共和国の旗の下に   作:旭日提督

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 ムーンフラワー星域にて帝国軍の移動要塞〈アイ・オブ・パルパティーン〉の鹵獲に成功した救国軍事会議艦隊は、リシ・メイズと銀河系を結ぶ唯一のハイパースペース・レーンであるザレカ・ストリングの始発点に位置する星系、リシ星系へと歩を進めた。
 救国軍事会議の秘密拠点が位置する伴銀河リシ・メイズへの逃避行ツェルベルス作戦も佳境に差し掛かる中、彼等にとって目下最大の障害は道中を脅かす位置にある惑星カミーノ、そこに駐留する帝国軍守備艦隊と巨大な兵站拠点・軍事工廠の存在であった。
 シャルロット・フォン・ブリュッヒャー上級大将は、この障害を克服しリシ・メイズへの退路を万全とするべく、カミーノへの襲撃を企図しその軍事力の粉砕を試みた。
 この一連の軍事行動は、リシ・メイズの別名コンパニオン・オーレクに因んでオーレク演習作戦と呼ばれていた。


オーレク演習作戦

 

~アウター・リム・テリトリー アブリオン宙域 平面座標S-15 リシ星系 ~

 

 

「カミーノを攻撃…………ですか?」

 

 将官の一人が、怪訝な表情を浮かべながら尋ねる。

 彼の視線の先には、鉄のように無機質な能面を貼り付けた白髪の少女───ブリュッヒャー上級大将が作戦会議室を見下ろすように鎮座している。

 

「ええ。無論です」

 

 彼女は是と何ら異議を挟むことなく、彼の発言を肯定する。

 

「しかし、今でもあそこは帝国軍の重要拠点の筈。そう簡単に落とせるものとは思えませんが」

 

 上級大将に方針の是非を尋ねた将官、第11艦隊司令のショーン・キリアン中将は、カミーノの守備戦力の存在を懸念して彼女の方針に異議を唱えた。

 幾ら自軍艦隊が数においてカミーノ守備艦隊を遥かに上回っていたとしても、帝国軍の追撃や損耗を考慮するならば可能な限り戦闘は避けるべきだというのが中将の意見だった。

 

「現に先行したムジーク少将の艦隊はカミーノを無視し、既にティアマトへ到着したとの一報があります。ここはザレカ・ストリングを直行し一路リシ・メイズを目指すというキリアン中将の意見にも一理あるかと」

 

 キリアン中将の方針を肯定する援護射撃を繰り出したのは、第5艦隊司令のバートン・コバーン中将だ。

 軽快艦艇を用いた機動戦を得意とする彼は、艦隊の残燃料が深刻な状況に陥りつつある現状、特にコルベットやフリゲートクラスの艦艇においてそれが顕著となる事態を懸念していた。

 惑星ブラッカでの略奪を除いてまともな補給を得ることができず、更に"シャーテンブルク要塞 "という予想外の戦利品を獲得した救国軍事会議艦隊には、ハイパースペース・ドライブの燃料であるコアクシウムや各種推進剤不足という問題に付き纏われることになったのだ。

 当初よりある程度の余裕を見越して軍需物資は積めるだけ積載しカリダを出港した艦隊ではあるものの、流石に数万光年も銀河系を縦断する大移動を敢行した上で予定外の大質量要塞をも動かすともなれば、あらゆる物資が不足するのも当然といえた。

 

 加えて、上級大将が攻撃目標としたカミーノは艦隊の予定航路から幾分か離れた地点に位置しており、その点においても軍需物資の不足は深刻な懸念材料であった。

 

 一般的にリシ・メイズに存在すると思われがちなカミーノだが、それは厳密には正確ではない。

 この惑星の位置はアウター・リムの更に外縁、ワイルド・スペースに分類され、リシ・メイズから凡そ12パーセクの位置にある伴銀河近傍の銀河間空間に浮遊している孤立した惑星系にあった。

