共和国の旗の下に   作:旭日提督

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魔女は微笑む

 惑星ザイゲリアを焼き払った第3艦隊は、次なる作戦に備えるためにコルサントへの帰路についた。そして私の下には、ジェダイ聖堂からの召喚命令。―――ついに来たか。覚悟はしていたが、やはり心は石のように重い。

 

「あら、どうしたんですかシャルさん。どこかお身体の調子が悪かったりします?」

 

「いえ、――今回は、身体のことではないのです」

 

「まあ、珍しいですねー。シャルさんが個人的に私を訪ねるなんて」

 

 艦隊がハイパースペースに入った頃、私はアンバー先生の私室と化した医務室の門を叩いた。―――これからの進展について、先生の意見を伺いたい。

 

「―――少し、隣いいです?」

 

「はい。わたしは一向に構いませんよー」

 

 アンバー先生の言葉に甘えて、彼女が座る椅子の隣のベッドに腰を下ろす。

 病人用のベッドは、堅い。

 

「それで、なにかお悩みごとですか? シャルさん」

 

「ええ…………まぁ、そんなところです」

 

「そうだろうと思いました。貴女が訪ねる訳なんて、それぐらいしか思い付きませんし」

 

「ははっ、恐縮です」

 

 アンバー先生は何でもお見通しだと言わんばかりに、私の目的を言い当てる。

 

「…………コルサントに戻れば、確実に一悶着あるでしょう。完全にしてやられました。避難先は確保してありますが、そこに至るプランが思い描けない」

 

 今回の行動で、私は確実にオーダーでの席を失うだろう。その暁には宇宙軍に再就職すればよい。

 だが、オーダーが身柄拘束などの実力行使に出た場合は話が別だ。実際、暗黒面を理由にそのような行使に出る算段は高い。法律論で殴り合う暇もなく拘束される恐れがある以上、慎重な行動が求められる。脱出するのは簡単だが、此方から実力を示してしまえば後々に禍根を残す。

 円満に宇宙軍の席を得るためには、此処で剣を抜いてはならないのだ。

 

「そうですかぁ。ならここは一つ、宇宙軍から援護射撃してみましょうか」

 

「はい?」

 

 アンバー先生は、待ってましたと言わんばかりに策を開帳。計画の補強案を提示する。

 

「今回のシャルさんの行動は、宇宙軍の指揮系統に従ったに過ぎません。これでシャルさんが拘束されたら、軍隊としても怒り心頭です。何せ、自軍の将校たるジェダイが指揮系統に従わなくなる蓋然性が高まる」

 

 確かに、軍の立場からすればその通りだ。しかし、問題は"誰が"援護射撃をするかにかかる。これでターキンなんかに出張られたら、私は忽ちパルパルに取り込まれてしまう。

 

「しかし先生。宇宙軍も一枚岩ではありません。実務派の間では確かに私は顔が広い。ですが、ターキン辺りの軍中枢には敵もいる。――誰に援護させますか?」

 

「そうですねぇ、艦隊指揮官で尚且つシャルさんに近い人―――第3艦隊は完全にシャルさんの子飼いですから当てにできます。他に上げるとしたら第2艦隊のペレオン提督や第5艦隊のムジーク提督、あとはコバーン提督辺りでしょうか。この方々ならパルパティーン派という訳ではありませんし、シャルさんの側についてもらうには丁度よいかと」

 

 彼女が今挙げた人物は、軒並み宇宙軍艦隊の中では高い地位と知名度があり、尚且つ"政治寄り(パルパティーン派)"ではない人物だ。宇宙軍中枢がいかにパルパル汚染されていたとしても、実務派からも声が上がればパルパルの影響力を削ぐことができる。

 

「わかりました。そちらでお願いします」

 

「畏まりました。実務での折衝はネモ艦長とエレイシアさんに任せましょう。わたしは表向きシャルさんの主治医にしか過ぎませんからね。あの二人を介してなら、軍も動きやすいでしょうし」

 

 策は、これで何とかなりそうだ。

 私がオーダーに戻ったあとは完全に先生に任せっきりになってしまうが、彼女なら上手くやってくれることだろう。

 

