共和国の旗の下に   作:旭日提督

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 リンガリ星雲での戦いに敗れ、貴重な超兵器搭載艦を喪った帝国軍。
 その指揮官である尋問官を努めていたアルト・エーベルヴァインのクローンは、失意のうちに帝国本土・コルサントへと帰還する。

 邪悪なシス卿の折檻を辛うじて耐え抜いた彼女が向かった先は、後にその悪名を轟かせる帝国の官僚組織、ニュー・オーダー保護委員会の本部が所在するCOMPNORアーコロジーだった………


COMPNOR

~惑星コルサント 元老院地区 レベル5127 COMPNORアーコロジー~

 

 惑星コルサントの政府機能が集中する、インペリアル・シティ。

 

 かつてギャラクティック・シティとして知られたこの区域は銀河政治と軍事を一手に担う数々の行政複合施設が犇めき合うように建てられた文字通りの首都区画であり、戴冠したパルパティーンによる銀河帝国の建国宣言後も多くの役人が今日も公務に精を出している。

 

 その一区画に建てられたCOMPNORアーコロジーは、ニュー・オーダー保護委員会(Commission for the Preservation of the New Order,COMPNOR)の本部として機能している巨大複合施設だ。

 彼等はつい先日、パルパティーン皇帝によって彼の政策を輔弼するべく設立された新たな機関だ。共和国保護委員会(C O M P O R)を前身に持つ彼等は、帝国の権威主義的かつ軍国主義的な社会と政治的文化に協賛し、帝国臣民の忠誠度の監視やパルパティーンの政策が銀河の隅々まで行き渡るように監督するという任務を負っている。

 

 ニュー・オーダー保護委員会は大きく分けて五つの部門から構成されており、その中でも情報収集機関、法執行機関、忠誠監視機構として機能しているのが帝国保安局(Imperial Security Bureau,ISB)だ。

 

 またの名を帝国保安室(Imperial Security Office)、帝国セキュリティ・サービスとして知られる彼等は、帝国にとって不穏極まりない元老院を始めとする政界を監視し、帝国に反抗的な政治家や市民を捜査、逮捕するという強大な権限を与えられた、いわばパルパティーンによる一種の秘密警察である。

 

 その初期構成員の一人として知られているのが、帝国宇宙軍から転属したウルフ・ユラーレン大佐であった。

 

「…………ほう。軍内部に離反の兆候が?」

 

 専用に誂えられた新品のデスクに腰掛けながら、彼は報告を読み上げる下士官から手渡されたレポートを興味深く眺めている。

 

「ハッ! 少なくない数のクローン兵は先のオーダーに疑問を持っているようです。特に、ブリュッヒャー元統合作戦本部長による決起宣言以降は」

 

 皺一つない真新しい白い制服に袖を通したユラーレンは、報告に耳を傾けながら老練とした鋭い視線をレポートのとある一節に止める。

 

「更に、アナクセスの戦いとリンガリ星雲での戦果を知った一部の我が軍の部隊が、救国軍事会議に鞍替えしカリダへと発ったそうです。検閲は正常に機能している筈ですが、全く何処から漏れ伝わったものやら」

 

「成る程。…………確かに、彼女の決起は、あのファイルの内容が真実だとすれば()()()()()をある程度確保した上で行われている。兵に動揺が走るのもやむを得ん、か。直近の"勝利"を活用した宣伝戦も、放置すれば厄介なことになりかねん」

 

「如何致しますか、大佐。ホロネットの検閲により民間への悪影響は微々たるものとなっていますが、我が軍は極めて不穏な情勢にあると言えます」

 

「軍内部で、大規模な配置転換を行うしか無いな。特に、優秀かつ兵からの信頼が篤かったジェダイの元にいた部隊は徹底的に解隊する。その上で、各部隊に練成を終えたTKトルーパーを配置して共和国の色を薄める他ないな」

 

「ハッ! 直ちに、軍の人事部へ"提言"しましょう」

 

「任せた。それに、くれぐれもホロネット網の適正化を怠るな。万が一にでも敵の宣伝が紛れ込めば、未だ足元が覚束ない帝国は更なる脅威に晒されることになるのだからな」

 

「了解です。すぐに取り掛かります」

 

 目下ユラーレンを悩ませていたのが、ジェダイとの絆が深いクローン・トルーパー達の扱いだ。

 

