~ワイルド・スペース ヘリオス宙域 平面座標U-16 ムーンフラワー星雲 帝国軍ドレッドノート “アイ・オブ・パルパティーン ”~
深淵の彼方に漂う帝国軍の超兵器〈アイ・オブ・パルパティーン〉
小惑星をくり抜かれて武装や艦橋、エンジンノズルといった人工物が継ぎ接ぎに接続されたその艦容は、まるで鵺を思わせるように不揃いだ。
不気味なほどに静まり返ったその艦内では、"戦争"を遂行せんと躍動する無数の矮小な装甲服の集団が闊歩していた。
「…………クリア!」
黒鉄色のブラスターを構えながら慎重に前進するトルーパーが、通路の曲がり角の先へと照明を向けてその安全を確認する。
「ここまで敵影は無し、か。どう思う? アルト」
「はい───恐らくマスターの予想した通りだと。多分敵は、この急襲に対応できるだけの戦力を有していないのでしょう」
先行する兵士達の後に続くのは、共和国軍の高級士官の軍服を纏った見た目には年端もいかない少女二人。特にその長い金髪を二房に纏めた背丈の低い少女のほうは、服に着られていると言っても過言ではないほどに不釣り合いな恰好に見える。
しかしその実、彼女達こそ胸に縫い付けられた階級章が示している通り救国軍事会議を統べる首魁、シャルロット・フォン・ブリュッヒャー上級大将と彼女のジェダイ時代の
「やはりそう思うかい。まぁ、そうだといいんだがなぁ…………。私は静か過ぎるのが逆に気に障るんだが」
ライトセーバーを構えつつ臨戦態勢を取りながらトルーパーの先導に続く彼女達は、思いの外敵の抵抗が少ないことに拍子抜けしていた。
要塞規模の敵拠点に乗り込むのだからと意気揚々と戦意を昂らせてきてみたはいいものの、それと比して出現した敵の数は精々バトルドロイドが1個小隊分程度。
これではエーベルヴァイン大佐が不満を漏らしたとおり、敵に梯子を外されたもいいところだ。
その一方で、ブリュッヒャー上級大将は警戒を崩すことなく全周に注意を向けながら前進し、全軍を預る指導者たる所以を醸し出している。
「マスターは些か気張り過ぎなのではないですか? 余裕を以て優雅たれとは、以前の貴女がよく口にしていた言葉だと思いますが」
「それはそうだが…………。しかし、ここは敵地だぞアルト。しかも我が軍の兵士が深部で消息を絶っているときた。警戒しすぎても足りないことはないさ」
アルトは旗艦の壇上での出で立ちとは打って変わって、年相応の幼さを窺わせる爛漫な仕草で雛鳥のように上級大将の傍らに控える。
三年間の戦争を経て成長したとはいえど元来の野生児的な性質に変化はなく溌剌なままなその姿は、外見こそ若々しくても纏う雰囲気が窶れて階級同然厳かなそれへと変化した白髪の上級大将とは対照的だ。
「はぁ~。まったく、そんなんだからあの女狐に付け込まれるんですよ」
「あらあら。なにか仰いましたか? 代将閣下殿」
「うわっっ!? …………なんだ居たんですか女狐。ふん。いいですよ~だ。どうせ貴女の出る幕なんてありませんし」
突如ひょいっと隣に顔を覗かせた赤髪の少女のような人影に気を取られてか、目に見えて狼狽するアルト。
彼女がしきりに女狐と呼び捨てて憚らないそれは、意地の悪そうな微笑をその一見して穏和な顔に浮かべながら、殊更にアルトの階級を茶化すように誇張する。
「いけませんねぇ。これだから破壊しか脳のない魔猪は。肝心の中枢AIを制圧するのはわたしの役割なこと忘れてませんか?」
「誰が魔猪だぁ!?」
正に慇懃無礼という語の示す通り、立ち振舞いは出来た家政婦のようにこそ見えるがその実ひたすらにアルトを揶揄う赤髪の女性───アンバー大佐は、何処から取り出したものか高級そうな扇子を口元に当てながら横目でアルトに茶々を入れる。
それが傍目には案外様になっているためか、彼女の怒りへ余計火に油を注いだようだ。
喩えられたとおり猪の如く憤怒を吐き出すアルトの所作は、やはりというべきか年相応の少女と呼ぶに相応しい。
「アルト。お喋りはその辺りにしておきなさい」
「ちぇっ。マスターの鈍感。朴念仁め」
咎められたことが気に食わないのか、小声で悪態を吐くアルト。
