共和国の旗の下に   作:旭日提督

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 探偵コクトーの仲介を得て、かつての知己の賞金稼ぎとの連絡を回復したシャルロット。
 彼女は自らの弟子アルトに秘密の任務を与え、賞金稼ぎのアシュタレト、ジェーンの二人とともに悪名高い犯罪組織パイク・シンジゲートのお膝元、惑星オバ・ダイアの月へと送り出した………


失われた者(Ⅰ)

「ほほぅ。さては貴女、何も知らないんですね」

 

 脳裏に浮かぶのは、あの憎たらしい女狐の声。

 一応協力者として信用はしているが、信頼の置けない胡散臭いやつ。

 

「……何のつもりだ、アンバー」

 

 怪しげなステッキを振りかざし、摩訶不思議な異空間を造り出したアンバーが告げる。

 周囲から空間ごと隔絶されたこの異世界、建物は硝子細工、空は万華鏡に彩られた。どんな原理かは分からないが、超強力なレイ・シールドのようなものだと無理矢理自分を納得させた。

 

「なにもそんなに殺気立てることはありませんよアルトさん。わたしは貴女に、ちょーっとシャルさんの手助けをして欲しいだけなんです」

 

「マスターの?」

 

 胡散臭いことこの上ないが、一先ずは話を聞くべきか。

 私はアンバーに突きつけたセーバーを下ろし、鋒を奴から外す。

 

「ええ。シャルさんったら、怠惰なように見えてその実努力家でお人好しなんですから。貴女を巻き込まないように秘密にしていたんでしょうね。ですが貴女。―――こっちに来ないと死にますよ?」

 

 ――――セカイが、凍る。

 

 いつものように微笑みながら、何の感情も載せずに放たれたアンバーの言葉。

 

 全身が蛇に睨まれたような錯覚に陥り、私は思わず息を呑んだ。

 

「…………どういう事だ」

 

 辛うじて喉から捻り出した、疑問の声。

 疑念、疑心…………奴の言葉に、ぐちゃぐちゃに心が掻き乱される。

 

「そのままの意味ですよぅアルトさん。アナタがジェダイのままでいたら、いずれ破滅を迎えます。でしたら手早くチャチャっと、こちら側に引き込んでしまおうかと」

 

 朗らかなアンバーの口調と、まるで一致しないきな臭い言葉。

 ここまで来たら、彼女がひどく人形のようにすら見えてくる。

 

「私にジェダイを辞めろと? ―――さては貴様、シスの手先か!」

 

 物心ついた時から、染み付いていたジェダイとしての自分。それを捨てろと、この女は言った。

 思えば奴が現れてから、マスターの暗黒面が強くなったように感じる。ならば、やはり彼女はシス―――ドゥークーに連なるシスの暗黒卿の一員なのやもしれぬ。

 セーバーを再び構え直し、外していた鋒を突きつける。

 

「――――――――その短絡さが、アナタ達を滅ぼすんですよ、アルトさん。貴女も愛しのシャルさんと別れたくないでしょう? なら、わたしの手を取ってくださいな」

 

 こう見えてもわたし、お節介さんなんですよ。

 

 そんな言葉を続けながら、臆することなく右手を私に差し出すアンバー。

 ―――確かに、マスターと離別するのは悲しい。

 ダメ人間なように見えてその実思慮深くもあり、時折どこか遠いところへ行ってしまいそうな儚さをも醸し出すあの人。

 私にはまだ、あの人が必要だ。

 出会ったその時から、私はあの人に…………

 

 ―――なんて、残酷。

 

 奴は的確に、私の弱点を抉ってくる。

 掟に反すると秘めた思いを、何の配慮もなく土足で踏み荒らしていく。

 その実まるで天使のように、光に見える道へ誘おうとする割烹着の悪魔。

 

 たとえ剣で勝てたとしても、斬る隙も与えられず、私は言葉で負かされるのだろう。

 

「…………まずは、話を聞かせてもらうぞ」

 

 剣が、折れる。

 

 じわりと広がる、興味と不安。

 

 奴の言葉は冷酷にも、私の殻を切り裂いていった。

 

 

 

 ………………………………………………

 

 

 ~アウター・リム・テリトリー、惑星ケッセル上空~

 

 

「ふーん。で、あんたが遣わされたって訳」

 

「ええ。マスターからの依頼は伝えた通りです。任務には私も同行します」

 

 宇宙を往く一機の小型宇宙船、SS-54アサルト・シップ。

 青と金に彩られたガンシップ〈マアンナ〉は、客人を迎え入れて闇に潜みながら飛翔する。

 

 この機体は賞金稼ぎのアシュタレトとジェーンが拠点としているものだが、今は普段とは異なり、ジェダイ・ローブを纏った便乗者を乗せている。

 ジェダイ・パダワン、アルト・エーベルヴァイン。

 

