共和国の旗の下に   作:旭日提督

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 アナクセス崩壊!

 帝国軍の超兵器により、砕かれつつある惑星アナクセス。
 逃げ惑う市民を前に、救国軍事会議の首魁シャルロット・フォン・ブリュッヒャー上級大将は、悲願シーヴ・パルパティーンの打倒か、誇りある軍人としての人道に則った活動か、二者択一の決断を迫られる。


アナクセス崩壊

 ───超兵器による惑星攻撃。

 

 その報告を聞いて、軍服に袖を通したのは殆ど反射に近かった。

 

 アンバー先生は反対したが、事が事だけにそう漫然としている訳にはいかない。未だに軋んで悲鳴を上げる身体を騙して、足早に医務室を後にした。

 

 ブリッジに隣接した作戦会議室は慌ただしい喧騒に包まれていたが、艦橋に戻った私を見た将校達は立ち止まって敬礼で出迎える。

 彼等の仕事を邪魔するのも忍びなく、答礼を手早く済ませた私は先ず現状の把握から始めた。

 

「何が起こっている。状況を知らせろ」

 

「ハッ! つい十数分前より、アナクセスに対して帝国軍のものと思われる超質量のレーザー攻撃が行われています」

 

「それはもう知っている。出所は分かっているのか」

 

「はい。レーザーの発射方向を辿ったところ、敵は───この星系外の小惑星帯に布陣しているようです」

 

 ガスコン参謀長はホログラムに投影された近距離星図を指しながら、丁寧に解説する。

 

 画面の一端が拡大されて、そこに陣取る帝国軍の全容が明らかになった。

 

「敵の超巨大レーザー砲は推定全長15000メートル、円筒型のバトル・ステーションと推察されます。更に周辺には50隻以上の主力戦艦、300隻を越えるクルーザー、コルベットからなる護衛艦隊が布陣しています。率直に申し上げますが、正面からの突破は厳しいかと」

 

 参謀長の言葉に合わせるように、画面上の情報が更新される。

 偵察により判明した帝国軍艦隊の概要とその戦力評価が数値化されたデータを一瞥して、なるほど確かに正面からの撃滅は難しいと察した。

 

 正直に言って、帝国軍との艦隊決戦を終えたばかりのわが艦隊の陣容だけでは厳しいものがある。

 

 ───さて、どうしたものか。

 

「参謀長。艦隊の現状は?」

 

「ハッ! 損耗率は……25%を越えていますな。主力艦は小破程度で済んでいるものが多いですが、軽快艦艇の損害が深刻です」

 

 続けてガスコン参謀長は、自軍の消耗状態を報告した。

 トータルでの損害が三割近くまで上る以上、更なる継戦には非常に厳しいものがある。

 

「特に、コバーン分艦隊の損害が深刻です。半数以上の艦艇を喪い、全滅の判定です。続いてエレイシア分艦隊の損耗率は35%、エーベルヴァイン分艦隊は17%の被害を受けています。最も余力を残しているのは、この本隊です。なお、エーベルヴァイン分艦隊は次席司令官と分艦隊司令官の決定で独自に惑星の救助活動を始めています」

 

「つまり…………アルトの艦隊は使えない、ということか」

 

「そうなりますな、閣下」

 

 画面が切り替わり、自軍の損害が目に見える形で可視化される。

 撃沈された艦艇は赤、損害を受けた艦艇はオレンジから黄色で塗られているその表を一瞥すると、艦隊の受けた損害が想像以上に甚大であったことを実感する。

 やはり、耐久力に劣るフリゲートやコルベットクラスの喪失が目立っていた。

 

「チッ。仕掛けるにしても、もどかしいことこの上ない状況だな」

 

「敵の規模はわが艦隊を上回っております。ついでにあのバトル・ステーションの実力も未知数となれば、迂闊に仕掛けては返り討ちに遭う危険もありますな」

 

 何もかも、準備不足か。

 

 正攻法であれを突破するのは、些か骨が折れる仕事だ。

 

 だが───私の手札には、それを覆すジョーカーが一つだけ存在する。

 

 正直、"アレ"を此処で使っても良いものなのかと惜しむ声も頭に響く。アナクセスを見捨てて、一直線にパルパティーンの本陣を目指すべきではないのか、と。

 

 だけど、私は───民主主義国の軍人なのだ。

 

 自分でそう、定めたのではなかったか。

 

 眼前で死に絶える市民を見て、見捨てるのは果たして正しい選択と言えるのか。

 それをしてしまえば私は───拠り所を自ら壊してしまいやしないか。

 

「───参謀長」

 

 意を決して、彼を呼ぶ。

 

「コバーン准将とエレイシア代将に、ムジーク少将を呼び出してくれ。───仕掛けるぞ」

 

「ハッ!!」

 

