共和国の旗の下に   作:旭日提督

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 信用ならない味方!

 賞金稼ぎキャド・ベインに誘拐された少女・オメガの救出に向かうため、惑星ボーラ・ヴィオを強襲するデルタ分隊ら救国軍事会議の分艦隊。

 そんな彼等を尻目に、オメガの持つ戦略的価値に勘付いたバッド・バッチは彼等への警戒心を強めていた………


ボーラ・ヴィオの任務(Ⅲ)

~惑星ボーラ・ヴィオ大気圏内 改造型オミクロン級アタック・シャトル“デルタ・ホーム ”~

 

 

 夕陽に朱く照らされた深い雲海と薄い空を征く一筋の黒い影。

 デルタ分隊の駆る改造型オミクロン級アタック・シャトル〈デルタ・ホーム〉だ。

 飾り気のないその名前が示すとおり任務に実直な彼等の機体は、最優先任務とされたある少女の確保を達成するべく、今しがたボーラ・ヴィオのクローニング施設から弾き飛ばされるように飛来した一基の脱出ポッドを抱え込んでいた。

 

「回収作業完了しました」

 

 黙々と作業に勤しんでいたクローン・コマンドー、フィクサーがその手を止める。

 ポッドのドッキングベイとの接続が完了し、中身を解放する準備が整う。

 

「ポッドのハッチを開けろ、スコーチ」

 

「へい、ボス。直ちに」

 

 隊長であるボスの命令に従って、スコーチがドッキングベイのロックを解除する作業に取り掛かる

 ボスはその中身が件の少女だと勘付いてはいたものの、兵士として長年培ってきた癖からか、ライフルのグリップを強く握り警戒心を張り巡らせた。

 

 ブシュー、という文字通り空気の抜けた音を放ちながら解放されたその先を、コマンドーのT字型に青白く輝くバイザーの発光が照らす。

 

 彼等の視線の先にいたのは、見紛うことなき少女の小さな体躯。

 

 彼女は怯えを含んだ視線をデルタ分隊の面々に向けながら、ポッドの座席の奥へと隠れるように縮こまった。

 

「―――ビンゴ、だな。フィクサー、13戦隊司令部に報告しろ。"ターゲットを確保、これより帰投する"とな」

 

「イエッサー」

 

 通信機に手を伸ばすフィクサーから視線を外したボスは、ハンドサインでスコーチに自らの後に続くよう指示する。

 相手に無用な警戒を与えないため敢えてDC17Mブラスターから手を離して近付くボス達ではあったが、尚も厳ついアーマー姿の大漢はか弱い少女の目には脅威に映って見えたらしい。

 彼女は下がる余裕がないにも関わらず後退りして、警戒心の籠もった視線をボスに向けた。

 

「…………誰、あなた達」

 

「安心してくれ、お嬢さん。俺たちはデルタ分隊、君を助けに来た()()()()の部隊だ」

 

 凝り固まった疑念を如実に表すかの如く刺々しい声で精一杯の牽制をする少女を見たスコーチは、敢えてフランクに語りかけることでその警戒心を解かんと試みる。

 

「我々は帝国軍じゃない。君のお友達がら仲間を助けて欲しいと頼まれてな。同じ()()()()()()()()()()の誼で協力していたんだ」

 

 ヘルメットを脱いで素顔を晒したボスは、少女と同じ視線までしゃがみ込む。

 そうした真摯な態度が少女にも伝わったのか、次第に緊張で凝り固まっていた彼女の身体から力が抜けていくのが如実に見て取れた。

 

「…………本当?」

 

「ああ、本当だ。さ、こちらへ」

 

 ボスは少女の背後に手を翳して、言外に船内へ行くようにと促す。

 

「にしても、災難だったねぇお嬢さん。あの極悪キャド・ベインに捕まってたっていうんだろう? どこか痛いところはないかい」

 

「ううん、大丈夫。それと私はオメガ。今度はお嬢さんじゃなくてちゃんと名前で呼んでくれる?」

 

