上手さが魅力。
「天江さんの麻雀は、あんまり好きになれへんけど……めっちゃ強いなあ」
天江さんの傍若無人な麻雀を見て、怜はため息をついた。
大宮の大星さんと同じように、自身の能力を存分に活かした麻雀だが、幅が広く、弱点らしい弱点がない。支配能力そのものも一級品でシンプルな強さがある。無能力者で天江さんに勝ち得る雀士は、ほとんどいないであろう。
怜は牌を支配したり、引き寄せたりするような特殊な能力は持っていないので、天江さんのような超常現象を押し付けてくるタイプは苦手である。というより、ほとんど勝ち目がないと言っても良い。
「あれだけあった点差が、もう2万点無いくらいやしなあ」
今日の横浜はセーラが先鋒を務めて、着実にリードを広げた後、次鋒に薄墨さんを起用する攻撃的な愛宕監督の采配が功を奏して、6万点近いリードを手に入れた。
しかしその後、次鋒戦第二半荘から松山の猛攻を岩館さんが受け続けるという展開が続き今に至っている。いくら絶好調の亦野さんといえど、天江さんの相手は厳しい。
怜はソファーから体を起こして、タブレットを起動した。
【あと半荘】プロ麻雀トップリーグ実況 89
469名前:名無し:20XX/4/2(金)
ななしの雀士の住民 ID:tokichan
亦野さん、そろそろキツいんちゃうか?
511名前:名無し:20XX/4/2(金)
ななしの雀士の住民 ID:sak3rmaz
>>469
さすがにルーキーで天江の相手はあかん
541名前:名無し:20XX/4/2(金)
ななしの雀士の住民 ID:yok3rmjz
もう、半荘半やし……宮永に代わってあげてほしい
560名前:名無し:20XX/4/2(金)
ななしの雀士の住民 ID:mat6rwaz
>>541
横浜ロードスターズのメシアを信じろ
580名前:名無し:20XX/4/2(金)
ななしの雀士の住民 ID:yok3rmjz
岩館とかいうハラハラさせながらも何となく戦犯は回避する謎の存在
611名前:名無し:20XX/4/2(金)
ななしの雀士の住民 ID:tokichan
>>580
欧州選手権ベスト16の実力者やぞ!
630名前:名無し:20XX/4/2(金)
ななしの雀士の住民 ID:yok1mp1g
>>611
欧州選手権で覚醒したかと思ったけど
シーズン入ったら普通の岩館だった
641名前:名無し:20XX/4/2(金)
ななしの雀士の住民 ID:hea6rwaz
岩館は洋芝じゃないと走らないから野芝の日本じゃ通用しない
ダートで強いのもそのせい
660名前:名無し:20XX/4/2(金)
ななしの雀士の住民 ID:sak6rwag
>>641
岩館をなんだと思ってるんですかね……
666名前:名無し:20XX/4/2(金)
ななしの雀士の住民 ID:mat6pagd
>>641
世界でしか通用しない女
666名前:名無し:20XX/4/2(金)
ななしの雀士の住民 ID:yok3rrwj
>>666
期待外れなだけで通用はしてるんだよなあ
694名前:名無し:20XX/4/2(金)
ななしの雀士の住民 ID:yokjvqig
>>641
ダートとは……(^◇^;)
714名前:名無し:20XX/4/2(金)
ななしの雀士の住民 ID:yok3adic
>>694
横須賀の砂遊びのことやろ
806名前:名無し:20XX/4/2(金)
ななしの雀士の住民 ID:yok1magc
世界と二軍でイキりたおす者、岩館揺杏
904名前:名無し:20XX/4/2(金)
ななしの雀士の住民 ID:yok3rmjz
またのん何とか和了したやん、いけるで!