だが表面上は師匠の忠告を受け入れたようで、それっきり犬猿の飄々としたアンバーに視線を向けることはなくなった。
「しっかし、こうしていると昔を思い出します。まるでジェダイ時代の任務みたいですね」
ライトセーバーを握りながら隣に侍るアルトを見て、なるほど確かにこれは懐かしい光景だと合点する。
思えばオーダーを追われてからというもの、アルトは艦隊指揮官として銀河を駆け回る傍ら私は司令部に籠もっていたようなものだしな。
彼女とこうしてセーバーを握りながら任務に就くというのはクローン戦争開戦以前のことか。
いや、戦時中にも何度かあったかな。
「…………ああ、確かにそうだな。ここに来てからというもの、別行動が基本だったからね」
「そうだぞマスター。仕事とはいえ寂しいものは寂しいです。…………本当はもっとくっつきたいのに」
「いやぁ、済まないねアルト。本当ならもっと面倒を見たかったところなんだが、如何せんそうは言ってられなくなってしまってね。ところで、後半なんて言ったんだ? 少し聞き取れなかったんだが」
「いやいや! なんでもないですよ、なんでも。…………よし! マスターとの久々の任務ですからね。張り切っていきます!」
シャルロットの頬が僅かに緩むのを見たアルトは、自然と柔らかい表情を浮かべる。
マスターの気分を晴らさせたことが余程嬉しいのだろう。その足取りは傍目にも分かるほど軽やかだ。
連日の連戦と組織の長という立場の柵から絶えず眉間に皺を寄せていた彼女にとって、旧懐を覚える愛弟子の言は一時の清涼剤になったようだ。
「───構えろ」
突如、ブリュッヒャー上級大将の纏う空気が一変する。
その示すところを彼女のパダワンとしての経験から正確に理解していたアルトは、固く口を結んでライトセーバーのヒルトを握る手に力を込めた。
「閣下。前方より接近する生命反応をキャッチしました」
「この状況で向かってくるとすれば彼等を置いて他にない。コマンダー、合戦用意だ。ブラスターはスタン・モードにセットしておけ」
「はい閣下、直ちに。よしお前ら聞いたな。ブラスターはスタン・モードだ。くれぐれも間違えるなよ」
小隊長を務めるクローン・コマンダー、クレーンウォッチが命令に従って部下にブラスターを調整させ戦闘態勢を整えつつある傍らで、彼女は眼前の通路の先から現れるであろう
進行方向前方の通路は直角に左方向へ折れ曲がるルートであり、敵からも彼女達からも、互いの位置は死角となっている。
敵は当然この要塞の守備隊である訳からして、当然彼女達の大凡の戦力と配置は既に把握されているものと考えるべきだろう。
セオリー通りに戦うとすれば、充分にこちらを引きつけた上で死角からスモーク・グレネードなりサーマル・デトネーターを投擲して混乱を誘発してからの制圧射撃か。
しかし、その
ならば…………
「…………速攻で片を付けるか」
血のように紅いセーバーの光刃を起動したブリュッヒャーは、一目散に敵が潜んでいるであろう通路の先へと駆け出した。
「アルト、コマンダー! 援護しろ!! 先陣は私が務める!」
「はえっ、───ま、マスター!? っ…………」
「イエッサー! よし野郎共続け!」
唐突な師匠の行動に呆気にとられたアルトは一瞬の間を置いて蒼いライトセーバーの光刃を起動して、上級大将に続いて駆ける小隊の最前線に躍り出る。
その正面から、白い装甲服を纏ったクローン・トルーパーの集団が躍り出た、正にそのタイミングであった。
「撃て!」
敵集団の指揮官と目されるARFトルーパー・アーマーを纏った敵兵の号令の下、DC15ブラスターライフルの一斉射撃かブリュッヒャー率いる救国軍事会議の小隊を襲った。
青く発光する火線の槍は先頭を駆けていた上級大将に殺到し瞬く間にその華奢な肉体の前面を穿つかのように思われたが、彼女は致命的な結果を生みかねない幾らかの光線だけを選択して正確に迎撃し、スナップを効かせながら回転させたライトセーバーの光刃でこれを弾いた。
無論、眼前の敵部隊に弾き返すことなく、だ。
「制圧しろ! 全軍突撃!!」
