共和国の旗の下に   作:旭日提督

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ボーラ・ヴィオの任務(Ⅱ)

 

~リド星系 惑星ボーラ・ヴィオ軌道上 ヴェネター級スター・デストロイヤー“レゾリュートⅡ ”~

 

 銀河系の辺境で孤独に浮かぶ、白い雲海に包まれた惑星ボーラ・ヴィオ。

 その雲海には廃れたクローニング施設が浮遊しており、放棄されて久しいそれは滑らかな体躯を金色の夕陽に晒しながら漂っている。

 

 施設の遥か彼方の上空、惑星全土を見渡せる宇宙空間に、まるで場違いな紅白の鏃の群が現れた。

 

「惑星ボーラ・ヴィオ上空に到着しました。大気圏内に目標のステーションを確認、これよりスキャンを開始します」

 

「第18ファイター中隊及び第126惑星強襲連隊は直ちに発艦、施設を封鎖しなさい。特殊作戦群のシャトル2機も直ちに出して」

 

「イエッサー」

 

 ヴェネター級艦〈レナウンⅡ〉〈レゾリュートⅡ〉〈レディーマーⅡ〉を中核とする銀河共和国宇宙軍第13戦隊は、惑星を包囲するべくファイターとガンシップの大群を吐き出す。

 その中には、バッド・バッチが駆るオミクロン級シャトル〈ハヴォック・マローダー〉の姿もあった。

 

「艦長! ご報告です」

 

「何かしら」

 

「ハッ! クローニング施設内に生命反応を3つほど確認しました」

 

「あの廃れたステーションにも関わらず3つも反応が…………なるほど。どうやらビンゴって訳ね」

 

 戦隊の指揮官を務めるエリン・オリヴァー宇宙軍大佐は、顔の左半分を覆う火傷痕を擦りながら熟考するように独り言つ。

 

「───付近に帝国軍の姿は?」

 

「ありません。現時点でこの宙域に展開しているのは我々だけです」

 

「よし。なら、邪魔されずに行けそうね。今のうちに科学工作班も惑星に下ろしましょう」

 

「了解です。直ちに取り掛かります」

 

 発艦するファイター隊とガンシップを見送ったオリヴァー大佐は、続けざまに施設の調査任務を担当する科学部隊の派遣を命じた。

 

 救国軍事会議はなにも、善意でバッド・バッチに手を貸している訳ではない。

 

 クローンの少女・オメガの体内に秘められた純粋なジャンゴ・フェットの遺伝子、その軍事的な価値を当て込んでわざわざ協力しているのだ。

 加えて彼女が連れ去られたという可能性のある惑星ボーラ・ヴィオはお誂え向きにカミーノアンのクローニング施設があったという。

 あくまで施設があったという記録しか有していない救国軍事会議にとって、その中に秘められた情報は正に垂涎の的と言っても過言ではないほどの価値を持つ。

 たかが少女一人の為にわざわざデストロイヤー級主力艦3隻を含む15隻の機動部隊を派遣したのは、この施設の構造と残された情報を解析し、可能であれば実物を鹵獲するために他ならない。

 

 オリヴァー大佐は自身の艦隊に与えられた任務の重責を噛み締めながら、作戦の経過を見守る。

 

 敵戦力は、たかだか賞金稼ぎが数人風情。正に鎧袖一触と言っても過言ではないだろう。

 

 加えて任務に成功すれば莫大な"収穫"が見込めるときた。

 

 これほどまでにノーリスクな任務など、今後早々回ってくることはないだろう。

 

 

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~惑星ボーラ・ヴィオ大気圏内 改造型オミクロン級アタック・シャトル“ハヴォック・マローダー ”~

 

 オメガ救出のため、ボーラ・ヴィオ・クローニング施設へと向かう改造型オミクロン級アタック・シャトル〈ハヴォック・マローダー〉

 その機内で、バッド・バッチを率いる隊長のハンターは真横を飛行するデルタ分隊の同型機〈デルタ・ホーム〉を横目にしながら物思いに耽っていた。

 

「…………なぁ、どう思う?」

 

