政治嫌いを公言して憚らない彼女に如何にして外交任務を学ばせるべきか、そう思案する最中。彼等を乗せた外交船に、忍び寄る影があった。
「はぁ、疲れましたマスター。なんで私がこんな面倒なことしなきゃいけないんですか」
「文句を言うな、シャルロット。外交任務もジェダイの立派な務めの一つだ。いつまでも剣と遊んでいられると思うなよ」
ある惑星での、外交調停任務からの帰り。
この任務を成功させたジェダイ・マスターのサイフォ=ディアスは、船室に取り付けられたベッドに寝転がる愛弟子のシャルロット・フォン・ブリュッヒャーの発言を咎めた。
「ちぇーっ。マスターのいじわる」
シャルロットは寝返りを打ちながら、ぶつぶつと自身の
サイフォ=ディアスのパダワンである彼女は剣術の成績こそ同期生達の中では頭一つ以上に飛び抜けているものの、極度の政治嫌いで積極的に関わろうとしないのが珠に傷だった。
しかし、ジェダイ騎士の任務の一つが銀河共和国の外交任務である以上、いつまで経っても愛弟子を剣と趣味の機械弄りに興じてばかりにさせる訳にはいかない。そんな弟子の未来を見かねて彼は外交任務に彼女を同伴させていたのだが、結果はある意味予想通り。
己の利益にしか興味がない政治屋に敵愾心を燃やしてばかりの彼女では全く話にならず、任務こそ成功させたものの教育という意味では失敗だった。
彼女は普段からホロネット・ニュースには熱心に目を通しているだけにまともな政治感覚こそ身に付けているのだが、逆にそれは彼女の中で銀河政治への失望と軽蔑を高めてしまっていただけなのかもしれない。
サイフォ=ディアスがそう察した時には既に遅く、彼女は筋金入りの政治嫌いになってしまった。
これを直すのは一苦労だな、と内心で愚痴りつつも、彼は愛弟子を諭すように言葉を続ける。
「意地悪も何もあったものか。大体、お前は考え方が単純過ぎるんだ。何でもかんでも斬った貼ったで許されるのはただの戦士、ジェダイの道とは呼べないぞ」
「それは分かってますけど…………だいたい、政治家なんてどいつもこいつも保身と自分たちの利益しか考えてないじゃないですか。だから政治なんて嫌いなんです」
「まぁ…………それは確かに今の共和国の問題でもある。だが、それとこれとは別の話だ。いい加減、剣の鍛練以外にも目を向けんか。そうしなければ、いつまで経っても卒業なんかできないぞ」
「いいですよーだ。私は別に望んでこの道を選んだわけじゃないんですし。給料分の働きだけしてればいいんですよこんなの」
「ハァ…………お前はなぁ───」
あれやこれやとぶーたれる愛弟子の姿はある意味可愛らしいものだが、その性格が性格なだけに将来が思いやられる。
彼女は興味のない仕事に対しては全くといっていいほど身を入れる素振りすら見せず、それを手早く片付けてはいつも趣味に興じてばかり。一般人ならそれでも充分な働きなのだが、こと銀河の奉仕者であるジェダイとしては些か問題のある態度だ。
確かに彼女の言う通り望んだ道ではないのかもしれないが、やはり師匠としてはそこを咎めずにはいられない。
しかし、それを真剣に聞き取らない愛弟子の姿勢もやはりいつものことであった。
「そんなに言うならマスター…………」
また何か不満でもぶつけようとしたのだろうか、気の入らないだれた声で呟いたシャルロットの動きが止まる。
「どうしたシャル。何かまだ文句でも───」
「…………何か来ます。備えて下さい」
「いきなり何を…………っわあ!?」
突如、シャルロットの纏う空気が一変する。
それに遅れること数秒。サイフォ=ディアス達を乗せた船は、前後左右に大きく揺さぶられた。
「強制接舷? 海賊か!! シャル、お前はここで待っ───」
剛胆な振動と遠方から響くブラスターの発砲音から、下手人の正体を海賊だと看破したサイフォ=ディアス。
彼は愛弟子に害が及ばないよう彼女には船室で待つように伝え、セーバーを構えて侵入者の撃退へと走り出す。