返す刃と言わんばかりに救国軍事会議側から放たれたリング状の光線は、上級大将への誤射も厭わないほど苛烈なものだ。
スタン・モードとはいえ当たれば例えジェダイだろうと数発で意識を刈り取る危険極まりない青白い円環のイルミネーションを掻い潜り、あるときは敵兵そのものを盾にしながら上級大将は敵陣の中心部に躍り出るとセーバーの光刃を消失させ、手当たり次第に付近の敵兵を殴打し足蹴りを加えて瞬時にこれを圧倒する。
「がっ、は!」
「何をしている! 帝国の為に───」
「パルパティーン皇帝陛下万ざ…………」
敵のクローン・トルーパーは口々に
いつしか後背の小隊からのスタン・ブラスターによる援護射撃も止んでおり、倒れ伏した白い集団の中断には灰色の軍服を纏った幽鬼のような少女だけだ佇んでいた。
「…………片付きましたか」
感慨もなく無機質な視線で屍のように眼下に倒れ伏す
「マスター、これは…………」
「見ての通り、敵だアルト。まぁ、さしずめ簡易的な洗脳処置を受けた、といったところかな。どう思います? アンバー先生」
「ええ。概ねシャルさんの仰るとおりかと。彼等が捕虜となってからそんなに時間は経ってませんし、施せるとしても簡易的な洗脳でしょう。多分ですが一度気絶すれば元の意識が戻る筈です」
ブリュッヒャー上級大将は無意識のうちに踏みつけていた敵の使っていたブラスターから足を退けて、少ない情報から予測した推論を披露する。
医官を務めるアンバー大佐の見解も同様のようで、これらの元救国軍事会議兵士達はこの帝国軍要塞の手により
「なるほど。だからこいつらは口々に"帝国万歳"だの"皇帝陛下の為に"とか口走っていた訳か。如何なさいますか閣下。大佐はそう仰いますが、起きればまた向かってくる可能性も考えられます。念の為捕縛しておいた方がよろしいかと」
「…………そうだな。適当に縛って置いておけ。運搬は暇になったドラッヘの部下にでも任せておけばいい」
「はい閣下」
アンバー大佐の推論を聞いて一先ずこの元同僚の処遇に安堵したコマンダーは、自身の進言が上級大将に聞き入れられると隷下の部隊員とともに床上で伸びている元友軍の兵士達に手枷を嵌める作業に勤しんだ。
「さて。では先を急ぐぞ。我が軍の兵が完全に洗脳される前に敵中枢を制圧する」
来襲した敵兵───洗脳された友軍の拘束が済んだことを見届けた上級大将は、隷下の部隊に作戦行動の継続を促した。
交戦した敵部隊が消息を絶った友軍の一部なのは明らかであり、その安否を気遣うなら一刻も早くこの要塞を掌握する必要があるからだ。
───しかし、なんだろうな。この悪寒は。
まるでこれだけではないと言わんばかりに、肌に纏わりつく
当初抱いた疑問が解決したというのに、どうやらそれはこの事態を指している訳ではなかったらしい。
シャルロットは歩を進めて要塞内部に踏み込む度に、着々と
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「…………はぁ。遅いなぁ、マスター」
救国軍事会議に属するクローン・トルーパーの一団によって制圧された帝国軍の超兵器〈アイ・オブ・パルパティーン〉の艦橋で、およそこの場に似つかわしくない間の抜けた雰囲気を醸し出す茶髪の少女がぼそりと呟く。
纏う軍服こそ中佐の階級章を縫い付けた立派なものだが、未だ幼さを残す少女にはそれが却って逆に着られているという印象を強調していた。
「何を言っても聞きませんよ、あの人は」
半ば呆れたような口調で今しがた艦橋を後にした彼女の"マスター"を指しながらその隣に侍るのは、特徴的な赤いラインと廃止されて久しい丸を四個並べた階級章を描いたフェーズⅠクローン・トルーパー・アーマーを纏った軍人、識別番号"アルファ77" ・フォードーだ。
"第二次コルサントの戦い"で本来支給されていたフェーズⅡアーマーを喪った彼は半ば私物と化していた旧式のアーマーへと一時的に袖を通していたのだが、それもあって眼前の少女とともにこの場に居座る部隊のなかでは浮いた外見で目立っていた。
