「うっ、ん…………ッ、こ、こは…………」
―――――ふと、目を覚ました。
薄暗い、部屋のなか。
壁一面には血管のようにチューブやパイプが張り巡らされ、時折脈打つように蒼白い光が流れる。
シュー。っと、扉のロックが外れる音。
「お目覚めですか? シャルさん」
「先生? それより、作戦は…………っ!?」
どくり。
一際激しい動悸が、全身を襲う。
「あ"っ…………ごはっ!? ごふっ……」
心臓と肺が握り潰されたような、鈍い激痛。それと共に、中身が吐き出されるような重い咳が止まらない。
「駄目ですよ、まだ首の皮一枚で繋がってるような容態なんですから。今は大人しくして下さい」
「…………はい、先生」
彼女の声に従うままに、起き上がろうと入れた力を身体から抜く。
ずどん。
軽い浮遊感とともに、私の身体は糸が切れたようにベッドに落ちた。
「今はご自分の心配をなさって下さい。大丈夫です、貴女の心配するようなことは起こってませんから」
「そう―――ですか。よかった」
先生の一声で、安心した。
任務は、成功したのだろう。損害はどうやら、最小限で済んでくれたみたいだ。―――寧ろ、あのソーラ・バルグを相手に生き残れたのは奇跡とすら言える。預かったこの天性の身体でなければ、きっと今頃斬られていたのは私だ。
「っ………………!?」
どくん。
また、心臓が激しく脈打つ。
不規則な脈が身体中を巡って、瞳の奥が焼き潰されるように熱い。
「ぐっ、あ…………」
「シャルさん!」
アンバー先生の、私を呼ぶ声。
肺に酸素が行き届かない。
彼女に声を掛けようとしても、漏れるのはかひゅー、かひゅーという細い呼吸音ばかり。
「ああ、やっぱり。バクタだけでは足りなかったみたいですね。―――――あんまり使いたくなかったんですけど、仕方ありません」
「せ……先生―――?」
室内に一ヶ所だけ開けられた耐弾ガラスの艦窓。
そこから覗く、見慣れない惑星の月明かりに照らされた彼女には、人の身には無い筈の獣じみた耳と尻尾が生えていた。
「いいですかシャルさん。これから起こることは、決して誰にも言わないで下さいね?」
彼女は普段の共和国軍の制服と白衣ではなく、原作さながらの焦茶色の着物―――ジェダイの着物のようにも見えなくもない衣装を纏っていた。
アンバー先生は、そのまま私に覆い被さるようにして身を乗り出し、袖から黒い液が入った注射器を取り出す。
「とりあえずお注射しますね~。なので大人しくして下さいまし」
「何故! っ――ごふっ!?」
なんでさなんでさなんでさ……!
ちょっ、待って、アンバーせ―――
ブスリ。
首筋に、無理やり注射打ち込まれた。
一体どんな薬なのかの説明ぐらい、あったって良いじゃないですか…………
そう思った矢先、突如として異変が身体に現れた。
「あ、あつ―――」
熱い。
あついあついあついあついあついあつい。
急激に熱を帯びた身体は、中身がパズルのように組み替えられていくような痛みに悶える。
あちこちの筋繊維と関節が悲鳴を上げて、本能すらも塗り替えられていくようだ。
「せん、せい…………?」
「今のは
「その空白は何ですかー!」
めっちゃ不安なんですけど……!
っていうかそのルビ、どう見てもちょー不審なんですけど!!
