共和国の旗の下に   作:旭日提督

108 / 125
Fatal Battle_3

「ぐっ、……はぁっ!!」

 

「チッ、こんの──っ!!」

 

 幾多にも切り結ばれる、青と赤のプラズマの刃。

 

 超兵器の懐で、同じ遺伝子から産まれた対極的な少女が二人、命の火花を散らしていた。

 

 アルトはジェダイ時代に培ったセンスを頼りに、自身の命を狙う赤いダブルブレード式ライトセーバーの攻勢を受け流す。

 彼女の基本となる型はフォームⅢ、マイノックの型だ。

 対ブラスターの防御に重点を置いたこの型だが、ライトセーバー相手に決して無力という訳ではない。寧ろ、その防御術を極めればセーバーを相手にしても充分以上に通用するのだ。

 加えて彼女の剣術は、攻撃的な殺人剣とも言える師の剣術の影響を受けたためか、極めて実戦本位に仕上がっている。

 防御はフォームⅢ・ソレスを基本としながらも、攻勢に転じた際にはシエンさながらの強打を繰り出すその剣術は、ありのままの怒りをただ剣先に載せただけのクローンのセーバー捌きにも充分対抗できていたのだ。

 

「こいつ───ッ!!」

 

「ふっ…………はぁっ!」

 

 冷静さを第一に戦場へ挑んだアルトの剣は、最早数日前に圧倒されたことすら嘘のように軽やかだ。

 

 自らのするべき任務を定め、指揮官として覚悟を決めた故の余裕だろう。

 

 実際には、彼女のクローンが繰り出す暴力的な剣技は着実に彼女の精神を磨り減らしているのだが、それ以上に余裕を感じさせる彼女の態度は逆にクローンの神経を逆撫でしていた。

 

「さっさと、死んでよッ! このっ!!」

 

「チッ、また力押し、ですか…………! ───ブルーパーチズ!!」

 

「イエッサー!」

 

 上段から振り下ろされる、怒りのままに叩きつけられる一撃。

 アルトはそれを下段からのフォースを乗せた振り払いで迎撃し、野蛮は赤い刃を弾き飛ばす。

 彼女のクローンが剣を弾かれてよろめいたその一瞬の隙を突いて、アルトの腹心の一人であるARCトルーパー、ブルーパーチズはサーマル・デトネーターを投擲した。

 

 ドン! と小気味良く爆発音が鳴ると同時に、もう一人のARCトルーパー、レッドデインは容赦なくブラスター弾を撃ち込む。

 

「今です、一斉射!」

 

「野郎共、撃て! 撃てッ!! 畳み掛けるんだ!」

 

 続けて残りのARCトルーパーも、すかさずDC-15の引き金を絞る。

 青いレーザーの槍を受けて幾人かの黒いトルーパーは倒れたが、肝心の敵将はライトセーバーの回転機構を駆使して自分に向かうレーザーを全て弾き飛ばしていた。

 

「まぁ、これケリがつく訳ないか。───さて、どこから潰したものか」

 

「この…………!!」

 

 暗く静かに、怒りを爆発させるアルトのクローン。

 

 対称的に、アルトは残心の如くセーバーの構えを解かないまま敵陣の状況を俯瞰する。

 

「どうしました? 先日の勢いがまるで嘘のようですね」

 

「ッ、言わせておけば…………!」

 

 戦いを有利に進めているという自負からか、はたまた余裕の現れか。アルトは柄になくあからさまに慇懃無礼な態度を取り自身のクローンを挑発する。

 当然、激昂したクローンは真っ先にオリジナルへと斬りかかり、憎悪を滾らせた真っ赤な刃をただ暴力的に叩きつけた。

 

 ───直情的で、読みやすいっちゃ読みやすいけど…………! 

