共和国の旗の下に   作:旭日提督

40 / 125
月下

「うっ、ん…………ッ、こ、こは…………」

 

 ―――――ふと、目を覚ました。

 

 薄暗い、部屋のなか。

 壁一面には血管のようにチューブやパイプが張り巡らされ、時折脈打つように蒼白い光が流れる。

 

 シュー。っと、扉のロックが外れる音。

 

「お目覚めですか? シャルさん」

 

「先生? それより、作戦は…………っ!?」

 

 どくり。

 

 一際激しい動悸が、全身を襲う。

 

「あ"っ…………ごはっ!? ごふっ……」

 

 心臓と肺が握り潰されたような、鈍い激痛。それと共に、中身が吐き出されるような重い咳が止まらない。

 

「駄目ですよ、まだ首の皮一枚で繋がってるような容態なんですから。今は大人しくして下さい」

 

「…………はい、先生」

 

 彼女の声に従うままに、起き上がろうと入れた力を身体から抜く。

 

 ずどん。

 

 軽い浮遊感とともに、私の身体は糸が切れたようにベッドに落ちた。

 

「今はご自分の心配をなさって下さい。大丈夫です、貴女の心配するようなことは起こってませんから」

 

「そう―――ですか。よかった」

 

 先生の一声で、安心した。

 任務は、成功したのだろう。損害はどうやら、最小限で済んでくれたみたいだ。―――寧ろ、あのソーラ・バルグを相手に生き残れたのは奇跡とすら言える。預かったこの天性の身体でなければ、きっと今頃斬られていたのは私だ。

 

「っ………………!?」

 

 どくん。

 

 また、心臓が激しく脈打つ。

 

 不規則な脈が身体中を巡って、瞳の奥が焼き潰されるように熱い。

 

「ぐっ、あ…………」

 

「シャルさん!」

 

 アンバー先生の、私を呼ぶ声。

 肺に酸素が行き届かない。

 彼女に声を掛けようとしても、漏れるのはかひゅー、かひゅーという細い呼吸音ばかり。

 

「ああ、やっぱり。バクタだけでは足りなかったみたいですね。―――――あんまり使いたくなかったんですけど、仕方ありません」

 

「せ……先生―――?」

 

 室内に一ヶ所だけ開けられた耐弾ガラスの艦窓。

 そこから覗く、見慣れない惑星の月明かりに照らされた彼女には、人の身には無い筈の獣じみた耳と尻尾が生えていた。

 

「いいですかシャルさん。これから起こることは、決して誰にも言わないで下さいね?」

 

 彼女は普段の共和国軍の制服と白衣ではなく、原作さながらの焦茶色の着物―――ジェダイの着物のようにも見えなくもない衣装を纏っていた。

 

 アンバー先生は、そのまま私に覆い被さるようにして身を乗り出し、袖から黒い液が入った注射器を取り出す。

 

「とりあえずお注射しますね~。なので大人しくして下さいまし」

 

「何故! っ――ごふっ!?」

 

 なんでさなんでさなんでさ……! 

 

 ちょっ、待って、アンバーせ―――

 

 ブスリ。

 

 首筋に、無理やり注射打ち込まれた。

 一体どんな薬なのかの説明ぐらい、あったって良いじゃないですか…………

 そう思った矢先、突如として異変が身体に現れた。

 

「あ、あつ―――」

 

 熱い。

 

 あついあついあついあついあついあつい。

 

 急激に熱を帯びた身体は、中身がパズルのように組み替えられていくような痛みに悶える。

 あちこちの筋繊維と関節が悲鳴を上げて、本能すらも塗り替えられていくようだ。

 

「せん、せい…………?」

 

「今のは死徒化薬(バンパイア・ドラッグ)といいまして―――まぁ説明は面倒くさいので省きますが、ちょっとした身体の変化を引き起こします。安心して下さい、用法と用量さえ間違わなければちゃーんと人に戻れる…………筈です」

 

「その空白は何ですかー!」

 

 めっちゃ不安なんですけど……! 

 っていうかそのルビ、どう見てもちょー不審なんですけど!! 

 

「ぐっ、うぅっ―――」

 

 がつん、と、頭をハンマーで潰されたような感覚。

 私の中で、ナニカが急速に塗り変わっていく。

 

「あ―――」

 

 覆い被さった彼女の、白い首筋。

 着物の隙間から覗くその肌を、無性に食い破りたい衝動に駆られる。

 

 だ、だめ――――

 

 私は、そんなんじゃないのに……

 

「―――いいですよ、シャルさん。さぁ、どうぞ召し上がって下さいまし」

 

 彼女は自ら襟元に手をかけて、その白い柔肌を露にする。

 ずるずると引き下ろされる着物とは反対に、面積を増していく白い肌。

 その奥に躍動する赤い情熱に誘惑されるがままに―――私は牙を突き立てた。

 

 

 ………………………………………………

 

 …………………………………………

 

 ……………………………………

 

 ………………………………

 

 

