共和国の旗の下に   作:旭日提督

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 惑星アナクセスが帝国軍の惑星破壊兵器により終末を迎えていたその頃。ブリュッヒャー上級大将からの集結命令を受け、アナクセス方面へと転進したショーン・キリアン宇宙軍中将麾下の銀河共和国宇宙軍第11艦隊は、アクサム恒星系より退却した帝国軍艦隊残余と交戦する。

 帝国軍残存艦隊を指揮する若き知将、ギラッド・ペレオン代将率いる銀河帝国軍第7艦隊は、キリアンの艦隊を相手に着々と戦果を重ねていた。


グリズマルト星域会戦

~コア・ワールド グリズマルト星系 銀河共和国軍第11艦隊旗艦 プラエトル級巡洋戦艦 “ドーン・アンダー・ヘブン ”~

 

 

 惑星アナクセスが存在するアクサム星系、そのコルサント方面に隣接する星系が、ここグリズマルト星系だ。

 この星系に所在する惑星グリズマルトはかのシーヴ・パルパティーン元老院最高議長の出身地である惑星ナブーに居住する人間種のルーツであり、凡そ3900年前、この惑星で発生した大規模な暴力革命から辛くも逃れた難民の人々こそ彼等の祖先なのである。

 

 そんな歴史深いこのグリズマルト星系では、今まさに新たな歴史が刻まれていた。

 

 フォーロスト方面より進軍し、コルサントを迂回する形でコロニーズ方面に向かう銀河共和国宇宙軍第11艦隊と、それを阻止せんとする銀河帝国宇宙軍第7艦隊。

 

 一つの国家から別たれた艨艟達は、互いの信念を掛けて火花を散らし合う。

 

 幾つもの小太陽が現れては消えていき、何百もの小さな新星がその儚い一生を散らし行くその様は、あたかも宇宙の営みを凝縮したかのような絢爛さで。

 しかし、此処に有るのはそれとは無縁の血生臭い戦場風景。

 煌びやかな光の花が咲く度に、スターファイターは霧散して艦船は爆発四散する。

 

 幾度となく繰り返されたそんな戦場風景の最中、共和国軍第11艦隊を預かる救国軍事会議の老将、ショーン・キリアン宇宙軍中将は、自艦の壇上に威風堂々と構えながら思案を張り巡らせていた。

 

「───さて。どうしたものかな」

 

 コルサント突破戦の最中、ブリュッヒャー上級大将からアナクセスへの集結命令を受けたのがつい22時間ほど前。

 オナー・サリマ提督率いるコルサント本国防衛艦隊と事を構えていたキリアン提督の第11艦隊は、返す刃で彼女の艦隊の猛攻をいなしてコルサントを大きく迂回する進路を取った。

 度重なる消耗戦で傷付いた艦隊を労りながら慎重に航海を重ねた彼等は、目的地その一歩手前というところで帝国軍艦隊と出会してしまう。

 

 ギラッド・ペレオン代将率いる銀河帝国宇宙軍第7艦隊、その残余だ。

 

 ペレオン麾下のその艦隊は先のアナクセスの戦いで深刻な被害を受けた帝国軍艦隊の後身であり、再度アナクセスに進出するべく修理と補給作業の途中であった。

 

 互いの姿を認めた彼等は、両者手負いの身でありながらもごく自然な形で火蓋を切った。

 

 掲げる旗の違い。その一点の差異を以て、数百の艨艟は命を散らす。

 共和国宇宙軍第11艦隊を預かるキリアン提督は、自らに比すれば年若い帝国軍の知将率いる艦隊を前に、勝負の落とし所を探る。

 

「閣下! キリアン閣下!」

 

 その最中、まだあどけなさを残した青年将校がキリアンに駆け寄る。

 彼の表情には明らかな焦燥が浮かんでおり、只事でないことは一目瞭然だ。

 

「どうした、副参謀長」

 

「それが…………アナクセスが…………崩壊、しました」

 

「崩壊?」と、キリアン提督は聞き返す。

 あまりの突拍子もなさが故に、彼の理解が追い付かなかったのだ。

 アナクセスの友軍艦隊が総崩れ、というのならまだ分かる。だが、崩壊とはどういうことか。副参謀長の言い方では、まるで()()()()()()が崩れ去ったようではないか。

 そんな最悪の想定は、時を経ずして直ぐに裏付けられることになる。

 

「ハッ──そのままの、意味です。アナクセスは帝国軍超兵器の攻撃を受け、惑星ごと崩壊。我が主力艦隊は辛うじて帝国軍を退けたものの、甚大な被害を負ったとのことです」

 

「むぅ…………成る程。召集命令はそれを受けてのことだったか。ならば、残念ながら我々は一歩間に合わなかったということになるな」

 

 帝国軍の惑星破壊が成功したとなれば、アナクセス方面へ転進した自艦隊の行動は全く無駄だったということになる。

 キリアンは自軍の到着が遅れたことを悔いたものの、その感情を彼の表情から察することはできない。

 彼の頭脳は即座に今成すべき行動を演算し、目前の帝国軍艦隊を破りつつ主力の救援に向かうことが最善だと結論付けた。

 

「僭越ながら申し上げますと、恐らく我が主力に余力は残されていないかと。再度のコルサント攻撃は、もう…………」

 

「悲観的になるにはまだ早いぞ。先ずは眼前の帝国軍を突破することが先だ。全艦、攻勢の手を緩めるな。損傷艦は随時後退しつつ、巡洋戦艦を前へ。敵艦隊左翼に攻撃を集中しろ」

