共和国の旗の下に   作:旭日提督

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カイン

《報告します。キャプテン・ダスティ以下挺身攻撃隊40名はオバ・ダイア近海への潜入に成功。アドミラリティ・コード66を実行中です》

 

 ホログラムのクローン士官が、淡々と報告する。

 彼はキャプテン・シュナイダー、「動くシャーウッドの森艦隊」に属する兵の一人だ。

 

「了解した。引き続き作戦を遂行せよ」

 

《イエッサー。続いて定時報告です。わが艦隊は新たにフリゲート1、クルーザー3、コルベット22を獲得。その他の艦艇についても8隻を鹵獲しました》

 

「いい戦果だ。引き続き期待しているぞ」

 

《ハッ、今後も精進して参ります》

 

 ここで、送られてきた暗号文に目を通す。

 新たに「動くシャーウッドの森」に加わったのは、以下の艦艇だ。

 

 ミュニファスント級スター・フリゲート 1隻

 クエーサー・ファイア級バルク・クルーザー 3隻

 CR90コルベット 16隻

 DP20コルベット 5隻

 ゴザンティ級クルーザー 1隻

 AA-9コルサント・フレーター 1隻

 HCT-2001ドラゴンボート級ルジョー905貨物船 4隻

 GS-100廃品回収船 1隻

 YV-865オーロラ級貨物船 2隻

 

 今回の鹵獲艦艇の内訳を見ると、コルベットや貨物船といった広く一般流通している艦艇が多い。やはり軍艦は戦闘で破壊されるケースが多く、主力艦の獲得は低調だ。

 ただ、秘密に動き回るならこうした軽快艦艇や民間船の方が効率的だし、ドラゴンボート級やオーロラ級は犯罪者が好む船なので裏社会にも溶け込みやすい。地道に活動する上では不可欠な艦艇といえるだろう。

 

《続いて拠点整備の件についてです。伴銀河リシ・メイズの拠点化は順調です。カミーノの奥に位置するアムリッツァ、アルテナ両星系には前哨基地を設置。ティアマト星系内のガス惑星レグニッツァには採掘ステーションとアタック・クルーザー級が入渠可能なドックを兼ね備えた大規模拠点を整備しました》

 

 報告を聞いて、満足感が込み上げる。

 拠点整備は、どうやら予想以上に順調らしい。

 カミーノより奥の宙域は前人未到の宙域、そう簡単に見つからないだろう。念のため2星系分の縦深を確保したから、今のところの本拠地であるティアマトの防衛も問題ない。そのティアマト星系も、着実に拠点化が進んでいる。暗号文によれば、居住可能な第4惑星ラフムには陸軍拠点を整備、第5惑星レグニッツァ上空には大規模拠点オービタル・ステーションを整備中とある。帝国に対抗するためにはまだささやかな規模であるが、着実に準備は進んでいる。

 更にリシ・メイズの探索を進めた結果、ティアマト星系の後方に拠点化に適した星系を3つ発見したとある。私は愛読書(銀英伝)に倣いそれぞれにヴァンフリート、アスターテ、ドーリアと名付け、前哨基地の設置を指示した。

 

「よろしい。今後もそのペースで頑張ってくれ」

 

《ハッ。それでは、失礼致します》

 

 ホログラムが消え、暗号通信が終了する。

 

 同時に、どっと疲れが押し寄せた。

 

 

 

 

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 ―――我が剣は、貴女と共にある。貴女の行く末ならば、どこまでもお供しましょう。

 

 

 ―――ちっ、帝国軍はヴァンフリート星系を抜けたか。…………第7艦隊をバーミリオンに結集、そこで帝国軍艦隊を迎え撃つ! 

 

 

 ―――〈イストリア〉を放棄、旗艦を〈サンダーリ〉に移す。…………総員、退艦! 

