共和国の旗の下に   作:旭日提督

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突然の出頭命令。

ハイポリの死闘を生き抜き、辛くもその命を繋いだシャルロット。彼女を待ち受けていたのは、評議会からの出頭要請だった。
 不調に喘ぐ身体を引き摺り、弟子のアルト、主治医のアンバーを伴って、渋々彼女は迎えの巡航艦〈タナトスⅢ〉に乗り込んだ………


幻霊

 ~サウザーン級艦〈タナトスⅢ〉~

 

 

 ジェダイ聖堂への出頭命令を受けた私は、艦隊の指揮を一時的にドラッヘ将軍に譲り、連絡船の巡航艦てコルサントに向かうことになった。

 

 〈タナトスⅢ〉という艦名のサウザーン級巡航艦に乗せられた私達は、狭い客間に通される。全長450mの軍艦は民間船に比べたら遥かに巨大ではあるものの、ヴェネター級に慣れた私にとっては少し窮屈な艦だった。

 

 ただ、窮屈さを感じる一番の原因は、目の前でいがみ合う星と狐が原因なのだが…………

 

「アンバー。何故貴様がマスターの隣に座る。マスターの介抱なら、弟子である私の仕事だ」

 

「あらあら、いけませんねぇアルトさん。剣を振るうことしか能のない貴女に病人の世話ができるとは思えません。ここは大人しく、専門家のわたしに任せて下さいましね」

 

「ぐっ…………この……!」

 

 狡猾に、飄々とわが弟子を翻弄するアンバー先生。その頭に、狐耳が揺れ動く光景を幻視する。

 

「という訳で、聖堂には私もご一緒させていただきますので、よろしくお願いしますね? アルトさん」

 

「誰が貴女のエスコートなど…………」

 

「まぁまぁ、その辺りにしておきなさい。別にアンバー先生に悪気があるわけではないんだし」

 

「マスター…………いえ、マスターはこの女がいかに危険かわかっていません! 彼女は貴女の暗黒面を……」

 

「暗黒面? いや、てっきり覚えがないんだがな…………まぁ、私は軍事的に問題がなければ別に構わないんだが」

 

「マスター!?」

 

 ―――っと、これは言い過ぎたかな。私はともかく、アルトはまだジェダイなんだし。

 

「いいかいアルト。ようは心の持ち様だ。確かにオーダーは様々なことを暗黒面に繋がるとして禁じているが、その理由は何だと思う?」

 

「え―――? それは………破滅をもたらすから、ですか?」

 

 私の問いに、言葉を詰まらせるわが弟子。

 それもそうだ。ただ単に、ジェダイの教育では"暗黒面は悪、破滅をもたらす"、としか教えられていない。肝心なのは、その先なのにも関わらず。だから今は一ジェダイに過ぎないアルトでは、残念ながら答えに辿り着くのは難しい。

 

「破滅、か。確かにそういった側面もある。だが、古代のシス帝国は一体何年続いたと思う?」

 

「あう………」

 

 彼女の答えに対し、私は古代シス帝国の繁栄を例に挙げて反論する。

 自分の答えでは説明しきれないと悟り、唸るアルト。かわいい。

 

「簡単なことさ。秩序の破壊と混沌をもたらすからだよ。いいかいアルト。善人であれ悪人であれ、暗黒面の力をふんだんに使った連中は銀河史に残る戦乱を引き起こしてきた。今もまさに、ドゥークーがそうしているように」

 

 自らの私利私欲の為に力を振るってきた連中はともかく、厳格な理想家だったドゥークーはそれ故に転向し、今や数えきれない死者を出した大戦争の黒幕だ。

 

 ―――帝国に喧嘩売る準備をしている私も、同じ穴の貉かもしれないな。

 

 刹那、そんな思考が頭を過る。

 

 いや、共和国軍人としては正しい選択だ。オーダー66と帝国の建国は今の共和国法及び部内規定に反している。上官殺し共は軍法会議で粛正を図り、パルパティーンは分離主義者のスパイとして軍事法廷で処断する。改革は然る後に行えばよい。帝国軍という名のパルパティーンの私兵共(分離主義者)は独立星系連合軍別動隊だ。ならば共和国軍は帝国軍を討たなければならない。

