彼女は新兵器の特性を生かした船団襲撃を企て、分離主義者を追い詰めんとしていた………
~惑星コルサント軌道上 ヴァリアント級スター・デストロイヤー ”ユリシーズ ”~
「ふぅ…………久々の宇宙もいいですね。各艦の出港も滞りなく、と。アンバー先生、積込品リストの要目は来てますか」
「はい。此方になります、シャルさん」
第3艦隊各艦がコルサントの大気圏を離脱し、クルーは当直体制に入る。ブリッジで艦隊の出港を見届けた私は執務室に移り、各種書類のチェックに入った。
今回の作戦では量産試作段階の特殊装備も投入されるため、事前のチェックは欠かせない。
私の専属医兼秘書官になったアンバー先生から積込品のリストを受け取り、確認作業を始める。
「IPV-U1型ステルス・シップ……クローキング装置を搭載した新型艦か」
「量産試作段階の試験艦が3隻。司令部も太っ腹ですねぇ。それだけシャルさんが期待されているということです」
何故か自慢気に相槌を打つアンバー先生。それはともかく、先生の言うとおり司令部の期待は大きい。これだけの融通を利かされているのだから、この作戦にかかるプレッシャーも並ではない。
「あまり、買い被らないで欲しいものです。私なんて性根は不真面目な快楽主義者ですからね。外面を気にするのも疲れますよ」
本当は戦争なんてさっさと終わって、どこかに雲隠れでもして隠居したいんだけどなぁ。しかし、そうは問屋が卸さないのが実情だ。どうも私は、こと戦争と人を斬ることに関してだけは他より長けているらしい。そんな私が乱世の時代に、安息の地を得られるとは思えない。
それに、共和国軍を何が何でも守り通さなきゃならんしなぁ…………ここで投げ出しては"動くシャーウッドの森"にも顔向けできない。やるからには、最後までやり通すべきだ。
「あらあら、その実がんばり屋さんなのは誰よりもわたしが知っていますよシャルさん。―――そろそろ、我慢も難しい頃合いでは?」
「先生には何でもお見通しですか。ハハ、これは参った。では、少しいいですか? アンバー先生」
いつの間にか、扉のロックは固く閉ざされていた。
アンバー先生の微笑みも、いつもと変わらない筈なのにこの時だけは妖しくて蠱惑的だ。
ジェダイ聖堂に収監されること凡そ10日。その間当然先生の血を啜る機会など無く、身体の軋みは日に日に増していくばかり。
まだ血を吐くほど崩壊は進んでいないと思っていたが、健康とは程遠いのもまた事実。
今日は皆を心配させまいと平静に努めていたが、やはり先生の目は誤魔化せないか。
指揮官としても、このまま身体の不調を引き摺りながら作戦に臨むのは不味い。ここは先生の気遣いに甘えるべきだ。
「ええ、どうぞご遠慮なさらず。何のためにわざわざ"二人っきり"になったと思っているんですか?」
仄かに頬を上気させた先生が、軍服の襟に手を掛ける。
上着を
「本当に…………狡い人だ、貴女は」
「あはっ♪ さぁシャルさん。どうぞ、貴女の欲望の赴くままに」
「―――失礼しますよ、アンバー先生」
彼女を抱き寄せ、首筋に牙を立てる。
喉に注がれる命の熱が、私の罅割れた身体を縫合する度に走る恍惚。
初めて正気のまま嗜む命の味は、甘い鉄の香りがした。
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「全艦、通常空間に離脱。目標宙域に到着しました」
「艦隊は所定の航路に展開せよ。まずは増援艦隊との合流を目指す」
「イエッサー」
分離主義勢力の重要拠点であるフォーロスト。その星系外縁に到着したわが艦隊は、作戦準備を進めるべく事前に指定されたポイントへ舵を切る。
《…………501大隊との共同作戦ですか。司令部は一体何を掴んだのでしょう?》
「分からんな。だが、わざわざ増援を寄越して鹵獲を指示するぐらいなんだ。それだけ重要な物資ということだろう。エレイシア艦長、目標ポイントまでの時間は?」
「はい。凡そ45分です」
ハイパースペースから出た艦隊に届いた一本の追加指令。その内容は、敵艦の破壊ではなく鹵獲を命じるものだった。
ホログラムのアルトが疑問を投げ掛けたように、命令の発出はあまりに急だ。やはり、情勢の変化があったと見るべきだろう。
「では、今回の作戦を説明する。〈イストリア〉以下の第3艦隊主隊は敵の索敵網の外側を移動しつつ敵船団の推定航路上に進出。そしてステルス・シップ3隻からなる第32任務部隊は敵船団後方に回り込み、離脱する敵艦を各個に撃破する。重要物資を積載していると見られる敵艦については無力化の上、白兵戦にて鹵獲する。……以上だ」
《了解です、マスター。しかし、重要物資の積載艦はどうやって割り出しますか? 輸送艦ならまだしも、戦闘艦ならそう上手く鹵獲できるでしょうか……》
