彼等は帝国との直接対決を断念し、伴銀河リシ・メイズへの脱出を図る作戦―――"ツェルベルス作戦"の準備を着々と進めていた。
~コロニーズ カリダ星系 惑星カリダ軌道上 インペレーター級スター・デストロイヤー”リットリオ ”~
「艦隊の出港準備はどうなっていますか」
惑星カリダの軌道上に佇むインペレーター級艦〈リットリオ〉の艦内に設けられた、司令官用の執務室。
必要最低限の内装に艦隊司令としての役割を果たすべく様々な機器が設置されたその無骨な部屋の中心で、救国軍事会議の首魁ブリュッヒャー上級大将は自らの副官に現状を確認する。
「はい。全艦艇のうち、凡そ三割が出撃可能です。残りの艦も、あと半日以内には準備を整える手筈となっています」
「敵の動きは?」
「今のところ、星系内に敵艦隊のジャンプアウトは確認できていません。ただ、隣接するアルガイ・マイナー星系にて帝国軍の小規模艦隊を確認したと、つい先程哨戒艦から報告が」
「アルガイ・マイナーに敵の小艦隊、か。他の星系に敵の姿は?」
「今のところ確認できていません」
副官のアンバー大佐から報告を受けたブリュッヒャー上級大将は、手元のタブレット端末に最新の情報を落とし込みながらその画面を睨む。
つい先刻まで微睡みの中にいた分の遅れを取り戻すべく、彼女は自軍が置かれている現況の分析を始めた。
「敵艦隊の規模は…………デストロイヤーが15隻にクルーザー22、コルベットが40。分艦隊としては大規模ですが、ここカリダに侵攻するには些か数が足りなさすぎる。恐らく、警戒監視部隊ですね」
「となると、帝国軍の侵攻は近いと見るのが自然ですかぁ。艦隊の出港は、間に合いそうでしょうか」
「あと12時間、か。何とも言えないタイミングですね。少なくとも、我々は先日敵の二個艦隊を無力化し、超兵器複数を破壊しました。分離主義勢力の残党の存在を考えるなら、そうそう大艦隊を連続して差し向ける余裕は無い筈ですが…………」
上級大将は端末を操作しながら、最新の帝国軍の配置状況と自軍の累積戦果を確認する。
彼女率いる救国軍事会議艦隊も相応の損害を被っているが、既に帝国軍のデストロイヤー級主力艦を100隻以上撃沈し、さらに惑星破壊兵器2基を撃滅しているのだ。未だ銀河各地に蔓延る独立星系連合残党への対応を考慮すれば、帝国軍には昨今のアナクセス戦のような大艦隊の派遣は難しいというのが上級大将の見解だった。
「クローン戦争の中断時点で、共和国軍が有していたデストロイヤー級以上の主力艦は凡そ3000隻。そのうち我が軍が掌握したものが現時点までに455隻。そして我々は帝国の主力艦100隻以上を撃沈していますから、敵に残された主力艦の数は約2450隻の計算ですね。一見すれば大艦隊ですが、銀河系全体をカバーするにはあまりにも少ない。加えて重要惑星の守備隊はこの情勢下、そう簡単には動かせない。となると、帝国に残されたフリーハンドで動かせる艦隊は思いの外少ない筈です」
「なるほど。では、脱出には今が最善の時期だと」
「ええ。パルパティーンが皇帝に就任したとはいえ、未だに元老院も強い権限を握っている。自己保身しか眼中にない連中が大半を占める奴等のことです。自分達の惑星には守備隊を貼り付け頑として動かしはしないでしょう」
忌々しげに元老院を扱き下ろしながら、上級大将は帝国軍の戦力配置を分析する。
リシ・メイズへの脱出作戦―――ツェルベルス作戦の開始が迫る中、彼女は僅かな焦りと緊張をひしひしと感じていた。
その数少ない根拠のない心のざわめきを打ち消すように、上級大将は現状の確認に邁進する。
「さて、作戦の概要ですが、まずは私達の戦力規模から確認しましょう」
上級大将はあたかも授業を始める教授のような仕草で、手元のタブレット端末からホログラムの艦隊構成表を呼び出す。
「我々は現時点で三個艦隊、計4215隻の戦闘艦を保有している。その内訳については―――」
彼女の言葉に呼応して、ホログラムの一部が拡大される。
ホログラム上には艦級を示す図面とともに、各艦級ごとの総計が表示された。
プラエトル級バトルクルーザー 6隻
メールシュトローム級バトルクルーザー 7隻
プロキュレーター級スター・バトルクルーザー 1隻
レキューザント級バトルクルーザー 1隻
インヴィンシブル級ドレッドノート 29隻
カンドシイ型ドレッドノート 1隻
センチュリオン級バトルクルーザー 2隻
セキューター級スター・デストロイヤー 16隻
インペレーター級スター・デストロイヤー 22隻
ヴァリアント級スター・デストロイヤー 18隻
ヴェネター級スター・デストロイヤー 132隻
サーベイター級スター・デストロイヤー 4隻
ラディアント級スター・デストロイヤー 19隻
ヴィクトリー級スター・デストロイヤー 37隻
プロヴィデンス級キャリアー/デストロイヤー 6隻
レキューザント級ライト・デストロイヤー 10隻
ミュニファスント級スター・フリゲート 25隻
ハロワー級ドレッドノート 7隻
アクラメーター級ミディアム・フリゲート 112隻