 然るに共和国軍の立場からすれば、オーダー66に対するカウンタークーデターは非常時の選択として適切といえる。

 

「だから、問題は暗黒面そのものではなく、それを用いた破壊活動――ひいては"共和国に敵対する行為"にあると言える。然れば多少アライメントが偏ろうが、共和国の国益の為に活動し、法に基づいていれば大した問題ではないのさ」

 

「は、はぁ…………なるほど、勉強になりました。マスターはそんな深い所まで考えていらっしゃったのですね」

 

「いやいやアルト、そんな小難しいことじゃない。いいかい、規制には必ず意図がある。理由があるから規制が生まれるんだ。逆に言えば、規制そのものが目的と化したら、それに最早意味はない。何故ならそれは徒に人間の権利を侵害するだけの悪法だからだ。―――その規制の意図を知るということは、実は重要なことなんだよ」

 

「はい、マスター。…………確かに直線的な思考は危険ですね」

 

 うむ。わが弟子も理解してくれたようで何よりだ。しかし―――

 

「そんなこと、ちょーっと考えたらすぐ分かることですよー。やっぱり頭の堅いジェダイにはシャルさんのことを任せられませんね」

 

「なっ…………アンバー!」

 

 ―――何してくれてんのさ先生。やっと宥めすかしたとこだったのに。

 

「だいたい、ジェダイは堅物過ぎるんです。そんなに世捨て人になりたいなら、大人しく山籠りでもすればいいじゃないですか」

 

「それは…………何も言えないなぁ。ただ、アンバー先生も抑えて下さい。私の弟子が困りますよ。アルトも、そろそろ止めなさい」

 

「マスター!? 何故この女の肩を持つのです!?」

 

「いや、だからさ…………」

 

 何故かジェダイに悪口を言い続けるアンバー先生を諌め、アルトにも注意する。

 だが、二人が止まる気配はない。

 

 ―――私を挟んでいがみ合うもんだから、私が一番気まずいのよ…………

 

「とにかく、喧嘩は無しだ、アルト。先生も大人になって下さい」

 

 ああ、今日も疲れた。

 

 よしっ、と。

 

 気怠い身体を起こし、ソファから立ち上がる。

 

「私は寝ますよ、先生。いい加減疲れました」

 

「ああっ、シャルさん! まだ一人で歩くには早いですよ!」

 

「ま、待てアンバー!」

 

 歩き始めた私の隣に、慌てて駆け寄ってくるアンバー先生。

 

「そうだアルト。君もこの時間は暇だろう。私の荷物に戦史の教本がある。今日はそれで勉強なさい」

 

「え? ですが、マスター」

 

「いいから、これは課題だ。今はそれに集中するんだ」

 

「…………はぁい」

 

 アルトには無理矢理課題を与え、強引に黙らせる。……私が出した課題なら、今までの傾向からすれば少しは真面目に取り組んでくれる筈だ。

 先生は……アルトから引き剥がしさえすれば大人の対応をしてくれる。だから今は、一旦アルトの注意を先生から離すのが最善だ。

 

 私はアンバー先生に介抱されながら、奥の居室にあるベッドに横になった。

 

「―――今日のは何ですか、先生」

 

「アハハ―――わたしとしたことが、ちょっと熱が入ってしまいまして。柄でもないことをしてしまいました」

 

 と、弁解する割烹着の悪魔。いや、今は"よそ行きの服"、いわゆる桜セイバーの衣装なのだが。

 

「…………あの通り、私の弟子は少々頑固でして。負けず嫌いなんですよ。よかったら、あれの面倒も見てやって下さいますか」

 

「むむっ、仕方ないですねぇ。シャルさんの頼みなら断れません。確かにわたしの方がお姉さんですからね。お願い通り、ちょっと大人になってあげます」

 

「頼みますよ、先生」

 

 ふふっ、と、袖口を口元に当てて微笑む琥珀…………アンバー先生。桜色の着物が案外似合っていて、それでいてどこか儚げな先生の姿が、原典の姿に重なる。

 

