共和国の旗の下に   作:旭日提督

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 元老院と宇宙軍司令部から惑星ザイゲリアへの壊滅的な軌道爆撃、ベース・デルタ・ゼロを命じられたブリュッヒャー。
 彼女は遂に、その引き金に手を掛ける―――


ザイゲリア軌道爆撃

「全艦に通達。これより我々アウター・リム第3艦隊は、惑星ザイゲリアに対する"ベース・デルタ・ゼロ"を実行する。各員配置にかかれ!!」

 

 ―――ベース・デルタ・ゼロ。

 

 共和国宇宙軍が究極の軌道爆撃として生み出した、全てを灰塵へと帰す最終手段。

 本来は頑迷な抵抗を続ける分離主義者の軍勢に対する最後の攻撃手段として規定されたこの爆撃は、絶え間ない艦載レーザーの雨嵐により惑星地表を原始時代に還すにまでドロドロに溶かし尽くすものだ。軍事施設のみならず都市や産業、インフラ、果ては人口まで根絶やしにするこの手段は、非人道性という面では共和国宇宙軍が持つ攻撃手段の中でもトップクラスに位置している。

 

 ―――全く、なんで私に押し付けるかなぁ。

 

 故に、できればこんな手段は使いたくなかったのだが、議会の決定には逆らえない。

 元老院がザイゲリアへの宣戦布告を決めたときに、パルパティーン最高議長が提唱した奴隷帝国の完膚なき壊滅。

 分かりやすい悪を圧倒的武力で挫き、共和国の意思の強さを敵である分離主義者、守るべき共和国国民、そして宇宙の癌細胞である犯罪者共に示すという議長のプランは、多数の支持で可決され、宇宙軍にはザイゲリアが要求を拒否した場合にベース・デルタ・ゼロを実行するよう求められた。

 

 ザイゲリアが屑なのを差し置いても多少人道的に問題がない訳ではないが、これが民意に基づいた合法的かつ正式な命令である以上、民主主義国の軍人たる共和国軍人の私はそれに忠実でなければならない。ジェダイとしては拒否するのが正しいのだろうが、正当な決定プロセスを経た合法的な命令を一個人の感情で拒否するなど、軍隊という国家的な暴力装置の私物化に他ならない。それが軍人として許されざる行為であるのは明らかだ。――ジェダイが軍人としての役割を引き受けた上で生じた、必然的な矛盾といえる。

 

 倫理的な正しさ、無償の奉仕―――即ちライトサイドを是とするジェダイ・オーダーの教義と、プロセスの合法性さえ確保されていれば命令に従う以外の選択肢がない軍人。この二つが対立することぐらい、容易に思い付くだろうに。その矛盾を放置したまま剣を執り、自らを戦士に貶めたが故にジェダイ・オーダーはかのソーラ・バルクを始めとする大量の離反者を出したのだ。

 しかし、オーダーの主たる関心は戦争の趨勢に移り、この問題と向き合うことを避けてきた。かつて公平かつ独立した調停者だった筈のジェダイは、今やクローン・トルーパーと変わらない共和国の旗の下に戦う一戦士に過ぎない。私のように自らを軍人と定義するならまだしも、教義に篤い者ほどこの矛盾に苦しむことになった。

 にも関わらず、オーダーはこの現状を見ようとしない。いや、見たくても見れないのだ。聡明なマスター達は当然この矛盾に気付いているものの、全てがダース・シディアスの掌の上。間違いだと感じながらも進むしか道は無いのだ。

 

 ―――全く、本当にえげつない方だ。

 

 その力を全て共和国の為に振るってくれたら、どんなに良かったことか。

 "ベース・デルタ・ゼロ"を命じられた私は、パルパティーン最高議長の手腕への感銘を抑えられなかった。敵ながら天晴、とは正にこの事なのだろう。

 あの人の手練手管は、正に神の見えざる手(インヴィジブル・ハンド)と言えよう。今回の命令の実行犯たる私も、その術中からは逃れ得ない。むしろ、私とジェダイ・オーダーを引き剥がすことも目的の一つなのだろう。

 

 ―――こりゃあ、帰ったら間違いなく一悶着あるぞ。

 

 定められた波瀾万丈。それを予期しながらも、回避する術を持たない。ここで私が軍人を捨て単なる一ジェダイに戻ったとしたら、今までの行動が全てパーだ。水泡に帰すと言っても過言ではない。かといって、軍人を貫けば確実にマスターウィンドゥ辺りとは対立待った無しだ。

 

 ―――ははは、参ったなぁどうも。…………よし、アンバー先生に逃げよう。

 

 予測可能回避不可能な波乱を前にショートした演算機構は、遂にその思考を放棄して母性へと回帰することを決断した。

 だって、もうどうにもならないんだもん。

 

「すまない、アナキン、アソーカ。少し長丁場になりそうだ。君達は先にシャトルで戻っていてくれないか」

 

