共和国の旗の下に   作:旭日提督

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ツェルベルス作戦に向けた出港準備が進む中、遂にオーダー66に対する救国軍事会議の審判が始まる。

作戦開始前に不穏分子を排除するため、救国軍事会議上層部はオーダー66参加者に対する大規模な軍法会議の開廷を決断した。
オーダー66に参加した将兵は、帝国に恭順する虞のある反共和国派と見做されたのである。
それを新天地に入れる訳にはいくまいと、一部の将校が性急に軍法会議の早期開廷を求めたのだ。

俗に言う、"ブリュッヒャー粛軍"である。


ブリュッヒャー粛軍

 伴銀河リシ・メイズへの脱出計画、ツェルベルス作戦の準備が着々と進められつつある救国軍事会議艦隊。

 それと並行して、旗艦〈リットリオ〉に設けられた簡易軍事法廷では"オーダー66参加者"に対する軍法会議が開廷されていた。

 

 後にブリュッヒャー粛軍と呼ばれることになる一連の綱紀粛正運動は、救国軍事会議の成立直後から着々と進められてきた反パルパティーン運動の一環であり、オーダー66の違法性を主張する彼等にとって避けては通れない課題だった。

 

 その軍事法廷が今になって始められた理由は、曰く「新天地への脱出前に、予め帝国に内通しかねない不穏分子を一掃しなければ情報漏洩の虞がある」という、一部将校からの強い要望に因る。

 

 流石のブリュッヒャー上級大将といえど一定の支持を得たこの申し出を無碍にするという訳にもいかず、こうして裁判に出廷する羽目になったのだ。

 

 軍法会議に問われたのは、クローン・トルーパー25名。

 

 何れもオーダー66発令当時軍曹以上の階級にあった者で、その殆どが命令の遂行にあたり友軍の兵士を殺傷し、戦闘車輌といった備品に重大な損害を与えた者達だ。

 

 オーダーに参加した大多数の一般兵については「命令の真偽を判断する立場になく、正規の命令と誤認する蓋然性があった以上軍法違反に問うことは難しい」とされ、共和国への忠誠を条件に釈放された*1が、命令の正当性に疑義を挟むべき立場にあった上級将校と命令実行にあたってフレンドリー・ファイアを犯した者については「共和国への忠誠に深刻な懸念あり」とされ、利敵行為、スパイ容疑、反共和国罪などの容疑に問われることになった。

 

 

 ―――そして今、最後の被告人に対して上級大将直々の判決が下る。

 

「―――クローン・パイロットCT-5862。貴官はわが軍のクルーザー〈ガーララ〉のブリッジを破壊し、ジェダイ将軍1名とクローン・コマンダー1名、〈ガーララ〉のブリッジクルー32名を殺害した。これは共和国に対する明確な敵対行為である。よって、当軍法会議は貴官に対し、共和国軍基本法第63条に基づき、死刑を宣告する」

 

 カン、と小気味よく叩かれた木槌(ガベル)の音が、灰色の無機質な法廷に鳴り響く。

 

 今しがた死刑を宣告されたトルーパーは項垂れたまま視線を上げることもせずに、黙々と護衛官が促す通りに唯々諾々と退廷する。

 

 先程のトルーパーは、オーダー66の発動当時、ヴェネター級艦〈ガーララ〉のスターファイター隊の一員として哨戒飛行任務を遂行していた。

 その際にシーヴ・パルパティーンからの命令を受信した彼は何の疑義を抱かずに当時同艦に乗艦していたジェダイ将軍を自機のレーザー砲で銃撃したのだが、その際に同艦の艦長やブリッジクルーを巻き添えにしたことが救国軍事会議上層部から極めて問題視されたのだ。

 

 幸い件のトルーパーが駆るファイターは異変に気付いた僚機により即座に無力化されたのだが、当然反逆行為を疑われた彼は長らく拘束されることになった。

 オーダーに参加した多くのトルーパーが取調べの過程で「本人の責任問題に非ず」とされた一方で、彼は「仮に命令を正規のものと誤認する余地が認められたとしても、その遂行にあたって友軍艦艇を銃撃し数十人の将兵を死傷せしめたるは利敵行為の責任を免れ得ない」とされ、死刑判決が下された。

 

 ―――今更になってこんな"茶番"か。組織を率いるというのも、楽なものではないな。

 

 連行されるトルーパーの背中を虚ろな眼差しで見守りながら、裁判長席に座す上級大将は呆れ果てる。

 確かに、危険因子を排除するべきという一部高官の意見も一理ある。

 だが今は一刻を争う戦時であり、作戦準備に向けて少しでも時間が欲しい彼女にとって今回の軍法会議は些か不本意であった。

 故にこの軍法会議の開廷にあたっては、罪状の軽い兵卒に関しては憲兵隊限りの処分として重要事案のみ起訴する方針としたのだが、彼女の苛立ちはそれでも尚消えない。

 

 パルパティーンの裏切りさえなければ、彼等も共和国軍人としての本分を全うできたのに…………と憐憫の情を抱けば抱くほど、彼女の怒りは荒波のように荒れ狂う。

 一人一人の捜査書類に目を通せば通すほどその義憤は留まることを知らず、彼女のフォースは次第に黒く澱み始める。

 

 努めてそれを悟らせまいと平静に軍法会議を進めていた上級大将は、全ての審理が終わるり閉廷するや否や、足早に軍事法廷を後にした。

 

 

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「ったく、なんたって今になって…………」

 

 誰もいない執務室で、誰に向けた訳でもなく独り言ちる。

 