 

 

 ―――先陣は、わがペンドラゴン辺境伯領艦隊にお任せを。必ずや、あの超兵器を葬って差し上げます。

 

 

 ―――ガイエスブルク、両舷全速! 要塞主砲(エクスカリバー)の充填を急げ!! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「…………あ――れ、私…………」

 

 微睡みから、緩やかに覚醒する。

 

 ブラインドから差し込む光は遠くの微かなネオンの灯りと、星空の瞬きだけ。どうやら、随分と寝込んでいたらしい。

 

 ―――あの夢は…………

 

 ビジョン、だろうか。

 

 瞑想しないで、自然に発露したのは初めて………だと思う。少なくとも、覚えている限りでは初めての筈だ。

 

 私のフォースが揺らいだ? まさか、な。

 

 戦争しか考えてない似非ジェダイの癖して、まさかフォースが強くなるとか、そんなことは無いだろう。

 私はあれを、偶然と片付けることにした。

 

 ………………………………………………

 

 ふと、髪に暖かな感触が生まれる。

 見上げるとそこには、柔らかな微笑みを浮かべたアンバー先生がいた。

 

「ようやくお目覚めですか? シャルさん。もうすっかり夜になってしまいましたよ」

 

 彼女は私の髪を撫でながら、穏やかな声色で語り掛ける。

 枕にしては暖かいな、と思っていたが、どうやら私は彼女に膝枕をされていたらしい。私を覗き込む彼女の表情は、いつにも増して穏やかだ。

 仄かな灯りに照らされた優しい闇の中にいる彼女はまるで―――母を連想させるようだった。

 

「―――どうやら、その様ですね。すいません、少し疲れてしまったようで」

 

 あれ以来、体調は確実に快方に向かっている。だが、今までの無理が祟ったのか。ふとした瞬間に力が抜けてしまうことがしばしばある。今日のそれも、同じようなものだろう。

 

「だめですよシャルさん。確かに以前に比べたら良くなってますが、貴女はまだ病人なんです。お仕事も大事ですが、今はご自分の身体を労って下さい」

 

 めっ、と、母親が子供を叱るような仕草で、アンバー先生が私を諭す。

 

 ――――確かに、指揮官がこれでは部下に示しが付きませんね。

 

「動くシャーウッドの森」との通信ではつとめて冷静かつ威厳があるように意識してるが、彼等の上官がこんな醜態を晒しているとは、情けないことこの上ない。

 戦争はまだ続いている。早く回復して前線に立たなくては。

 

「あっ、今"私は軍人なんだから、早く戦場に行かないと"とか考えてましたねシャルさん?」

 

「ははっ、お見通しですか」

 

 …………やっぱり、アンバー先生には敵わない。

 私の考え事は全部、彼女にはお見通しのようだ。

 

「もう、何度も言ってるでしょうシャルさん。貴女は少し真面目すぎるんです。休むことだって大切なんですからね。今は余計なことは考えず、お身体の調子を戻すことに専念しないと駄目ですよ」

 

「いやはや……面目ないです」

 

 ―――先生といると、何だか心が洗われたみたいで心地いい。膝枕の柔らかい感触が、その安らぎに拍車をかける。

 

 うん、先生の言う通り、今は少しだけ歯車から外れてもいいかな。

 

 ―――深く、沈む。

 

 先生に髪を撫でられる感触と、膝のあたたかい感触に、深く静かな海へと誘われるよう。

 

「…………ところで先生。アルトは、上手くやってるでしょうか」

 

 ふと、初めて一人送り出した、愛しのわが弟子が頭に浮かぶ。

 

 …………(ビジョン)のせいか、余計に彼女のことが気にかかる。

 

「はい。貴女のご自慢のお弟子さんのことですからね、きっと大丈夫ですよ。ですから今は落ち着いて、どうかわたしに身を委ねて下さいませ」

 

「そうですか―――安心しました」

 

 これなら、心置きなく眠れそう。

 

 ゆっくりと瞼を閉じて、アンバー先生に身を預ける。

 

 今日はなんだか、いい夢が見れそうだ。

 

 

 …………そのときだった。

 

 部屋のドアがシューっと開き、来訪者の存在を告げる。

 柔らかい闇に満ちた空間に、光の棘が痛々しく射し込んだ。

 

「やぁナイト・シャルロット。体調の方はどうかな?」

 

 君が敗れたと聞いたものだから見舞いに来たんだ、と差し入れらしい果物を見せびらかすのは、30代にして既に老けた見た目のわが盟友( )オビ=ワン・ケノービ。聞くところによると、最近マスターに昇格したらしいじゃないか。

 

「なーんだオビ=ワンじゃないですか~。その様子だと、仕事は一段落した感じです? 私は見ての通りですよ」

 

 アンバー先生と二人きりの時間を邪魔されたことを若干根に持ちつつも、有り難く差し出された果物を頂戴する。

 

「あら、この方は――」

 