「お身体の調子はどうですか? シャルさん」

 

「ええ――大丈夫です。絶好調とまでは行きませんが、あの苦しさは綺麗さっぱり無くなりました」

 

 あれから数日。

 快方に向かった私は、あの薄暗い部屋から解放されて、普通の医務室に移された。

 先生も甲斐甲斐しく看病してくれて、特にお粥なんかは本当に美味しい。

 

「ですが、あの…………すいませんでした」

 

「いえいえ、お気になさらず~。寧ろ私がけしかけたようなものですし。シャルさんはなんにも気にしなくて大丈夫ですよー」

 

「…………本当にすいません」

 

 アンバー先生から血を吸ったあの時のことが、中々頭から離れない。結果的には良くなったとはいえ、やっぱり申し訳ないです…………いっそのこと、彼女の言うとおりに割り切れたら楽だっのですが。

 

―――甘く、蕩けるような仄かな血の香。

 

思い出す度に、私がまだ死徒状態でないのかと錯覚してしまいそうだ。

 

「まぁ、驚かれるのは無理がないですよねー」

 

「いやぁ、本当に驚きましたとも。ですが、お陰で助かりました」

 

 さて、このアンバー先生。

 どういうカラクリで私を治したのかというと、こんな事情だったらしい。

 

 ―――わたし、実はちょーっと珍しい種族の出身でして。あんな風に自分の体液を分け与えることで、相手の生命力を増幅させることが出来るんです。ふふっ、貴女とわたしだけのヒミツですよ? 

 

 それが、彼女が語った事の仕組み。ちなみに狐耳と尻尾は、この"儀式"を行う時に顕現する本来の姿、らしい。曰く、「ドクターアンバーは世を忍ぶ仮の姿。こっちが本当のわたしですよー」だとか。

 原作さながらの感応能力を持つというアンバー先生、きっと色々苦労してきたのだろう、本当はあまり使いたくないというこの能力。―――それを、私の為に使ってくれた。

 

 ―――こんなの、惚れちゃうでしょ。

 一時的にとはいえ無理矢理吸血鬼化させられたのはともかく、ここまで真摯に尽くされたら、それはもう、性別とか関係無しに魅せられてしまう。事実、あれ以来私は―――彼女の血に憑かれている。

 

 ううん! いやいや駄目駄目。私は軍人。共和国の軍人だ。雑念を払えシャル――! 

 

「マスター! お目覚めと聞いて!!」

 

 シュー! 

 

 勢いよく医務室のドアロックが開かれて、聞き覚えのある川○ヴォイスが木霊する。

 

「あ……アルトか。ごめん、心配を掛けたね」

 

「ハハッ、これはこれは。一時は間に合わぬと思ったが、元気そうではないか」

 

「お陰様で。貴女の救援が無ければ助からなかったと聞きました。感謝します」

 

 続いて、ハイポリで大暴れしていた奈○様ヴォイスの戦闘狂。

 先生曰く、止めを刺される前に彼女がソーラ・バルグを止めてくれたらしい。先生とは別の意味での命の恩人だ。

 

《君の弟子から話は聞いたぞ。―――大丈夫か? お前》

 

「うわっ! なんか出た!?」

 

 突然現れた浪○ヴォイスのホログラム。いきなりの出現に、思わず腰を抜かしてしまう。

 

《なんかとは何だ。わざわざ僕が心配して様子を見に来てやったんだぞ》

 

「いや―――ほんとありがと。この通り、私は元気さ。先生のお陰だよ」

 

 通信を寄越してきたアナキンと周りの面々に対して、大袈裟に回復をアピールする。その裏では、アンバー先生が袖で口元を隠しながら手を振っていた。

 

《そうか、それなら良かった。ああ、ついでに評議会から伝言だ、シャル。コルサントに戻れってな》

 

「はぁ!? コルサント? …………もうちょっと寝かせてくれたっていいじゃない」

 

《そういう訳だ。身体には気を付けろよ。じゃあ、僕はこの辺りで失礼する。何せすぐフェルーシアに向かわなきゃいけないものでね》

 

「ええ――ありがとう」

 

 そう言い残すと、アナキンのホログラムは消えた。

 しかし、評議会…………評議会かぁ。あんまり良い予感はしないなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マスターから、ダークサイドのフォースを感じる。

 

 それも、どんどん強くなっていく。マスターが目覚めたときには、前とは比べ物にならないくらいに。

 

 きっと、あの女の仕業だ。

 

 そうだ、違いない。私から、マスターをかっ拐っていった泥棒猫。

 

 ……………ドクターアンバー。貴女は、マスターに何をしたのですか。




 琥珀さん(アンバー)の格好は、服装は原作琥珀さん(エプロン無し)、それにタイころアッパーの狐耳と尻尾が付いています。能力回りについては原作とさほど差違はありません。
 ベースは基本マジカルアンバーですが、時折月姫琥珀さんとトランスします。
 ………ところでメルブラ琥珀さんのボイス、地味にえっちいんですよね。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。