専業主婦、園城寺怜のプロ麻雀観戦記   作:すごいぞ!すえはら

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第92話 有馬温泉とアマチュア麻雀の最高峰

 有馬温泉。

 日本を代表する温泉地に、怜は久しぶりに足を運んでいた。昨年の秋に思い出いっぱい計画で、竜華と一緒に訪れて以来である。

 

「わざわざ、すまないな。まあ、菓子でも食べてくつろいでいってくれ」

 

 和室の座椅子に座っている浴衣に羽織姿の加治木さんは、そう言って歓迎してくれた。

 頬が少しこけているのを見て、だいぶ痩せたなと怜は思った。

 

「ちょうど温泉に行きたかったんや。なかなかええ宿やん。部屋に露天風呂もついてるし」

 

「加治木さんお久しぶりです。思ったより元気そうで少し安心しました」

 

「ははは……チームには悪いがのんびり、やらせてもらってるよ」

 

 怜とふなQが挨拶をすると、加治木さんは少し苦笑いして右手で頭をかいた。

 

「それより、園城寺。雀聖戦二次予選行くらしいな、おめでとう」

 

「サンキューや」

 

「会場東京だろ? 一人で大丈夫そうか?」

 

「ふなQといってくる予定やで」

 

 怜がそう答えると加治木さんはチラッとふなQを見てから、再度怜の方を眺めやって頷いた。

 

「それが良いかもしれんな」

 

 加治木さんは魔法瓶に入ったお湯を急須にいれて、お茶を淹れてくれた。お茶が蒸らし終わるまで、テーブルに置いてあった温泉まんじゅうをむしゃむしゃと食べながら、怜は座して待つことにした。

 

「園城寺先輩……お茶がはいるまで待ったほうがええんやないですか」

 

「んーまあ、2個食べるから無問題やろ」

 

 怜はそう言ってから、おまんじゅうを食べて甘くなった舌を、加治木さんが淹れてくれた緑茶を飲んで癒やす。

 

「私もこんなじゃなかったら、園城寺と一緒に、雀聖戦の予選会に行けたんだが……ままならんなあ」

 

「加治木さんの分も頑張ってくるで」

 

「ああ、頼んだ」

 

 加治木さんは、悔しそうに目を閉じた。

 

 今シーズンが始まってから乱調を繰り返した加治木さんは、悪いところを改善しようと、工夫に工夫を凝らし練習した。その結果麻雀観が自壊していったという。

 それだけなら、一時的な不調で済んだのだが、最終的に牌が持てないような状況にまで至ってしまい、完全に麻雀が壊れた。

 積み上げるのに時間がかかるのに、崩れるのは一瞬だ。オフシーズンに一緒に麻雀をした加治木さんはもういない。

 麻雀がしたいのに出来ない辛さは、察するにあまりある。

 いたままれなくなった怜は、テレビのリモコンを手に取って電源をつけた。

 

 テレビをつけると、小鍛治さんの怒った表情が画面いっぱいに映し出される。

 

『アラサーだよ! ギリギリだけど!? アラフォーじゃないから! ってなに言わせているの!?』

 

『まあまあ、すこやん落ち着いて。結婚に関する話は置いておいて……今日の麻雀タイムズは——アラサー小鍛治健夜が選ぶアマチュア麻雀最強の女は誰だあああああ!!!』

 

 ハイテンションの福与アナの絶叫を聞いて、怜はチャンネルを変えようとした。

 ラフな雰囲気の小鍛治さんと福与アナの麻雀フリートークのようだが、麻雀関連の話は怪我に障るかもしれないと怜は思った。

 

「いや、なんだか面白そうだからそのまま見よう」

 

 加治木さんがそう言うので、遠慮なく見ることにした。ニュースやバラエティ番組より、麻雀番組の方が見ていて面白い。平日の昼間など、どうせチャンネルを変えてもロクな番組はやっていない。

 

「小鍛治さんって今、いくつだ?」

 

「えー35か4ちゃいますか?」

 