「おっと、自己紹介が遅れましたな。ジェダイマスターのオビ=ワンです。貴女がナイト・シャルロットの主治医さんで?」

 

「はい。軍医のアンバーと申します。今はこの通り、シャルさんを公私共にサポートさせていただいてます」

 

 ふふっ、意外と気があっちゃって。今はお友達なんですよ~、とは、割烹着の悪魔談。ごく自然な仕草で、彼女はオビ=ワンに打ち明けた。

 

「ほぅ? この破天荒の友人ですか。さぞ苦労されていることでしょう」

 

「あははー。本当にその通りですよもう。シャルさんったら、いつも暴れることしか考えてないんですから。苦労しちゃいます」

 

 おい、なんですかその目はオビ=ワン。 同類を見つけたかのような嬉しそうな目をしちゃって。言っておきますが、カオス加減でいったらアンバー先生の方がヤバいんですよ? そしてアンバー先生も、これ好機と悪ノリしするな。

 

「ではシャルさん、私は果物を剥いてきますね」

 

 失礼します、と膝を外して、先生は台所へと消えてしまう。ああっ、せっかくの極楽が…………

 

 トコトコと、台所へ消えてしまうアンバー先生。

 それを見送った私は、視線をオビ=ワンへと向ける。

 

「…………で? 何の用ですかオビ=ワン。まさか差し入れだけ、なんて事はないでしょう?」

 

「ああ、君は変なところで鋭いな。―――その通りさナイト・シャルロット。マスターヨーダが、貴女のことを案じている。今日はそれを伝えに来た」

 

「マスターヨーダが? なんでまた、そんな……」

 

 マスターヨーダからの伝言を授かってきたというオビ=ワン。彼は私を案じているというが、その本心が別のところにあるのは明白だ。

 少なくとも、素行不良な私が彼に気をかけられる理由なんて無い筈だ。

 

「ああ。君の中で暗黒面が増していると、マスターヨーダは言っておられる。…………君に限っては杞憂だと思うが、気を付けてくれ」

 

 君はアナキンとも親しいんだし、と付け加えると、オビ=ワンは踵を返して扉へと向かう。

 

「―――そういう訳だ。お大事に、ナイト・シャルロット」

 

 では失礼、と何事もなかったかのように退出するオビ=ワン。

 

 …………。

 

 流石に、評議会を誤魔化すのは難しくなってきたか。

 

 今の私は、最早ジェダイなんてものじゃない。

 この戦争が始まってから軍人として生きてきた。―――いや、軍人たらんと振る舞うことであの時(ジオノーシスの戦い)に感じた破壊衝動を誤魔化してきた。

 ―――最初は気にしてなかったが、敵を斬る度に沸き上がる黒い感情。それは、軍事的に邪魔なモノだ。指揮が鈍る。制御できないバーサーカーは、ジョーカーではなくスペード以外の3と同じだ。そんなものに、戦場にいる資格はない。

 次第に肥大化していくそれを誤魔化すためにも、より一層歯車たらんと努めて生きた。

 

 …………それも、限界なのかもしれない。

 

 いよいよもって、本格的に転職しようか。

 

 破壊を求める本心を殺して、民主主義国の軍人として自身を再定義するにはいい機会だ。…………でなければ、尊敬する彼に顔向けできない。

 

 そんなことを考えていると、足音が近づいてくる。

 

 果物を剥き終えたアンバー先生が、それをトレーに載せて差し出した。

 

「あら、オビ=ワンさんはもうお帰りになられたんですね」

 

「ええ。少し見舞いにきただけだったようで」

 

 はい、どうぞ。と目の前に置かれた果物を口に運び、今は閉ざされた扉を見遣る。

 

「それはそうとしてシャルさん。また考え事してましたね?」

 

「やっぱりお見通しですか、先生」

 

 今日何度目かわからない、使い古されたフレーズを繰り返す。

 

 ――――ああ、やっぱり、貴女の隣は落ち着いていい。

 

 アンバー先生と、他愛ない雑談を交わす。

 

 今はそれだけで、心が鎮まってくれそうだ。




今回は、アルト達がオバ・ダイアの任務に赴く一方のシャルサイドです。

アンバー先生は第三者がいる場合はマジカルアンバー(カレイドルビー)、シャルと二人きりのときは月姫の琥珀さんを意識しています。

今回の各話タイトルは琥珀さんの膝枕回から。琥珀さんは包容力があって素敵ですよね(なおアンバーry)
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