両者の戦闘は救国軍事会議側優位で進行しているが、超兵器の砲口は虎視眈々と発射の機会を窺っている。
~コア・ワールド ボーメア宙域 リンガリ星雲 アクラメーターⅡ級艦 “イストリア ”~
「撃て! 撃て!! 撃って撃って、撃ちまくれ!!」
「全く、何時もながら破天荒な方だ。──主砲、目標前方敵デストロイヤー。撃て!」
エーベルヴァイン代将の突撃指示に従って、重ターボレーザーを乱射しながら艦隊の最前線を突き進む彼女の旗艦〈イストリア〉。
その覇気に気圧されたかの如く、帝国軍の抵抗は場当たり的で散漫としている。
敵はジェミニ級1隻とプロカーセイター級2隻という有力な主力艦を有していながら、その持ち味を生かしきれずにいるように見えた。
エーベルヴァイン代将率いる分艦隊の主力艦はアクラメーター級6隻、カンドシイ型1隻という布陣なのだが、敵艦隊は未だそのうちのアクラメーター級艦2隻を脱落させたに過ぎない。撃沈に至っては1隻だけだ。
インペリアル級をベースとするジェミニ級の火力ならば、より戦果を拡大することもできただろうに…………と、代将は敵艦隊の不甲斐なさを前にして逆にそれを訝んだ。
しかし現状で有利なのは自軍であり、まだ見ぬ罠を恐れて慎重な態勢を取ってしまえばむしろ敵に立ち直る機会を与えてしまうことになる。
彼女がそうした懸念を抱いている傍らで、その耳元に低く野太い声が届いた。
「───敵艦隊の動きが相変わらず鈍いですな。ここは一気に畳み掛けるべきでは」
「私も、ポーチュン参謀長に賛成です。将軍、指示を」
艦隊の頭脳たる分艦隊参謀長のポーチュン宇宙軍中佐に続いて、代将の副官を務めるクローン・コマンダー、グラントが進言する。
統率の取れていないように見える敵艦隊に対して、自軍は未だに純粋な戦力では劣勢ながらも戦いの流れを主導している。ここで敵デストロイヤーの一隻でも落とすことができたなら、戦いは一気に救国軍事会議側の優勢に傾くだろう。
エーベルヴァイン代将は抱いた懸念を振り払うように、新たな命令を隷下の艦隊に向けて下す。
「いいでしょう、参謀長の作戦通りに。敵旗艦両舷のデストロイヤーに一斉砲火! 艦載機も全部吐き出して! この隙に叩き落とすぞぉ!!」
「イエッサー。全艦、敵デストロイヤーに照準!」
「パープル中隊、ゴールド中隊、全機発艦完了! 指定爆撃ポイントに向かいます」
二人の意見を汲み入れた彼女は、その進言通りに先ずは両翼の敵プロカーセイター級に対して総攻撃を指示した。
幾ら新鋭のプロカーセイター級といえど、4隻のアクラメーター級の一斉砲撃を受けては流石にシールドの耐久力も底を突き、装甲の至る所で炎が上がる。
その隙を突いて、発進したYウィング隊による爆撃が敢行され、敵プロカーセイター級の艦上には大量のプロトン爆弾が降り注いだ。
短時間に大量の火力投射を受けた敵プロカーセイター級の一隻は、瞬く間に全身が穴だらけになり遂に無力化された。
「敵プロカーセイター級1隻の沈黙を確認!」
「よっし今だ! 敵旗艦に集中砲撃! 消し飛ばせぇ!」
装甲が焼け落ちて禿げ上がる敵のデストロイヤーの姿を尻目に、代将麾下のアクラメーター級艦4隻はその舳先を敵艦隊の旗艦、ジェミニ級スター・デストロイヤーへと向ける。
総勢4隻のミディアム・フリゲートと3隻のクルーザー、7隻のコルベットから一斉砲火が放たれんとしたその刻。アルトの脳内に木霊するように、ふと黒い怨嗟に満ちた音が響いた。
───みんな死んじゃえ。
「!? っ…………」
「? どうかされましたか? 閣下」
瞬間。眉を顰めた上司の姿を気に掛けてか、ポーチュン参謀長が問いかける。
だが彼女は目前のジェミニ級を凝視したまま硬直し───直後。血相を変えて切羽詰まった表情を浮かべる。
「いけない───! 全艦、退避行動を!! 敵艦隊右下方に向けて転進っ、急いで!!」
「閣下? いきなり何を───」
「いいから! 早く! アグラヴェイン艦長!!」
「っ───、了解しました。下げ舵10、面舵15。敵旗艦右下方に向けて転進する」
鬼気迫る表情を浮かべた代将の焦燥を感じ取ったアグラヴェイン艦長は、若干の怪訝を抱きつつもその命令に従って艦を回頭させる。