「どう思うって、何を?」

 

 唐突に、ハンターは隣で計器類を確認していたテクに尋ねる。

 

「あいつのことだ。シャルロット・フォン・ブリュッヒャー。あの女、お前の目にはどう映った?」

 

「───警戒するべきなのは確かでしょうね」

 

 テクは視線を合わせることなく作業を続けたまま、さも当然と言わんばかりに応えた。

 一呼吸置いて彼は、その理由を解説する。

 

「大体、彼女は"共和国軍の高級将官"だったんですよ。オメガにジャンゴ・フェットの純粋な遺伝子があるということを知っていたとしても不思議じゃない」

 

 テクは何より、ブリュッヒャー上級大将の経歴を警戒していた。

 彼女は一艦隊の司令官に留まらず統合作戦本部長という要職にも就いていた以上、通常の軍人なら知ることのない機密情報を知っていたとしても不思議ではない。

 第一、帝国に対して叛乱を起こした彼女の艦隊には態々少女一人のために軍艦を割く余力など無い筈だ。

 にも関わらず強力な機動部隊までもを動員しているという現状は、彼女に何らかの野心があるということを如実に物語っている。

 

「考えてもみろ。そもそもオメガがただの子供に過ぎなかったら、どうしてここまで大規模な戦力を送る必要がある? オメガを連れ戻すためだけなら、クルーザーを3隻も連れてくる意味なんて無いだろう」

 

 上空に堂々と浮かぶ救国軍事会議の艦隊を指して、テクはその意味するところを説く。

 第一、惑星に艦隊を派遣するという行為自体が、大規模な作戦行動を想定したものであることは言うまでもない。

 おまけに施設に対して大隊規模のトルーパーまでもを派遣するというあからさまな気合の入れようは、彼らが()()()()()()()()()()()()()と証明するには充分過ぎる状況証拠と言っても過言ではない。

 それを説明するテクの口調は、厄介事に首を突っ込む羽目になりそうな現状への苛立ちが込められたかのように早口だ。

 

「…………ああ。確かにそうだ。お前の言う通りだな」

 

「しかし、彼女は帝国軍じゃない。元ジェダイだ。幾らオメガの秘密を知っていたとしても、帝国やカミーノアンのようには扱わないんじゃないか」

 

 テクの見解に横槍を刺したのは、サイボーグ化された一般クローンのハードケースだ。

 元々破天荒な性格の彼であったがやはり一般クローン出身という出自の故か、バッド・バッチのオリジナルメンバーよりも彼は共和国に対する信頼がまだあるようだ。

 

「俺がいた501軍団はジェダイ時代のブリュッヒャー将軍と一緒に戦いことも多かったが、少なくともあの人について悪い話は聞いたことがない」

 

 おまけに美人だしな、ハハッ。と笑いながら付け加えるハードケースの態度は、ハンターに比べると楽観的だ。

 オメガに対する情が人一倍深いハンターに対して、幾分か状況を客観視する余裕があるのだろう。彼は共和国軍時代の経験を元に、テクとは異なる見解を披露する。

 

「しかしそうは言っても、今の彼女が心からジェダイのままとは限らない。あれだけの反乱組織を運用しているということは、ある程度後ろ暗いことにも手を出してきた筈だ。外見だけで判断するのは危険だぞハードケース」

 

「へいへい。ま、最終的な判断は貴方に任せますよハンター。拾って貰った恩もあるしな」

 

 楽観的なハードケースに対してテクは釘を刺すように忠告するが、ハードケースはあくまで自分の態度を貫くようだ。

 部隊の方針は隊長のハンターに一任するとは言いつつも、まだ共和国軍に対して幾分かの未練があるように感じられた。

 

「……ハードケース。場合によっては危機的(Hard Case)な事態になるかもしれん。()()()()が取れるような準備しておけ」

 

「了解ですハンター。さて、どうやら面白いことになりそうだ」

 

 未練を振り払うかのように、ハードケースは愛用のZ-6ロータリー・ブラスター・キャノンの銃身に手を掛けた。

 それを横目に作業を続けていたテクは、モニターのある一点を凝視する。

 