 一部の将校からの突き上げで急遽軍法会議を開廷したはいいものの、其々の案件を見れば見るほどあの狸爺への怒りが込み上げる。

 

 いかんいかんとは思うものの、この憤りは休まる素振りすらも見せない。

 

「―――これで、大人しくなってくれたらいいんだがなぁ」

 

 一通りの粛軍は済ませたのだし、提督達には納得して貰わないと困る。

 

 にしても、なんでこの時期を選ぶかなぁ。

 

「あんの野郎共。せめて、段取りぐらいは取ってくれたら良いものを」

 

 軍法会議の開廷自体は、私もそれは否定しない。幾らバイオチップによって悲劇的な結末を迎えたにしても、軍令の長としてその過程で発生した副次的な損害を看過するという選択肢はない。

 

 だが一方で、わざわざこの忙しい時期に急遽それを捩じ込んできた将校団に腹立たしさを感じるのも事実。

 今回の発端は主にキリアン提督と情報部のマガツ少佐の所業なのだが、次に会ったときには苦言の一つや二つでも呈してやろうか。

 

「…………ハァ。いやいや、余計なことを考えるのは止そう」

 

 しかしまぁ、いつまで経っても過ぎたことに意識を向けるのは非生産的だ。

 各艦艇の整備状況から物資の備蓄、それに加えてその割り振り。ツェルベルス作戦の開始に向けてやるべき仕事はまだまだ多い。

 個別具体的な計画や作業は各艦艇の人員や幕僚陣の仕事とはいえ、大元の指示や最終的な決裁は全て私の仕事なのだ。

 頭を余計なことに使っている暇はない。

 

「残りは―――あと4時間、か」

 

 ふと目に入った時計の針は、作戦開始予定時刻まで残り4時間を切る値を示していた。

 

 情報部の報告とピケット艦が得たデータから、それまでに帝国の大艦隊が来襲する、という最悪の状況は恐らく無い。

 そこまで断言できるぐらいに、彼等の情報の精度は確かだ。

 とはいえ、何事も早いに越したことはない。

 

 未だ見落としている要素がないとも断言できず、作戦が必ず成功するとも限らない。

 今は一分一秒でも早く、自分の仕事を片付けるのが先決だ。

 

「―――っ」

 

 不意に、頭がぐらつく。

 

 またか、と思ったのも束の間に、熱い嘔気が喉を焼く。

 

「ごふ、ッ」

 

 湿り気のある咳とともに、赤黒い液体が撒き散らされる。

 寸前で身体を捻ったから、机上に置いてる重要書類の入った端末は汚れてはいない筈だ。

 

「っ――――はぁ。いつになったら、治ることやら」

 

 治まることを知らない自身の病状に、軽く苛立ちを覚える。

 先生曰く、これは私が一度死にかけた際に無理矢理蘇生した副作用みたいなものらしい―――ああそうだ。だから治らないんだったっけ。

 

 薬は薬で効いてるのかどうかも分からないし、一つだけ確かなことは、マスター(アンバー先生)の血を飲んだ時だけ少し楽になることぐらい。

 

 …………不味いな。つい半日前に飲んだ筈なのに。

 

 血のことを考えたら、ふいに吸血衝動が顔を出す。

 あのときたらふくサプリメントをぶち込まれた筈だから、血は足りている筈なのだが。

 

「ハァ。―――本当に、それだけなんですかねぇ」

 

 彼女の診断を疑うわけでは無いが、どうにも身体が違和感を覚えてむず痒い。

 前に比べちゃ情緒も些か不安定でキレやすいし、吸血衝動はじわじわと肥大化しているように感じる。

 十中八九、何か盛るとしたらあの糞狸爺の仕業なのだが、怪しげなシス魔術を食らった記憶もないだけに断言はできない。

 

 感情の整理がつかないのは、昔からただの過労か鬱で済んだ話だ。しかし、ここにはフォースやら暗黒面があるからなぁ。一体何処まで、それが影響しているのかも分からない。

 

 元ジェダイとしては恥ずかしい話だが、私はその辺りについては全くと言っていいほど研鑽していなかったからなぁ。

 

 特にここ最近は、日に日に黒い衝動が渦巻いているのを感じる。嘗て受けたグランドマスターの指摘は、皮肉なことにどうやら事実であったらしい。

 

 副作用の吸血衝動が暗黒面を結びついて、増幅されているとでも言うのだろうか。

 

 だとしたら、迷惑な話だ。

 

 アンバー先生だけならまだしも、アルトやネモ艦長にまで劣情を抱くようになってしまって苛立たしいことこの上ない。

 誰彼構わずなんて、それこそまるで死徒(吸血鬼)のようじゃないか。

 今のところは抑え込めているから大丈夫だとは思うけれど、一応先生には相談するべきなのだろうか。

 

 仮に衝動が肥大化しているのだとしたら、それはそれで問題だし。

 

 

 まあいざとなれば、全部無視すればいい話だ。

 

 

 私は共和国の軍人だ。

 

 個人の不健全な欲求など、国益の前には取るに足らない価値しかない。

 

 仮に、私が暗黒面に身を落として血を欲し殺戮に悦楽を覚えたとする。

 だが、我が軍の勝利という至上の命題を前にしては、天秤の傾く先は誰の目にも明らかなのだから。

 

 その達成を前にして暗黒面が囁いたとしても、それが勝利を害するものであるなら斬り捨てるのみ。

 

 私は、そうやって生きるって決めたんだろう。

*1
但し、アンバー先生謹製の洗の……(ゲフンゲフン)バイオチップ無効化ナノドロイドを投与されている

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