 

 無論、それはアルトが意図的に仕向けたものだ。

 純粋なセーバースキルで自身の複製に劣ると考えていた彼女は、敢えて敵を駆り立ててその剣先を鈍らせる策に出た。

 その目論見は面白いほどに上手く嵌まり、敵の斬擊の軌道は容易に見切ることができた。

 しかし唯一の誤算といえるのは、敵のパワーが想像以上だったことだろう。

 

 成程暗黒面とはここまで強力なものなのか、と一瞬の感心を抱きつつも、アルトはその鋒を回避することに専念する。

 簡単に躱せるとはいえ、その力が故に一撃でも受けたらひとたまりもないのだ。自然とヒルトを握る彼女の手には、じんわりと汗が滲む。

 

「将軍! コマンダー・グラントから通信が!」

 

「なに? 手早くお願い!!」

 

 そんな中、ARCトルーパー・レッドデインのコムリンクがピリピリと小気味良く鳴り響く。

 緊張が張り詰めた戦場に凡そ似つかわしくない呼び出し音を聴いた彼は片手でブラスターの狙いを定めながら、機敏かつ忌々しげに応答選択のスイッチに手を伸ばした。

 彼の腕に現れた青白く透明なトルーパーのホログラムは、一言「此方はプランBに移行する」とだけ簡潔に告げた。

 

「どうやら先方は"プランB"に移行するようで。如何致しますか? 将軍」

 

「っ──よし! 全員後退! こっちも"プランB"に移ります───!!」

 

 彼の報告を受けたアルトは、クローンの狂暴な剣戟を捌きながら全軍に次なる命令を下す。

 "プランB"とは、予め部隊で打ち合わせていた暗号だ。「超兵器リアクターの破壊に成功」の意味を持つこの暗号が流れたという事は即ち、この艦に留まる理由の消失を意味する。

 したがった彼女は隷下の部隊に撤収を促し、自身もクローンのセーバーを弾いた衝撃を利用して敵軍との間合いを取った。

 

「させるかッ! ───死ね!!」

 

 部隊を掌握するために一度後退したアルトを仕留めんとばかりに、彼女のクローンはすかさず左手を翳して狙いを定めるような仕草を見せた。

 

「危ない将軍!」

 

「っ───!?」

 

 命令を発するその隙を狙って、彼女の指先から紫色の光を帯びた電流が数条、雷のような軌道を描いて発射される───フォース・ライトニングだ。

 

 まさか自身のクローンがライトニングを放てるほど強いフォースを保持していたとは到底考えもしなかったアルトは一瞬ではあるものの対応に遅れ、セーバーを翳すタイミングが僅かに遅れる。

 

 だが、高速で進む雷撃はその遅れこそが致命的だ。懸命に彼女は防御姿勢を取ろうとするも、恐らく間に合わないだろう。

 それに気付いた一人のトルーパーが代わって彼女を庇うように、アルトの眼前に飛び出して身を滑らせる。

 当然、彼は高熱を帯びた電流を彼女に代わって全身に打たれ、堅く冷たい床に力なく倒れ付した。

 

「レッドデインっ!」

 

「───将軍、ここは…………どうか先に」

 

 クローンのフォース・ライトニングを受けたのは、アルトが長らく連れ添ったARCトルーパーの一人、レッドデインだ。自身の直感で上官の危機を悟った彼は、躊躇せずその身を投げ出し、クローン・トルーパーとしての本懐を遂げる。

 

「ちっ。邪魔!!」

 

 彼は残された力を使い膝をついて起き上がらんとするも、焦げた装甲服から伝わる熱気が身体を蝕む。

 それを忌々しげに傍観していたアルトのクローンは、自身の攻撃が邪魔された腹いせからか、徐にセーバーのヒルトを気怠そうに持ち上げた。

 彼女の不穏な動きを目にしたアルトは部下の窮地に思わず叫ぶも、終ぞその声が届くことはなかった。

 

「ッ!!」

 