 本来ここに居ない筈の彼女が遣わされたのは、オバ・ダイアの月という危険地帯に赴くに当たっての、師匠シャルロットなりの保証だった。

 

 ……………………………………………………

 

「アルト、今回は彼女達と行動するんだ。私は見ての通りだからね。君にしか頼めない」

 

「はい、マスター!」

 

 ようやく与えられた、マスターからの単独任務。それも、マスターの計画を支える重要な仕事。

 シャルロットの計画の一端を知って以来、ずっと彼女の力になりたかったこのパダワンは、内心でステップを踏むほど小躍りした。

 

 だが、オーダーにも内緒の秘密任務だ。気掛かりな点も幾つかある。

 

「――ですが、私が不在の間はどうやって誤魔化しますか? 何日も聖堂を離れては、流石に感付かれると思うのですが」

 

「ああ、それなら問題ない。――アンバー先生」

 

 ここでマスターは、にっくきあの女狐の名前を呼んだ。

 私をマスターの計画に引き込んだ恩人でもある彼女だが、私からマスターの隣を奪った泥棒猫。

 計画だって、あいつと違って全てを知らない私はマスターの手足に過ぎない。彼女のように、共に立って進む席には座れない。

 そうだ。結局私は、アンバーの言葉に踊らされているだけ。マスターのことだって、奴から聞かなければなにも知らないままだった。それでもまだ、奴の方が…………

 

 ―――いけない。今はマスターの任務に集中しないと。

 

 降りかかった邪念を押し退ける。アンバーを見返すためにも、今はこの任務を頑張らなくちゃ。

 

「はいはーい。アレですねーシャルさん! サファイアちゃん、変身!」

 

《はい、姉さん!》

 

 阿吽の呼吸を見せるマスターとアンバー。羨ましくないといえば嘘になる。

 アンバーは袖から棒切れを取り出すと、それを天に向かって投げた。

 棒切れは眩い光を放ち、眩しさに思わず目を閉じる。

 そして私が目を開けたときには、目の前には"もう一人の私"が立っていた。

 

「――――え?」

 

「アルト様の容姿、能力のコピーに成功。これで、心置きなく任務に専念できる筈です」

 

 恐らくは、アンバーの秘密兵器かなにかなのだろう。

 私の姿を模したそれが、私の声で語りかける。

 

「うわぁ…………確かにこれなら、聖堂のみんなを誤魔化せますね!」

 

「…………そういう訳だ。だからアルト、こちらの心配は無用だ。任務に専念するといい」

 

「―――了解です、マスター!!」

 

 

 ……………………………………………………

 

 こうしてアンバーの策で身代わりを無事用意できた私は、ジェダイ・オーダーの目を盗んでコルサントから一路ケッセルまでひとっ飛び。探偵のコクトーさんのツテで件の賞金稼ぎとの接触に成功。依頼内容を伝え報酬の一部を前払いにして、無事彼女達と合流できた。

 

「しかしまぁ、行く先がオバ・ダイアの月なんて…………一体何を考えてるのかしら、あいつ。パイクの拠点に乗り込むなんて正気とは思えないわ」

 

「ま、いーじゃんアシュタりん。面白ければ大歓迎よ」

 

「あんたは気楽でいいわね…………」

 

 ガンシップのブリッジでは、持ち主二人が軽口を叩き合っている。

 その光景が、マスターとアンバーに重なって…………

 

「さて! オバ・ダイアに着く前に、改めて仕事の確認をしましょう」

 

 ―――払い除ける。

 

 今は任務が第一だ。

 アシュタレトとジェーンの二人に、わざと元気に声をかける。―――下手にマスターのことを考えると、あの時の感情が勝手に再生されてしまう。

 

「うわっ、いきなり何なのよ」

 

「いきなりとはなんですか。いいですかアシュタレトさん。マスターはあなた方の力を見込んでこの仕事を依頼したんです。なので打ち合わせは入念に。失敗するわけにはいきませんから」

 

 アシュタレトを黙らせて、改めて任務の内容を二人に伝える。

 

 現場こそオバ・ダイアの月という危険地帯だが、内容はいたって簡単。墜落しているジェダイシャトルを探し出して、そこにある記録や物品をできるだけ持ち帰ること。

 探し物は手間こそかかりそうだが、危険性は低いと言える。

 

 さて、マスターのための初任務、張り切っちゃうぞー! 

 

 

 

 

 ……………………………………………………

 

 

 ………………………………………………

 

 

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 ……………………………………

 

 

 

 

《カルデアスからシャーウッド。アドミラルティ・コード66の開封を許可、オーバー》

 

《シャーウッドからカルデアス。開封確認、オーバー》

 

《了解。カルデアス、アウト》

 

 

 …………………………………………

 

 

 ケッセル・ランを往く3隻のコルベット。

 黒いCR-90クラスからなる小艦隊は、終点オバ・ダイアを目指して進む。

 

 漆黒の闇に、溶け込むように。

 

 

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