「マスター? ほらマスター、起きて下さい!」
「―――うっ、んんっ…………」
ぼんやりと、金色の光が広がる。
「…………ん、ああ、アルトか」
寝起きの気怠さを無視して、むっくりと身体を起こす。
締め切っていたブラインドの隙間からは燦々と陽光が降り注ぎ、時刻が既に真昼に差し迫っていることを告げていた。
「ああ、じゃないですよマスター。ほら、起きて下さい! 今日はみっちり修行するって約束だったじゃないですか!」
「んー、あと5分だけ寝かせて…………」
バサッ。
重力に身を委ねて、ぐちゃぐちゃのタオルケットに身を突っ込む。
ぼーっとしていれば、直ぐに夢の世界へ旅立てそうだ。
「む―――っ、マスターっ!!」
ばちん。
壊滅的な、止めの一撃。
鈍い打撃音とともに、私の意識は強制的に現実へと引き戻された。
……………………………………………………
私、アルト・エーベルヴァインは、マスターシャルロットに師事するパダワンです。
マスターとの出会いは1ヶ月ぐらい前。評議会からマスターのパダワンに振り当てられた時でした。
マスターシャルロットは変わり者としてとして有名で、実はちょっと身構えていたのです。
―――ですが、マスターの姿を見て、そんな不安はぜんぶ宇宙の彼方に飛び去りました。
銀色の髪はまるで夜空のようなしなやかで、その紅い瞳には、吸い込まれてしまいそうなぐらいに蠱惑的で、その佇まいは、真っ直ぐな一本の氷柱みたいに透き通っていて。
―――そして何より、私そっくりなマスターの容貌。
そのとき、私は直感しました。
一目惚れ、といっても過言ではないかもしれません。
―――ああ、貴女が、私のお姉様だったのですね。
もうこれは、文句のつけようがないくらいに明らかです。
きっと、マスターは生き別れのお姉様に違いありません。
ああ、愛しのマスター。どうか私のモノになってください。
―――はっ、今、暗黒面の
いや、ここは私がパダワンなのですから、逆に私がマスターのモノに…………
マスター…………私は一生、貴女について行きますとも、ええ。マスターは私の命ですから。
…………ちなみに、"お姉様"呼びは禁止されてしまいました。生き別れかもしれないのに。むすっ。
なにもドン引きすることはないと思います。お姉様のいぢわる。
そうしてお姉さ…………マスターと出会った私は、その日から修行三昧でした。身体を動かすのは苦ではありませんでしたし、むしろもっと動き回りたいくらいでした。
なので私は、セーバーのフォームなら動きの大きいフォーム4のアタロが合っていると思うのです。
だけど、マスターは頑なにフォーム3のソレスに拘って教えます。マスター自身、達人でもなんでもないのに。
「いいかいアルト。今の銀河でポピュラーな武器はブラスターだ。アタロを極めるのは結構だが、まずはブラスターから身を守れるようにならないといけないよ」
穏やかな口癖で、マスターは私を諭します。
ちなみにその口調は、"尊敬している人を真似しているんだ"、との弁です。口癖のように言っています。―――マスターの尊敬する人。一体誰なんでしょう。
確かに、マスターの言うことは尤もです。
マスターでさえ、決して得意ではないソレスをがんばって勉強して、私に教えて下さっているのです。若干の不満はありますが、そこまでの厚意を無下にする訳にはいきません、私はマスターに従いました。
こうして私は一月の間、マスターに師事してきました。
…………その中で、ちょっとずつ見えてきたものもありました。それは―――
マスターは、ものすごくずぼらな人だということです。
今日だって、私が叩き起こすまでお布団のお友達。部屋はいっつも趣味の機械弄りで散らばした残骸が転がってますし、セーバーの指南書だって机の上に広げっぱなしです。
最初は完璧に見えたマスターも、短所を知ってしまうと"やっぱり人間なんだなー"って思います。
おまけに家事も壊滅的です。その家事の腕前であの髪なんて、世界中の女性に喧嘩を売っているとしか思えません。脱ぎ散らかされたジェダイローブとか、放っといたら3日ぐらいそのままなんてざらにあります。マスターだって女性なんですから、もっと身の回りに気を遣うべきだと思います!
…………ですが、そこもまたマスターの魅力なのです。
ギャップ萌え、というやつでしょうか。コルサントで人気のサブカルチャーでは、そんな描写がされたヒロインとかもいた気がします。
私は常にマスターのことしか考えてませんから、そんなものに割く時間はないので詳しくは知らないんですけどね。
あと、マスターは紅茶をすごく好みます。
正確には、紅茶入りブランデーを好みます。
これも尊敬する人のリスペクトなのだそうですが、マスターは私の淹れた紅茶をすごい喜んで飲んでくれます。主に調べものや機械の設計をしているときに差し入れてあげると、穏やかで儚い笑顔を見せてくれるんです。
―――その瞬間が、今の私には一番の宝物。
ですからマスターにもっと喜んでもらうために、紅茶の研究は欠かせません。
修行の片手間で良質の茶葉を取り寄せて、ブランデーも市販品より何ランクか上のものを注文します。
ちなみにマスターは、オルデラン産のブランデーとナブー産の茶葉を好みます。特にオルデランのブランデーは
「いつか買えなくなるかもしれないから、今のうちに買い貯めてくれると助かる」
なんて、ちょっと予言じみた不吉なことを言ってました。―――何ででしょう?
でも私は、マスターの言うとおりにブランデーを買い貯めておくのでした。
とにかく、私のマスターは世界で一番素敵な人なんです。
はぁ…………マスター。
貴女の横に立つに相応しい
―――どうか、期待して下さいね。
ヒロインのモデルはキャストリア……の筈なんですが、しょっぱなから
本文でもある通り、主人公は所々でヤンをリスペクトしていますし、モデルの一人でもあります。
ですが、自分が彼のようになれないことも悟ってますし、彼ほど達観できません。