だがそれよりも早く飛び起きたシャルロットは彼の制止を聞かずに船室を飛び出して、ブラスターと硝煙香る戦場へと駆け出す。
「おい、待てシャル!! お前、実戦はまだ───」
「敵を排除します。どうかお気遣いなく、マスター。───直ぐに、片付けて参りますので」
サイフォ=ディアスの言葉よりも早く、床を蹴ってセーバーを滾らせながら通路の向こうへと消える彼女。
彼の危惧する通り、彼女には実戦経験がない。
幾ら剣の腕が同期生、いや近い年代のパダワン含めてもそのなかで一番とはいえど、初めての実戦、それも突発的な襲撃とあれば万全のパフォーマンスを発揮できるかどうかすら怪しい。
にも関わらず、まるでそれがさも当然であるかの如く駆け出した彼女の背中を追うサイフォ=ディアスの胸中には、ある一抹の不安が芽生えていた。
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駆ける彼女の背中を追って、ドッキングベイへと辿り着く。
そこには既に数人のウィークウェイの海賊団が陣取っており、クルーザーの船員は皆殺しにされた後だった。
「っ………………」
遅かったか、という後悔と、既に事切れた船員への追悼の言葉を内心で述べるサイフォ=ディアス。
だが、シャルロットは眼下に広がる死体の山にはまるで見向きもせずに、射抜くような冷たい視線を海賊団に向けながら無言のまま抜刀する。
「マスター、此所は私が」
シャルロットが、小さく呟く。
その一言だけを言い残した彼女は何ら躊躇いもなくセーバーの刃を起こしては、フォースを集約した加速で一挙に”敵”の目前まで迫る。
「じ、ジェダイ─────」
─────スッ。
一閃、黄金色の光刃が迸る。
それにやや遅れてボトリと落ちる、ボール大の黒いなにか。
紛うことなき、海賊団のうちの一人の首だ。
「ヒッ───こっ、コイツ! いきなり攻げ…………」
続いて二度目の斬撃が、海賊を襲う。
最初に首を落とした男は襲撃を仕掛けた海賊団のなかではリーダー格だったのだろう。見るからに他者と比べて華美な服に身を包み、手に持つブラスターも立派なものだった。
リーダー格の男を仕留めたあまりに手際の良い殺戮を前に後退ってしまった次なる犠牲者である海賊の男は、何か発しかけた言葉を言い終える暇もなく、一寸も経たぬうちに既に物言わぬ屍へと変貌していた。
「ばっ、馬鹿な、ジェダイは───」
───ヒュッ…………ズン。
三度、四度。と、惨劇は繰り返される。
まるで機械のように無機質で冷酷な瞳に捕らえられた海賊達は、ブラスターの引き金に手を掛ける暇もなく次々と絶命させられる。
彼女がセーバーを回す度に襲撃者の手足が雲の如く宙を舞い、鋒が鎧を貫く度に心臓が灼き切れる。
確実に命を経つことのみを主眼にした、極めて実戦本位で一切の無駄がない鉄のように暴力的で繊細な剣術。
その剣に見据えられた者は哀れ、命を請う暇すら与えられずに肉片へと成り下がる。
気付けば既に海賊団はその大半が彼女一人の手により殺し尽くされ、遂に逃げ出した最後の一人も容赦なくその背から両断された。
「───ふぅ。終わりました、マスター」
殺戮機械に、光が灯る。
まるで再起動するかのように、何事もなく回帰する彼女の瞳。
情も熱も宿さない絶対零度のカラクリから、人のように潤いを取り戻したその眼は何の後悔も憐憫も映すことなく、まるで何事もなかったかのように数刻前へと巻き戻される。
その間の抜けたいつも通りな愛弟子の声は、つい先程までの惨劇を繰り広げたそれと同じものだとはとてもではないが思えない。
「───シャル」
「? なんです、マスター」
戒めを込めて、語気強くその名前を呼ぶ。
当の彼女は、先程までの殺戮劇が嘘であったのかと思えるほど平静で、自然体だ。
そのあまりに常人のそれから乖離した様子に空恐ろしさすら覚えながらも、サイフォ=ディアスは彼女に尋ねる。
「…………お前。人を殺すことに、躊躇いを感じなかったのか?」
「? いえ、何も」