グラディエーター級スター・デストロイヤー 67隻
ヴィンディケーター級ヘヴィ・クルーザー 6隻
ドレッドノート級ヘヴィ・クルーザー 138隻
クエーサー・ファイア級バルク・クルーザー 88隻
サウザーン級クルーザー 186隻
アークワイテンズ級ライト・クルーザー 224隻
キャラック級ライト・クルーザー 125隻
ランサー級フリゲート 201隻
ペルタ級フリゲート 465隻
スフィルナ級コルベット 40隻
CR70/90級コルベット 1187隻
カンサラー級クルーザー 568隻
ゴザンティ級クルーザー 465隻
これが、現在カリダに駐留している救国軍事会議の"戦闘艦艇"の全てだ。
各種支援艦艇や鹵獲した大型商船等を含めれば、加えて1000隻以上の艦数を誇る正しく大艦隊といえるだろう。
"救国軍事会議全体"という括りで見るならば、既にリシ・メイズの本土に回航された艦艇も少なくなく、ルクレハルク級数十隻を含む300隻程度の艦船が国家建設活動に勤しんでいる。
だが、これほどの艦艇を以てしても、パルパティーンの座するコルサント攻略は至難を極める。
既にコルサント周辺には銀河帝国軍の第1、第2艦隊凡そ5800隻が布陣しており、主力艦だけでも嘗てのコルサントの戦いに匹敵する1000隻以上を揃えていることが情報解析により判明している。
これらの艦艇はコルサントの他にコロス・メジャー、フォーロスト、アルサカンといった主要惑星に分散しているものの、相互に連携可能な態勢を保持しており各個撃破は難しい。恐らく、敢えて分散配置を取ることで救国軍事会議主力を誘引し、包囲殲滅を企図しているのだろう。
更に、救国軍事会議艦隊そのものも万全とは言い難い。
既に連戦による消耗の影響が至る所に現れ始めており、特に予備の装甲板や実弾兵器の不足は深刻だ。艦艇の修理も、物資の欠乏が影響して遅々として進んでいない。
故に、現時点でコア・ワールドの帝国軍に艦隊決戦を挑むのは無謀といえた。
「こうして見ると、大艦隊ですねぇ」
「ええ。見た目だけはね」
艦隊の実情を誰よりも把握している上級大将の言葉は、感嘆するアンバー大佐とは対照的に皮肉気な声色だ。
「さて―――これをどう運用するかですが、今一度、各提督に指示した内容を確認しておきましょう」
ツェルベルス作戦の開始に先立ち、配下の提督達にリシ・メイズへの脱出作戦を公表していた彼女。
その際に指示していた艦隊運用計画については、この通りだ。
先ず、全軍を挙げてカリダから脱出する。
その後艦隊は3つの梯団に分かれ、各々がリシ・メイズを目指すことになる。
第一部隊は、アナクセスからの避難民と共和国派の市民を乗せたアクラメーター級からなる艦隊だ。
艦隊全てをアクラメーター級で統一しているのは、このクラスのハイパードライブ等級がクラス0.75と他の主力艦に比べて一際速く、迅速に市民を新天地に送り届けることが期待されているためだ。
艦隊から民間人という足手纏いを分離して万全を期すためには、この方法が最も手っ取り早い。
艦隊司令官には人格者として知られるゴルドルフ・ムジーク提督が任命されているから、航海中のトラブルについても共和国法に基づく人道的対処をしてくれるだろう。
第ニ部隊は、通常の艦艇からなる戦闘艦隊。
この艦隊がブリュッヒャー上級大将直率の主力艦隊となり、銀河系を縦貫して堂々とリシ・メイズを目指す。
そして第三部隊が、主にクラス2を下回るハイパードライブ等級の低速艦艇や旧式艦から成る陽動部隊だ。
主として旧時代の鹵獲艦艇やインヴィンシブル級ドレッドノートを中核とするこの艦隊は、引き継ぎ"動くシャーウッドの森"として資材の回収に励みながら新天地に向かうことになる。
艦ごとの特性や役割に応じて艦隊を分散しつつ、各個撃破を避けるためには、上級大将はこれが最善だと判断していた。
「ふむふむ。三個艦隊による分散進撃。加えて航海中に相互の連絡は期待できず、ですか。今一度見てみると、少々不安要素が残る計画ですね」
「仕方ないでしょう。民間人や低速艦艇を連れていては、何れ袋叩きに遭うだけです。であれば、各々が最速の形で新天地に辿り着ける態勢を取った方が良い。特に、民間人にこれ以上の犠牲を出すわけにはいきませんからね」
「そうですか~。確かに、シャルさんらしいと言えばらしい作戦計画ですが…………」
「今更になって計画変更はできませんよ。作戦開始までもう時間はない。―――アルトの艦隊も戻ってきたようですし、出港準備を急がせないとですね」
「了解致しました。アルトさんの部隊には最優先で修理と補給が済むように手筈を整えておきましたので、出港時間は予定通りになるかと」
「相変わらず、手際が良いですね。貴女は」
「そうでもないと、貴女の副官なんて務まりませんから」
ではこれにて。と言い残し、アンバー大佐が執務室から退出する。
上級大将は静かに自室の椅子へ腰を下ろし、ホログラムに表示された航路予定図を眺める。
その次なる目標には、標準銀河グリッドP-9、ミッド・リム宙域の惑星、ブラッカが示されていた。