廃船が犇めくこの惑星は、艦艇の修理素材を求める軍事会議にとって正に垂涎の宝の山だ!
この惑星における帝国軍の有無を調査し、艦隊を安全に惑星に誘導するべく、デルタ分隊は主力艦隊に先行して一路ブラッカの廃船ヤードを目指していた………
~ミッド・リム 平面座標P-9 ブラッカ星系 惑星ブラッカ軌道上~
コア・ワールドの中心コルスカ宙域からアウター・リム北東部のニルガード宙域を結ぶ銀河系の主要航路の一つであるパーレミアン・トレード・ルートから別れ、銀河系南東象限のキャッシーク方面に続くハイパースペース航路、ランドン・ラン。
その道中、平面座標P-9に位置する惑星ブラッカは、凡そ人間の居住には適さない荒涼とした大地が広がる不毛な惑星である。
この惑星自体は特に有用な資源を産出する訳でもない単なる岩石惑星であるのだが、その広大な台地一面に広がる廃船解体工場という名の惑星全土を覆い尽くすスクラップヤードは、莫大な戦略資源の宝の山だ。
クローン戦争中はその廃船群に秘められた資源価値を巡って幾度も銀河共和国と独立星系連合が鎬を削った激戦地も、今となっては往時の静けさを取り戻し、役割を終えたスターシップの山々は最期の時を座して待っている。
そんな瓦礫の山の上空に、虚空から現れる機影が一つ。
灰色のステルス塗料を全身に纏った銀河共和国軍の特殊作戦機、改造型オミクロン級アタック・シャトルだ。
「機体各部、異常なし。予定航路との誤差、0.025‰ 惑星ブラッカ上空です」
「辛気臭い場所だ。さっさとランディングポイントを確保しましょうぜ、ボス」
「惑星地表を牛耳る解体屋ギルドは帝国に部品を卸している連中です。見つかると厄介なことになりそうですね」
ハイパースペースを出たシャトルの機内では、救国軍事会議に属するクローン・コマンドーの一団、デルタ分隊の面々が上陸に備えている。
分隊メンバーの一人であるスコーチは、如何にも劣悪な環境のスクラップヤードを目にするや否や気分が滅入ったようだ。
面倒そうにヘルメットを整えた彼は、コックピットから覗く惑星地表を一瞥して溜息を吐いた。
対して任務で想定される危険性を説くのは、分隊の副隊長を務めるクローン・コマンドー、フィクサーだ。
ブラッカの地上を支配する解体屋ギルドは帝国を相手にスターシップの中古部品を販売している集団であることから、地上で働くスクラッパー達に発見されることは即ち帝国に発見されることと同義である。
少なくとも、自分達に対して好意的でない集団であることは明らかだ。
友軍の居ない敵地に乗り込むのだから、事前の準備は欠かすまいと彼は情報収集に余念がない。
既に簡易的なサーチャーを機体から発射させた彼は、リアルタイムで更新されるデータに視線を集中させている。
「…………ボス、地表で僅かながら戦闘と思わしき反応があります。確認しますか」
「戦闘だと? ギルドの連中の内輪揉めじゃないのか」
「はい。上空には帝国軍のニュー級アタック・シャトルの機影を確認しました。何らかの軍事作戦が行われているのは確かです」
サーチャーから贈られてくるデータから、フィクサーは惑星地表には既に帝国軍が展開していることを看破する。
単なるパトロールや取締の類ではなく"戦闘"が行われているという報告を耳にした分隊長のボスは、その真偽を訝しんだ。
「詳細を確認しろ、フィクサー。オメガ11、シャトルを帝国に悟られることなく突入させろ。できるな」
「イエッサー」
ボスは機体のパイロットを務めるクローン・トルーパーに命じると、装備を完着して作戦行動の開始に備えた。
わざわざ辺鄙な惑星に帝国軍が進出しているという事実は、否応なしに彼の緊張を呼び起こす。
彼はフィクサーに更なる状況の把握を命じつつ、シャトルを惑星地表へと降下させた。
「ボス、廃船の一隻でエンジンが起動されているようです。確認しますか」
「頼む」
フィクサーはボスに命じられると、ホログラムにサーチャーが捉えた映像を投影した。
そこには不自然にイオン・エンジンの青白い光が息を吹き返した、一隻の廃棄されたヴェネター級の姿が映し出された。───直後、そのノズルが爆発とともに綺麗に切断されて崩れ落ちる。
「ほぅ、凄いなぁ。見事な爆破だ」
「スコーチ、何か分かったのか」
「ええ、あれは爆破解体と同じやり方だ。ノズルの全周に爆弾を設置して、船体から切り離している。…………何をしたいのかは分からないが、手際だけは一流だな」
ホログラムの映像を観ていたスコーチが、爆発物のスペシャリストとしての見解を述べる。
曰く、件のヴェネター級のエンジンノズルは爆弾によって切り離されたというが、ボスは未だに状況を掴みきれずにいた。
戦闘行為でわざわざ廃船というエンジンを起動するという意味を、どうしても見出すことができなかったのだ。
「フィクサー、監視を続けろ。特に、切り落とされたエンジンノズル周辺の生体反応を探るんだ」
「そのためにはサーチャーを更に接近させる必要があります。帝国軍に勘付かれる可能性がありますが、宜しいのですか?」
「構うな。今は帝国軍の目的と規模を探るのが先決だ」
「了解ですボス」
考察を続ける中ある一つの可能性に思い至ったボスは、フィクサーに命じて落下したノズル周辺の監視を厳とさせた。