「オメガちゃんか、わかったよ。さ、もう大丈夫だ。もう誰も怖い人は居ないよ」

 

 少女―――オメガを連れて〈デルタ・ホーム〉の船内に戻った分隊は、彼女を座らせると簡易携行食と水分を与えた。

 

「改めて説明するが。俺たちはデルタ分隊だ。非人道的な帝国軍と戦うために、ブリュッヒャー将軍の下で戦っている」

 

「ブリュッヒャーって、あの元ジェダイの? ふーん、今はそういうことしてるんだ。直接会ったことはないけど、噂だけなら少し聞いたことあるかも」

 

「ほう、それは光栄だ。さて、俺たちについてだが、先ず俺が隊長のボス、そしてあっちはフィクサー。あのお調子者がスコーチだ」

 

 ボスは視線を再びオメガと同じ高さまで落とすと、彼女の緊張を解すために自らの分隊メンバーを紹介する。

 寡黙なフィクサーはこくりと一度だけ頷き、陽気なスコーチは手を振りながら身体を傾けていた。

 

「そして操縦席に座っているのが…………」

 

「パイロットのオメガ11だ。ま、俺はただのパイロットで正式なメンバーじゃないんだがな。オメガ同士、仲良くやろうぜ」

 

 操縦桿を握るクローン・パイロットのオメガ11は一呼吸だけ視線をオメガに向けて自己紹介を披露して、再び操縦へと集中する。

 

「へぇ、貴方もオメガっていうんだ」

 

「俺のやつはコールサインなんだがな。オメガ中隊の11番機だったからオメガ11。分かりやすいだろ」

 

「こいつは戦場で何度撃墜されても帰って来た人呼んで"伝説のベイルアウター"だ。ある意味、生存能力では俺達コマンドーにも引けを取らないエースだぜ」

 

「ハハッ、止してくれ。照れるじゃないか」

 

 オメガという少女の存在が故か、普段よりも和気藹々とした雰囲気が漂う。

 キャッシークでメンバーの一人のセヴを喪って以来どこかギスギスとした雰囲気が漂っていた分隊だったが、ここに来て初めて心の底から笑えていたのかもしれない。

 

 そんな空気に水を差すかのように、通信機を確認していたフィクサーがボスに報告する。

 

「ボス、〈マローダー〉から通信です。直ぐに此方とドッキングがしたいと」

 

「よっぽどお友達が恋しいみたいですねぇ。どうしますかボス」

 

「大気圏内じゃ色々と飛行には不都合だ。宇宙に出てからにしてくれと伝えろ」

 

「イエッサー」

 

 オメガの仲間、クローン・フォース99からの通信だ。

 どうやら、余程早く会いたいらしい。生存確認の報告は戦隊旗艦を通して全軍に伝わっている筈なのだが、やはり直接その目で確認しないことには不安で仕方がないのだろう。

 ボスは大気圏内上層部という気流の不安定な場所でのドッキングを危険視して、惑星軌道上でのドッキングを提案する。

 その最中に出た〈マローダー〉という言葉に反応して、オメガは目を輝かせた。

 

「マローダってことは、ハンター達も来てるの!?」

 

「ああ、お友達も一緒だ。もう少しで会えるぞ」

 

「やった! 来てくれてたんだ……」

 

 年相応に歓喜して飛び跳ねるその姿を見て、思わずボスも破顔する。

 だがそこは特殊部隊のプロフェッショナル、ボスは直ぐに意識を任務へと切り替えると、努めて友好的に語りかける。

 

「その前に、だ。オメガ、腕を出してくれ」

 

「腕? こう?」

 

 自身も身振りでジェスチャーしながら、オメガに腕を捲くるように指示するボス。

 彼はある機械を船内の一角から取り出すと、それをオメガの眼前に翳した。

 

「これは簡易的な感染症の検査機だ。聞くところによると、君はカミーノを飛び出してから銀河各地を転々としていたらしいな」

 