 更にこの惑星へ到達するための航路は、艦隊の針路でありリシ・メイズへの航路であるザレカ・ストリングから更に分岐するハイパースペース・レーン、キブロン・ラインの終着点にある。

 

 こうした自軍の状況や地政学的特徴から、カミーノへの直接攻撃はリスクが高いというのが二人の中将の意見だった。

 

 しかし、それに異を唱える意見も存在する。

 

「だが、我々が作戦を完遂するためにはどうしてもカミーノの付近を通らなければならないのもまた事実。リシ・メイズに近い帝国軍の重要拠点を放置するということは、後の帝国軍追撃部隊との戦闘において我々が不利な点となるだろう」

 

 参謀長のミーバー・ガスコン宇宙軍少将は、カミーノの戦略的重要性を考慮して攻略の必要性を説いた。

 彼は現状が自軍の奇襲効果を最大限に生かせるタイミングであり、帝国軍が自軍の位置を見失っていると考えられる今こそが襲撃に最も有利な時期であると説く。

 逆にカミーノを放置すれば、現在の艦隊の保全という観点からは有利かもしれない。しかし、後に想定される帝国軍との交戦において、リシ・メイズの拠点を防衛する上での懸念材料となる可能性が高いのではないかというのが彼の持論であった。

 

「我々は開発途中のティアマト、ペンドラゴン星系しか有力な前線拠点を有していないのに対して、敵はカミーノの艦隊泊地と兵器工場をフルに使うことができる。仮に帝国軍が早期に我々の拠点を察知した場合、継戦能力の劣る我が方が不利となる可能性が高い」

 

 第3艦隊のネモ少将もまた、ガスコン参謀長に同調した。

 

 カミーノの軍需工場は実態としてはクワット・ドライブ・ヤード社の外局のようなものであり、最先端の機材が大々的に導入された大規模造兵廠ともいえる。クローン戦争初期に導入された共和国軍の各種陸戦兵器や航空機、大型揚陸艦などの兵器製造を一身に担っていたこの工廠の存在は、リシ・メイズに拠点を構える救国軍事会議にとって喉元に突きつけられたナイフにも等しい。

 将来的な領土保全と帝国からの独立を確固たるものにする上では、現段階で無力化ないしは壊滅的な打撃を与えるのが理想的展開といえた。

 

「ここは後顧の憂いを断つためにも、カミーノの敵主力艦隊、ひいては軍需工場を撃破、ないし深刻な損害を与える必要がある。僕は上級大将の方針に賛成だ」

 

「しかし仮に戦闘が長引いた場合、カミーノの守備艦隊と帝国の追撃艦隊に挟撃される虞があります。我々は帝国軍艦隊の位置を捕捉できていませんから正確なタイミングを測ることが難しいことに対して、帝国軍追撃艦隊がリシ星系付近に展開していた場合、迅速にカミーノへと駆けつけることができる。そうなれば我々は袋小路に閉じ込められたようなものです」

 

 カミーノ攻撃の戦略的必要性を説く二人の少将に対して、コバーン中将は帝国軍の戦力展開が不明なことを根拠にその危険性を指摘する。

 ハイパースペース・レーンの終着点に位置するカミーノに対する攻撃は、艦隊の展開と襲撃のタイミングを誤れば容易に包囲撃滅されかねない。

 幾ら隻数で圧倒しているとはいえ万全とは程遠い状態で万が一交戦中に帝国軍追撃艦隊が自軍艦隊の背後に出現した場合、戦場からの離脱が遥かに困難になると想像されることが、慎重派の意見にも説得力を与えていた。

 

「中将の指摘にも一理ある。しかし、襲撃のタイミングが今しかないこともまた事実です。帝国軍が我が艦隊の逃走経路を把握した場合、カミーノは敵の前線拠点として今以上に強化されることは目に見えています。そうなってからでは攻略は極めて困難だ。多少のリスクを冒してでも、現段階でカミーノを攻撃することには充分な軍事的価値がある」

 

 上級大将は、凍てついた能面のような白磁の眼光に僅かな熱を灯すように力説した。

 