「そうですよねぇ、あはは…………」
彼の上官であるジェダイ将軍ディーガ・ドラッヘが常々引き連れていたこの少女、ジェダイ・パダワンのサツキはその目立つツーサイドアップに纏めた髪先を弄びながら、フォードーの見解に同意する。
どうやら彼女も、件のジェダイ・ナイトの破天荒さには手を焼かれていたようだ。
彼女達の上官にあたる元ジェダイ、救国軍事会議中将の階級を持つティーガ・ドラッヘは外見こそ艶やかな銀色の長髪に凛と整った顔立ちの美人なのだが、その実万人が認める戦闘狂でもある。
未だ見ぬ敵を求めて破壊を振りまくその様は災害といっても過言ではなく、度々それが災いして窮地を彷徨った彼女は一種の放任主義に至っていたのだ。
「…………どうやらこの要塞は、
そんな彼女を傍目に自らの本分を思い出したフォードーは、建前上はキャプテンである自身の上官であるコマンダーを拝命しているサツキへと向き直ると、"本来の要件"である敵超兵器のデータベース解析の結果に関する報告を告げた。
「ジェダイの掃討? なら、この兵器の持ち主さんはパルパティーン議長ってこと?」
「そのようで。お誂え向きに、コイツの名前は〈アイ・オブ・パルパティーン〉と言うようで。私利私欲の権化と聞くシス卿らしく、とんだ自己愛に富んだネーミングセンスだ」
「そっか。…………このことの報告はもうしたんですか?」
「はい。その点は抜かりなく。案の定、将軍は未だに暴れているようでしたが」
フォードーからの報告を耳にしたサツキは、未熟なパダワンの身といえど流石にその重要性を理解したようだ。
シーヴ・パルパティーンは言うまでもなく救国軍事会議がその討伐を公言する"銀河共和国の裏切者"の首魁であり、敵国独立星系連合を影から支配し開戦を煽った悪逆非道な平和の敵、シス・カルトの信徒なのだ。
その当人が
なお当のドラッヘ本人は「残敵を掃討する」と言って艦橋を飛び出したきり音信不通と化しているのだが、時折聞こえる爆発音と超兵器のモニターに示される連鎖爆発の如く艦内の防衛機構の破壊を表す損害報告が、彼女の健在を物語っている。
故に二人は、その安否を慮るのは無駄なことだと誰よりも理解していたのた。
「コイツはどうやら、惑星ベルサヴィスの都市プラワルに身を隠すジェダイの集団を掃討する任務を帯びていたらしい。しかし、コイツは知っての通り正規の帝国軍ではなくパルパティーンの私兵だ。その存在を悟らせない為に、態々こんな銀河系の辺境まで回航されたという訳らしいな」
「ベルサヴィスって、確か極寒の氷惑星でしたよね。そんなところに身を隠さないといけないなんて……」
要塞に記録されたライブラリの情報が確かであるなら、帝国軍の諜報網は既に何ら戦略的価値のない辺境の氷惑星にまでその魔の手を伸ばしていたのだ。
サツキはホログラムに浮かぶ白い氷河が覆い尽くした中に転々と緑色の穴が開いた惑星の姿を眺めながら、かつての同僚の行く末を案じた。
「変な気は起こさない方がいいぞ嬢ちゃん。俺達にできることには限りがある。今はブリュッヒャー閣下に従って一刻も早く閣下のいう"秘密基地"に辿り着くべきだろう。でなきゃ俺達はジリ貧さ」
「それは、そうだけど…………」
この要塞の攻撃目標であったというベルサヴィスには、未だ幼いジェダイ・イニシエイト達が多く身を寄せているのだという。
銀河帝国によるジェダイ・テンプルの掃討劇"ナイトフォール作戦"は年端もいかぬ幼い子供達をも標的とした非人道的な作戦であったことは既知の事実だが、その悪逆非道は未だに続いていたのだ。
そんな事実にこの内気で健気な少女が心を痛めていることを見透かしたフォードーは、その先に続くであろう言葉に楔を打ち込むが如く牽制のような見解を披露する。
「君はクランの誰とでも打ち解けられるような優しさと友好的な性格を持っていると将軍からは聞いている。もしかしたら、その中に知り合いも居たかもしれないな。だが、残念ながら俺達は万能じゃない」
「で、でも…………」
「───いいか。出来ることと出来ないことを見極めるのは、これから生き残る上で大切なことだ」