「うん、そうだけど。それとどう関係あるの?」

 

「殆ど無菌室同然のカミーノからいきなりアウター・リムに出てきたんじゃ、色々と健康リスクがある。重大な感染症に罹ってないかチェックするから、少し採血させて貰いたいんだが、いいか?」

 

「そういうことなら。ほら、どうぞ」

 

 ボスの真摯でかつフランクな口調が功を成したためか、オメガは特に疑うこともせずに腕を差し出す。

 

「少しチクッとするぞ」

 

 ボスの言葉が示した通り、注射針の僅かな痛みにオメガは思わず眉を顰めた。

 

 採決が終わるとボスは暫く機械のモニターに視線を落とし、それが示すデータをまじまじと凝視する。

 

「…………どう?」

 

「異常はないようだ。感染症を示す兆候はない」

 

「よかったぁ…………それなら、ハンターのところに帰っても何ともないね」

 

「まぁ待て。あくまで今のは簡易検査だ。旗艦の医務室ならより詳細な検査もできる。君のお友達の許しがあれば、一度詳細な検査もした方がいいぞ」

 

「確かに。今の生活も悪くはないけど、カミーノとは何もかもが違うから。もし私が病気になったらハンター達を心配させちゃうし」

 

 検査結果を伝えられたオメガは一先ず安堵の表情を見せたが、ボスはあくまで精密検査を勧めた。

 無論その目的はブリュッヒャー上級大将の命令を遂行することにあるのだが、無用な疑いを持たれないために先程の簡易検査もこれから行う精密検査も全て本物の医療器具を用いたものだ。

 無菌室同然の環境で育ってきた彼女にとっても、寧ろ良い提案ですらある。

 

「ボス、〈マローダー〉から再度の通信です。大気圏外に出たのだからそろそろ接舷させて欲しいと」

 

「全くせっかちな連中だ。許可すると伝えろ」

 

「よろしいのですか?」

 

「大丈夫だ。最低限のサンプルは入手した。むしろ拒んだ方が怪しまれる」

 

「了解ですボス」

 

 執拗にドッキング要請を出す〈マローダー〉に対して僅かな疑念を抱きつつも、ボスはその要請を受け入れるようにフィクサーに命じた。

 後半の応酬はオメガには聞こえないよう、ヘルメットの暗号通信機能を介して指示を下す。

 

 程なくして〈マローダー〉が接舷しエアロックが開放され、クローン・フォース99の面々が姿を現す。

 

「こっちに来いオメガ!」

 

「えっ、な、何!?」

 

「早く! 急げ! ……ブリュッヒャーは危険だ!!」

 

 エアロックの作り出す煙の向こう側から姿を現したと思いきや、開口一番オメガに〈マローダー〉への避難を促しつつブラスターを構えながら突撃するバッド・バッチ。

 ハードケースのロータリー・キャノンに援護されながら果敢にデルタ分隊へ襲いかかるその姿は、まるで怒りに狂った猛獣を思わせた。

 

「っ、こいつら……ボス!!」

 

「駄目だ! スタン・モードで対応しろ! でなきゃ船が保たん!!」

 

 突如の奇襲に動揺する部下を窘めつつも、急いで"サンプル"を安全な場所に避難させるボス。

 味方だと思っていた部隊からいきなり攻撃を受けたためかスコーチは語気を強めながら応戦するが、ボスはあくまで相手を傷付けることがないよう慎重な対応を命令した。

 

 バッド・バッチに多少疑われている可能性は考慮に入れていたつもりではあったが、まさか完全に敵視されて攻撃を受けるとは些か予想外のことであった。

 

 その隙を突かれて反撃が遅れたデルタ分隊を相手に彼等は果敢に攻め立てて、立ち直る隙を与えない。

 流石はクローン・コマンドーの中にあって更にエリートと言うべきか、彼等の手腕は非常に見事なものだった。

 

「ひでぶ!?」

 

「あべし!?」

 