 予備動作無しに投げつけられた回転式ダブルブレードセーバーは、プロペラのように廻るプラズマの刃でトルーパーの頸を刈り取る。

 続いて本来の獲物の首も狩らんとばかりに、赤黒い不気味なセーバーは真っ直ぐにアルトの目前に飛来した。

 彼女はそれを辛うじて防いだものの、セーバーは彼女との間を詰めていく。

 それ自体がアルトのクローンが発する暗黒面のフォースに押されているのか、セーバーはぎりぎりと軋むような音を発しながら彼女に迫る。

 まるで意思を持ったかのように迫る赤黒い刃を前に、アルトの額には冷や汗が滲む。

 僅かに触れた金砂の髪が、ジワリと深紅のプラズマに灼かれて焦げた。

 

「ぐっ…………この!」

 

 このままでは、埒が開かない。

 何もしなければ、力で圧し負けるのは目に見えている。

 打開策を練らんとしてか、アルトは視線を僅かに自身のクローンへと向けた。

 彼女の予想を裏付けるように、自分と瓜二つの黒い少女は右手を翳しながらフォース任せにセーバーを押し付けていた。その背景には更に、黒いトルーパー達が一斉にブラスターを構える光景が見える。

 

 古来より、撤退戦は攻撃より至難を極めると言われている。その言葉を、彼女は指揮官として身を持って実感した。

 

「こうなったら…………!」

 

 ヴー、ヴー。と鳴り響く警報が、アルトの神経を磨り減らす。

 そんな中奇跡的に思い付いた打開策を試すべく、一か八か咄嗟に思い付いた戦法に掛けて、彼女は思いっきりのフォース・プッシュを敵陣に向けて繰り出した。

 

「あぐっ───!?」

 

 透明なフォースの圧力が、敵陣を覆い包むように突き抜ける。唐突な反撃を受けて、アルトのクローンはフォース・プッシュに押されるがままにたじろぎ態勢を崩した。

 意表を突かれた敵陣は、指揮官もろとも陣形に乱れを起こして射撃どころの話ではない。

 

「───っ」

 

 だがそれを実行するために左手を敵陣に向かって翳したがために、当然ながら赤いセーバーは彼女の青い光刃を圧し退けて眼前に迫る。

 全霊で身を捻り命を刈り取らんとするそれを寸前で躱した彼女であったが、僅かに左の頬が焼けた。

 

「今です! 全軍撤退! 急いで!!」

 

「ありったけのデトネーターとグレネードを投げろ! 急げ!」

 

 肌を突くような痛みを圧し殺しながら、アルトはすかさず撤収を指示する。

 ブルーパーチズの怒号とともに残存する兵士はサーマル・デトネーターとスモーク・グレネードを敵陣に投擲し、索敵を攪乱した。

 その隙に彼女は部隊を退け、一刻も早く超兵器から脱出するべくコマンダー・グラント率いる部隊との目指して駆けた。

 

「………………」

 

 煙が晴れた頃には既に時遅く、黒い少女が討ち取らんとした敵の姿は何処にもなかった。

 

 一定のテンポで鳴り響く警報だけが、虚しく艦内に木霊する。

 

《閣下。本艦の動力炉に深刻な被害が発生しています。一刻も早く脱出を》

 

 コムリンクからは退艦を進言する艦長の声が響いているにも関わらず、彼女は呆気に取られたかのようにただヒルトを握り締めながら立ち尽くす。

 

「将軍?」

 

「───ぅア"ア""ア"ッ!!」

 

 流石に気が咎めたのか、トルーパーの一人が恐る恐る呼び掛けた。

 

 瞬間───声にならない慟哭の如き絶叫とともに、黒いヘルメットが宙を舞った。

 

 

 

 ………………………………………………

 

 

 …………………………………………

 

 

 ……………………………………

 

 

 ………………………………

 

 

 青白いイオン乱流吹き荒れるガス雲を照らす、深紅の輝き。

 

 恒星のごとき眩い閃光を放つそれは、先刻まで共和国軍を苦しめていた超兵器、ジェミニ級スター・デストロイヤーの成れの果てだ。

 