「ハンター、施設から脱出ポッドを射出されました」

 

「脱出ポッドだぁ? 誰が乗ってるんだ?」

 

「───オメガだ。急げ! 間違いない。あれに乗ってるのはオメガに違いない」

 

 計器を確認していたテクが、飛来する1機の脱出ポッドの存在に気付いたようだ。

 タイミング的に考えて、今脱出ポッドを態々操作する必要性がありそうなのはそれこそオメガぐらいだろう。ポッドが彼女の乗るものだと確信したハンターはその回収を命令するが、それよりも速く動く機影が一つ。

 

 デルタ分隊が駆る同型機、〈デルタ・ホーム〉だ。

 

 恐らく〈マローダー〉以上に徹底的に改造されているのだろう。ステルス・モードに入った同機の反応は瞬く間にレーダーから消え失せて、誰よりも早い速度で脱出ポッドへと向かっている。

 

「おいあいつ、先駆けしようってか!」

 

「先を越されるのは不味い! 飛ばせレッカー!!」

 

 デルタ分隊にオメガを確保されてしまう焦りからか、今までにない気迫でレッカーに命令するハンター。

 

 それに応えて〈マローダー〉が翼を揺らし脱出ポッドへと一目散に飛翔するが、初動の出遅れの影響は大きい。

 〈デルタ・ホーム〉との距離は、ますます開いていくばかりだ。

 

 ポッドに向かって飛行する〈ハヴォック・マローダー〉の足取りは、まるでハンターの猜疑心を表すかのように機械的で直線的だった。

 

 

 

 ……………………………………………………

 

 

 

~ボーラ・ヴィオ・クローニング施設着陸パッド スターシップ“ジャスティファイア ”~

 

「さっさと船を出せ!」

 

「やってるんスけど、システムが反応しないっス」

 

 急ぎ足で駐機した船に飛び乗り、操縦席に腰を下ろした賞金稼ぎのキャド・ベインは、相棒のテクノ=サービス・ドロイドであるトド360に命令する。

 "獲物"であったオメガが脱出ポッドで飛び去ってしまったため、何としてでも追跡しなければならない。

 しかしベインが幾らエンジンのスロットルに火を入れようとれも、彼の船〈ジャスティファイア〉のエンジンノズルに灯る光は瞬く間に消えてしまう。

 

 ───出し抜かれた。

 

 いよいよベインは、自身が完全に後手を取ったという事実を認めざるを得なかった。

 

「ッッ!」

 

「誰かが弄ったんスよ。破壊工作っス」

 

 唸るベインを横目に、悠々と飛び去る1機のスターシップ。

 オレンジも灰色に塗られたその特徴的な船影を、ベインが見逃す筈もない。

 

 フェネック・シャンドが駆る〈アウトキャスト〉だ。

 

 先程までベインと彼女は、オメガを巡って施設内で激闘を繰り広げていたのだ。考えられる下手人がいるとすれば、それこそ彼女以外居ないだろう。

 

「チィィィ…………」

 

 打つ手がない悔しさに歯軋りしながら、ベインは豆粒のように小さくなった〈アウトキャスト〉を睨む。

 

「あれは…………」

 

 それと入れ替わるように、現れる無数の黒粒。

 次第に大きくなっていく粒は、遂に明瞭な機影となった。

 

「不味いな。トド! 急いで此処を出るぞ!!」

 

「いきなり何スか旦那? …………確かに、あれは不味いっスね」

 

 相棒に怒号を飛ばし、搭載した脱出用の小型ファイターへと急ぐベイン。

 彼の後を追うように、トド360も浮かびながら脱出艇へとふわふわ向かう。

 

 それもその筈。彼等が目にしたものはリパブリック・アタック・ガンシップの大群。

()()()()が後を追ってきたと勘違いしても、無理のない光景だ。

 

 ベインはこの未曾有の危機を遣り過すために、ほとぼりが冷めるまでボーラ・ヴィオの分厚い雲海に身を潜めることにした。

 

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