ブラッカの略奪!!
デルタ分隊の活躍により惑星ブラッカにおける橋頭堡を確保した救国軍事会議艦隊は、地表に溢れる
帝国軍に気付かれる前に、必要なだけ戦略物資を確保しなければならないのだ。迅速な行動が求められる!
一方ブラッカの地表で賞金稼ぎ、キャド・ベインに敗れオメガを誘拐されたバッド・バッチの隊長ハンターは、その凶弾に倒れ失意のまま救国軍事会議艦隊の旗艦〈リットリオ〉の医務室に運び込まれていた………
~惑星ブラッカ軌道上 インペレーター級スター・デストロイヤー“リットリオ ”医務室内~
「危ないところでしたねぇ。あと一歩治療が遅れていたら、貴方命は無いところでした」
「面目ありません。まさか俺が、賞金稼ぎに遅れを取るとは」
目が覚めると、そこは見慣れた共和国軍艦の治療室だった。
灰色の無機質で硬いベッドに寝かされていたハンターは、忙しなく動き回る赤髪の女医から自身の容態を聞かされる。
賞金稼ぎ───青い肌に赤い眼が特徴的な長身細身のアウトロー、キャド・ベインから受けたブラスターの一撃は正確にハンターの急所を貫いており、シャトルに備えられていた簡易的な医療設備では完治が難しいほどのものであったという。
同じクローン・コマンドーの一団、デルタ分隊の助力を得て帝国軍を撃退したほかのクローン・フォース99分隊のメンバーは、程なくしてブラッカ上空に現れた共和国軍の大艦隊に大急ぎで助力を求めて今に至る。
「…………それより、聞きたいことがある」
「はい? 何でしょうか」
「もう一人、子供───まだ幼い女の子がいなかったか? そいつはオメガというんだが、俺達の仲間なんだ。だが、賞金稼ぎに連れ去られて…………」
次第に頭の中がクリアになり、ハンターは意識を失う直前の出来事を思い出す。
彼の中で唯一の懸念事項、それはキャド・ベインを誘拐された仲間の少女、オメガの安否だ。
あわよくば援軍に駆けつけていたデルタ分隊の手で救出されていれば、万々歳なのだが。
「いえ。デルタ分隊からは、そのような報告は受けていませんが…………」
「クソッ、遅かったか…………」
ハンターは見るからに肩を落とし、自身の采配の結果を嘆く。
分隊の仲間である少女───オメガが既に誘拐された後であり打つ手が無いことを悟り、ひどい無力感に苛まれる。
「アンバー先生、彼の容態はどうです?」
「あ、貴女は……」
エアロックの解放音とともに響く、凛と張り詰めた女の声。
彼女の姿を見たハンターは、思わず背筋を伸ばして佇まいを正した。
「ご覧の通り、もう回復なされていますよ」
「それは何よりです。───申し遅れましたね。私のことは既に存じていると思いますが、一応ね。銀河共和国救国軍事会議のブリュッヒャー上級大将です」
「クローン・フォース99分隊長、ハンターです、っ……」
「無理に起き上がらなくても結構ですよ。あと一日もあれば回復すると聞いていますから、今は静養に努めるべきかと」
「…………はい。しかし、何故貴女がここに? それに、銀河共和国は、もう存在しない筈では」
「成る程。君達は早期に帝国軍を脱退したと聞いていましたが、市井のニュース規制はかなり頑強と見た。ならば、我々を知らないのも無理はないでしょう」
ハンターが救国軍事会議という語にさして反応を見せず"銀河共和国"という一節に違和感を覚えたその様子から、ブリュッヒャー上級大将は帝国軍による報道規制は自らの想像以上に強固なものだと察した。
「我々は、銀河帝国───ひいてはパルパティーン体制に対して異を唱え、我が軍の誇りを護るために活動しています。貴官ももしや覚えがあるのではありませんか? 突然のジェダイ粛清指令、その唐突さに」
「ああ。確かに、あれは違和感を感じた。俺達はあのとき惑星カラーに居ましたが、友軍がいきなりジェダイ将軍を銃撃して…………」
上級大将の指摘を受けて、当時の状況を回顧するハンター。
かつて分隊をメンバーだったクロスヘアーはその命令に何ら疑義を差し挟もうとしなかったが、明らかな違和感はハンター達の判断を鈍らせるのに充分だった。
結果的にハンターは攻撃対象であったジェダイ・パダワンのケイレブ・デュームを逃がす決断を下したのだが、その一件からクロスヘアーとの軋轢が深まったことは記憶に新しい。
