専業主婦、園城寺怜のプロ麻雀観戦記   作:すごいぞ!すえはら

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第96話 園城寺怜争奪戦はじまる! 前編

「どう? とき、おいしい?」

 

「なかなか、おいしいで」

 

 神戸市内。

 いつものように、ソファーに寝転んで竜華に膝枕をしてもらいながら、イチゴを給餌される1人の雀士がいた。

 

 一巡先を見る者、園城寺怜。

 そのひとである。

 

「はい、あーん」

 

「あーん」

 

 竜華が作ってくれた生クリームをたっぷりつけたイチゴを受け取るために、怜は口をあけてから一生懸命モグモグした。

 本当は自分のペースで食べたかったりするのだが、あーん拒否すると大変なことになるので大人しく受け入れている次第だ。

 

 一巡先が見えているから、わかるのである。

 

「ふふっ、生クリーム口についてて、かわええなあ。もう」

 

「拭いてあげるから、動かないでね」

 

 怜の口元をナプキンでさっと拭って、竜華はなにやら一人で盛り上がっているが、そっとしておくことにした。

 遠征先から帰ってきたばかりなので、疲れているのだろう。

 

「やっぱり怜は、世界で一番かわええなあ……どうしてこんなにかわええんやろ」

 

「そ、そっかーありがとなー。イチゴもう少し食べたいで」

 

 優しく頭を撫でてくる竜華を、怜は柳に風と適当に受け流しながら、イチゴの続きを要求する。

 とりあえず食べている間は、相手をしなくて良いので楽なのである。

 

「ふふっちょっと待ってね……はい、あーん」

 

「あーん」

 

 イチゴをゆっくり咀嚼して食べ終わってから、怜は竜華に言った。

 

「そろそろ、麻雀したいんやけど?」

 

「だめ、だめ! まだ東京から帰ってきたばっかやろ? 今日は牌触ったらあかんで! 福路さんキツかったって、自分でも言うとったやん」

 

「せ、せやけど練習したいし……」

 

「うちの言うこときけへんの?」

 

 ものすごく低い声で、竜華にそう言われてしまい部屋の空気が凍る。

 

「い、いや……そういうことやあらへんけど……」

 

「約束したやんな? たくさん麻雀したら2日間は牌に触ったらあかんって」

 

「う、うん」

 

「怜は約束破るんか?」

 

「破らへんで、きょ、今日は麻雀はやめとくわ」

 

「ふふっ怜、えらいで〜」

 

 満面の笑みで竜華は、怜の髪を優しく撫でた。

 焼肉を一緒に食べた時の藤白先輩も恐ろしかったが、独占欲が全開になった時の竜華のほうが数倍怖い。

 唐突に人生のエンドロールが流れそうになったことに、内心かなり焦りながら怜は竜華の膝に頭を乗せたまま、引き攣った笑顔をつくった。

 

 嫌な雰囲気のまま竜華からイチゴの給餌を受けていると、インターホンが鳴った。

 

「少しでてくるから、ちょっと待っててね」

 

「わかったで」

 

 竜華は、怜の頭を優しくソファーの上に置いてからモニターの方へと向かっていった。

 

——た、助かったわあ……誰だかわからへんけどナイスや……

 

 ソファーから体を起こして、竜華の後ろ姿を見ながら、インターホンに感謝していると竜華が振り返って言った。

 

「大宮の瑞原さんきとるで? 怜に会いたいんやって。どうする?」

 

「瑞原って……監督の?」

 

「せやなー」

 

 突然のビッグネームの登場に怜は驚いた。小鍛治さんが突然訪れた時、以来の衝撃である。

 

「会うけど……な、何の用やろか……」

 

「んープロ入りの話やろ」

 

「そ、それ……監督自ら来るもんちゃうやろ……とりあえず、着替えなあかんやん!」

 

「あ、そうやな。着替え用意してくるな」

 

 怜は自分がパジャマ姿であることを思い出して、慌てて起き上がって竜華にちゃんとした私服を着せてもらうことにした。

 お化粧はしている時間はないので、普段は見せない俊敏な動きで、怜はBBクリームを肌に塗り込み髪型を整えた。

 

「こ、こんなもんでええやろか……」

 

 唇にリップクリームも塗りながら怜は竜華にそう尋ねた。

 

「ラフな感じに整えてる怜も可愛ええから、大丈夫や!」

 

「せ、せやろか……」

 

 ギリギリアウトな気がしないこともないが、これ以上はほんまに無理なのでダイニングテーブルに移動すると、再びインターホンが鳴った。

 

 瑞原監督が到着したようだ。

 

 玄関に迎えに行った竜華と瑞原さんの話し声が、だんだんと近づいてくる。

 

「やっほー⭐︎ミ 園城寺さん、はじめまして。瑞原はやりです! よろしくね」

 

「は、はい……はじめまして」

 

 当たり前のように、ゴスロリ衣装で登場した瑞原監督(34)にビビりながら、怜はなんとかお返事をした。

 

「はじめましてって言っても、園城寺さんのことは高校時代から見てたから、あんまりはじめてって、気もしないけどね⭐︎」

 

「はい……ありがとうございます」

 