 ちなみに私の格好だが、生来の白髪に加えてなんか赤く戻った瞳、先生に「これなら着るのも楽ですよー♪」と渡された群青の浴衣みたいな着物姿だ。―――いやこれ、沖コハどころか女版シキと琥珀さんでしょ。…………なんでさ。

 確かにこれ、気楽だし動きやすいけどさ……

 

「シャルさん」

 

 ふいに、名前を呼ばれる。

 

「…………なんですか? 先生」

 

 ベッドに横たわりながら、アンバー先生を見上げる。

 

「貴女は―――いえ、何でもありません。今はゆっくりお休み下さいませ」

 

「先生? それはちょっと、なんだかモヤモヤしちゃいますよ」

 

 アンバー先生の、謎の言葉。

 歯切れの悪い途切れ方に若干引っ掛かりを覚えるも、先生の穏やかな空気に呑まれてそんなことはどうでもよくなる。

 

「ふふっ、ちょっとした秘密です♪ さぁ、明日は確実に面倒が待っているんですから、早く寝た方が良いですよ?」

 

「確かに、そうですね。―――わかりました、お休みなさい、アンバー先生」

 

「はい―――ごゆっくりと」

 

 先生に見届けられるがままに、意識を落とす。

 どうやら、私の身体はだいぶ疲れていたらしい。

 布団を被ってからというもの、意識が切れるのはあっという間のことだった。

 

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「シャルさん。貴女は―――他のジェダイとも、ましてやシスとも違う、"こちら側の人間"です。貴女ならば―――」

 

 混濁する記憶と記録。原典と派生、原型と亜種。

 皮肉にも、彼等が施した実験の数々が、自らの根源、原初の在り方を呼び覚ます。

 本来は単なる礼装でしかないわたし。流れ者に過ぎないわたし。そのわたしに、方向性という名のゼンマイを与えてくれた。

 

 ―――復讐。

 

 あれだけの実験です、きっとそうするのが自然なことなのでしょう。流石のわたしも、アレには一言申します!

 

 ………さぞ、楽しいことだろう。

 

 完璧な計画を、一番大事なところでどんでん返し。最後に笑うのはわたしの筈です。笑顔は向日葵、心は策士。ああ、なんと心地良いことか。

 だが、今のままでは何もかもが足りない。参謀が一人だけでは、軍隊は動かせない。

 どこぞの名士ならば策士一人で事足りるが、なにせ銀河規模の戦争なんて記録にない。これは流石の魔導元帥の産物たれど、手に負える範囲を越えています。

 

 ―――だから、貴女の軍隊が必要なんです。

 

「シャルさん。貴女が〈ヴィンディケーター〉で何をしていたか。わたしはちゃーんと見ていたんですからね」

 

 だから―――彼女の存在は、実に好都合だった。いや、原典の縁とすら言えるかもしれない。―――そうなるように仕組んだのはわたしといえど、上手く行きすぎて戦慄を覚えるぐらい。

 

 少なくとも言えることは、原典の亜種(わたし)派生の残滓(あなた)が出会うことは運命(Fate)ということだ。

 はじめは失敗したかと思いましたが、無事見つけることができました。

 

 だいじょうぶ。共犯者はちゃーんと支えてあげます。なにせわたし、魔法のお手伝いさんなんですから。

 

 

 あなたを生んだ責任は、しっかり取ってあげますよ。

 

 

「ふふふっ、さあ、楽しい楽しいフクシュウ劇のはじまりですよ♪」

 

 彼女は独り、常闇に嗤う。

 

 有り得ざる帝国の王、混血の魔法少女。

 

 彼女の左手の甲には、三角の紋様が燦々と輝いていた。

 




 クロス先はFGOと言ったな?あれは(ry
 ドクターアンバー、一体何カルアンバーさんなんでしょうねぇ( )

 ちなみに本作のヒロインですが、アルトは銀英伝で例えるならユリアン、アンバーはフレデリカポジになります。


■艦艇解説

〈タナトスⅢ〉

 シャルがコレリアに設計図を流した軍艦の一つ、サウザーン級巡航艦の一隻。艦名は銀河英雄伝説の同盟軍巡航艦から。名前は何気に琥珀さん関連でもある。
◎登場エピソード
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