「私はあのとき確かに"オーダー66は分離主義者の陰謀である"と告げた筈ですが、伝達は不完全だったようですね。幾つかの中継ステーションが完全に乗っ取られていたか…………いや、今はこの件についてはいいでしょう」
彼の反応から自らの司令が充分に行き届いていなかったことを悟った上級大将は、自身の行動を予測していたであろう帝国軍───ひいてはパルパティーン皇帝の執念深さに舌を巻いた。
成程道理で惑星規模の叛乱運動が活発化しないと思ったら、どうやら救国軍事会議の決起演説でさえ想像以上に届いていなかった訳だ。
彼女は決起に向けた自身の準備不足を心中で悔いたが、それは一旦忘れることにして再びハンターへと視線を落とす。
「サージェント・ハンター、君に一つ伝えたいことがあります」
「…………何ですか」
「君の部下が、惑星ボーラ・ヴィオからの信号をキャッチしました。どうやら、
ブリュッヒャー上級大将が告げた、その一言。
それを耳にしたハンターは、身体の痛みなどものともせず彼女に詰め寄る。
「オメガか!? オメガなんですか!!」
「お、落ち着きなさいハンター。我々は、君達には良き協力者になってもらいたいと思っています。そこで提案なのですが、我々の特殊部隊とともに彼女を救出しませんか?」
「そういうことなら話が早い。俺を今すぐここから…………」
オメガ発見。
仲間の無事という一報を耳にしたハンターは足早に医務室を立ち去ろうとするが、胸にズキリと感じた痛みに気を取られて思わず蹲る。
「まぁ待ちなさい。バクタに浸かっていたとは聞いてましたが、まだ本調子ではないようですね。準備は此方で進めますから、君はもう暫く治癒に専念しているように」
「ですが、彼女は自分の大切な仲間です。一刻も早く、彼女の下に向かわなければ」
「無論、貴官のバイタルが許すのであれば認めますとも。ですが今の状態では些か不安です。なに、あと数時間もすればバクタの効果が十全に出ます。それまでに身体、調子を整えておくのがベストでは」
「…………了解です。その時が来たら、教えて下さい」
「勿論ですとも。では、健闘を期待していますよ」
隠し通そうにも隠しきれない身体の不調を呆気なく見抜かれていたハンターは、当然上級大将から休息を取るように言い渡される。
はやる焦燥感は彼の身体を突き動かさんと手足を急かすが、やはり長時間バクタ・タンクに浸かっていた分肉体の感覚がまだ鈍ったままのようだった。
身体が動かないならどうしようもない。
仕方なく彼は、あと暫くの辛抱だと言い聞かせて無機質なベッドの上に身体を下ろすことにした。
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「ボーラ・ヴィオですか。聞き慣れない名前ですね」
「私もだ。どうも、調べた限りではカミーノアンが管理していた施設があったらしいが、とっくの昔に放棄されたそうだ。それ以外に目ぼしい情報は無くてね」
「なるほど。つまり、我々にとっても未開の地だと」
旗艦〈リットリオ〉に設けられた一室、ブリュッヒャー上級大将の執務室に併設されたブリーフィングルームに呼び出されたデルタ分隊の隊長・ボスは、新たな攻撃目標の惑星に関する説明を上級大将自身から受けていた。
クローン戦争中はクローン・コマンドーの一員として様々な戦線に投入されていた彼等だが、救国軍事会議に参加してからは上級大将直属の特殊部隊として運用されるようになり、自然と彼女と顔を合わせる機会が多くなった。
それ故にこの三年で一気に窶れた余裕のない雰囲気を纏うようになった眼前の白い女に何処か哀愁を覚えつつも、ボスはじっと次なる指示を待ち望む。
「攻撃には当然クローン・フォース99も参加するでしょう。彼等は見ての通り、今や逸れの身だ。彼等に残されているのは仲間との絆だけ。それだけが動機になり得る───故に、貴官らとの連携は些か難しいでしょう。惑星突入後の具体的な行動は、貴官の柔軟な判断に任せます」
「イエッサー」
未開の地に、初めての部隊との共同戦線。
単独任務が多かった彼等デルタ分隊にとってはどれも経験値の少ないことだが、クローン・コマンドーの一員である彼等であれば難なく任務を成し遂げるだろう。
