元老院最高議長シーヴ・パルパティーンに呼び出された宇宙軍大将シャルロット・フォン・ブリュッヒャー。
議長に不信感を持つ彼女の思考の渦中には、陰謀への警鐘が鳴り響く。
緊張と警戒に包まれながら、彼女は議長のオフィスの扉を潜ったのだった………。
~惑星コルサント 元老院オフィスビル~
元老院ビルや議員宿舎が立ち並ぶ官庁街、元老院地区。
その中に聳える一際目立つドーム状の建物こそ、我らがシーヴ・パルパティーン元老院最高議長が住まう元老院オフィスビルだ。
通算2回目となる彼の呼び出しを受けた私の足は、鉛のように重く硬い。
だって、相手はあのパルパルだぞ? 足取りも重くなるというもの。
さて、今回は一体どんな要件で呼び出したと言うのだろうか。
正門のセキュリティガードをクリアし、警備員のセネト・ガードに通行証を呈示する。
「――ブリュッヒャー宇宙軍大将ですね。確認が取れました。只今議長の執務室までご案内します」
ガード達の案内に従い、パルパティーン最高議長の執務室の扉をくぐる。
彼の部屋は一面赤に彩られながらも落ち着いた雰囲気を醸し出しており、来訪者はその不自然さに気付くことはない。
堂々と展示されたシスの遺品、そしてこれ見よがしに連れ回すレッド・ガード。"温和"な議長とは対照的なオブジェクトの数々は、偽りの
その議長はというと、窓際の事務机に向かいながら温厚な表情を浮かべている。
「やあブリュッヒャー大将。会いたかったよ。新しい環境には慣れたかな」
「ええ、お気遣いどうも。私には、どうやら此方の方が性に合っていたようで。ある意味清々しましたよ」
「それは何よりだ。あの騒動を聞いた時は流石に私も肝が冷えた。全く、ジェダイの考えることはよく分からないな。だが、君が元気そうで安心したよ」
定番の社交辞令から始まった会話だが、その流れで言及されたあの事件に、思わず背筋が凍りつく。
果たして、彼はどこまであの事件に関与していたのか。初動こそ子飼いの第3艦隊に動いてもらったものの、最終的な政治判断は恐らく議長が下した筈だ。―――徐々にではあるが、確実に取り込まれている。可能性としては充分あり得る話だが、ちと不味いな。
「お陰様で。今はこの通り生き生きしてますよ。で、要件はなんです? まさか、社交辞令のためだけに多忙な貴方が私ごときを呼び出す筈がないでしょう?」
あの事件については、オブラートに包み隠す。その方が色々と、後に動きやすくなる。
そして早速本題だ。こんな茶番劇を続けても私にメリットなど無いのだから、さっさと終わらせてしまいたいものだ。
なので私は話の流れを打ち切るように、彼に要件を催促する。
「話が早くて助かるな。実はな、私が考えているある構想を、君に実現して欲しいのだ」
「私に…………ですか?」
「うむ。共和国グランド・アーミーと宇宙軍の統合運用。そのための司令部を新しく設置する予定だ。その名も、統合作戦本部。君にはその長官の席に座ってもらいたい」
――――はえ?
私が、軍の最高司令官?
いやいやいやいや! 唐突すぎるでしょうパルパル爺!
私? わたし? Me? いやなんでさ!?
グランド・アーミーと宇宙軍の統合運用。これは百歩譲ってまだ分かる。ジェダイとクローン軍からなるグランド・アーミーとジュディシアル・フォースを前身とする宇宙軍。この両者は成立経緯の違いから、連携に事欠く場面もあった。ジェダイ将軍が両軍の指揮権を有しているがために問題は表面化していないものの、ジェダイがいない戦場ではやはり連携不足の一因となっている。
なのでこれ自体は全くもって正しい政治判断だ。軍令を司る機関が二つなんて、旧軍の轍を踏むに等しい愚行だ。それは合理化するべきだろう。
だけどさぁ…………なんでよりによって私なのかなぁ。絶対ヘイト向けられるでしょ、古参から。いや、それも目的の一つなのか。
「いやいや、議長。冗談は止してください。私なんてただの若造ですよ? そういうものはもっと経験豊富な者に頼るべきかと。私には今の身分で充分過ぎます」
なので当然、答えはノー。こんな見え見えな地雷、わざわざ踏みに行く方が馬鹿らしい。
「そう謙遜するな、ブリュッヒャー。こう見えて、私は君を高く買っている。あの陰湿な分離主義者の陰謀を白日に晒すことができたのも、君の活躍があってこそだ」
「貴方の評価は有難いのですが、だからと言って以前から共和国に仕えている古参の方々を差し置いて私をトップにするわけにはいかないでしょう。ここは彼等の功績も評価するべきです」
嫌だよ嫌だよ? こんな火中の栗を拾う役なんて。確実に木っ端微塵じゃあないか、私。頼む、諦めてくれパルパル…………! 本部長なんて、適当にターキン辺りをぶっ込んでおけばいいでしょ!