「それはそうとしてシャルさん。貴女、最近お疲れじゃないですか?」

 

「私ですが? ええ、まぁ。今のところは大丈夫です。身体もこの通りで――――こふっ!?」

 

 唐突な、アンバー先生の質問。

 身体の不調を見透かしたような彼女の質問を前に、安心させようと軽く身体を動かしてみる。が、ここでまさかの病弱発動。幸い吐血はなかったが、これで先生にはバレてしまった。

 

「あら、やっぱり疲れが溜まっちゃってるんでしょうか。シャルさん、また無理してますね? わたしの目は誤魔化せませんよー?」

 

「あはは……面目無いです。何分、最近は任務が続いていたものですから」

 

 辛くはないが、確かに身体には負担がかかっているのも事実。

 そんな現況を知ってか知らぬか、アンバー先生はなにやら意味深な笑みを浮かべて迫ってくる。

 

「あはっ♪ シャルさんったら真面目なんですから。そんなんじゃいつか早死にしちゃいますよ」

 

「……先生、冗談でも心臓に悪いです」

 

 いつもの如く茶化すような口調のアンバー先生。先程までは神妙な空気になりつつあったが、彼女はいつも通りの平常運転だ。一見心配しているように見えた彼女の表情は高度に演算された仮の姿だったのか、どちらかといえば此方の方が本心に見える。

 

「そんなにお悩みでしたら――"また"溺れてみます?」

 

 わたし、"そっち"は得意なんですよー、と告げながら席を立ったアンバー先生は、私の上に跨がって耳元で囁いた。

 

「ちょっ―――先生!? 血ならまだ足りてます!」

 

「いえいえ、違いますよシャルさん。手っ取り早くストレス解消するならこちらが良いかと。最近働きっぱなしでしょう? 少しは解消しないとお身体に毒ですよー?」

 

「なんでそうなるんですかぁー!?」

 

 あれ、意外と力が強い。

 アンバー先生の腕を引き剥がせず、あわれ私は彼女に喰われてしまうのでした。確かにアンバー先生の言う通り、趣味の機械いじりは禁止でご無沙汰だったけどさぁ…………なんでさ。

 

 

 

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「やぁ、ナイト・ブリュッヒャー。済まないが、君には拘束命令が出ている。許せ」

 

 コルサントのジェダイ聖堂に着いた私を出迎えたのは、テンプルガードを引き連れたナイト・ドラッヘ。

 

 ああ―――やはり、そうなるんだなぁ。

 

 抵抗することなく、私は大人しく縄に着く。

 こうなると踏んでいたが、アルトと先生は艦隊に置いてきて正解だった。先生はともかく、ここでアルトに暴れられたら計画が上手くいきそうにない。

 

 連行されながらくぐる聖堂の門は、いつもに増して酷く威圧的だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ブリュッヒャー様が拘束されたようです、姉さん』

 

「ここまでは予想通りですねー。さて、此方もひと仕事といきますか。サファイアちゃんはアルトさんをお願いしますね。アレ、シャルさんが捕まったと聞いたら暴れかねませんので」

 

 何処とも知れぬ薄暗い研究室。女性型の澄んだ機械音声が、赤髪の少女に報告する。

 

『承知しました。―――ですが、本当によろしいのですか? 姉さん。…………このまま事を進めたら、確実に混沌です。ブリュッヒャー様がそれを了承なさるかどうか』

 

「いいですかサファイアちゃん。あのような辱しめを受けたからには、やり返すのが人道です。原典(オリジナル)的にも、そうするのが自然です。シャルさんは(サーヴァント)でしかないんですから、そこまで気にしなくてもいいですよー」

 

『しかし……幾ら姉さんがマスターだとしても、それを知ったときのブリュッヒャー様がどう出るか……』

 

「シャルさんのメンタルケアならわたしが付いてるのでばっちりです。何のためにアレをわたしに溺れさせてると思ってるんですか? サファイアちゃん。シャルさんはもうがんじがらめなんですから、今は計画に集中するのです」

 

『…………わかりました。では、次の一手を―――』

 

 微笑む割烹着の悪魔。止まらない謀略の渦。

 

 彼女の本心に気付く者は、まだ誰もいない。

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