暗にフォードーは、ベルサヴィスに匿われている"同胞"の救出は無理だと諭す。
半ば見殺しにするような形ではあるが、航路を大きく逸らすことになる上にイメージの向上以外特段メリットのない人道活動に勤しむ余裕は当然現在の救国軍事会議には存在せず、冷徹無比な軍人という役が根に付いたブリュッヒャー上級大将が首を縦に振ることもないだろう。
「だから、今の俺達にできることは確実にこの要塞を無力化して脅威を取り除くことだ。そうすれば、後はベルサヴィスに屯している他のジェダイがなんとかするだろう」
「…………うん。そうだよね」
軍人として幾百の死線を潜り抜けてきたフォードーの言葉には、隅々までその経験に裏打ちされた説得力があった。
いくらジェダイの訓練を受けていたとはいえ齢十五を過ぎたばかりの少女の感情論ではそれを覆すことなど到底出来はしないことを感じたサツキは、この
「───しっかし、本当マスターは遅いなぁ。どこで道草食ってるんだか」
「将軍のことです。いつものことかと」
「……どうせなら、一緒にいてくれたっていいのに」
いつまでも出来もしないことを考えていても無駄だと悟ったのだろうか、将又只の気分転換か。サツキは再び自身のマスターへの不満を口にする。
それを聞く身であるフォードーもまた、周囲の作業状況を監督する傍ら彼女の不平に同調した。
戦場に出れば鬼神の如く暴れる一方で非番の際には盃を傾けながら塩を摘む彼女のマスターは凡そ指導者としては不適格な人物だと、朧気ながらパダワンの身である彼女も感じ取っていた。
それはそれとして戦場で見せるカリスマは付き従う兵卒を魅了して鼓舞し、意外と善行を心掛けるその姿勢には見習うべき点も多いのは事実であり、故にサツキは多少の不満はあれど彼女に付き従っていたのだが。
それはフォードーも感じていたことであり、なまじ彼女と組む前は屈指の真面目さと聡い人柄で知られるオビ=ワンに仕えていた彼を始めとするムーニリンスト10は、彼とは些か勝手が違う猛獣のような上官の手綱を握るのに苦労したものだ。
近くて遠い、何処か人並外れたマスター。
自身のマスターをそう評していたサツキは彼女のことを想う傍ら、唐突に
「ッ───!?」
「? 何かあったか」
「い、いや何も! ちょっと、目眩がしただけというか…………」
「そうか。ならいいんだが。少し疲れているんだろう。一仕事済んだらよく休んでおけ」
「…………はーい」
ぴくりと眉を顰めたその瞬間に尋常ならざる気配を感じ取ったのか、サツキの身を案じるフォードーの声色は一段重い。
それをあからさまに誤魔化しながら制した彼女は、言いようのない靄のような不安感が纏わりつくような悪寒を覚えた。
───なに? 今の…………
今まで感じたことのない、まるで魂を握られているかのような気配。
不思議と頭に浮かぶのは血液を貪るように嚥下する真っ白い人影の姿で、それはあたかも雪に落ちた椿のように鮮やかだ。
なんだか、嫌な予感がする。
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「─────はい?」
呆気にとられた女は、いつになく素頓狂な間の抜けた声を吐いた。
超兵器〈アイ・オブ・パルパティーン〉の制御AIを破壊したと上級大将から連絡があったのがつい先程。
そこから未だ掌握を果たしていない機関部に突入した彼女───元ジェダイ将軍ティーガ・ドラッヘが目にしたのは、見たこともない巨大な
幼さを残す金髪の少女に介抱される傍ら一向に目を覚まさないのは、他でもない彼女の上官であるシャルロット・フォン・ブリュッヒャー上級大将その人だ。
只ならぬ事態であると察したものの興味本位で眠り姫の如く場に似つかわしくない穏やかで死んだように眠る彼女の下まで足を運んでその表情を窺ったドラッヘは、そこで唐突に眼を見開いたシャルロットと視線が合った。
まるで心ここに非ずといった風体で何処か幼児を思わせる無邪気さと
微塵も敵意を感じない、だがそれでいて明らかな害意の溢れるその様。
のそりと緩慢に再起動した