~コルサント、ジェダイ・テンプル内~
「不味いことになったな」
「ええ…………なんだか怖いですね」
私とアルトは、自室であるニュース映像を眺めていた。
惑星ライロスでの、クーデターを報じる特集だ。
キャスターがライロスの現状を読み上げ、惑星の政情を解説する。
それによると、ライロス内の反共和国過激派グループが星系内の発電所を破壊し、惑星政府に対して銀河共和国からの脱退と独立星系連合への加盟を要求したらしい。
つい最近、ラクサス星系のホロネット基地局を乗っ取って行われた、ドゥークー伯爵の演説に触発された動きであることは明らかだった。
ドゥークー伯爵は腐敗した共和国の現状を批判し、共和国からの脱退と新たな共同体の建設を星々に促した。その結果、銀河系外縁部―――俗に言うアウター・リム・テリトリーを始めとする共和国の力が行き届かない領域では、共和国からの分離独立を求める声が強まり、分離主義危機が発生。
こうして生まれたのが、共和国と対立し、自立を目指す独立星系連合だ。
「…………何とかならないのでしょうか、マスター」
「無理だね。ここまで来たらもう火消しなんてできないさ。何世紀も腐敗を放置してきたツケさ。―――無論、我々が掟に縛られて硬直してきたことも原因の一旦だろうけどね」
「そんな…………」
辺境の不満は、何世紀も前から存在した。ドゥークー伯爵は、それを焚き付けたに過ぎない。元々の不満が存在しなければ、分離主義危機なんて起こり得ない。
全く…………今も昔も、平和ボケは腐敗しか生まないらしい。日和見と近視眼的な利益だけじゃなくて、苦労させられる未来世代のことも考えてくれよな。
何もかも投げ出したくなる政治的惨状に、思わず沸々と不満が沸き上がる。
「ったく、どうやったらここまで酷くなるんだ……」
頭を掻き毟りながら、乱暴にベッドから起き上がる。
「―――アルト、私はしばらく出掛ける。留守は頼むぞ」
「えっ? あ…………はい、マスター。ちなみに、どちらまでお出掛けに?」
「―――なぁに、心配するな。ちょっと野暮用を済ませてくるだけさ」
アルトを置いて、自室を後にする。
―――もうすぐ、クローン戦争が始まる。
その前に、出来ることはやっておきたい。
「R3、来い。私のデルタを用意してくれ」
カタカタと後をついてくるR3に、スターファイターとハイパードライブリングの用意を指示する。
「何? 目的地? 何の用? それ今言わなきゃ駄目かい。…………そうだなぁ、"未来の仲間達"を迎えに行くのさ。目的地は―――水の惑星、カミーノだよ」
~銀河系外縁、伴銀河リシ・メイズ~
銀河系の果て、ワイルド・スペースの更に外側に位置するリシ・メイズは、銀河系の伴銀河として知られる小さな渦状銀河だ。
この銀河には、将来重要な戦略拠点となる惑星カミーノが存在する。なので、私は第一艦隊を分派してこの銀河の調査を進めさせている。
その結果、カミーノの更に後方へ続くハイパースペース・レーンを密かに発見し、途上の星系をそれぞれアムリッツア、アルテナ、ティアマトと名付けて前哨基地を建設させている。アルテナより奥は未だに前人未踏の渦状腕の宙域なので、秘密基地を作るならこの奥になるだろう。
―――おっと、話が逸れた。
今回の目的地はそこではなく、手前に位置する惑星カミーノ。"サイフォ・ディアスの弟子"という身分を、存分に活用させてもらう。
カミーノの手前に位置する惑星リシの軌道を通過し、最後のハイパースペースに突入する。
程なくして、ハイパースペースの蒼白のトンネルを抜けた先に、青く輝く水の惑星が見えてきた。―――今回の目的地、カミーノだ。
劇中ではジェダイ・アーカイブから完全に存在を消されていたカミーノだが、消される前に記録をダウンロードした私は難なくカミーノまで辿り着けた。
惑星に降下した私はファイターを着陸パッドに駐機して、建物の中へ足を踏み入れる。出迎えたのは、白い肌とスレンダーマンもかくやという程の長身を誇るエイリアン種族のカミーノアンだ。
「ようこそ、マスタージェダイ。ラマ・スー首相閣下がお待ちです」
声の感じからして、女だろうか。
高くて穏やかな声のカミーノアンが、私を中へと迎え入れる。
しかし…………一見して格好がジェダイというだけで、そう簡単に招き入れるのは幾らなんでもザル過ぎないか? 仮にジェダイに扮した敵だったらどうすんのさ。大丈夫かなぁ…………
という懸念は後回しにして、彼女の後に続いていく。
清潔感溢れる無機質な白い通路を越えた先に、一際目立つ白い扉。どうやらここが、首相のオフィスらしい。