「こんなに綺麗になってるなんて知らなかったよー、竜華ちゃんと結婚してるの知ったのも最近だし……」

 

「あんまり家庭のことを話すのも、どうかなと思いまして」

 

 色々と話してくれているが、フリフリの衣装が気になって、あまり話の内容が頭に入ってこない。

 竜華との取り止めのない話が続いていたが、瑞原さんは突然真面目な顔を作って怜のことを見据えて言った。

 

「園城寺さん、雀聖戦での活躍は拝見しました。ハートビーツ大宮で、一緒に麻雀をやりませんか? いつでも、園城寺さんのことを受け入れる準備は出来てます」

 

 どくんと怜の心臓が跳ねる。

 プロ麻雀の世界が目の前に開けた。雀聖戦で戦った福路さんはとても強かったし、それ以上の選手もたくさんいる。

 すぐにでもOKしたくなる気持ちを抑えて、怜は冷静に言った。

 

「まだ、プロになったわけでもありませんし」

 

「プロとして充分すぎる実力を備えているし……資格のことなら私に任せてくれれば大丈夫だよ⭐︎ミ プロ編入試験は受けるだけで良いんだから」

 

「そ、そうなんですか?」

 

「園城寺さんを落とそうとする人なんて、協会には一人もいないしね。もうすぐ案内が来ると思うよ」

 

 しれっと凄いことを言った瑞原さんに顔を見てから、竜華の方に視線を移すとゆっくりと頷かれた。

 どうやら本当に、プロになれるらしい。

 

「園城寺さんをサポートできる体制がうちにはあると思っているし、私自身も園城寺さんと一緒に麻雀がしたいと思ってるんだ」

 

「ありがとうございます」

 

「詳しい契約の内容なんかは、後々スカウトさんと話し合っていければと思うんだけど……とりあえずパンフレットや資料は置いていくね」

 

 そう言って瑞原さんは、竜華に紙袋に入った資料を一式渡した。なんで竜華に渡すのか疑問に思いながらも、あとで見せてもらおうと怜は思った。

 

「もし、練習とか見学したかったらいつでも連絡してね。待ってるから」

 

 そう言って瑞原さんは、携帯とハートビーツ大宮の職員事務所の連絡先を教えてくれた。

 プロの練習はかなり興味があるので、今度見学に行こうと怜は思った。神戸の職員のふなQはさすがに連れていけないので、誰と一緒に行こうか頭を悩ませる。

 

「瑞原さん、わざわざありがとうございます。色々と検討させてもらいますね」

 

「他の雀団からも絶対に話があるだろうからねー。最終的に大宮を選んでくれれば良いなと思ってるよ⭐︎ミ」

 

 話を進めるには早計と思ったのか、割って入ってきた竜華に瑞原さんはそう答えた。

 

「大宮はポジション空いてるから」

 

 瑞原さんが竜華にそう言うと、竜華は眉間に皺を寄せて目を瞑った。

 

「それじゃあ、長居すると悪いしそろそろ帰るね」

 

「わざわざ、ありがとうございます」

 

「こちらこそ、園城寺さんとお話しできて良かったよ」

 

 椅子から立ち上がった瑞原さんを玄関まで見送ると、帰り際に分厚い封筒を手渡された。

 

「竜華ちゃんがいるから大丈夫だと思うけど、雀士は健康に気を使わないとダメだよ。これで、おいしいものでも食べて栄養たくさんつけてね」

 

「またねー⭐︎ミ」

 

 玄関の扉がパタンと閉まった。

 嵐のように現れた瑞原さんは、嵐のように帰っていった。

 

「こ、こんな唐突なんか……プロのスカウトって」

 

「まあそうやな。監督が来るっていうのは予想外やったけど……誠意を見せたいってことなんやろ」

 

 竜華は特に気にするでもなく、瑞原さんの持ってきた紙袋からパンフレットを取り出して大宮の練習施設の写真を眺めている。

 

 リビングに戻りながら、瑞原さんから貰った封筒を開けてみようと思った怜だったが、紙がぎっちり入っていて、なかなか取り出すことが出来なかった。

 

「ん……なんやこれ?」

 

 仕方がないので、封筒の縁を切って無理矢理引き出した。

 

 帯がついた万札が二束ほど顔を覗かせる。

 

 明らかに、やばいお金である。

 札束を持ったまま竜華の方を向いて無言の視線で訴えかけると、竜華は嬉しそうに言った。

 

「お、200万も入っとるやん。挨拶だけでそれだけくれるって、期待されとるな!」

 

「そ、そういうことやないやろ! こ、これ……うちは大宮入らんとあかんのやないか……」

 

 心配になった怜が竜華にそう尋ねると、竜華は笑った。

 

「そんなちょっとの金額で契約してくれるなんて向こうも思ってへんやろし、とりあえず貰っとけばええ」

 

「せやけど。これ裏金やん……」

 

 怜が不安になってそうつぶやくと竜華は、不思議そうな顔をしながら言った。

 

「清廉潔白なプロ麻雀トップリーグの世界に、裏金なんかあるわけないやん。とき、漫画の読みすぎやで^^」

 

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