 参謀長は、小柄な体格に不釣り合いなほどに機敏な敬礼を披露して返答した。

 その彼に対して、もう一つだけ指示を下す。

 

「それと…………この周波数である艦隊に呼び掛けて欲しい。『コード・カルデアス』とね」

 

 

 …………………………………………………………

 

 

 ……………………………………………………

 

 

 ………………………………………………

 

 

 …………………………………………

 

 

~銀河共和国軍第3艦隊エーベルヴァイン分艦隊旗艦 アクラメーターⅡ級艦 “イストリア ”~

 

 

 一方、ここは惑星アナクセスの軌道上。

 

 かつては青と緑を湛えた生命を育む大地は見る影もなく熔解し、レーザーに灼かれて崩れ落ちる。

 煌々と輝く惑星規模の都市から悉く光は消え失せて、往時の活気は最早幻想かと疑うほどだ。

 

 そんな瀕死の惑星の傍らに、忙しなくシャトルや小型船を収容している艦隊が侍るように佇んでいる。

 

 

 銀河共和国宇宙軍第3艦隊 エーベルヴァイン分艦隊

 

 

 アルト・エーベルヴァイン代将率いるこの艦隊は惑星の危機を聞き付けるといの一番に駆けつけて、民間人の救助活動に励んでいた。

 救国軍事会議の首魁シャルロット・フォン・ブリュッヒャー上級大将が一時期に指揮から離れている間、次席指揮官であるゴルドロフ・ムジーク少将の人命優先の方針も相俟って民間人の救助を最優先と命じられた彼等彼女達は、最大限に危険極まりないこの惑星に近付いて与えられた任務を全うせんとする。

 

「惑星地表の平均気温、更に上昇! 内部マントルに更なる活性化の兆候が見られます」

 

「民間人の避難率、15%を越えました」

 

「急いで! 一刻も早く、一人でも多く助けるんです!」

 

 旗艦〈イストリア〉の壇上に立つエーベルヴァイン代将は顔色に焦燥を滲ませながらも、毅然と救助活動の指揮を取る。

 つい先程まで敬愛する師の凶報に動揺していた彼女だが、時勢が悲嘆に暮れる余裕を与えない。

 

 ───マスターのことは、何よりも気掛かりだけど。でも、今は…………! 

 

 もし師が健在なら何と言うか。

 彼女が快復したとき、胸を張れる自分でいられるように。自らには今果たして何ができるのか。

 悲しみに軋む心に堅く蓋をして、在るべき役割を受け容れる。

 未だに齢二十に届かぬ少女の身には些か酷なことであったが、確かに彼女は纏ったその軍服に見合った働きを見せていた。

 

「閣下! アナクセス・シタデルより緊急電です! 地表の亀裂が施設内部にまで浸透し、脱出が困難とのこと! 要塞司令官オスヴァルド・テシック少将も施設の崩落に巻き込まれて重傷を負い、指揮系統が混乱している模様です!」

 

 舞い込む更なる凶報に、エーベルヴァイン代将は頭を抱えた。

 地表における実質的な共和国軍の司令塔であり避難誘導の拠点であったアナクセス・シタデルの陥落という事実は、地表に取り残された民間人を救助する上で大きな障害になることに間違いない。

 

 一時の逡巡の後、彼女はある決断を下す。

 

「ちぃっ! アグラヴェイン艦長、ここは任せました! 私は取り残された人達の救助に回ります!」

 

「承知しました。どうかお気をつけ下さい、閣下」

 

 艦隊の指揮を信頼する副官に預け、シャトルの格納庫へと急ぐ。

 地上の指揮系統が断然したならば、自ら死地に飛び込み修復する他ない。そう考えた故の行動だった。

 

 〈イストリア〉から一機のシャトルが飛び出しアナクセスの地表に降り立ったその頃には、惑星表面の実に五割が既に溶岩の海に覆われていた。

 

 

~アナクセス・シタデル 訓練学校区域~

 

 

「はっ…………はっ…………ハァ、っ…………」

 

 ───走る。

 

 溢れる溶岩に呑み込まれて、大口を開けた割れる大地の奈落の果てに落ちていく故郷の姿。

 

 既に慣れ親しんだ訓練学校は業火に包まれ、果たして学舎を共にした同期生は幾ら残っていることやら。

 

 我先にと逃げ出したのはいいものの、星自体が崩れているなら何の意味もありはしない。

 

「あ…………っ」

 

 ふいに、足が揺れる。

 

 気が付くと、眼前には黒い地の果て。

 

 先程まで眼球を覆い尽くしていた赤い業火の姿は何処にもなく、あるのはただひたすら闇に包まれた星の亡骸。

 

 大地を割ってその全てを貪るクレバスの侵食は留まるということを知らず、辺りの全てを崩していく。

 

 前のめりに倒れ込んだ私の身体は、吸い込まれるように真新しい亀裂の底へと飲み込まれた。

 

 * * * * *

 

「───か───すか」

 

 ふと、目が覚めた。

 

 ───ここは、天国? 