「私の高校時代から、結婚しないのをネタにされていた気がするなあ……綺麗なのに」

 

「今は晩婚化の時代ですし」

 

 加治木さんとふなQにテレビ越しに哀れみの視線を向けられた麻雀界の行き遅れるレジェンドは、気を取り直して話を続けた。

 

『こーこちゃんに言われてちゃんと、経歴と資料に、全部目を通してきたんだから!アマチュア時代の経歴が豪華な人で、いいんだよね』

 

『おーさすがすこやん! 麻雀のことでは頼りになるね。それじゃあ、一人目の選手を行ってみよう!』

 

『やっぱり一人目はこの選手かな?』

 

弘世 菫

白糸台高校→家慶大学→横浜ロードスターズ

高校1年 IH団体優勝

高校2年 IH団体優勝 IH個人全国出場 春季大会全国制覇

高校3年 IH団体準優勝 IH個人全国出場 白糸台麻雀部部長

大学1年 六大学リーグ最優秀新人

大学2年 六大学リーグ団体春秋連覇

大学3年 六大学最優秀選手 家慶大麻雀部主将

大学4年 大学麻雀選手権優勝 横浜ドラフト2位指名

 

「弘世は改めて見ると、半端じゃない経歴だな……」

 

「この人に関しては2位指名だったのが、不思議なレベルですね」

 

 普段、心ない麻雀ファンから馬鹿にされまくっている弘世さんだが、アマチュア麻雀で残した実績は本物である。

 

「私が大学に入った時は、やっぱり弘世と福路が雲の上の存在だったなあ。プロ麻雀でも一緒にやるなんて思いもしなかった」

 

 昔を懐かしむように加治木さんは、そう呟いた。

 

「六大学の選手は麻雀界だと、王道を歩いてきた感じがあるやん? エリートというかカッコええ感じするわ。泉は別として」

 

「そう言ってくれるのはありがたいが……本当のエリートは、清水谷や椿野のように高卒からプロにいくぞ」

 

 怪我してネガティブになっている加治木さんに、元気を出してもらいたい。

 

「せやけど、なんか大卒ってかっこよさそうやで!」

 

『でも、弘世さんは大学行く意味あったのかな? 高校でプロ行けば良かったと思うんだけど』

 

 怜の褒め言葉は、こどおばの毒舌解説に阻まれてしまった。こいつ、こんなんだから結婚できへんのやろなと、怜は思った。

 

『ふーん弘世プロってカッコイイだけじゃなくて、アマチュア時代の実績も凄かったんですね』

 

『そうそう、やっと今年でプロに適応してきた感じもあるけど、弘世さんは高校時代からずっと私も注目しててね……』

 

『それじゃあすこやん、2人目は誰かな?』

 

 小鍛治さんの話が長くなりそうだったのを誘導して、福与アナは次の選手を話すように促した。

 

『えーと次の選手はルーキーなんだけど……松山フロティーラの安福さんかな』

 

安福 莉子

劔谷高校→同聖社大学→松山フロティーラ

高校1年 IH団体全国出場

高校2年 IH団体ベスト8 IH個人全国出場

高校3年 IH団体全国出場 IH個人ベスト8

大学1年 関西リーグ団体全国優勝

大学2年 関西麻雀リーグ最優秀中継ぎ

大学3年 関西リーグ最多セーブ 関西学生選抜MVP

大学4年 関西リーグ最多セーブ 関西最優秀選手 

     大学麻雀選手権優勝 3雀団競合1位指名

 

『おお、関西の名門って感じ』

 

『大学一年生の時に壁を感じながらも、適応していって……最終的には世代ナンバーワンの評価でした。プロでも一軍で麻雀してるし、今後に期待の選手だよ』

 

「ふなQやっぱり、安福さんってすごかったん?」

 

「ええ、対木さんよりも安福さんの指名を推す声も大きかったです。関西大学麻雀の顔になっていましたし……」

 

 ふなQは少し気まずそうな顔をした。対木さんよりも、安福さんを強行指名しておけば良かったと顔に書いてある。

 