だが、全速力で転進を図っているにも関わらず艦の動きはひどく緩慢なものに見え、それが余計にエーベルヴァイン代将を苛立たせる。
「何をやっているんですか! 早く、敵艦の艦首から離れないと───」
「とは言われましても。現状が最大速度なので、如何ともしがたいですな」
「て、敵旗艦に高エネルギー反応! 想定エネルギー量───三等惑星級です!」
「チッ! 帝国軍め、これが狙いか!! 代将閣下! 敵の砲撃を喰らえば、わが艦隊は一溜まりもありませんぞ!!」
「だから! 回避してって言ってるでしょう!? 全艦、左舷前方のシールドを最大出力に! 敵旗艦主砲射程圏内からの離脱を最優先に行動して! ファイター隊は敵側面に陽動を仕掛けて少しでも気を逸らせて下さい!!」
「敵旗艦に発射反応! 高エネルギー体、急速接近!!」
「ッ───!? 伏せて! みんな、何かに掴まって!!」
サイドスラスターを全力で吹かし、小癪にも離脱を図る共和国軍艦隊の一部を遂に捕らえた帝国軍ジェミニ級スター・デストロイヤー。
直後、彼女はその力の一端を誇示するかの如く、眩い閃光とともに大出力の広範囲攻撃レーザー───“スーパー・キャノン”をエーベルヴァイン分艦隊に向けて解き放った。
「ぐう、っ…………!?」
「閣下!?」
「私のことは構いません! 回避運動、急いで!!」
「ッ──はっ!」
レーザーが至近を通過した影響で激しく前後左右に揺さぶられ、立つことすら儘ならないほどの衝撃が〈イストリア〉を襲った。
破滅的な力を宿したその光から懸命に逃れんとする〈イストリア〉であったが、瞬く間にシールド出力が禿げ上がり、艦の一部分に直撃を許したことで前後左右に艦体は大きく揺さぶられる。
そんな中でも懸命に指揮台にしがみついて艦隊の状況を注視していたエーベルヴァイン代将は、揺れが収まると即座に被害報告を求めた。
「ち、っ───参謀長! 艦隊の被害は!?」
「ハッ。本艦の他に、〈エンフォーサー・ワン〉のシールド出力が44%まで低下。深刻な被害を受けています。アクラメーターⅡ級艦〈ドラクマ〉とサウザーン級クルーザー〈ヤヴィンⅤ〉、コルベット3隻が轟沈し、健在な艦は〈デファイアント〉のみです」
「残念ながら閣下。本艦の損傷も深刻なようです。左舷側の13~28ブロックが完全に破壊され、航行と戦闘行動に支障を来しています」
「──仕方ありません。旗艦を〈デファイアント〉に移し作戦行動を継続します。敵も、あの規模の砲撃はそう易々とできないでしょう。敵旗艦後方の宙域に待避し態勢を整えた上で、然る後に総攻撃を仕掛けます」
「御意。では、そのように艦隊に伝達しましょう」
帝国軍の新兵器、ジェミニ級スター・デストロイヤーに搭載されたハイパーキャノンの直撃を受けたエーベルヴァイン分艦隊の被害は凄まじく、戦場のイニシアティブは完全に帝国軍の手中へと奪われていた。
その事実を苦虫を噛み潰したような表情で噛み締めながら、エーベルヴァイン代将は即座に分艦隊の再編を命令する。
幾ら敵超兵器の射撃速度にインターバルがあったとしても、単純にインペリアル級2隻分の火力は脅威だ。むしろ、超兵器の充填という枷から解き放たれた敵スター・デストロイヤーは、今度こそ持てる砲火力を存分に発揮するかもしれない。
「アグラヴェイン艦長、この艦のことは任せました。参謀長、シャトルの用意を」
「ハッ!」
一瞬にして優位性を覆された戦況にひしひしと焦りを感じつつも、代将は努めてそれを悟られまいと気丈に胸を張りながら指揮台を離れた。
───あのとき感じた胸騒ぎ。間違いない、来たのは“あいつ”だ。
〈イストリア〉を離れ、虚空を飛ぶ灰色のロー級輸送シャトル。
その機内に設けられた簡易座席に揺られながら、アルトはたった十数分前に感じた自らのフォースのざわつきを回顧する。
暗く澱んだ底無し沼のようでいて、その実自分のそれと瓜二つな真っ黒い闇の波長。
正面からその波動を受けたのは初めてなれど、敵の正体を察するには充分過ぎた。
───もう一人の、私。…………やらせない。絶対に、やらせるものか。
自らの任務、惑星破壊兵器の撃滅という崇高な使命を言い聞かせながら、気圧される弱気な自分の心を叱咤するアルト。
