銀河帝国から逃れ、伴銀河に息を潜める残存共和国軍───リパブリック・レムナント。その新たな旗艦となるべく建造されたスター・ドレッドノート〈インフィニティ〉の試験航海に同乗していたシャルロットであったが、艦はハイパースペースへ飛び込む最中、未知の振動に襲われてしまう。
普段の蒼白いハイパースペースの光ではなく、赤と青が交錯する超次元のトンネルを抜けた先には…………
~リパブリック・レムナント宇宙軍 ベラトールⅡ級スーパー・スター・デストロイヤー “インフィニティ ”~
「航行機器、正常!」
「各武装チェック、異常ありません!」
ブリッジクルーから寄せられる、各種報告。
───やはり、杞憂だったか?
通常のハイパースペースとは一風変わった風景に、ジャンプアウト直前の妙な衝撃。
最悪事故かなにかではないかと危惧したのだが、どうやら艦その物は無事なようだ。
が、しかし───
「か、閣下……チャートが機能していません!」
「───なに?」
艦自体は無事だったものの、唯一の異常───星図の機能不全が告げられる。
チャートは自艦の位置を常に指し示すもので、正常な航行には必要不可欠なものだ。
それが機能していないということは、艦は遭難したも同然だということ。
「星を見るんだ! 既知の星図と照合して、位置を特定できる筈だ」
「り、了解…………ダメです、艦長。ここから見える星の位置は、既知のそのどれとも一致していません!」
艦長のネモ中将は流石ともいうべきか、長年の航海経験から即座に対処法を指示している。だが、オペレーターの報告はそれすらも事態の解決には無意味だと暗に告げている。
───ったく、どうしろっていうんだ、こんなの。
満を期して竣工した最新鋭戦艦が軍のトップとともに行方不明だと? そんな冗談、あってたまるか。
「周辺宙域の解析を続けろ。何としてでも異常を解明するんだ」
「イエッサー!」
ブリッジクルーに事態の解明を指示するも、やはり進展は得られない。
それから数分経った頃だろうか。
観測要員が、前方に不可解な光が見えると伝えてきたのは。
「…………なに? 光だと?」
「ハッ! 特定の方角に、短期間で発生と消失を繰り返している光があります。確実に、星ではありません」
「点滅を繰り返す光───戦闘の可能性が高いな。しかし、ここで座して見ている訳にもいかないな。今の我々は手掛かりになりそうなものならば藁にでも縋りたい気分なのだ。航海長、その方角に舵を向けてくれ」
「了解!」
操舵手の操る舵に合わせて、緩慢に舳先を変えつつある〈インフィニティ〉。その動きはひどく遅く感じられて、ひたすらにもどかしい。
転舵を終えて暫く未知の宇宙を進んだ先には、確かに戦闘らしき光景が広がっていた。
「なんだ、あれは…………」
遠望で、漸く光の正体を観測する。
確かに、それは艦隊の放つ光芒であった。
しかし、その正体は帝国軍でも我々リパブリック・レムナントのものでもなく、ましてや反乱同盟のものでもない。
この世界には存在しない筈の
…………いや、よく見れば、マゼランとサラミスに混じってアンドロメダのような戦艦やヤマト2の巡洋艦、駆逐艦、それに無人艦隊の戦艦も舳先を共にしている。
─── 一体、何なんだあの艦隊は。
「如何なさいますか、閣下」
「どうにも、呼び掛けられるような雰囲気じゃないな。一旦待機して──」
「か、閣下! 黒い艦隊の一部が転進! 我々に向けて砲口を開いています!」
「なに?」
画面上には、黒いアンドロメダの集団の一部が転進して此方に向かってくる様子がありありと映し出されている。
その先端に蒼白い光が灯り始めた光景が網膜に投影されたその瞬間に、全力での回避を選択する。
「いかんっ! ネモ艦長、最大戦速だ! "敵"の艦首砲だけは絶対に浴びるなよ!!」
「最大戦速? 全く急なことだね。やれやれ、どういう考えかは知らないけど了解だ!」
「全艦、戦闘配備だ。あの黒い艦隊は敵として認識しろ。各砲門、開け!!」
「イエッサー! 目標、識別不明艦隊α、主砲照準よし!」
「
右舷側にのろのろと旋回しつつある〈インフィニティ〉は、行き掛けの駄賃とばかりに舷側の重ターボレーザーで、接近するアンドロメダ級数隻を瞬く間に血祭りに上げた。
充電中の内蔵されたエネルギーが一挙に解き放たれたそれは周囲を巻き込んで大爆発を起こして消え去り、敵艦隊の陣容には大きな風穴が空く。
だが敵艦隊はそれに怯んだ兆候すら見せず、陣形も何もないままの乱雑な艦列の群から一挙に蒼白い光の槍───"波動砲"が撃ち出された
つい先程までこの艦がいた場所目掛けて発射されたそれは、〈インフィニティ〉の遥か後方で花火のように拡散して消滅していく。
「…………な、なんてエネルギー量だ」
「敵主砲は、此方のシールドを容易に貫通できるばかりか一撃で破壊できる威力すら持ち合わせている。正に、宇宙規模と言っても過言ではないね。───あれを喰らえば、幾らなんでも不味いかもだ」
観測されたデータから、敵艦隊の脅威度を正しく算出するネモ艦長。彼の言うとおり、"アレ"を喰らえば只では済むまい。
"私"が元々これの威力を知っていたから良かったものの、初見殺しもいいところだろ、これ。
そもそも、あの汚ならしい紋様は何なんだ。
アンドロメダ級の完成されたデザインに落書きされた何かしらのスローガンのような一節や凡そ軍艦に似つかわしくない謎の菱形紋様…………チグハグもいいところだ。製作者の美的センスを疑う。
ああいうのは、スチームパンクとか異世界とか…………もっとファンタジー向けのデザインラインだろ!?