積極的に二副露した亦野さんが、天江さんの支配を打ち破り和了すると、掲示板のネガネガしていた横浜ファン達が、一斉にポジりはじめた。
「躁鬱病かなんかやろか……」
岩館さんにしても、今日の闘牌は冴えなかったが逆転を許したわけでもないし、長い目で見てあげれば良いのになと怜は思った。泉や玄ちゃんを応援しているときのように、寛容な心でファンは応援するべきである。
渡辺プロの満貫和了を親かぶりしてしまうなどの不運はあったものの、亦野さんはなんとかリードを保ったまま南入し、試合を運んで行った。
プロ麻雀トップリーグ
副将戦 第二半荘 南3局
横浜 亦野 誠子 132,700
松山 天江 衣 121,600
大宮 渡辺 琉音 91,300
佐久 上埜 久 54,400
「それにしても……久は和了せーへんな。心理的な揺さぶりかけてくるわりには、自分のメンタルが弱いんよなあ」
怜は呼吸をするように、天江さんに臆している久に罵声を浴びせてから試合を見守る。
配牌された牌をランダムに切る事で久は、天江さんの支配からの脱却を狙っているようだが、あまり功を奏しているとは言えない。
久の手が小さく震えている。
天江さんは軽々と聴牌するが、久は容易には聴牌まで辿り着けない。理不尽なアウトレンジ戦法で、組みあえず一方的にやられていく久に怜は自分を重ねた。
「実際、対戦するとしたらどうしたらええんやろなあ……」
駆け引きの土俵に乗ってくれない相手というのは、やりにくいものである。宮永さんのように相手の土俵に登っていって、投げ飛ばす力は怜にはない。
ロン 8000
久の切り出した八索を、天江さんが出和了した。
点差を考えれば押すしかない場面だったとしても、もう少し工夫がないといけない。
久が悔しそうに眉間に皺を寄せてから、点棒を差し出す。手の震えが止まっているのを見て、怜は久の心が完全に天江さんに折られたのだと悟った。
「あんまり悪くいうのもアレやけど、久にはPG以外のポジションは無理やな」
プロ麻雀トップリーグ
副将戦 第二半荘 南4局
横浜 亦野 誠子 132,700
松山 天江 衣 129,600
大宮 渡辺 琉音 91,300
佐久 上埜 久 46,400
トップの点差はわずか3000点余り。
逆転されても横浜は、宮永さんを登板させてくる可能性もある。しかし、ここのところ宮永さんは、登板過多気味なので、その可能性は低いだろうと怜は思った。
ジワジワと追い上げ不敵に微笑む天江さんを、亦野さんは鋭い目つきで見据えている。
オーラスの配牌が卓から上がってくる頃には、その緊張感がテレビ越しに見ている怜にも伝わってくるほどの、重圧を感じた。
各選手の配牌は悪くないものの、天江さんの一向聴の支配の網をなかなか抜け出せない。
他家が手作りに苦労している中、天江さんはすでに一筒と四筒の両面待ちを面前で聴牌している。
立直をかけていないのは、出和了を期待しているというよりも海底牌が和了牌になるのだろうなと、怜は推測した。
海底牌は一筒。
牌が見えたわけではないが、直感的に怜はそう思った。しかし、海底牌は天江さんのツモ番には乗っていない。
「どうやって、ルートに乗せるんやろな? 天江さんの方からルートに乗せようと思うと、手が壊れるし……」
満潮が近くにつれて水位が上がっていくように、海底牌に向かって進んでいくが各選手に動きはない。
一向聴地獄が続く中、天江さんはツモってきた五萬を一瞥してそのまま切った。
ポン!!!
亦野さんの気合の入った発声がテレビ画面から響いた。
これで、亦野さんは二副露し聴牌。しかし、これで海底牌を天江さんがツモるルートに入った。
「他家を使っていくんか……こいつほんま、えげつないなあ」
テレビ画面に険しい顔で、目を瞑る愛宕監督の姿が映し出される。
もう一度ズラすことが出来ればと怜は思ったが、そのチャンスは訪れない。
最後の一巡で天江さんのリーチが入ると、この世の終わりのような顔を愛宕監督がしたのが、印象的だった。
「ま、まあ……これはしゃーない。あの場面で亦野さんが鳴いちゃいけないなんて、セオリーから考えたら、ありえへ……え? なんやこれ……ありえへんやろ!!!」
未来視が教えてくれる一巡先の未来に、怜は驚きの余り声を漏らした。
渡辺プロがツモってきた四筒をしっかりと止めて安牌を切り出して、天江さんにツモ番が回る。
一発ツモになるはずの牌は、一索。
天江さんは何度も瞬きを繰り返してから、震える手でそのまま一索を河に置いた。
ロン 5200
河底撈魚。
幾重の思惑をかわしきって、満月の奥底に潜む魚は漁猟された。
副将戦が終わる。クールに背もたれに肩を預けた亦野さんとは対照的に、愛宕監督は大きな大きなガッツポーズをして、眼鏡が床に落ちるほど喜んでいた。
「ま、亦野さん本物かもしれへんわ……」
あまりのことに、怜は言葉を失って呆然と、愛宕監督が喜ぶ姿をテレビ越しに眺めていた。
その後大将戦は、松山の姉帯豊音を宮永さんが完璧な内容で封殺し、亦野さんは6つ目のホールドポイントを手にした。