共和国軍事作戦センターから逃走したアソーカ。彼女の殺人容疑を疑わない軍とジェダイ評議会は、彼女への懐疑の目を深くする。
しかし、彼女の無罪を確信していたシャルロットは、また別の問題点を見出だしていた。
~惑星コルサント 共和国軍事作戦センター~
「逃がしましたか。ソーン、捜索隊を編成して直ちに追撃しろ」
「イエッサー」
此方の一瞬の隙を突いて、飛び去ってしまったアソーカ。彼女を追跡するために、コマンダー・ソーンに命じて彼女の捜索を指示する。
と、センターの入口の方角からはアナキンか。
彼と、どうやらキャプテン・レックスとコマンダー・フォックスも一緒のようだ。
「シャル!?何故ここに」
「ここは私の職場ですよ、アナキン。いる方が自然でしょう。それよりも、彼女を逃がしました。申し訳ない」
どうやら私が此方にいることが想定外だったのか、アナキンに驚かれた。いやいや、オーダー去ってから私の居場所はだいたいここだったんだが。
「いや…………それはいい。アソーカは何処に行った」
「パイプラインに潜んでいます。今捜索隊を向かわせているところですよ。━━━しかし、驚きましたね。彼女に殺人容疑とは」
「アソーカはそんなことはしない!」
と、叫ぶアナキン。
やはりいつもより気が立っているのか、眉間に皺を寄せて強く主張する彼が纏う雰囲気は剣呑だ。
まぁしかし、アソーカが犯人でないというのは同意だ。彼女はそんな娘じゃないからね。
「分かっていますよ、アナキン。━━━今の君は少し落ち着きが足りない。状況は分かるが、こういう時こそ冷静になれ。何事も熱くなりすぎると機を逸するぞ」
「すまない、恩に着る、シャル。僕は彼女の後を追う。できる限り手伝ってくれ!」
「ええ、お任せ下さい。では」
「我々も失礼します、ブリュッヒャー将軍。野郎共続け!」
「待て、コマンダー・フォックス。君には聞きたいことがある。部隊は任せてこっちに来い」
「イエッサー」
足早に走り去るアナキンと、レックス率いるショック・トルーパー達。
一先ず彼等を見送った私は、呼び止めたコマンダー・フォックスを伴い振り返ってセンターに向かう。
こっちはこっちで、出来ることをしよう。
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「警備記録ですか?」
「ええ。それを見せて下さい」
センター内に戻った私は、コマンダー・フォックス達が勤めていた看守室の記録を見させてもらった。
さて、今回の事件の概要だが、事は数日前に遡る。
ジェダイ聖堂における爆破テロによりジェダイとクローン兵、それに整備士が死傷。その事件の容疑者として逮捕されたのが、レッタ・ターモンドなる女性だ。
彼女の身柄はターキンの決定でジェダイ聖堂からここ共和国軍事作戦センターに移されることになったのだが、それに抗議したのがアソーカだ。
そしてレッタはアソーカとの面会を要求するも、その最中に彼女は何者かにフォース・チョークを受け死亡。その場にいたアソーカが緊急逮捕された、という流れだ。
━━━どうも、不自然だな。
再生された映像には音声記録がなく、アソーカの動きも不自然だ。見ようによってはフォース・チョークを仕掛けていると解釈できないこともないが、それなら被害者が苦しむ前にアソーカが動いている筈だ。
「コマンダー・フォックス、映像記録にはなぜ音声が録音されていない?通常なら録音されている筈だろう」
「その通りです、ブリュッヒャー将軍。機器の故障を疑って部下に調べさせましたが、そのような事実はありませんでした」
「そうか…………ではコマンダー、アソーカが機器に触れた可能性は?」
「分かりません。ですが、ここに来てからの彼女の行動は全て記録されています。可能性は低いかと」
質問に一つ一つ答えるフォックスの話を聞くが、やはりどうも不自然だ。確かにその場にいるフォース・ユーザーは目に見える範囲ではアソーカだけ。疑われるのは自然かもしれない。
だが、少々お粗末に過ぎるな。
タイミング的に機器を操作できない以上、仮に彼女が犯人だとしても協力者が必要だ。加えて、ジェダイならば警備の目を掻い潜って忍び込むこともできなくはない。アソーカ以外の第三者が、事件のあった牢屋のすぐ近くに潜んでいた可能性は否定できない。
「フォックス、今一度現場検証をしたい。もしかしたら、彼女以外の者が犯人かも───」
「その必要はないですよ、ブリュッヒャー本部長」
唐突に、いやらしい、ねっとりした男の声が響く。
「───ターキン提督でしたか。この度はお世話になります。それで、必要ないとはどういう意味ですか」