 その視線は眼前の将校達に向けられているようでいて、何処か心此処に非ずといった浮世離れした空気を場に醸し出している。

 

「都合良く、我々は新しい兵器(玩具)を手に入れたところではありませんか。なにせ奴等に目にもの見せてやるには丁度良い出処の移動要塞だ。有効に使わない手はありません」

 

 その言葉が、彼等がつい最近鹵獲した帝国軍の巨大移動要塞、シャーテンブルク要塞を指していることはこの場にいる誰もにとって自明の理だ。

 彼女は不敵に悍ましい獰猛な笑みを浮かべながら、遥か銀河系の中心部に玉座の如く居を構える銀河帝国皇帝を脳裏に浮かべる。

 

 パルパティーン銀河帝国皇帝が極秘裏に作り上げていた個人的な移動要塞を、他ならぬ帝国軍の掃討に運用する。

 

 この上ない意趣返しといえるだろう。

 

「しかし、要塞の防御火器は我々が攻略する際に大半を破壊しています。今更運用したところで当初の火力の半分も出せないでしょう。ただの的になるのが関の山では?」

 

 だが幾人かの将校にとって、上級大将の言葉には些か疑問が残る部分があった。

 件の要塞は自力航行こそ何ら問題なく行えているものの、表面に所狭しと設置された防御火器の大半は彼等救国軍事会議艦隊が攻略の折に破壊し尽くしていたといっても過言ではないほどその機能を停止させられている。

 加えて防諜の為には致し方ないこととはいえ、要塞全体の管制を司る中央制御コンピューターまでもを完膚なきまでに粉砕し、主要な動力源を担っていたカイバークリスタルもまた動力炉から取り外され、廃棄処分されている。

 このような現状を鑑みると、シャーテンブルク要塞はその機能を大きく減衰させている状態であり、戦力価値は完全な状態の一割にも満たないといってもいいほど単独では非力な状態に成り下がっていた。

 

「…………確かにそこは僕も疑問だ。でも、啖呵を切ったからにはなにか妙案でもあるんだろう?」

 

 カミーノ侵攻自体には肯定的なネモ少将も、コバーン中将に同調して要塞の戦力価値に一抹の疑問を投げかけた。

 しかしこの年若い少将は彼女がジェダイ・オーダーに属していた頃から幾多の戦場を共にした旧知の仲だ。

 時として突拍子もない戦術を躊躇わず、華麗に軍事的成果を挙げ猛将とも評された彼女に、何かしらの()()があることは想像に難くない。

 

「無論です。なに、あれだけの大質量だ。使いようなんて幾らでもあるさ」

 

 ネモ少将のある種信頼ともいえるその言葉を肯定するかの如く、上級大将は不敵に嗤いながらホログラムのモニターを起動する。

 

 青白い立体的なグリッドの空間に描かれた要塞の概略図を呼び出した彼女は、映像の縮尺を縮めて星系図と重ね合わせた。

 予想される帝国軍の戦力配置と自軍の戦闘経過を推測するシミュレーション映像を再生する彼女の脳裏には、既に勝利への道筋が幾らでも演算されているのだろう。

 その大胆不適たる様は、懸念を表明していた幾人かの将校を充分に納得させるに足る振る舞いだった。

 

 

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 次なる攻撃目標カミーノに向けた最後のFTL航行に入った救国軍事会議艦隊は、蒼白のハイパースペースが織り成す光のトンネルを駆けていく。

 修理部品の不足や各種弾薬の欠乏、重要戦略物資備蓄量の不安といったその内実を微塵も悟らせないほどに見事な艦隊陣形を維持する自軍艦隊の姿を満足気に一瞥したシャルロット・フォン・ブリュッヒャー上級大将は、気怠げな眼を擦って趣にポケットから小ぶりな立方体様のアーティファクトを取り出した。

 

 掌に乗せたそれを心此処に非ずとばかりにぼうっと眺めるその様を目にしてか、傍らに控える赤髪の副官が彼女を案じて声を掛けた。

 

