「―――アルト。今日のことは、誰にも言ってはいけないよ」
セーバーを八双に構え、光刃を起動する。
現界するは、深紅の光。血のように紅い、原初の光。
原作では、赤いセーバーは専ら悪の象徴、シスの色だ。
たかが不良の私如きに、扱える色ではない。
実際、こんなものを他のジェダイの前で見せたら、八つ裂きにされる未来しか見えない。
「へぇ………赤いセーバーに、黒い外套。もしかしなくてもあんた、実は伝説の暗黒卿とやらかしら?」
「まさか。私はただの、そこらにいる不良ジェダイさ。――ただ、この色については一つだけ、訂正させて貰うとしよう」
確かに、この色は邪悪の色、と原作では位置付けられている。だけど、私のセーバーは、そんなんじゃない。ヴェイダーやシディアスのセーバーには、絶対に込められない意味が、このセーバーには込められている。
「赤は赤でも、私のセーバーは共和国の赤。コルサント直行の外航船が、何色か知ってるかい?」
小説の登場人物のうち、唯一尊敬した彼が愛した、その理念。
その理念の色こそが、この赤なのだ。
腐っても共和国は、民主主義国。そして共和国の外航船は、その船体を名誉ある赤色で塗装される。即ち、赤色は共和国――ひいては民主主義の象徴でもある。シスの赤とは、訳が違う。
「成程ね。そういう訳か。ある意味、ジェダイにはお似合いかも」
「光栄だね。しかし、オーダーの連中は頭が堅くてな、この色の価値を認めないんだ」
「それは残念。―――だけど、いいのかしら?私達にそんなのを見せて」
「心配ないよ。―――この場で口を封じるから」
開口一番、床を蹴って一直線にアシュタレトを目指す。
彼の魔術師と、語源を同じくする名を戴いた、原初の女神。生半可な攻撃は通じまい。
「やぁぁっ!!」
「ぐっ………!」
赤い光刃が、アシュタレトの黒いセーバーと斬り結ぶ。
「ほぅ。ジェダイでもないのに、やるじゃない」
ダークセーバーの刀身を巧みに反らし、私の突撃の威力を殺す。大したものだ。もしや、フォース感応者でないかと疑うほどに。
「こんの………ッ!こっちは金と生活が掛かってんのよ、ジェーン!!」
「はいはいッ!狙い撃つよ~!」
今度は後方に控えていたジェーンから、ブラスターの二連撃。アシュタレトと斬り結んでいる私では、そのままでは躱しようがない。
「マスターっ!」
蒼白の光刃が、ジェーンの赤いブラスター弾を弾く。
「………すまない、助かった」
「いえ、マスターを助けるのも、私の務めですから」
私の傍らに控えたアルトは、光刃を真っ直ぐジェーンに向けて牽制する。
「ちぇーっ、そう上手くはいかないか」
「お生憎様、鍛え方が違うのよ」
「ぐっ………」
セーバーに力を込め、フォースプッシュでアシュタレトを弾き返す。
これで、戦況は仕切り直し。互いに2対2で睨み合う。
「さて、降参したらどうかな?賞金稼ぎさん。実力差は分かっただろう?なぁに、心配ない。口止め料くらいなら出すとも」
「口止めって、そっちの意味かい!?」
ここで一度、降伏勧告。
今の一撃で実力差は分かった筈だし、彼女なら、無謀なことはしまいという信頼もあった。
所詮は金の問題だ。大した忠誠もない彼女達は、金次第で簡単に此方側に引き込める。
「マスター?殺らないんですか?こいつら」
「ああ。敵戦力の分散は戦術の初歩だからね。彼女達だって、分の悪い賭けには乗らないだろう。より堅実な方を選ぶ筈さ」
今の一撃で、実力差ははっきりした。
実のところ、私一人でも、アシュタレトとジェーンを降すのは簡単だ。片や不良とはいえジェダイの訓練を続けてきた身、片や我流の賞金稼ぎ。元の霊核とは逆に、今は私が優位な立場だ。彼女なら、それを理解できないわけがない。
ダークセーバーを見たときはひやりとしたが、実力では、完全にこちらに分がある。
そしてアルトは、少し脳筋なところを直してくれ。わざわざバスターゴリラになる必要もないだろうに。
「ちっ、全部お見通し……って訳か。確かに、今の私じゃあんたに勝てない。命あっての物種だもの、情もないクライアントの為に命を掛ける必要もないわ。―――で、幾ら出してくれるのかしら?」
流石はあかいあくま、その写し身だ。金のことになるとがめつい。
「なら話は早い。とりあえず、3000クレジットで手を打とうか?」
「足りない足りない。私達がクライアントから幾ら貰う予定だと思ってんの」
予想通りの内容だ。
アシュタレトの意を汲んだジェーンから、ダメ出しを食らう。
「ジェダイって、意外と貧乏なんだから、少しは勘弁して欲しいんだが………じゃあ、5000でどうだ?」
「足りない。わざわざ鞍替えしてあげるんだから、15000は下らないわ」
「なっ………ボッタクリにも程があるぞ、賞金稼ぎ!」
「まぁまぁ、アルトは少し黙ってなさい、ここは大人に任せててくれ」
「むぅぅ~~!」
梯子を外され、可愛らしく頬をむくれさせる我が弟子。すまないが、ここは重要な局面なんだ、ゴリラムーブは控えてくれ。
「君達だって、セーバーで切り刻まれるのは嫌だろう?そこを考えて欲しいんだがなぁ」
「………じゃあ、13000までまけてあげる」
「命の保証がたった2000?冗談。虫が良すぎると思わない?」
「ぐっ………なら、11500で」
「まだ」
「――11000」
「がめついよ、賞金稼ぎ」
繰り返される、押し問答。
回数を重ねるごとに、互いの妥協点へと近づいていき―――
「10000」
「よし、その値段でいこう」
―――ここに、契約は成立した。
アシュタレトと、堅く握手を交わす。
全く、薄給のジェダイには痛い出費よ。何が禁欲だ、くそくらえ。職業選択の自由はないのか。まるで話にならない、給料と仕事が釣り合ってない。
次々に沸き出すオーダーへの不満を、そっと胸の内にしまい込む。今は、不要な感情だ。
「まぁ、正解じゃない?幾ら金のためとはいえ、アレを知った後じゃねぇ………」
ジェーンは、アシュタレトの決断を尊重する言葉を吐く。言外に、元クライアントへの不満を乗せて。
「アレ?とは何かな。是非聞かせて欲しい」
彼女の態度で、何となく察した。
その"アレ"こそ、今回の任務の目標だと。
「げっ、言わなきゃ駄目?」
「是非とも、お願いしたいところだね。―――ああこれも、命の保証金に含めて貰うか」
「なんて横暴な―――まぁ、いいわ。話してあげる」
やれやれ、といった様子でアシュタレトは向き直る。
「―――ブルー・シャドウ・ウイルス。それが、この施設で作られた"兵器"の正体よ」