 

「は、ハッ!!」

 

 キリアンは、戦域からの離脱を最優先として艦隊に指示を出す。

 敵艦隊の中でも火線が薄い左翼集団を狙い、敵が怯んだ隙に艦隊を素通りさせる。

 アナクセスの惨状を理解したキリアンは、眼前の敵艦隊の撃破ではなく、本隊への合流が自軍にとって最もベストな選択だと直感したが故の指示だ。

 

 艦隊でも数少ないバトルクルーザー級の主力艦を最前線に押し出したことで、見るからに帝国軍の戦果は目減りした。敵には同クラスの主力艦は残存していないが故に、戦域はキリアン麾下の巡洋戦艦戦隊の独壇場の様相を呈する。

 

「本艦も前進するぞ。艦長、機関全速だ。他の戦隊に遅れを取るな」

 

「了解。機関、両舷一杯。前進します」

 

 キリアンの旗艦〈ドーン・アンダー・ヘブン〉に続いて、プラエトル級艦〈モータル・レヴェリー〉と、メールシュトローム級巡洋戦艦〈レトリビューション〉が最前線に姿を現す。

 既に展開していた2隻の巡洋戦艦と合わせて合計5隻のバトルクルーザークラスの主力艦を含めた艦隊の猛攻は苛烈さを極め、帝国軍左翼は恐慌状態に陥った。

 

「よし。全艦、戦域より離脱する。敵艦隊の脇を抜けつつハイパードライブを準備しろ」

 

「ハッ!」

 

 展開していたスターファイター隊を回収し、アナクセス方面へのハイパージャンプを試みるキリアン麾下の第11艦隊。

 しかし、思いの外帝国軍の立ち直りが早かったことにより、艦隊の一部は猛烈な報復を受けることになった。

 

 キリアンの狙いが自艦隊の撃滅ではなく戦域からの離脱だと看破したペレオンは自艦隊の右翼部隊を即座に共和国軍艦隊の追撃に充て、ハイパースペースに入る直前の無防備な第11艦隊を滅多打ちにしたのだ。

 4隻のインペリアル級艦〈ダーク・オーメン〉〈アキューザー〉〈ローブリンガー〉〈インティミデーター〉の猛攻を受けたヴェネター級艦〈ブルワーク〉とグラディエーター級艦〈ガントレット〉は即座に破壊され宇宙の塵と化し、メールシュトローム級艦〈アルティメイタム〉はシールドが禿げ上がって全身から炎を立ち昇らせながら漂流する。

 帝国軍艦隊の猛攻により、第11艦隊の後方では至る所で火の手が続々と上がっていた。

 

「……勘付かれたか。全艦、後方を顧みるな。ハイパードライブの用意が出来次第、各艦の判断でアナクセス方面に向かえ」

 

 自艦隊の後方が食い破られつつある現状を認識しつつ、キリアンは全力での戦域離脱を指示する。

 敵の追撃で幾ばくかの艦船は喪われるだろうが、大半は脱出に成功するだろうと踏んでの指示だ。

 

 だが、彼の目算は半ばあてが外れた形になる。

 充分な損害を与えた筈の帝国軍艦隊左翼が再編を完了し、第11艦隊の側面を痛打したのだ。

 キリアンの狙いを読んでいたペレオンは事前に自艦隊左翼に対して被害の極限化を指示していたこともあり、見かけ上混乱していたように見えた彼等がその隠し研いでいた牙を遂に第11艦隊へと剥いたのだ。

 左舷側から猛烈な勢いで迫るインペリアル級艦〈エグゼキュートリクス〉とヴィクトリー級艦〈プロテクター〉〈スタルワート〉からの濃厚な重ターボレーザーの洗礼を受け、キリアンの旗艦〈ドーン・アンダー・ヘブン〉の艦体が大きく揺れる。

 他艦に目を回してみると、自艦隊のヴィクトリー級艦〈アヴェンジャー〉が討ち取られ、巡洋戦艦〈タイガー〉は機能を喪って物言わぬ屍と化していた。

 

「チッ、思いの外敵の立ち直りが早かったか…………。艦長、ハイパードライブの準備はまだか?」

 

「ハッ!! あと30秒ほどです!」

 

 オペレーターの報告を耳にしたキリアンは、遂に作戦の成功を確信する。

 それほどの残り時間であれば、敵の攻撃を耐えつつ戦域から離脱するにはギリギリ充分な程度だ。

 既に幾ばくかの主力艦と多くのクルーザー、コルベットを喪失している第11艦隊であるが、これ以上損害が広がる前にアナクセス方面へ退避できるというのなら戦略的勝利は揺るがないだろう、と彼は内心で思案する。

 

 彼の旗艦〈ドーン・アンダー・ヘブン〉が蒼白のハイパースペースへと姿を消したのは、その実に34秒後。正に間一髪のタイミングであった。

 

 共和国宇宙軍第11艦隊はこの戦いで巡洋戦艦2隻を始めとする9隻の主力艦、45隻のクルーザー、フリゲート等の護衛艦艇を喪い、対してペレオン麾下の銀河帝国軍第7艦隊の喪失は主力艦3、護衛艦艇27。作戦目標こそ達成したものの戦術的にはキリアンに黒星が付けられる形となり、何より貴重な主力艦の多数喪失は戦力不足に喘ぐ救国軍事会議にとって幾らかの暗い影を落とす結果となった。

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