 なまじブリュッヒャー上級大将の暴露ファイルが軍内部に浸透してしまったために、彼女を慕う共和国軍派───隠れ救国軍事会議の存在は帝国軍にとって厄介極まりない獅子身中の虫と化していたのだ。

 今までは軍の隅々に配置した政治将校による捜査で摘発していたものの、救国軍事会議の牙城カリダに向け出奔する兵は後を経たない。

 デストロイヤー級の主力艦だけでも救国軍事会議に鞍替えしたものは第3、5、11艦隊を除いて30隻以上にも上り、未だ分離主義残存勢力との戦いが続く帝国軍を内側から弱体化させていた。

 

 この由々しき事態を解決するために帝国保安局には軍の徴発や人事への介入を含めた幅広い特権が認められることになったのだが、ユラーレンは早速その権限の活用を決断した。

 

 ───しかし、肝心の宇宙軍がこの有り様とは。先が思いやられるな。

 

 敬礼して踵を返す下士官を見送りながら、ユラーレンは自信の古巣ともいえる軍部の不甲斐なさに落胆した。

 

 クローン戦争以前から提督としての仕事の他に元老院直属の情報士官としても活動した経歴のあるユラーレンは、パルパティーン最高議長のオフィスで対汚職部隊に抜擢され、彼の下で仕事をしていたことがあった。

 この間にパルパティーンの共和国統治の方向性に心酔するようになったユラーレンは、多くの宇宙軍将校がオーダー66に大なり小なり疑問を抱いている中で、パルパティーン皇帝に確かな忠誠を向けていたのだ。

 

 それ故に彼は宇宙軍を始めとする軍内部の反パルパティーン派の存在には暗澹たる感情を抱いており、古巣に対する強権の発動も辞さなかった。

 

「…………シャルロット・フォン・ブリュッヒャー」

 

 デスク上に置かれた一枚のデータプレートの資料に視線を落とした彼が、忌々しげにその名前を呟く。

 

 目下、最大の反帝国勢力を率いる彼女の捕縛。

 

 それが、今現在の帝国保安局における最優先課題であった。

 

 

 

 不意に、執務室の扉のロックが開かれる。

 

 先程退出した士官なら忘れ物などある筈もなく、もうこの部屋に用事はない筈だ。

 怪訝に感じたユラーレンは、眺めていたデータパットをデスクに置いて入口方向に視線を向ける。

 

「……貴官か。どうした()()()()()()()()。報告なら既に軍から受けているが」

 

 悠然と掛けるユラーレンを睨むのは、年若い少女の姿を取る黒い人影───アルト・エーベルヴァイン、そのクローンだ。

 

 本来なら宇宙軍所属である筈の彼女の来訪をユラーレンは不信に思いつつも、努めて平静に対応する。

 そもそも、彼女はつい先日リンガリ星雲で帝国宇宙軍の新造戦艦を無為に喪ったばかりだ。態々ここを訪ねること自体ががおかしい

 

 彼女は暗に非難の視線を滲ませたユラーレンの言葉を歯牙にも掛けず、扉が開ききらないうちに怒りを隠そうともしない大股で彼のデスクまで歩み寄った。

 

 ドン! と両手を机に叩きつけて、暗黒面に取り憑かれた金色の瞳をユラーレンに向ける。

 

「ユラーレン。私に艦隊を寄越して」

 

「艦隊だと? 君は皇帝陛下から賜った試作艦を喪ったばかりではなかったのかね」

 

「───っ!?」

 

 横暴とも言える要求を前にして、ユラーレンも流石に毅然とそれを跳ね退ける。

 図星を突かれたクローンは思わず右手を翳してフォース・グリップを仕掛けんと試みたが、僅かに残る理性がそれを寸前で抑え止めた。

 

「そもそも、私の任務は帝国国内に蔓延る不穏分子の取締りだ。つい最近まで宇宙軍に所属していたことは確かだが、一大佐に艦隊配置を変えるまでの権限など無い」

 

「いいから! 私の言うとおりに動いて。多少のクルーザーぐらいなら融通効くでしょ」

 

 拒絶するユラーレンに対して、尚も引き下がらないエーベルヴァインのクローン。

 彼はやれやれと言わんばかりに呆れて肩を落としながら、彼女の形相を観察する。

 