普段と何ら変わりのないボスの態度を見た上級大将は、次なる任務の成功を確信する。
「───しかし、本当に変わり者ですねぇ、彼等は。流石、クローン・フォース99を名乗るだけのことはある」
独り言のように、上級大将はふと呟く。
通常のトルーパー、それもデルタ分隊のように忠誠心の強い個体と接する機会が多かった彼女の目には、バッド・バッチのような独立心の強い部隊は些か新鮮に映ったようだ。
ボス自身もかつて彼等と同じクローン・コマンドーの一団として活動していたものの、その一点については完全に同意する。
「どうです? 貴方から見た彼等は。同じコマンドーとはいえども、何もかも違うようですし」
「正直、羨ましいですね。仲間の為だけに動けるというのは。我々も、あのときそうできていれば…………」
オメガ救出に執念を燃やすハンターらバッド・バッチの面々を目にしたボスは、普段は決して表に出すことのない自身の心情を吐露する。
上級大将の声色が硬い命令調なものから柔らかい少女のような敬語混じりのものに移り変わったのを見た彼は、率直な意見を求められているのだと悟った。
「───その節は、申し訳ありませんでした」
「いえ、閣下が謝ることでは…………我々は兵士です。命令に従うのが当然ですから」
クローン戦争の終盤、キャッシークの戦いで、ボス達デルタ分隊はメンバーの一人であるセヴを喪った。
特に人一倍仲間への情に篤いスコーチなどは、特に取り乱したものだ。
上級大将がそれに対して頭を下げるような姿勢を見せたのは、当時の軍令の長としての責任感からだろう。
彼女が予想外に謝罪の言葉を口にしたことで動揺したボスであったが、彼女の言葉もまた本心からのものだと感じた。
"共和国軍の軍人"という役割に愚直なまでに真摯な彼女は、部下一人一人の死についても責任があると考えているようだ。
「すみません。辛いことを思い出させてしまいましたね」
「いえ、お気になさらず。我々は貴女に勿体ないほどのお心遣いを頂いていますし」
セヴの死を思い出させてしまったからか、しんみりとした空気の中頭を下げる彼女を前に、流石のボスも気が咎めた。
そもそも、戦場にあれば部下の命を喪うことは開戦当初から覚悟していた筈だ。たまたま運良く、3年間誰一人メンバーが欠けずにいただけ。
そもそも、彼女自身
親しい間柄の者と死別したのは、なにも自分たちだけではないのだ。
「…………少し話題が逸れてしまいましたね。貴方の目から見ても、彼等はそう見えますか。───些か、厄介だな」
「───閣下?」
「ああいえ! 何でもありませんよ。───実はですね。一つ、頼みたいことがありまして……」
「ご命令であれば何なりと、閣下」
一瞬、不穏なものを感じさせる冷徹な瞳を見せた彼女。
その氷のような美貌が醸し出す圧を受けたボスは僅かな不安に駆られたが、彼女の呼び掛けを受けて我を取り戻した。
「いえ、そこまで大したものではありませんよ。──実をいうと彼女、バッドバッチが血眼になって探す"オメガ "なる少女には
上級大将の口から語られるのは、ボスにとってあまりに予想外の事実。
それをさも
「───つまり、我々にその少女を
決して断言はせず、促すような彼女の言葉。その言わんとしていることを察したボスは、予測された結果に思わず息を飲んだ。
───が、事は彼が捉えていたほど深刻ではなかったらしい。
彼女はボスの問い掛けを笑い飛ばすと、気兼ねなく言い放った。
「いえいえ! そんな物騒なことまでは求めませんとも。何より、それをやっちゃあバッド・バッチがあまりに可哀相ですからね」
「は、はぁ…………」
自身の予想とはまるで真逆なその言葉で呆気に取られて、思わず唖然と溜息を吐く。
続けざまに放たれた台詞で漸く、彼は上級大将の真意を察した。
「なに、簡単なことです。それとな〜く自然な流れで、彼女に
成る程確かに、それならリスクを侵さずオメガの遺伝子情報を手に入れることができるだろう。
ボスはこの少女のような最高司令官の采配に、改めて感嘆した。
硬派な手段しかない帝国軍とは違って、硬軟織り交ぜた堅実な一手だ。それならば、ハンターらバッド・バッチに不要な警戒心を持たれずに済む。
「では、任せましたよボス。───彼女の遺伝情報さえあれば、我々には充分ですから」