果たしてその予想は吉と出たか、彼等の眼にはある"見覚えのある分隊"の姿が映る。
「あれは…………」
「クローン・フォース99か」
サーチャーから送られてくるノイズ混じりの望遠でも判別できる、特徴的かつ個性的な改造型カターン級コマンドー・アーマー。
直接の面識はなくとも、彼等はクローン・コマンドーの一員として知識の上だけは知っていたのだ。
───不良分隊。
クローン・フォース99、またの名をバッド・バッチとしても知られた特殊部隊の分隊だ。
遺伝子操作により各々が際立って優れた能力を持つといわれているこの分隊は、現在"帝国軍の正規軍"と交戦している。
その事実が、ボスにある一つの決断を下させた。
「…………戦闘準備だ。奴等を援護するぞ」
「我々の存在を帝国軍に露呈することになりますが、宜しいので?」
「そもそも、帝国軍は艦隊の到着前に何れ排除しなければならない。どの道やらなきゃならんことなら、このタイミングがベストだろう」
「イエッサー」
部隊を露呈することに対するフィクサーの懸念を制して、ボスは帝国軍との交戦を決断した。
上手く行けば、彼等を味方にすることができるかもしれない。
そんな打算的な考えを胸に、ボスはシャトルを交戦区域へと向かわせる。
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「ハンター! 目を覚ませハンター!!」
「チェストプレートを撃たれている! 重症だ…………とにかく船に運び込め!!」
所変わって、惑星ブラッカの地表上。
その一角、とある廃船の甲板上では、個性的な黒い装甲服を纏った少人数の一団と、真っ白いアーマーに身を包んだクローン・トルーパーの分隊が激しく火花を散らしていた。
「畜生、しつこいなこいつら!」
「レッカー! 急速に近付く船がある。気を付けろ!」
「んあ、帝国の新手か!!」
DC-17mブラスター・ライフルを牽制とばかりに乱射する大柄のトルーパー、レッカーに対して、細身の理知的な兵士、テクが警告する。
その直後、彼等の頭上を一機のオミクロン級アタック・シャトルの翼が覆い隠した。
「オミクロン級? 〈マローダー〉の同型機だと?」
その機影を見たテクは、想定される最悪の可能性を前に身震いする。
彼等バッド・バッチか使用しているオミクロン級アタック・シャトルは、銀河共和国───ひいては帝国軍内部でも配備先が極端に限られた特殊作戦部隊向けのシャトルという印象が強い。
更に件のシャトルには耐レーザー追加装甲の装備やステルス塗料の塗布といった改良が行われていることを看破した彼は、眼前のシャトルが"帝国軍の特殊部隊"だと判断したのだ。
「急げ! あれは…………」
「降下! 降下! ゴーゴーゴー!!」
彼が叫ぶのよりも早く、ワイヤーロープを伝ってカターン級コマンドー・アーマーを纏ったトルーパーの一団が降りてくる。
彼等は銃口をテク達バッド・バッチの方角───ではなく、帝国軍の真っ白い集団に向け遠慮なく撃ち放った。
「…………何!?」
「帝国軍を排除する。フィクサー、援護を頼む! スコーチはあのシャトルを爆破しろ!」
「イエッサー!」
「ヘヘッ、腕が鳴るぜい!」
彼等は瞬く間に帝国軍の前線を掃討し、慣れた手際で敵が使用していたニュー級アタック・シャトルを破壊する。
爆破担当のスコーチは分隊メンバーと離れるや否や、手早く時限式グレネードをシャトルの底面に貼り付けて不敵に起爆スイッチのボタンを押した。
スコーチの手により行き足を奪われた帝国軍の分隊は、今や壊滅を待つのみとなった。
「デルタ分隊!? どうしてここに…………」
「説明は後だ。早く船に乗れ!! 軌道上で落ち合おう」
彼等の存在に驚きを露にした標準的な体躯の義手を纏ったトルーパー───ハードケース*1は一瞬呆気に取られたが、ボスの怒号で我に帰る。
「ボス、周辺の帝国軍は掃討しました。更に帝国軍のシャトルが一機、急速接近中です」
「迎撃するぞ。総員シャトルに戻れ!」
バッド・バッチとの共同戦線で帝国軍の分隊を制圧したデルタ分隊の面々は、一目散に自らのシャトルへと引き揚げる。
同型機の〈マローダー〉とともにブラッカの煤汚れた大気に浮上した彼等のシャトルは、バッド・バッチの生き別れ、帝国軍に残留したクロスヘアー操るニュー級アタック・シャトルと壮絶なドックファイトに移行し惑星大気圏外を目指す。
シャトルの機内で指揮を執るボスの首元に下げられたクリスタルは、人知れず淡く不気味に輝いていた。
その深紅の灯りは、遥か何百光年先まで届いているとも知らないままに。
「いやはや。
───或るスターシップのとある一角。
薄暗い室内のモニターを前に、病的にまで青白い肌の少女が口角を釣り上げてほくそ笑む。
「ですねぇ。…………ではでは、手筈通りにということで」
「ええ。"デルタ"には、そう命じて下さい」
傍らに控える赤髪の副官にそう指示した彼女は、再びモニターの画面を睨んだ。
そこに映る一人のとあるクローンの身体情報を眺めながら、彼女は掌に乗せた深紅のクリスタルに視線を落とす。
「ジャンゴ・フェットの純粋な遺伝子。我々の軍事力を維持するためには、"彼女"は必要不可欠ですからね」