「うわらば!?」

 

 ハンター、テク、レッカーの3人から立て続けにスタン・モードのブラスターライフルを浴びたスコーチは、さしものカターン・アーマーといえども耐えきれず瞬く間に伸されてしまう。

 ドサリと倒れ伏したスコーチの真横で応戦していたフィクサーは思わずその実力に戦慄し、パイロットに怒号を飛ばす。

 

「スコーチ! っ、ドッキングを解除しろ! 早く」

 

「チッ! 離脱する!!」

 

 バッド・バッチの撤退と殆ど同時にドッキングベイが切り離されて、〈デルタ・ホーム〉は這々の体で逃げ出すようによろめきながら飛び去った。

 

 直ぐに態勢を立て直して〈マローダー〉の追撃を試みた〈デルタ・ホーム〉だが、〈マローダー〉がハイパースペースへ去る間際に放ったイオン砲の直撃をもろに受けてシステムが一斉にダウンしてしまう。

 

「オメガ11イジェークt…………」

 

「馬鹿! これはイオン・キャノンだ! 直ぐにシステムを復旧させろ!」

 

 普段の癖からか咄嗟のベイルアウトを試みたパイロットのオメガ11は、直後後頭部に振るわれたブラスターの鉄塊にゴォンと頭を景気よく揺らされる。

 ボスは改めてオメガ11に機体の復旧を命じつつ、自らのアーマーの腕部に装着されたコムリンクで即座に非常事態の発生を報告した。

 

「デルタ1からCP、緊急事態発生だ。"対象"を奪われた。繰り返す、愚連隊に対象を奪われた」

 

 

 ……………………………………………………

 

 

 ………………………………………………

 

 

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 ……………………………………

 

 

~惑星ブラッカ軌道上 インペレーター級スター・デストロイヤー“リットリオ ”~

 

 

「閣下、報告です」

 

 ブリッジの壇上に佇む彫刻のような白い女の足元に、小柄な妖精を思わせる体躯の非人間種族の男が背筋を正して正対する。

 ブラッカでの廃品回収作業を監督していた、作戦参謀のミーバー・ガスコン宇宙軍准将だ。

 

「ブラッカ地表からの資源回収作業についてですが、凡そ2時間ほどで予定された工程全てが完了するとの見通しです」

 

 彼が自らの上官―――ブリュッヒャー上級大将に自身が推し進める作業の進捗状況を報告すると、上級大将は無機質な金色の視線を眼下の惑星へと向けつつ僅かに表情を綻ばせた。

 

「計画よりも1時間早いな。慎重かつ迅速に、作業完了まで気を緩めることがないよう、地上部隊に伝達しろ」

 

「了解です閣下。加えて獲得した資源の詳細についてですが、ヴェネター級艦6隻を始めとする22隻のバトルシップは簡易な修理で直ぐに戦力化が可能とのことです。クルーザー以下の軽快艦艇については、56隻が就役可能との報告を受けています」

 

「それは結構。して、修理の工程と乗員の確保について目処は立っているか? まさか引き揚げただけで、木偶のままという訳にはいくまい」

 

「ハッ! その点については抜かりなく。既に再就役させる艦艇の回航要員は確保しております。これら就役予定の艦艇は主機とハイパードライブを再稼働させるだけで航行自体は可能でありますから、地表での資源回収作業終了までには出港準備を整えられる手筈です。武器システムの点検と整備については、航行中に回しても問題ないでしょう」

 

「良くやった、准将。全体から見れば雀の涙ほどの規模とはいえ、艦隊戦力を補充できる機会はそう多くない。引き続き、引揚艦の再戦力化に注力してくれ」

 

「了解しました。それでは、失礼致します」

 

 ガスコン准将は一通りの報告を終えると、その体躯に似つかわしくない機敏な敬礼を披露して踵を返す。

 艦橋後方のエレベーター前に待機させていた橙色のアストロメク・ドロイド、U9-C4の扁平な頭部に飛び乗ると、アストロメクを足代わりにして自身の指揮台へと戻っていった。