「ああ、そこが今回の問題なんだ。全部破壊するならまだ楽なんだがなぁ…………ここは通信の解析に頼るしかない。目標が戦闘艦の場合も方針は変わらない。撃破後、接舷して白兵戦だ」
ブリッジにて、大まかな方針を説明する。
今回の作戦において鍵を握るのは、ステルス・シップ部隊の活躍だ。
今回わが艦隊に加わったIPV-U3型ステルス・シップはクローキング装置を搭載したコルベットクラスの軍艦だが、前級IPV-2Cステルス・コルベットに比べてより戦闘向きの設計で作られている。その能力をふんだんに生かして地球の潜水艦のように群狼戦術を仕掛けるのが当初の目論見だったのだが、司令部の余計な一手で計画に変更が出た。
「ステルス・コルベット部隊の指揮はネモ艦長に任せる。私は全軍を統括する立場だが、突入部隊のデルタ分隊も指揮する立場だ。戦場での個別具体的な指示についてはアルトに任せる」
「……ん、了解」
《わかりました。必ずやご期待に応えてみせます》
艦隊内での事前の打ち合わせを終え、私とネモ艦長はステルス・シップ〈ノーチラス〉に移動する。
この艦は、前級が細長い鏃のような形状だったのに対してより地球の潜水艦に近い形だ。具体的には、第二次大戦期の潜水艦をスターウォーズナイズした外装、と表現したら伝わりやすいかな。外装は他の宇宙船と同じだが、全体的な形状は潜水艦だ。
「よう、久し振りだな。あんたがこの艦を預かるってか?」
「君は…………」
と、〈ノーチラス〉のセイルからひょっこりと顔を出す一人の女性。
少女、と言っていいぐらいの外観の彼女は、ネモ艦長と瓜二つの見た目だった。
違いと言えば、寡黙で静かなネモ艦長に対して彼女はややつり目気味で、血気盛んそうな見た目なことか。
「こいつはアタシが手掛けた艦だからな。幾ら兄貴だって雑な扱いは許さねぇぞ。んーっと、で、そっちがブリュッヒャー提督か。アタシはこのノーチラス級ステルス・シップ開発主任のネロだ。よろしくな」
「僕はいいが、ブリュッヒャー提督は司令官だ。……もう少し口に気を付けた方がいい」
「いや、そこまで堅苦しくしないでいいよ。そうか、君が開発主任か。どうだい、艦の調子は」
「おう! 整備なら万全だ。一番艦から三番艦まで、しっかり期待に応えてくれる筈だぜ」
と、自信満々に応えるネモ・エンジン…………ではなくネロさん。なーんか既視感あると思ったらネモ・エンジンかぁ。どうやら此方では兄妹の間柄らしく、台詞から察するにネモ艦長の方がお兄さんか。
「それは頼もしい限りだ。期待してるよ」
「任せてくれ! そんじゃ、アタシは機関の調整に戻る。兄貴をよろしくな」
―――と、ネロさんは足早に去ってしまった。
「――いやぁ、君の妹さん、君とはずいぶん印象が違うんだねぇ」
「…………あまりからかわないでくれ。じゃあ、出撃準備に移ろうか、提督」
「あーっ、ちょっとネモ艦長! 逃げるのはずるいぞー!」
頬を染めて俯き加減のネモ艦長は、軍帽の鍔で表情を隠すと足早に〈ノーチラス〉へ消えていく。珍しく恥ずかしがるネモ艦長の姿は大変可愛らしいのだが、残念。逃げられてしまったようだ。
そして出撃した〈ノーチラス〉、そして僚艦の〈ロメオ〉〈ウイスキー〉の3隻は、合流地点にてアナキンのクルーザーと接触。501大隊を便乗者として迎え、船団攻撃と敵艦鹵獲のため星系中心部に向けて舵を切った。
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~アクラメーターⅡ級艦 ”イストリア ”~
「敵艦隊捕捉! フリゲート5、コルベット3、輸送艦1!」
時は進み、此方はアルト率いる第3艦隊本隊。彼女は旗艦として新たに与えられたアクラメーターⅡ級アサルト・シップ〈イストリア〉の艦橋から、戦場を一瞥して指示を出す。
「いよいよですね。全艦、正面の敵フリゲートを集中砲火です! アグラヴェイン艦長、操艦は任せました!」
「承知」
フォーロスト近海に進出したアルト率いる第3艦隊は、目的の船団と思われる分離主義者の艦隊と遭遇、戦端を開く。
一方、ブリュッヒャーとアナキン率いるステルス・コルベット部隊は、その背後へと着実に忍び寄っていた。
ネモ・エンジンさんの名前は某皇帝………ではなくMSA-007から。ネモとネロのモビルスーツ繋がりです。
アルトちゃんの相方はアッくんに内定。基本的にFGOのアグラヴェインの容姿・性格です。
■艦艇解説
〈イストリア〉
宇宙軍に転属したアルトに与えられた旗艦。アクラメーターⅡ級に属する。艦名の由来は「銀河英雄伝説」に登場した自由惑星同盟軍の強襲揚陸艦〈イストリア〉から。
◎登場エピソード
本作オリジナル
次回予告
敵船団を襲撃するシャルロットとアナキンのステルス・コルベット部隊。
しかし乗り込んだ敵艦の艦内で、彼等は思いがけない再会を果たす。
分離主義者の重要物資、その正体とは如何に。
次回、第54話「エコーの呼ぶ声」
銀河の歴史が、また1ページ……