「対木さんあかんし……安福さん行っといても良かったんちゃう?」

 

「そこは……まあ、そうかもしれませんけど、清水谷先輩がいますから大将指名することもないかという話に……」

 

 かなり歯切れが悪そうに、ふなQはそう言った。たしかに、大将を指名するくらいなら先鋒やPGを補強するほうが良いので、一応の筋は通っている。

 

「うちは清水谷だけじゃなく野依さんや荒川もいるし、勝ちパターンはしっかりしてるからな。あえて後ろはとらなくても良いと思っているんだろ」

 

 加治木さんは、両手で湯呑みを持って綺麗な所作でお茶を飲み干した。

 結果論ではあるのだが、怜の中で対木さんを何故指名してしまったのかというモヤモヤが消えることはなかった。

 

『あとは同じルーキーで、今年神戸に指名された二条さんも、良い経歴の選手ですね』

 

二条 泉

千里山女子高校→明明大学→エミネンシア神戸

高校1年 IH団体5位

高校2年 IH個人全国出場 秋季大阪大会優勝

高校3年 IH個人全国出場 千里山女子麻雀部部長

大学1年 六大学リーグ最優秀新人

大学2年 六大学リーグ春季優勝

大学3年 大学麻雀選手権優勝

大学4年 六大学最優秀先鋒 神戸ドラフト4位指名

 

「泉やんけ!」

 

 いつもの見知った麻雀の下手そうな顔が出てきて、怜は驚きの声を漏らす。

 

「まあ、弘世さんには遠く及ばないとして、泉も十分凄い実績残してますから」

 

「ほ、ほんまにそうなんか……」

 

 ふなQから説明されても、にわかには信じがたい。泉の名前が出てくると、急にここで取り上げられた選手たちが、ショボく見えてくる。

 

——そもそもこいつ、うちらが引退してから1度も団体で、インターハイに行けてへんやんけ。

 

「この前の花田に勝った試合は凄かったな、私もうかうかしてられない。二条に先鋒を譲る気はないぞ」

 

「せ、せやろか……」

 

 泉の初勝利となった試合は確かに、怜も嬉しかった。しかし、あの試合は全てが上手く噛み合った年に1度の神闘牌であることを、怜は知っている。加治木さんが、プレッシャーを感じることは何もない。

 

「絶対にここから這い上がって、先鋒のポジションを取り戻す。必ず!」

 

 加治木さんがやる気を出してくれているのは良いのだが、泉は確実にそんなライバル視するような選手ではない。

 しかし、そのやる気の炎を消すのもアレなので、適当に相槌を打っておくことにした。

 

「よっしゃ、その意気や! ポジション奪い返してエースに返り咲くんや! 椿野さんもいないからいけるで!」

 

 怜の言葉に加治木さんは力強く頷いた。引き合いに出すのは、本当に泉で良かったんやろかと思いながらも、加治木さんが元気になってくれそうなので少し安心する。

 

『そういえば、こーこちゃんもアマチュア最高の経歴の選手を調べてくるって、言ってたよね?』

 

『うん、調べてきたよ。すこやんの調べてきてくれた選手よりも強そうな経歴だと思う』

 

『ん……言ってくれるね。それなら、その選手の経歴はやく見せてよ』

 

『でも、企画的にこれいいのかなーって……』

 

『企画的に? どういうこと?』

 

 福与アナは少し申し訳なさそうに、フリップボードを表向きした。

 

宮永 咲

清澄高校→新道寺女子高校→横浜ロードスターズ

高校1年 IH団体戦4位 

     IH個人戦準優勝

     国民麻雀大会優勝

高校2年 IH団体戦優勝

     IH個人戦優勝

     国民麻雀大会優勝

     春季大会全国制覇

     IH最優秀選手他

     新道寺女子高校麻雀部部長 

高校3年 IH団体戦ベスト8

     IH個人戦優勝

     国民麻雀大会優勝

     IH最優秀選手他

     新道寺女子高校麻雀部部長

     4雀団競合ドラフト1位

 

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