 

 准将を見送ったブリュッヒャー上級大将は作業工程の進捗状況を改めて確認するべく、彼から手渡されたデータパッドを自らの指揮台に差し込む。

 データを立体化して出力するホログラム装着を起動しようとしたそのとき、入れ替わりに今度は赤髪の女性士官が旗艦のブリッジに入室する。

 

 副官のアンバー大佐だ。

 

「どうしました、アンバー先生」

 

「ここは他のクルーの目の前ですよ"閣下"。もう少し、威厳ある態度でいらした方がよろしいかと。閣下はもう一介のジェダイではなく、今や組織の長なのですから」

 

 先程まで報告を受けていたガスコン准将とは違って、軍医でもある彼女は上級大将の専属主治医という役職もある。

 それ故上級大将は他の部下や同僚とは異なりある程度目上に準じた扱いをしていたのだが、それでも将官が佐官に敬語を使うというのは些か不自然に見える。

 アンバー大佐は極力声を潜めてその事実を指摘しつつ、上級大将の傍らに寄った。

 

「―――そもそもの話。わたしにだけ丁寧に話されていては、まるでわたしが貴女の情婦ですと告白しているようなものではありませんか」

 

「な…………ッ!? せ、先生!! ここが何処だか知っての発言ですか…………!」

 

 突然の爆弾発言。

 

 その煽りを真っ向から受けたシャルロットは思わず声を荒げそうなほど取り乱したが、普段からの軍人として自身を律していたが故か、寸前で喉元まで吐き出されかけた喚き声を飲み込めた。

 努めて小声で彼女はアンバーの言動を窘めつつ、その真意を探る。

 

「あらあらシャルさん。"わたしとの仲"なんてもはや公然でしょう? 世の中にはいろいろな伴侶の在り方があるのですから、今更隠し通すことでもないでしょうに」

 

 袖口で口元を隠しつつ、クスクスと笑う彼女。

 

 口で語る言葉は先進的な人権概念を意味していても、その真意は明らかだ。

 

 ようは、掌で転がしてその慌てる様を楽しんでいるに過ぎない。

 

 一見朗らかでいながら明快かつささやかな悪意に満ちたそれを見て、シャルロットは改めて彼女が悪魔か妖狐の類かなにかだと確信した。

 まだ可愛気がある分それが魅力の一つでもあるのだが、相手と周囲に配慮してか大声で騒ぎ立てない分別があるのがある意味更に質が悪い。

 

 実際、治療の名目で行われるそれはある種情事にも似た背徳さを感じさせるものでもあるから、彼女の言葉に真っ向から反論する訳にもいかないというのがもどかしい。

 

「コホン、っ。失礼、大佐。それで、今回はどのような要件で」

 

 殆どプライベート空間に近い執務室にいる際の彼女とは些か勝手が違う態度できたかと思いきや、プライベート空間さながらな質の悪い冗談で人を玩ぶアンバー。

 

 そんな彼女の言葉尻に翻弄されて困惑を抱きつつも、上級大将はアンバー大佐の助言を聞き入れて自らの言動を正した。

 幸い他の艦橋クルーと彼女達の間には相応の距離があるので、一連の答酬が彼等には見聞きされていないのは救いか。

 そもそも、態々ここを訪ねてくるぐらいだ。それなりに重要な案件の報告なのだろう。

 

 彼女が意図していたかどうかは知らないが、一連の応酬で上手いこと緊張も解けた気がする。

 一応彼女は医官でもあるのだから、その辺りの心理学を心得ていたとしても不思議ではない。

 

「惑星ボーラ・ヴィオに展開していた艦隊からの報告です。良い報せが2つ、悪い報せが1つありますが、どちらからお聞きになられますか」

 

「…………良い方から聞きましょう」

 