案内に従って入室すると、中には一人のカミーノアンの姿があった。経緯から察するに、彼がラマ・スー首相で間違いなさそうだ。
声からして、今度は男だろう。
その余裕のある立ち振舞いは、指導者たる所以だろう。
「待ちかねていました、マスタージェダイ。何年も待ち続けて、正直、諦めかけていたところでした」
「それは申し訳ない。―――こちらも色々とありまして。連絡できなかったことをお詫びします」
先ずは定番の社交辞令の挨拶から。
しかしまぁ、クライアントから10年近くほったらかされた割には随分丁寧な対応なこと。健気よな。
「して、軍隊の状況は?」
「注文されていた軍隊は、20万ユニットが最終段階に入っています。更に100万が製造中です」
「それは素晴らしい。ああそうだ、製造状況の確認とは別に、私の"個人的なお願い"もしたいのです」
「個人的なお願い、ですか」
ぶっちゃけ、ここでバイオ・チップの正体を告げてもいいのだが、証拠も後ろ楯もないままそれをやるのはあまりにもリスキーだ。そもそも、別にオーダーを救いたい訳じゃないからね、私は。
「ええ。―――実は私のマスター、サイフォ・ディアスは殺されているのですよ。連絡が遅れたのも、このためです」
「何と…………それはお気の毒に」
ラマ・スーは、表面上だけの弔意を伝える。自分達以外に関心を持たない、カミーノアンらしい仕草だ。
「これはくれぐれも内密に願いますよ。―――私は、オーダーの中に裏切り者がいると踏んでいる。私のマスターを殺せば、銀河最強の軍隊が思いのままです。我々ジェダイがこのプロジェクトを再発見したのもつい最近のことでしてね。正直扱いかねているのです」
「それはまぁ、大層なお話で。ですが、我々が作った軍隊は"共和国に"絶対服従です。それは保証します」
共和国―――そう、共和国だ。彼は"ジェダイに"とは言わなかった。全く、パルパルもクリストファー・リーも舌が上手い。流石はシスの暗黒卿、そこに痺れる憧れるゥ!!
…………冗談は程々にして、密かにクローン軍のプロジェクトを乗っ取った彼等は、"本当のこと"しかカミーノアンに伝えてないのだろう。私が嘘と詭弁を弄しなければならないのとは実に対照的だ。
「無論、それは疑っていませんとも。私はね、この"裏切り者"を探し出すための補助が欲しいのです。具体的には、"抑制チップを抜いて独創性を高めた"ユニットを200ほど。うち一割はコマンド部隊にしていただけると有り難い」
「成程…………事情は大体分かりました。して、対価は如何程に」
「これを―――」
私は、密かに集めたクレジットを提示する。
彼はその額に満足したのか、無言でそれを受け取った。
「契約成立ですね」
「ええ。くれぐれも、内密に頼みますよ。―――特に、他のジェダイには」
ラマ・スーと契約を交わした私は、3日間ほどカミーノに滞在した。
クローン達の製造や訓練の様子を一通り見学した私は、最後に注文した特殊部隊の訓練を見学する。
抑制チップを撤去したという彼等だが、互いの連携に問題は見られない。むしろ、他の特殊部隊ユニットに比べて動きが良い節まである。
「やぁ。頑張っているみたいだね。訓練は捗っているかな?」
訓練を終えた彼等に向けて、労いの言葉を掛ける。
クローン達はジェダイを(恐らく)初めて見るにも関わらず、一糸乱れぬ見事な敬礼を披露してくれた。
「はっ! 訓練は順調です、将軍」
「それはよかった。私はジェダイナイトのブリュッヒャーという。今回君達の上官を勤めることになった」
「そうですか…………宜しくお願いします!」
彼等は未来の重要な兵力となる存在だ。整列した彼等とは、きちんと挨拶を交わしておく。
ところで…………個性的な色のアーマーのクローン・コマンドー部隊、どこかで見たような…………
「ところで君達、名前は?」
「はっ! RC-1138、デルタ3-8、通称ボスです。デルタ分隊の指揮官を務めています」
「デルタ6-2、スコーチです」
「同じく、デルタ4-0。フィクサーです」
「デルタ0-7、セヴだ」
デルタ分隊…………ああ、そうだ、確かリパブリック・コマンドの主人公部隊だっけ。これは心強い。
「デルタ分隊、君達の名前は覚えた。これから宜しく頼むぞ」
「「「「イエッサー!!」」」」
分隊4人の声が、力強く木霊する。
これでまた、一歩前進だ。軍隊の創設は、着々と進んでいる。
だけど、クローン戦争まではもう間がない。早く、自分の足場を固めなければ…………