「どうかされましたか? シャルさん」

 

「いえ、何も。…………少し、これが気になったものですから」

 

 シャルロットは掌の上で弄ぶようにそれを転がす。

 金色とも鈍色とも取れるくすんだ光沢を放つそれは、この世のどれとも言えない未知の金属のような手触りを彼女の掌に与えている。

 立方体の六面すべてにびっしりと埋め尽くす勢いで掘られた円形を主体とした幾何学模様は、何処か神秘的な美しさすら醸し出していた。

 かといって魅入られた訳でもなく、彼女は猜疑心に満ちた視線を掌の上の物体に落とす。

 一見すればジェダイ・ホロクロンのようにも見えるその物体であったが、他ならぬジェダイ・オーダーに籍を置いていた彼女だからこそ、この物体がホロクロンとは全く異なる得体の知れないアーティファクトであると直感していた。

 第一、この物体そのものはフォースに反応する素振りすら見せないのだ。起動にフォースを必要とするホロクロンとは、その時点で全く別種のものであると容易に察することができた。

 

「あら。シャルさんが骨董品(アンティーク)に手を出すなんて、これまた珍しいですねぇ」

 

「私にそんな趣味はありませんよ。どういう訳か、()()()()()()()()()()と勘が煩いものですから」

 

 鬱陶しそうに立方体を眺めながら、シャルロットはこつんと自らの額を指で叩いた。

 まるで本意ではないといわんばかりの気怠さだが、その意味するところを違えるようでは彼女の副官は務まらない。

 赤髪の副官───アンバーは、彼女の意図を正確に汲んでその振る舞いに合点した。

 

「勘…………ですか。なるほど。噂に聞くフォースの導き、というものですね」

 

「まぁ、ジェダイ流に表現するならそうなりますね」

 

 尤も、自分をジェダイだと思ったことは只の一度もありませんが。と皮肉混じりにニヒルな自嘲を続けたシャルロットは、持ち上げた物体の幾何学模様を脇目にデータの羅列をホログラムへと呼び出した。

 

「年代、構成材質、作成文明、発掘地点。その全てが不明ときた。ブラッカの瓦礫に混ざって拾い上げられたモノだとは聞きましたが、ここまでくるとアンティークを通り越して呪いのマジックアイテムか何かじゃないんですかね、これ」

 

 ホログラムの分析結果を眺めながら、それを貶すように報告書の中身を読み上げる。

 戦略物資の調達の際に"遇々"拾い上げられたものらしいが、これに関する記録の一切が残っておらず経過も全て謎のアノマリーの存在は、既にジェダイを辞して等しい彼女のミディ=クロリアンを否応なく刺激して騒ぎ立てさせているようであった。

 

「まぁ、戦闘には関係のないものでしたね。この件についてはおしまいにしましょう。アンバー大佐、最新の分析結果を呼び出してください」

 

「…………はい。では、御意に」

 

 とりあえず件の物体のことは思考の片隅に追いやって、件の立方体を懐へと仕舞いながら上級大将は副官に命じた。

 作戦の開始に向けて出力された星系図に呼び出されたデータへと目を落とした彼女は、その一つ一つが自らの把握する情報と差異がないか丁寧に確認する。

 立体的な三次元戦闘が求められる宇宙戦において、事前情報を頭に叩き込み把握することは指揮官として欠かせない準備だ。

 帝国軍艦隊の編成と規模、カミーノの防衛戦力の配置。

 それを今一度把握するべく最新の星系図を凝視していた彼女の脳裏に、とある疑問が浮上する。

 

 ───あれ。こんな()()()、前見たときはあったっけなぁ…………

 

 星系の外縁にぽつりと浮かぶ、幾らかの古びた構造物からなる暗礁宙域。

 

 不自然に()()()()それの存在に一抹の懐疑を抱いた彼女であったが、作戦予定宙域から離れているそれが大勢に影響することはないだろう。

 仮に帝国軍が潜んでいたとしても、戦略的に意味のない立地だからだ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

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