 思考の一部が幼児退行を起こす中、辛うじて平静を保っていた分割思考の一つがアナキン達に要請する。

 …………少なくとも、今の彼は素晴らしいジェダイだ。幾ら奴隷帝国に思うところがあるとはいえ、目の前で"ベース・デルタ・ゼロ"に立ち会わせるのは酷な話だ。彼の暗黒面(ダークサイド)を刺激しかねず、原作(EP3)の展開すら破壊しかねない。故に、私は彼等に対して後退を進言する。

 

「ああ。…………だが良いのかブリュッヒャー。僕達だけ先に戻って」

 

「問題ない。奴隷帝国の一つや二つ、私の艦隊だけで何とかなるさ。だから君が気にする必要は何もない」

 

「そうか…………じゃあ、短い間だったが世話になったなブリュッヒャー。…………フォースが共にあらんことを。さぁ行くぞアソーカ」

 

「了解、マスター。ナイトブリュッヒャー、お世話になりました」

 

「ええ、気をつけて。―――ルキア、アナキン達を送ってやれ」

 

「イエッサー」

 

 私は副官であるコマンダールキアの案内で、ブリッジを後にするアナキンとアソーカ。"フォースと共にあれ"、か。既に私は、フォースを"切り離して"いるというのに。実に―――滑稽だな。

 

 まるで騙しているような沸き上がる罪悪感。それをしまい込んで彼等の背中を見送った私は、艦隊に次なる命令を発令した。

 

第31任務部隊(T F 3 1)の全艦に告ぐ。1時間以内に我々はザイゲリア軌道上に展開する第32任務部隊(T F 3 2)と合流、然る後にザイゲリアに対する第一次攻撃を実行する。各員準備にかかれ」

 

 ……………………………………………………

 

 ………………………………………………

 

 …………………………………………

 

 ……………………………………

 

 

「マスター、本当によろしいのですが?」

 

「ああ、何も問題はない。いいかいアルト、軍人なら、合法的に決定された命令には従うしかない。それが仕事の人間だからね。君も分かっているだろう」

 

「はい、マスター。ですが、爆撃対象には民間施設も含まれます。幾ら非人道的な奴隷政策を推進しているとはいえ、少しやりすぎなのでは? ジェダイの道的にもちょっと微妙かも…………」

 

 私の内心を気遣ってか、傍らに控えるアルトは妙に私の心配をしてくれる。だけど大丈夫だアルト。私は軍人、言うなれば歯車の一つだ。銀河共和国宇宙軍という巨大な暴力機構の装置の部品。今更教義なんて気にならない。歯車であるが故に、"正しい"流れには逆うことはできないのだ。

 

「心配ないさ。民主主義国の軍人なら、民意に基づいて議会が発した合法的な命令に逆らってはいけない。民意の信託に基づいた軍隊を、個人の思想信条だけで私物化してはいけないんだ。だから、オーダーのことを考える必要はないよ。なぁに、いざとなったら法律論で殴り合えばいい話だ。だから今は、何も考えず任務に集中なさい、アルト」

 

「はぁい」

 

 妙に間延びした返事のアルト。豪胆と言うべきか、鈍感と言うべきか。幸か不幸か、わが教育に影響されたのか彼女は以前とは打って変わってオーダーへの執着心は薄く、寧ろ軍人の何たるかを理解し始めているようだ。

 

 まぁ、私も"動くシャーウッドの森"を運用している時点であまり人のことは言えない立場、我ながら中々に図太いじゃないか。思えばアレは原作(銀英伝)でも、シビリアン・コントロールに従順だったヤン提督の唯一の例外と言っても過言ではない事例だったしなぁ…………パルパティーンという外患誘致の塊に対抗するためには致し方ないとはいえ、我ながらよく言えたものだ。

 

「ブリュッヒャー将軍、間もなく予定時刻です」

 

「わかった。…………よし、始めようか」

 

 指揮台に立ち、隸下の全艦に向けて発令する。

 

 

 

 

「―――全艦、"ベース・デルタ・ゼロ"を実行せよ。奴隷帝国を歴史上の存在に戻してやれ。ザイゲリア地表あらゆる施設、機体、そして惑星地表から離脱する犯罪者共の密輸船、その全てが標的だ。…………撃て(Feuer)!!」

 

 

 

 ―――瞬間、ザイゲリア軌道上に浮かぶ全てのクルーザー、デストロイヤー、フリゲート。その持てる火力が一気に解き放たれた。

 

 

 降り注ぐターボレーザー、地を裂くプロトン魚雷の雨嵐。地表の至るところからマグマが吹き出し、宝石のように穢れた碧に彩られていたこの星は、ものの数十分で原始と化す。

 

 

 かつて奴隷帝国として栄華と堕落の限りを極め、そして銀河系の裏社会の一員として俄に脚光を浴びつつあったこの星は、遂に歴史上にのみ名を残す存在となった。

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