「言った通りだ。犯人は彼女、あらゆる証拠はそれを肯定している。今は一刻も早く彼女を探し出して捕らえるべきだ」
自信満々に宣言するこのピ◯ター・カッ◯ング似のおじさんは、どうやら自説は絶対のものだと確信しているらしい。後世の功績を考えるとなんともお粗末な思考だが、彼も人間。失敗の一つや二つはある。
しかし今は、その失敗が邪魔なことこの上ない。ある物事を固く信じている人間を説得するのは難しいのだ。
「ですか、不自然な点も残されています。第一彼女の性格から考えて、このような凶行に及ぶとは考えにくい」
「ジェダイが言う、暗黒面とやらに染まったのだろう。貴女にもその疑いがかけられたではないか」
「容疑者の性格は犯人性に直結しますよ。性格的に罪を犯しそうにない人間が罪を犯すときには相当な理由がある。今回のような殺人事件では特に。ときに、アソーカはレッタ・ターモンドの身柄の移送に反発したらしいですね、ターキン提督」
「ああそうだ。レッタがジェダイではなく軍に裁かれると知った彼女は、自ら同胞の仇を取るべく今回の凶行に走ったのだ」
「それでは理由が弱い。そもそも、ジェダイは掟で非武装の人間に力を振るうことを禁じている。確かに彼女に短気な面があるのは認めるが、今までジェダイの規範から外れる傾向はなかった筈だ」
「貴女が彼女の性格を見抜けなかったからでしょう。犯人はもう決まっている。今更不必要な再捜査に投じるリソースなど無い」
━━━うーん、この石頭。
幾ら私が言ったところで、ターキンの確信を崩すには至らなかったか。議論はいつの間にか互いの思考の応酬となり、いつまでも平行線を辿る。
挨拶もままならないうちに、お互い最悪の第一印象になってしまったなぁ…………敵と分かってはいるものの、一時とはいえ共に仕事をするのだから表面上は穏便に、と思っていたが、どうやらそれすら叶わないらしい。
「ですか、映像機器に触れるタイミングがアソーカにはない。彼女が犯人かどうかは置いとくとしても、これはこれで問題です。万が一部外者の犯行なら、このセンターの警備態勢に関わる話です」
「フォースとやらで遠くから操作したのだろう。ジェダイならそれぐらい造作もない。元ジェダイの貴女なら、そんなこと分かりきっている筈だ」
「確かにそれも一理あります。だが、ジェダイなら人目を盗んでセンターに侵入できなくもない。それこそ、牢屋の天井に潜むこともできる。あの場にいたフォース・ユーザーは確かに目に見える範囲ではアソーカだけですが、それはアソーカ以外のフォース・ユーザーが存在した可能性を排除するものではない。万が一アソーカ以外の者が犯人だとしたら、それは基地の警備に問題があった証拠です」
「それは考えすぎではないかブリュッヒャー本部長。この基地は共和国軍の中枢だ。その警備態勢も他の基地の比ではない。幾らジェダイとて、その警備を掻い潜って天井裏に潜むなんて考えられん」
基地の警備は絶対だと彼は言うが、果たして本当にそうだろうか。ただでさえ一時的にしろアソーカを見失っているのだ。もし監視カメラやそれのチェック体制が万全なら、彼女を絶えずマークできた筈だ。それができていない以上、この基地の警備態勢には再考の余地がある。
「過信は禁物です、ターキン提督。もし警備態勢に穴があれば、それは共和国軍の沽券に関わる。一昨年には中央送電網に対する分離主義者の爆破テロもあった。コルサントとて安全は絶対ではない。ならば、これを機に警備態勢を見直すべきです」
「───確かに、貴女の言うことには一理ある。だが、犯人はアソーカだ。それに疑いはない。それとこれとは、別問題として考えるべきだ」
……………………はぁ。
なんでこんなに頑固なのさ、疲れる……
これからこのねちねちした嫌味ったらしいおじさんと一緒に仕事?━━━パルパルめ、私をストレス漬けで殺す気だな。許さん。
ああ、早く帰って紅茶が飲みたい。
今日ぐらいは、ブランデー99%でも許されるよね?
前書きにあるクローン・ウォーズ冒頭風の教訓ですが、今回のそれは「Fate/タイガーころしあむアッパー」におけるマジカルアンバーの勝利ボイスが由来です。CW本編と同じタイトルの場合では、ここは原作と共通になります
次回予告
脱獄したアソーカ・タノは再び捕らわれ、彼女に対する裁判が行われた。
彼女の脱獄騒ぎが一段落したことで、共和国軍事作戦センターは日常生活落ち着きを取り戻した。
だが、シャルロットの右腕ドクターアンバーの身には新たな脅威が迫りつつあった。
次回、第59話「クローン・アサシン」
銀河の歴史が、また1ページ……