「…………一応聞くが、一体何に艦隊を使うつもりかね? ブリュッヒャーの艦隊は依然数千を下らぬ規模だ。たかだか数隻の艦艇で成し得ることなど、限られていると思うがね」

 

 第一、至近距離での暗殺もしくじったではないか。と続けようとしたユラーレンだが、流石に言葉を飲み込んだ。

 この少女は、怒りに任せて何を仕出かすか分からない。

 自身の経験から彼女の危険性を読み取った彼は、慎重に言葉を選びながら詮索を続ける。

 

「マスターは、必ずカリダを発つ。それも、数日以内に」

 

「───ほぅ?」

 

 脈絡もなく推論を披露するクローンを前に、ユラーレンは興味が勝り彼女にその続きを促した。

 彼女が目論む大凡の内容を察した彼は、その目的が自身の管理する特殊な船舶のうちの一隻───IPV-2Cステルス・コルベットにあると直感した。

 

「奴の"隠れ家"は大体掴んでる。後はそれを確かめるだけ。その為には、どうしても船が必要なの」

 

「興味深いな。一体どうしてそんなものを知っているのかはこの際置いておくとしよう。───成程、そういう理由なら構わん。第三ドックに行くといい。そこに"私の船"がある」

 

「ありがと。使わせて貰いますね」

 

 性急に、ユラーレンの執務室を立ち去らんと踵を返すエーベルヴァインのクローン。

 協力の礼も程々に急ぎ足で立ち去る彼女の背後を眺めながら、ユラーレンは心中で毒吐いた。

 

 ───さて。皇帝陛下の失望を二度も買って尚折れんか。無謀なのやら、無鉄砲なのやら。その手並、拝見させて貰うとしよう。

 

 第一、彼女は情緒的で指揮官には向かない、と目付役に任じた副官の報告書にも書かれている。

 そんな彼女が敵拠点の偵察などという繊細な任務をこなせるとは到底考えられないが、使いように因っては有効な一手になるかもしれない。

 

 そんな考えを巡らせたユラーレンは、彼女に()()()()の試作艦を唯々諾々と差し出すことにしたのだ。

 

 

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 ───怠い。

 

 ぎしぎしと音を立てて、頭蓋を内側から圧迫される不快感。

 どうやら、二、三時間程度の仮眠では逆効果だったらしい。

 眼球は未だ疲れが取れていないようで、白い室内空間を目にする度にチクチクと痛む。

 人生史上一二を争う、最悪の目覚めだ。

 

「あら、お目覚めですか?」

 

 そんな中で、辛うじて聞こえた音が耳の中で反芻する。

 

「ええ、まぁ」

 

 弛緩しきっている腕の筋肉に力を込めて、腰掛けていた椅子から身体を起こす。

 頭は起きているのに身体は寝ている、思うように動かないちぐはぐな状態が不快で鬱陶しい。

 寝起きの気分は最悪です、とでも言いたくなるほどに身体は重く、まるで鉛にでもなったような錯覚を感じる。

 だが素直にそう伝えてしまった日には、この世話焼きな副官は私が充分な休息を取ると言うまで頑なに首を縦に振らないだろう。

 だから私は努めて普段通りの自分を装って、何でもないように振る舞うことにした。

 

~惑星カリダ軌道上 インペレーター級艦 ”リットリオ ” 医務室内~

 

「状況はどうなっていますか」

 

 先ず尋ねたのは、現在進行形で行われている自軍の戦闘に関する情報。

 刻々と移り変わる戦況から目を離していたのだから、何よりも優先してその情報を更新しなければならない。

 

「はい。シャルさんが懸念されるようなことはありません。艦隊は作戦目標を達成して帰路に着いたと報告を受けていますよ」

 

「それは…………何よりです。工作艦と補給物資は、優先的に手配するよう便宜を図ってやってください」

 

「畏まりました。ふふっ。シャルさんったら、お弟子さんのことになると自然と表情が柔らかくなりますね」

 

「あはは───気付かれていましたか。まぁ、彼女は自慢の教え子ですから。…………全容を見届けられなかったのは、師匠失格ですね」

 

「こら、塞ぎこんでいたら駄目ですよ。いきなり倒れられたらみなさん心配しちゃいますから。まだ周りの人が少なかったから良かったものの、これが会議室とかでしたら他の提督さん達にも示しがつきません!」

 