 ボーラ・ヴィオというと、クローニング施設とあるサンプルの確保を目的としていた場所だ。

 艦隊からの報告ということは、相手は戦隊司令のオリヴァー大佐か。ならば、艦隊の壊滅という最悪の事態ではなさそうだ。

 

「はい。第13戦隊からの報告では、ボーラ・ヴィオに残されたデータを比較的状態のよいクローニング施設の確保に成功したと。更に、デルタ分隊がオメガさんの遺伝子情報と血液サンプルを確保したそうです。サンプルの冷凍処置は完了しているみたいなので、情報が破損している可能性もなさそうですね」

 

「それは何より。"彼女"の遺伝子情報はクローンを主力とする我が軍にとって何にも得難い情報です。立役者には相応の待遇を与えねばな」

 

 アンバー大佐からの報告を受けて、満足げに頷く上級大将。

 ボーラ・ヴィオで軍事的に上々とも言える戦果を得ることができたのは、ブラッカでの回収作業と併せて艦隊の能力を飛躍的に向上させることに繋がる。

 年単位での臥薪嘗胆を覚悟している以上、クローン・トルーパーの維持と拡大に必要不可欠な要素を手に入れる事が出来たのは何よりも光明だ。

 しかしその分、悪い報せというのも気がかりだ。

 まさか、帝国軍に発見されたという話でもあるまいな。であれば早急に救援艦隊を送る必要が出てくるのだが…………

 

 ブリュッヒャー上級大将が物思いに耽る中、アンバー大佐はそんなことは歯牙にもかけないと言わんばかりに"悪い報せ"を報告する。

 

「では、今度は悪い報せと。オメガさんがクローン・フォース99に奪われたそうです」

 

「ぶふ、ッ!? …………っ」

 

 何の心の準備もなしに告げられた予想外の展開。

 

 思わず飲みかけのカフを噴き出してしまいそうになるが、上級大将は力技でそれを喉の奥深くへと押し込んだ。

 

「ゴフ、ごは……っ!! ――――さ、攫われた!?」

 

「シャルさん、相当怪しまれていたみたいですねぇ。なんでも、回収してすぐ奪われただとか。ボスさんの機転でサンプルを確保できていなかったら、今頃全部水の泡でしたよもう」

 

「っ…………はぁ。糾弾は後にしてください。して、当時の状況は如何に? あのデルタ分隊のことですから、そうそう遅れは取らないと思ってましたが」

 

 あくどい笑みを浮かべながら顔を近付けるアンバーを前に、気まずさからか上級大将は視線を背ける。

 カフが気道に入ったせいか収まらない咳を堪えながら、彼女は事態の正確な把握を試みた。

 

「幸い、死傷者は出ていないそうです。デルタ分隊からは、隙を突かれて一瞬のうちに奪われたと。元々此方を信用していなかったのでしょう」

 

「ハァ…………。まぁ、サンプルを確保できただけでも良しとしましょう。大佐、引き続き第13戦隊との交信を密に。合流を急がせなさい」

 

「はいはーい。ではでは。わたしは之にてお暇と致します」

 

 悪魔のような可愛らしい微笑を浮かべたまま、くるりと踵を返すアンバー。

 態とらしく大袈裟に回って太腿を晒す辺りが抜かりないというか。

 確か、絶対領域という奴だったか。

 私の性別が違っていたとしたら、今頃完全に術中に嵌まっていたことだろう。

 

 いかんなシャルロット。あくまで私は共和国の軍人。そして残存共和国軍の長なのだ。

 

 無い物ねだりをしても仕方ない。

 今は、獲得したリソースを如何に配分するかが課題だ。

 クローニング施設の実物にしても、早急にリシ・メイズに送る手筈を整えなければ。

 我々には圧倒的に資源も戦力も足りていない。特に、兵の補充は後々深刻な課題になる。

 一刻も早くクローニング施設の建設に取り掛かり、戦力再編の目処をつけなければパルパティーン打倒など夢のまた夢。

 

 とにかく、慌てず急いで正確に。

 

 一切の無駄は許されていないのだから。

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