彼の問いにきょとん、と首を傾げるシャルロット。それがさも当然と言わんばかりに、マスターであるサイフォ=ディアスの貌を見上げた彼女は何ら疑いを差し挟むことなく簡潔に述べた。
「敵は敵、それだけです。敵であれば斬る、何もおかしいことでは無いでしょう。だいたい、先に仕掛けて此方の船員を惨殺してきたのはあちらです。なら殺されたって文句も何もないでしょうに」
至極単純で、明瞭な結論。
理屈の上では、確かにそうだ。
先に武器を向けたのは先方であるからにして、防衛のため反撃するのは何ら不自然なことではないし、無法が蔓延るこの銀河では尚のこと。
だが───彼女はそこに至るまでの”決断”が早過ぎる上に、殺害という行為に対して一切の呵責もなく、まるでスイッチを切り替えるかの如く刃に徹する。幾らジェダイ見習いとはいえど、到底十四、五やそこらの小娘ができる所業ではない。何せ、初めて人を殺めたのだ。例え不可抗力であったとしても、普通は幾らか取り乱すものだ。そんな素振りが一切見られないだけに、その異常性は常軌を逸している。
かと思えば一転して事が過ぎれば只の人のように振る舞い、喜怒哀楽を顕にする。
そんな彼女の内面の一端に触れたサイフォ=ディアスは、暗黒面よりも深いなにか得体の知れない闇を感じた。
────本当に、人間なのか? ”コレ”は…………
熱情はなく、かといって平静もなく。そこにあるのはただ一振りの刃の如く、凪いだ水面のように微動だにしない彼女のフォースに触れた彼は、この年若い弟子の行く先に一抹の不安を感じずにはいられなかった。
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「思い悩む弟子の力になりたいと願うのは、師として当然のことだろう。さぁ、私の後についてきなさい。そうすれば、君が望む答えが全て得られる」
自分の姿をしたナニカが、愛弟子に語り掛ける。
彼女に手を差し伸べるそれの瞳は赤く縁取られた金に染まり、気味が悪いぐらいに邪な笑みを浮かべている。
だがそれを覗き見る自分には如何ともしがたく、口を開こうにも開かない。
まるで映画が再生さるかの如く、景色だけが無情に淡々と移り変わる。
「答えも、力も、全てが得られるのだ。
きっとこの光景は、フォースが見せている夢なのだろう。
見たこともない宇宙船のブリッジに佇む愛弟子は覚えの無い軍服を身に纏い、いつにも増してそのフォースは堅く凪いで冷えきっていた。
「お言葉ですが───」
振り返る、愛弟子の姿。
まるで
しかしその濁った金色には熱情も感情もなく、機械的に処理すべきものを見定めているようで。
「貴方の助けなど要りません。私が信頼するのは確かな証拠と鉄の暴力、それだけです」
背景が、
そこに浮かぶは無数の艨艟。
紅白に身を染めた艦隊を従えて立ち阻む彼女は紅い光刃を滾らせて、一刀の下に自分の姿をしたナニカを無慈悲に斬った。
「泡沫に消える
崩れ落ちる、自らの幻。
胴と足が泣き別れたそれを見下す彼女の瞳に一瞬ながら仄かに熱が灯る。
「…………一つだけ言うとすれば、良い斬り心地でした、
セーバーを納め、満足気に呟く彼女の姿。
それはこの幻の中で彼女が見せた唯一の人間らしい仕草でありながら、紡ぐ言葉は血に濡れた悪鬼の如く、常人からはかけ離れた感性だ。
「───ですがご安心を、マスター。貴方を陥れた敵の全て、我が祖国を蝕む敵の全て。悉く、この私が斬り裂いて御覧に入れましょう」
踵を返し、真っ直ぐに愛弟子が自分と向き合う。
今しがた斬り捨てられた、暗黒面に囚われた幻ではなく、正にこの夢を覗き見る自分を金の眸で直視する彼女。
私にそう言い残した彼女の姿は、やはり血の通わない機械に見えた。
こちらは以前apoptosis様からリクエストで頂いていた、シャルロットがサイフォ=ディアスのパダワン時代の頃の話を具現化したものになります。
終盤のサイフォ=ディアスの幻影は本編第73話「前夜」を別サイドから見たもので、彼の描写は原作クローン・ウォーズ・シーズン6第13話「犠牲」を踏まえたものになります。