彼女は苦々しい鍔迫り合いの記憶を脳裏に思い起こしながら、在るべからざる自らの写し身への闘志を無理矢理にでも奮い起たせた。
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~巡航艦“オーロラ ”~
「───なに? 〈イストリア〉が?」
エーベルヴァイン代将率いる主隊が帝国軍の誇る超兵器・ジェミニ級スター・デストロイヤーと交戦していたその頃。
巡航艦隊を率いて敵軽快艦艇群を相手に優位な戦闘を進めていたメリュジーヌ宇宙軍大尉は、思いもよらない凶報を耳にして激しく動揺した仕草を見せた。
「はい。見張員からの報告では、直撃であったと」
「そんな!?」
表情を曇らせた副官の報告を前に、思わず取り乱す彼女。
敬愛する上官の座乗艦が敵の超兵器の餌食になったとあらば、神経を磨り減らされるのは止むを得ない。それが未だ幼い士官候補生上がりの少女だというのだから尚更だ。
「敵艦隊後方に、例の超兵器を確認!」
「くそっ、次は俺達が餌食ってか」
代将直率の主力に痛打を与えた帝国軍ジェミニ級スター・デストロイヤーは、次なる標的をメリュジーヌ率いる巡航艦隊に定めたようだ。
イオン乱流の向こう側から朧気ながらに姿を現しつつある巨大な双胴のスター・デストロイヤーの威圧感は、対峙する共和国軍艦艇の乗員達にはまるで絶望の象徴とすら思えるほどに凄まじい。
操舵席に座るクローン・ナビゲーション・オフィサーは額に冷や汗を浮かべながら悪態を吐き、年若い徴用されたオペレーターの女性などは、耐えきれず泣き出す程だ。
「クッ! …………こうなったら、刺し違えてでも──!!」
星雲の背後に佇む敵超兵器を、固く拳を握り締めながら強く睨むメリュジーヌ。
彼女の脳内は、如何にして敬愛する上官を奪った憎たらしい超兵器に引導を渡すかという思考に瞬く間に支配された。
だが、どうあっても現状の戦力差を覆すことは難しい。
如何なる攻撃手段・艦隊機動を用いようと、敵超兵器を撃破できる算段を彼女は思い描くことができなかった。
「閣下。お言葉ですが、現状、彼此の戦力差を勘案すると勝率は限りなく低い。撤退を進言致します」
「っ! …………そんなこと、分かってるって……!!」
帝国軍の巡航艦戦隊こそ撃破したものの、未だに敵艦隊は半数以上の戦力を残している。対してエーベルヴァイン代将の本隊との連携を絶たれたメリュジーヌ分艦隊単独の戦力では、相対したところで結果など知れている。
認めたくないそんな現実を言語化する副官のクローン・キャプテン、コーラルの言葉に、メリュジーヌは強く苛立ちを覚える。だが、その正論に返す言葉もないのもまた事実であった。
何も成し得ず、また全てを喪って初陣を終えるのか。
言いようのない敗北感と喪失感に打ちひしがれる彼女の下に、小さな荒いホログラムの影が現れたのはそのときだった。
《───えますか。聞こ──ま───》
聞き覚えのある、凛と澄んだ心地好い声。
通信の感度が悪いためか、声は細切れになりながら響く。
しかし、その主については間違いようもない。
「───閣下!!」
"彼女"の生存を確信したメリュジーヌの顔色が、再び生気に溢れる。
メリュジーヌはその幸運に感謝するとともに、敬愛するエーベルヴァイン代将の言葉を聞き逃さまいと自身の袂で光る小さな青白いホログラムに全霊の意識を集中した。
《───旗艦デファイアントより全艦に達する。此より我が艦隊は、敵超兵器に総攻撃を掛けます。各艦は、今送信したファイルを直ちに開封し、それに沿って行動するように。以上》
簡潔に命令だけを残し、代将の青白いホログラムは砂嵐のように掻き消える。
「どうやら、代将閣下はご無事のようで。何よりですね」
「ああ。───こうしてはいられないな。ファイルを開封してみて。作戦計画を知りたい」
「ハッ!」
歓喜の情を一旦封じて、命令に従いメリュジーヌは軍人としての顔を再び形作る。
副官に、旗艦からの作戦計画が記されたデータファイルを開くように指示した彼女は────その中身に思わず目を見開いた。
「…………なんだ、これは」
あまりにも無茶な、そしてよりによって代将自身が最もその身を危険に晒すその作戦。
何よりもアルトの身を一番に案じるメリュジーヌは、それに一抹の不安を覚えずにはいられなかった。