共和国の旗の下に   作:旭日提督

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琥珀

「…………どういうことなんですか、アンバー先生」

 

 帰ってみたら、部屋は阿鼻叫喚の地獄絵図。

 

 原因として考えられるのは、彼女しかいない。

 未だに頭にステッキを刺したままの先生を、問い詰める。―――頭のステッキがカレイドステッキのように見えるのは、この際無視しよう。アレに、触れてはいけない気がする。…………主にカオス時空的な面で。

 

「まぁ、なんと言いますか―――――てへ♪」

 

「てへ♪ じゃないでしょう!? ―――ああもう、何を考えてるんですか」

 

 この人の性格なら、何をやらかしても不思議じゃないと呆れる一方、それを失念していた私も私だ。―――この人、信頼はしても信用しちゃいけないタイプの人だった――――! 

 

「いやいやシャルさん。先に手を出してきたのは貴女のお弟子さんですからね? 師匠想いなのはいいことですが、これはちょっと度が過ぎます。なのでわたしが教育しちゃいました!」

 

「貴女のソレは、教育じゃなくて洗脳でしょう……」

 

 ステッキを抜きながら喋る先生。悪びれた様子もなく、状況をむしろ楽しんでいるようだ。

 先生の頭から離れたカレイドステッキは、何故かどこぞの色男が使ってそうな飛び出しナイフに変形した。

 それを左の袖にしまった先生は、言葉を続ける。

 

「確かに、そうとも言いますね。――――ところでシャルさん。お弟子さんには、まだ何も伝えられてなかったんですね」

 

 先生の目か、妖しく光る。

 細めた瞼の隙間から覗く琥珀色は、見るものを破滅させる悪魔のように蠱惑的だ。

 

 ―――いや、待て。…………先生は、知っているのか。

 

「―――どこまで知っているんですか、先生」

 

「うふふっ」

 

 先生は、袖で口元を隠しながら微笑む。

 

「シャルさん、これはわたし達だけの秘密ですよ?」

 

 ぐいっ。と、間近まで迫る先生の貌。

 影を帯びた黒い笑みに囚われて、動けない。

 

「せん、せい…………?」

 

 耳元から、その囁きが離れない。

 

 計画がバレている。

 

 本来なら不味い事態の筈なのに、あろうことか、この私は彼女に見惚れて動けない。

 

 夕陽に照らされた先生の赤髪が、檻のように私を包み込む光景を幻視する。

 

 朱と紫。夕闇に溶ける着物姿の先生は、琥珀よりも檻髪を連想させた。

 

「貴女がやろうとしていること。わたしは全部知っているんですよ。だからシャルさん」

 

 ――――どうか、わたしを頼って下さいませ。

 

 先生の、悪魔の囁き。

 

 その一言で、全てが崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、その、なんだ。つまり先生は、我が弟子も巻き込んでしまった、と」

 

「はい。どのみち、何れはそうせざるを得ない運命だったのでしょう? ならいっそのこと、ここで取り込んでしまおうかと」

 

 ―――状況を整理する。

 

 これはアンバー先生の申し立てだけになるが、先ずアルトが先生を詰問。

 そのまま両者実力行使の喧嘩になり、夕陽の川原的なアレで一周回って晴れ晴れ和解。んでその切欠が、先生が話した私のあんな秘密やこんな秘密なんだとか。

 

 ―――責任感の強い彼女のことだ。そんな話を聞いてしまえば、取る選択肢なんて一つしかない。

 彼女に限って、評議会やパルパルに密告、なんてことはない筈だ。本来ならもっと彼女が育ってから、と考えていたのだが、この際それは仕方ない。これは、後でアルトが起きたら一悶着ありそうだ。

 

 で、その肝心の先生は―――分からない。

 だけど、彼女の表情が本物ならば…………

 

「先生。一つだけいいですか」

 

「はい。何ですか? シャルさん」

 

 憂い気に佇む先生は、微笑みながら穏やかに応える。

 

「―――信じて、いいんですよね」

 

 私の計画を、知っていると語る先生。

 彼女が分離主義者(パルパティーン)の手先という可能性を否定するものは、何もない。むしろ、手先ではないのかと疑った方が戦術的に正解だ。何せ彼女は、怪しすぎる。

 

 だけど―――――この霊基(からだ)は、彼女を信じたいようだった。

 