 

 真っ暗な星の果て。

 奈落の底の常闇に包まれた無間の下で、有り得ざる声を聞いた気がした。

 

「───こえますか? 聞────!?」

 

 脳裏に響く少女のような澄んだ声。

 

 ああ、きっと、遂に迎えが来たのだろう。

 

 最後の最期で、自分だけ逃げ出した私はきっと、地獄に落ちるのがお似合いだ。

 

「聞こえますか? 目を開けて!?」

 

 ───はい? 

 

 凛とした気迫の中に、仄かな焦燥を滲ませた少女の声。

 それは確かに、冥界からの使者という超常のものではなく、今を生きるヒトにしか許されない生の息吹に他ならない。

 

 然れば、この身はまだ醜くも生き永らえているということ。その事実に僅かな困惑と浅ましくも安堵の情を抱きながらも目を開けた私の視界に映ったのは、燻る奈落の中でなお輝きを失わない金色の髪と、翠緑の透き通った瞳だった。

 

 

~惑星アナクセス上空 サウザーン級クルーザー “オーロラ ”~

 

 

「生存者の収容状況は?」

 

「ハッ! 見つけては手当たり次第に当たっていますが、芳しくありません。何よりリソースが足りなさすぎます」

 

「一人でも多く、限界まで拾い上げて! 定員を越えても構いません。少しでも多くの市民を助けるんです!」

 

「了解!」

 

 サウザーン級巡航艦〈オーロラ〉

 

 この艦は、銀河共和国軍がかつてアナクセスの戦いにおいて使用し、フォート・アナクセスに遺棄されていたクルーザーだ。

 中破状態で放置されていたものの艦の機能自体は無事であったことから、現在はエーベルヴァイン代将らにより復旧され市民救助のための拠点として使用されている。

 

「将軍! 朗報です」

 

 ブリッジに仁王立ちして敢然と救助活動の指揮を取るエーベルヴァイン代将の下に、一人のACEトルーパーが駆け寄る。

 

 つい先程まで地表での過酷な救助活動に従事していたことを物語る煤だらけのアーマーを着込んだ彼は、疲れを微塵も感じさせない機敏さで自らの上官である年若い代将に正対する。

 

「どうしました? レッドデイン」

 

「ハッ! 我々は地表より現地共和国軍の最高司令官、オスヴァルド・テシック少将の救出に成功しました!」

 

「テシック少将を? それは良い報せです」

 

「ですが、未だに容態は予断を許しません。衛生兵(メディック)の見解によれば、サイボーグ化治療も已む無しというほどだとか」

 

「なるほど…………後は、彼の生命力に賭けるしかありませんね」

 

 ACEトルーパー・レッドデインは、重要人物の収容が完了したことを報告する。

 今しがた運び込まれた件の瀕死の少将はアナクセスに駐留する共和国軍の最高司令官であり、軍事基地アナクセス・シタデルの要塞司令官でもある人物だ。

 彼は猛将としても知られ、クローン戦争において数々の武勲を示した新進気鋭の若手将校でもある。

 そのような人物が現在も人材不足が続く救国軍事会議に馳せ参じてくれるならこの上ない朗報なのだが、残念ながら彼の容態はそれを許すほどの余裕はない。

 

 故に、救助部隊の総指揮を執るエーベルヴァイン代将は一先ず彼の身柄を確保できただけでも良しとした。

 

「レッドデイン、ご苦労様でした───と言いたいところですが、申し訳ありません。あと一働き、頼めますか」

 

「無論です。将軍の命とあらば、何なりと」

 

「ありがとうございます。私も間もなく再び降ります。その時までに出撃の準備を整えておくように」

 

「御意」

 

 エーベルヴァイン代将は、地表にて救助活動の陣頭指揮を執るべくその用意をレッドデインに命じる。

 普段の彼女からすれば人使いが荒いことは否めないが、事態が事態である。多少の超過労働は当然のことだ。

 

 足早にブリッジを去るトルーパーの背中を見送る彼女の胸中には、それとは別にある懸念が一つ。

 

 一度目の救助活動の際に、クレバスの底で見つけた瀕死の少女。

 アナクセス軍事大学校の制服を着ていたから恐らくは軍属であるのだろう。彼女は亀裂の下まで落ちていったにしては奇跡的に一命を取り留めていたのだが、何分状況が状況だけに一時の予断も許されない容態だと聞く。

 

 ───どうか、あの子が助かりますように。

 

 朧気ながらも開かれたその瞳に流れた、悲しくも真摯なその涙。

 あのまま果ててしまうにしては、あまりにも非情。

 故に、アルトはひたすらに名も知らぬ彼女の命を案じていた。

 

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