 彼女の言葉で、私が自室に運び込まれていた理由を思い出す。

 ───そうだ。アルトの戦況を気にしてモニターを見ていた最中に、ぶっ倒れて血を吐いてたんだっけ。

 

 アンバー先生の診断は、当然のごとく過労と栄養素(血液)の摂取不足。

 珍しく怒った彼女の手で、いつもの甘い吸血ではなく容赦なく口に得体の知れないサプリメントをぶち込まれて強制的に寝かされたのがつい数時間前。

 

 まぁ、愛弟子が命を掛けている瞬間に情事さながらの吸血に興じていては失礼にも程がある話だ。彼女もその辺は弁えてくれたようで有難い。

 

「肝に命じます、あはは…………」

 

 幼子を叱るような柔らかくも厳しい剣幕に圧されて、思わず引き攣った苦笑いを浮かべてしまう。

 いつものことと言われればそうなのだが、いらぬ心配を掛けてしまうのも申し訳ない。できれば直したいとは思うのだが、今後の仕事のことを考えたらここ暫くは到底叶いそうにない。

 

「エーベルヴァイン分艦隊の到着予定時刻はいつ頃ですか?」

 

「はい。凡そ四時間後かと」

 

 気掛かりなのは、アルトの艦隊の到着時間だ。

 

 帝国の攻勢があの超兵器だけで終わるとは考えられない。

 第7艦隊とスーパーレーザー、そして惑星破壊艦と退けたのはいいが、敵には未だに完全編成の正規艦隊が10個は残っている筈だ。

 幾ら分離主義勢力の残党征伐があるとはいえど、カリダの立地に固執していては瞬く間に包囲されてしまうだろう。

 

 そもそも、最初の一撃で決められなければ自ずとこうなる運命だ。

 

 故に、一刻も早くこの星系を離れてリシ・メイズへ向かう必要がある。

 アルトの艦隊が再出撃可能な段階に至った時点で、此処を発つ算段を付けておかなければ。

 

「分かりました。補給と整備が終了次第、"ツェルベルス作戦"を実行に移します。全軍にはそのように伝達願います」

 

「畏まりました。では失礼致します。くれぐれも、無理をして動かないようにお願いしますよ」

 

「ええ、ご忠告どうも。貴女の怖さは骨に染みましたし、しばらくは大人しくしてるつもりです」

 

「うふふっ。ご理解頂けたようで何よりです」

 

 柔らかな笑顔を浮かべたまま、アンバー先生がそそくさと医務室を後にする。命令通り、他の上級士官達に作戦計画の推進を指示するためだろう。

 

 

 ───さて。指示したはいいものの、暇だ。

 

 身体は依然として満足に動かず、頭の回転も緩慢だ。

 ズキズキと鳴り止まない頭痛はその規模を抑えながらも未だ健在で、私の集中を掻き乱す。

 こんな様では、仕事にならないことなんて目に見えている。

 

「───仕方ない。今は寝よう」

 

 未だやるべき仕事なんてごまんと残っているのだが、どうも身体の自由が上手く利かない。ここは先生の言う通り、休養に努めた方が良さそうだ。

 一度カリダを離れてしまえば後は銀河を出るまで延々と続く逃避行。今以上に、気の休まる場面なんて無い筈だ。

 

 ───しかし。もどかしいな。

 

 こうも自らの身体が思い通りにならないというのは。

 ゆっくりと蝕むように、病状は緩やかに進行している。

 "原因"には大方察しがついているのだが、さて。どうしたものやら。

 

「…………ハァ」

 

 幾ら考えたところで当然打開策がある訳でもなく。

 先生の尽力は間違いなく本物だが、あれはあれで対症療法でしかない。

 だが、原因が原因なだけに完治には程遠いだろう。

 何せ、あの妖怪を完全に滅さなければならないのだから。

 

 …………本当、厭になるなぁ。

 

 枕元に頭を沈める。

 こればかりは、自らの役割を言い聞かせながら誤魔化すしかない問題だ。考えたところで、何ら解決策など無い。

 

 雑念を払うように、思考回路のスイッチを落とす。

 

 脳を強制的にシャットダウン。限られたリソースは、有効に使われるべきだ。休息時間を割いてまで、解けない問題を考えるなんてあまりにも非効率。カット、カット。

 

 そうして頭を造り変えて、現世から離れるように瞼を下ろす。

 

 私の意識が途切れるまで、そう時間はかからなかった。

 

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