「ぐっ、うぅっ―――」
がつん、と、頭をハンマーで潰されたような感覚。
私の中で、ナニカが急速に塗り変わっていく。
「あ―――」
覆い被さった彼女の、白い首筋。
着物の隙間から覗くその肌を、無性に食い破りたい衝動に駆られる。
だ、だめ――――
私は、そんなんじゃないのに……
「―――いいですよ、シャルさん。さぁ、どうぞ召し上がって下さいまし」
彼女は自ら襟元に手をかけて、その白い柔肌を露にする。
ずるずると引き下ろされる着物とは反対に、面積を増していく白い肌。
その奥に躍動する赤い情熱に誘惑されるがままに―――私は牙を突き立てた。
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「お身体の調子はどうですか? シャルさん」
「ええ――大丈夫です。絶好調とまでは行きませんが、あの苦しさは綺麗さっぱり無くなりました」
あれから数日。
快方に向かった私は、あの薄暗い部屋から解放されて、普通の医務室に移された。
先生も甲斐甲斐しく看病してくれて、特にお粥なんかは本当に美味しい。
「ですが、あの…………すいませんでした」
「いえいえ、お気になさらず~。寧ろ私がけしかけたようなものですし。シャルさんはなんにも気にしなくて大丈夫ですよー」
「…………本当にすいません」
アンバー先生から血を吸ったあの時のことが、中々頭から離れない。結果的には良くなったとはいえ、やっぱり申し訳ないです…………いっそのこと、彼女の言うとおりに割り切れたら楽だっのですが。
―――甘く、蕩けるような仄かな血の香。
思い出す度に、私がまだ死徒状態でないのかと錯覚してしまいそうだ。
「まぁ、驚かれるのは無理がないですよねー」
「いやぁ、本当に驚きましたとも。ですが、お陰で助かりました」
さて、このアンバー先生。
どういうカラクリで私を治したのかというと、こんな事情だったらしい。
―――わたし、実はちょーっと珍しい種族の出身でして。あんな風に自分の体液を分け与えることで、相手の生命力を増幅させることが出来るんです。ふふっ、貴女とわたしだけのヒミツですよ?
それが、彼女が語った事の仕組み。ちなみに狐耳と尻尾は、この"儀式"を行う時に顕現する本来の姿、らしい。曰く、「ドクターアンバーは世を忍ぶ仮の姿。こっちが本当のわたしですよー」だとか。
原作さながらの感応能力を持つというアンバー先生、きっと色々苦労してきたのだろう、本当はあまり使いたくないというこの能力。―――それを、私の為に使ってくれた。
―――こんなの、惚れちゃうでしょ。
一時的にとはいえ無理矢理吸血鬼化させられたのはともかく、ここまで真摯に尽くされたら、それはもう、性別とか関係無しに魅せられてしまう。事実、あれ以来私は―――彼女の血に憑かれている。
ううん! いやいや駄目駄目。私は軍人。共和国の軍人だ。雑念を払えシャル――!
「マスター! お目覚めと聞いて!!」
シュー!
勢いよく医務室のドアロックが開かれて、聞き覚えのある川○ヴォイスが木霊する。
「あ……アルトか。ごめん、心配を掛けたね」
「ハハッ、これはこれは。一時は間に合わぬと思ったが、元気そうではないか」
「お陰様で。貴女の救援が無ければ助からなかったと聞きました。感謝します」
続いて、ハイポリで大暴れしていた奈○様ヴォイスの戦闘狂。
先生曰く、止めを刺される前に彼女がソーラ・バルグを止めてくれたらしい。先生とは別の意味での命の恩人だ。
《君の弟子から話は聞いたぞ。―――大丈夫か? お前》
「うわっ! なんか出た!?」
突然現れた浪○ヴォイスのホログラム。いきなりの出現に、思わず腰を抜かしてしまう。
《なんかとは何だ。わざわざ僕が心配して様子を見に来てやったんだぞ》
「いや―――ほんとありがと。この通り、私は元気さ。先生のお陰だよ」
通信を寄越してきたアナキンと周りの面々に対して、大袈裟に回復をアピールする。その裏では、アンバー先生が袖で口元を隠しながら手を振っていた。
《そうか、それなら良かった。ああ、ついでに評議会から伝言だ、シャル。コルサントに戻れってな》
「はぁ!? コルサント? …………もうちょっと寝かせてくれたっていいじゃない」
《そういう訳だ。身体には気を付けろよ。じゃあ、僕はこの辺りで失礼する。何せすぐフェルーシアに向かわなきゃいけないものでね》
「ええ――ありがとう」
そう言い残すと、アナキンのホログラムは消えた。
しかし、評議会…………評議会かぁ。あんまり良い予感はしないなぁ。
マスターから、ダークサイドのフォースを感じる。
それも、どんどん強くなっていく。マスターが目覚めたときには、前とは比べ物にならないくらいに。
きっと、あの女の仕業だ。
そうだ、違いない。私から、マスターをかっ拐っていった泥棒猫。
……………ドクターアンバー。貴女は、マスターに何をしたのですか。
琥珀さん(アンバー)の格好は、服装は原作琥珀さん(エプロン無し)、それにタイころアッパーの狐耳と尻尾が付いています。能力回りについては原作とさほど差違はありません。
ベースは基本マジカルアンバーですが、時折月姫琥珀さんとトランスします。
………ところでメルブラ琥珀さんのボイス、地味にえっちいんですよね。