「確かに、君の言うことは尤もだ。だが、君はジェダイの中にいて高い戦略眼と政治的な視点を持った逸材だ。君なら問題なく務められるだろう」
「ですが…………」
「それに、私は君の若さにも期待しているのだ。困難な時期だからこそ、若い力も必要なのだよ、ブリュッヒャー。新陳代謝のない組織など、ただ腐っていくばかりだからね」
―――これは、万事休すだろうか。
彼の中では、私を統合作戦本部の長に据えることは既定路線らしい。ここで私が固辞したら、逆に訝しむかもしれない。…………乗ってやるのも、また一つの手か。
果たして、アンバー先生なら、この状況をどう言うだろうか。早まったかと叱咤するか、それとも奇貨と見て更に陰謀を邁進するだろうか…………一つ、受けてみるのも手かもしれない。
こうなったら、与えられた権限を逆手に取ってやるのもまた一計。毒を食らわば皿までの精神で、とことん引っ掻き回してやろう。
「…………わかりました。貴方がそこまで言うのなら、試しに引き受けてみましょう」
ああ、もうどうにでもなれ!!
絶対後悔させてやるからな、パルパルめ。いつの日か泣いて許しを乞うがいい! あははっ!!
「おお、引き受けてくれるか! それは何よりだ。君なら期待通りの活躍を示してくれると期待してるよ」
パルパティーンは大袈裟に表情を変化させて、私の決断を歓迎する。端から見れば、ただのにこやかな老人に過ぎないこの黒幕ジジイが怨めしい。
「では早速だが、君には組織編制に取りかかってもらうぞ。部屋は共和国軍事作戦センターの一室を手配している。そこでターキン提督が待っている筈だ。彼には統合作戦本部次長を任せてある。ぜひ使ってくれ」
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「位打ちだ……」
「位打ちです……」
「位打ちですねぇ~」
共和国軍事作戦センターの一角に、三者三様の声が響く。
それぞれ今回の顛末を聞いたアルト、サファイア、アンバー先生の感想だ。
で、なんでアンバー先生は楽しそうなんですか。おにですか、あくまですか。ああ、元から貴女は"割烹着の悪魔"でしたね。
―――位打ち
古来日本より存在する、権力者の政争カード。
気に入らない者に分不相応の高位を与えて自滅させるという、げに恐ろしき陰謀手法である。アルトが知っているということは、この銀河にも存在する手法のようだ。
しかし、全くもってその通りなのが腹立たしい。
まさか、あのターキンが出てくるなんて。
そこまで想像が及ばなかった私の責任だが…………いや、一本取られたな。
子飼いの第3艦隊も引き剥がされ、敵地真っ只中もいいところ。ターキンなんて、次長とは名ばかりの体のいい監視役だ。あいつが丸焼きターキーになってくれたらどんなに楽なことか。監視役なんて、燃えていなくなってしまえばいいのに。
くそっ、奴がいなけりゃもっと好きにできたんだけどなぁ…………
当面の課題は、いかにターキンを出し抜きつつ権限を活用するかだ。幸い名目上は軍令のトップなのだから、やりようによっては一発逆転のチャンスもなきにしもあらず。要は私の立ち回り次第だ。
でも…………憂鬱なものは憂鬱だ。精神的な疲れがマッハ。ああ、早くベッドに帰りたい…………。
(…………先生、今夜もまた、お願いします)
(フフフッ、承知しましたシャルさん。今日はずいぶん甘えん坊さんですね)
(それは言わないで下さいよ……仕方ないでしょう?)
(まあいいですよ。それでは、今夜ですね。お待ちしています)
やはり、アンバー先生に縋ってしまう私のこころ。
こんなに弱かっただろうかと思いつつも、抑えられない求める心。
あのプレッシャーでこれでもかと精神が疲れたのだから、彼女の血で適度に修復しないと持ちそうにない。
血の媒介を
―――あれがないと、きっと私はこの先壊れる。
もう、彼女なしで生きるなんて考えられない。
この身を動かす歯車には、今や彼女の感応という潤滑油が必要不可欠なのだ。
我ながら、なんとも情けない。
だけど、この乾きを癒さないことには何もできないのもまた事実。
―――すっかり、取り込まれてしまったなぁ。
全く、本当に怖い人ですよ、貴女は。
さて、先ずはターキンの野郎ですね。どう片付けてやろうものか。
シャルっちの吸血は日を追うごとに少しずつ乱暴になっています。
どれもこれも、オーダー66とかいう強制敗北イベントのせいです。お陰様でシャルっちは心労がマッハです。
次回予告
共和国軍統合作戦本部長に就任したシャルロット。
軍の行政改革に着手した彼女だが、早くも波乱の気配が忍び寄る。
ジェダイ・パダワン、アソーカ・タノにかけられた殺人容疑。この未曾有の事件を前に、彼女が下した決断とは。
次回、第57話「逃亡者アソーカ」
銀河の歴史が、また1ページ……