「あのエネルギー量だ。そう易々と連射はできまい。ネモ艦長、一気に畳み掛けるんだ!」
「了解だ。鮫のように貪ってやるとしよう」
ネモ艦長の号令の下、数百にも上るレーザー、重ターボレーザーやプロトン魚雷が貪欲に獲物を求めて敵艦隊に殺到する。
波動砲を発射したばかりの敵艦隊はエネルギーの低下が深刻であるらしく、まともな抵抗もできないまま次々と轟沈していく。
幾つかは此方に飛来する
元々、此方は7000メートル級のドレッドノート。たかだか数百メートルでは、我々の水準では平均的なクルーザークラスでしかない。
この世界の艦艇は火力こそ目を見張るものがあるが、耐久性などたかが知れている。
まるで鮫に喰われる鰯の群れのように、黒いアンドロメダは忽ちその数を減らしていった。
「閣下! 敵残存艦が反転! 撤退していきます!」
「ハァ…………何とかなったか。全艦、戦闘配備を解除だ。警戒体制を維持したまま、もう一方の艦隊を探るぞ」
暫く一方的な蹂躙劇が続いたが、漸く敵も戦力差を理解したのだろう。相変わらず統率の取れない疎らな動きで踵を返し、続々と戦場を離れていく。
残された問題は…………あの混成艦隊か。
さて、鬼が出るか蛇が出るか。
どちらに転んだところで、ろくでもない結果になりそうだ。
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~地球防衛軍 内惑星艦隊旗艦 “アマテラス”~
「…………何なんだ、あれは。要塞クラスはあるぞ!?」
突如現れて、謎の黒いアンドロメダ級の集団を蹂躙した紅白の宇宙要塞…………いや、その形から戦艦と呼ぶ方が正しいのだろう。
それを指して、内惑星艦隊副司令を務めるディアーチェは唖然と立ち尽くしている
「落ち着きなさい。どうやら敵ではないようだし、まずは穏当に、ね」
「は、はぁ…………。とにかく、このままでは埒が空かないな。通信担当! どの周波数でもいい! あれに呼び掛けろ!」
「了解です。"此方ハ地球防衛軍内惑星艦隊也。我二敵意無シ"!」
艦隊司令を務める紫髪の東洋系の顔立ちの女性──月村束は、眼前に浮かぶ巨艦を眺めながら内心で頭を抱える。
───謎のアンドロメダブラック集団の次は"スター・デストロイヤー"だって!? …………一体全体、何がどうなっているのよこれ…………
どこか見覚えのある巨大戦艦の出現を前に、既知の世界がガラガラと音を立てて崩れ行く様を傍目に感じながら、彼女は自身の職責を全うせんと今後の行動を演算していた。
~? ? ? ~
この世界ではない、何処か別の銀河系。
赤黒く輝く真空の宇宙空間に、紫色の透けたエネルギー体のような影が二つ。
それらはよく見れば人のような形をしていたものの、人にあらざる存在であることは言うまでもない。
「───首尾はどうだ」
「ハッ! 第一陣は順調…………とは言いがたいようで。申し訳ありませんが、拾ったアンドロメダブラックとやらの艦隊は壊滅的な打撃を被っております」
「成る程な…………邪魔が入ったか」
人には決して聞こえない波の振動で、互いに言葉を交わす二つの影。
剣呑な空気に包まれたまま、彼等の会話は続けられる。
「恐らくは、
「少々、介入が性急に過ぎたか」
「そのようで」
どうやら影には上下関係があるようで、見方によっては片方がもう一方に膝まずいているように見えなくもない。
尊大は空気を放つ影は一通り報告を聞き終えると、暫く思案するような仕草を見せた。
「ふむ…………分かった。この件は貴様に預けよう。くれぐれも失敗するでないぞ、
「ハッ! 仰せのままに…………」