 艦隊旗艦〈デファイアント〉に帰投したアルトら突入部隊はその艦橋から、真空に輝く自らの成果を眺めている。

 感慨深く眺める者もいれば呆然と無気力に佇む者、はたまた歓声を上げる者もいる中で、アルトは喪った部下達のことを回顧する。

 

「これで、任務は成功ですな。閣下」

 

「ええ…………」

 

 端からは無感動に見えるアルトのことを気に掛けてか、彼女の背後から野太く低い呼び掛けが響く。

 参謀長のポーチュン大佐だ。

 

「…………如何されましたか」

 

「いえ、何でも───」

 

 いつになく歯切れの悪い彼女の回答を聞いたからか、ポーチュンは自身の上官の心情を案じた。

 彼女は依然として言葉に躊躇している様子だったが、意を決したかのように重い口を開く。

 

「───時々、思うのです。はたして、わたしの指揮は適切だったのかと」

 

「…………」

 

「今回の戦いも、部隊の半数を喪いました。艦隊の被害についても、決して無視し得るものではありません。わたしは───」

 

 後に続く言葉を、座して待つ。

 彼女の言わんことは、彼も身を持って体験してきたことだ。

 ジュディシアル・フォースの時代から数えれば20年以上も軍に携わってきた彼もまた、彼女と同じような経験を経た機会には暇がない。

 彼は持ち前の冷静さで割りきってきたつもりではあったが、対して目前の彼女は未だ少女と言っても過言ではない身。幾ら長く戦場に身を置いていたとしても、悩まない日など無かっただろう。

 特に、今回のように気の知れた歴戦の部下を喪った時などは。

 

「…………わたしは果たして、皆に誇れる指揮官なのでしょうか」

 

 深く大きな溜め息を吐きながら、アルトは気怠そうに指揮官席へと腰を下ろした。

 

「───閣下」

 

 少女は、ひどく疲れているように見えた。

 

 つい先刻まで、自身の複写ともいえるクローンと死闘を演じながらその傍らで部隊指揮を取っていたのだ。幾ら元ジェダイの身といえど、未だ齢十代そこらの少女の身に余る激闘だ。無理もない。

 この無気力な鬱屈たる様も、その反動なのだろう。

 

「閣下の心中、ご察し致します。ですが、成果は確かにそこにあるのです。閣下は身を呈して、邪悪な惑星破壊兵器の殲滅に寄与されました。我々一同、誇りとするところです」

 

 そんな彼女の心労を汲んで、慎重に言葉を選びながら彼は労いを贈る。

 帝国軍の惑星破壊兵器の撃滅という戦略目標は達成したのだ。それを以て、喪った将兵の命は報われたといえよう。

 そうとでも考えない限り、原子に還った同胞もいたたまれないだろう。

 死を正面から受け止め続けていたら、それこそ超人でもない限りいずれ限界を迎えてしまう。

 この苦悩は、指揮官であれば等しく通る道でもあるのだ。

 

「そう───ですね。ええ。貴官のいう通りです。確かに、私達は目的を成し遂げました。喪った同志の分まで、その喜びを噛み締めましょう」

 

 彼の言葉が届いたのかどうかは知らないが、表面上は、凛と指揮官然としたいつもの彼女に戻ったように見えた。

 歯切れの悪さこそ残るものの、そこに暗澹たる鬱積は感じられない。

 

「さて、帰りますか。全艦、反転です。進路カリダへ。ハイパージャンプの準備にかかって下さい」

 

「御意。全艦、ジャンプの用意だ。最後の一息と思って慎重にな」

 

 未だ眩い輝きを放つ超兵器の墓碑を背に、エーベルヴァイン分艦隊はイオンエンジンを不規則に瞬かせながら艦首を回し帰路に就く。

 

 連戦を重ねた艨艟達の背中もまた、彼女の心中を体現するかのように物淋しく見えた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。