 中途半端に月姫(ちしき)がある所以なのか、はたまた単に私が彼女に惹かれているのか、それは私でも分からない。――――だが、利用こそすれど、彼女は私を裏切らない。

 

 そんな、確信めいた、非合理的な感情が肥大化する。

 

「勿論です。今のこの身は、貴女のお手伝いさんですから」

 

 参謀役ならお任せ下さい。と、何てことはないように彼女は言った。

 

「――――ああ、安心しました、先生」

 

 貴女とならば、何処までも堕ちていけそうだ。

 

 

 

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「マスターヨーダ。彼女の状態、如何ですか」

 

「うぅむ…………帳が、かかっておる。よく見えん」

 

 ジェダイ最高評議会。

 

 聖堂に聳える尖塔の一角に設けられた、12名のジェダイ・マスターによって構成された、ジェダイ・オーダーの最高意思決定機関である。

 

 その最高評議会では、召喚したジェダイ・ナイト、シャルロットについての話題で持ちきりだ。

 本来ならば暗黒面に堕ち、共和国を裏切ったジェダイ・マスター、ソーラ・バルグについての聞き取り調査の場であった筈が、いつの間にか内なる暗黒面を肥大化させていた彼女に話題が移ったのだ。

 

「帳…………暗黒面ですか」

 

「左様。彼女の未来は…………曇って見えぬ」

 

 グランドマスター、ヨーダが告げる。

 

「しかし、いつも通りあっけらかんとしていましたね、彼女は」

 

 そう発言したのはオビ=ワンだ。

 なにかとアナキンを通してシャルロットと絡む機会の多い彼だったが、彼女の様子は平静そのもの、いつも通りと言っていい。暗黒面に呑まれれば感情的になる筈が、逆に彼女のフォースは澄んだ水面のように静寂だ。

 

「確かに。彼女のフォースは安定しているように感じた。暗黒面とは対極だ」

 

「しかし、光明面が強い訳でもない。そもそも彼女は素行不良だ。どうやら軍隊では優秀なそうだがな」

 

 言葉の応酬を交わすのは、プロ・クーンーとキ=アディ・ムンディ、二人のジェダイ・マスターだ。

 

 通常、暗黒面は感情、特に負の感情を増幅し、力に変える。しかし彼女は、政治への不満は隠そうとしないものの、常に理論的な思考に終始する。そこにあるのは理で、情は驚くほどに少ない。

 

 だが、ムンディは彼女の光明面の薄さを指摘する。

 本来ジェダイならば持ち合わせて然るべき禁欲、節制、謙虚といった、光明面に繋がる善行が少なすぎる。奉公精神こそあるものの、それは明らかに軍人としてのものだ。

 

「マスター、やはり彼女は危うい。ここは処遇を考えては?」

 

「うむ…………いや、まだじゃ。…………まだ、様子を見よう」

 

 ウィンドゥの言葉を退け、ヨーダは静観を決める。

 

 シャルロットの光明面が小さい。それは彼も自ずと感じていたことだ。

 

 ―――ご安心を、マスター。敵は全て斬り伏せて参りますので。

 

 いつかの言葉が、ヨーダの中で反芻する。

 

 シャルロットの行動原理。暗黒面を宿しながら、静寂を保つ彼女のフォース。

 その理由が、彼女の行動原理、判断基準が"軍事的合理性"の一点に集約されることは、何となくでも察せられた。…………つまり、彼女はジェダイに籍を置きながら、フォースを省みていない。ただひたすらに共和国の旗の下に誠を立て、歯車として自身を稼働させ続ける。

 

 危ういことこの上ないが、暗黒面を抑え込むには効果的だ。

 オーダーでは、ジェダイとしての在り方と、戦争に荷担する自分という現実。その二律背反に耐えかねて、オーダーを去る者が相次ぎ、暗黒面への転向者も少なくない。

 そんな中、そういった(しがらみ)を何もかも切り捨てて、歯車に徹する彼女の姿勢。確かに、フォースもろとも暗黒面の影響まで完膚なきに斬り捨てられるだろう。彼女は自身を軍人と律し、フォースの位置を相対化することで、暗黒面を無視している。

 

 だが彼は、彼女がフォースを"戦力"という、軍事的な観点からしか眺めていないという事実に、ひどく深い悲しみを覚えた。

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