共和国の旗の下に   作:旭日提督

69 / 125
「最も受け入れがたいのは、自分についての真実」

 惑星リンゴ・ヴィンダ!
 共和国軍は、この惑星を取り囲むリング型宇宙ステーションで、分離主義者と激戦を繰り広げていた。
 戦況の膠着状態を打破するべく、共和国軍統合作戦本部長シャルロット・フォン・ブリュッヒャーは、大規模な攻勢作戦の展開を攻撃部隊指揮官のアナキン・スカイウォーカーに指示する。
 惑星の支配権は、徐々に共和国側に移りつつあった………


未知の症状

 ───惑星リンゴ・ヴィンダ

 

 ミッド・リムに属するこの惑星は、環状の宇宙ステーションが特徴的な地殻惑星だ。

 惑星そのものには目ぼしい資源や人口があるわけではないものの、軌道を一周するほどの巨大なステーションがもたらす生産力は計り知れない。

 その価値に目を付けた分離主義者は、名将トレンチ提督率いる艦隊を惑星攻略に動員。惑星の占領と軍事拠点化を始めた。

 ここが分離主義者の有力な軍事拠点になってしまえば、アウター・リムへの補給線の一角が敵に奪われてしまうばかりか、逆に敵の攻勢発起点になりかねない。

 敵の拠点化を許す前にリンゴ・ヴィンダ攻略の必要性を痛感した統合作戦本部は、この惑星を奪還するべくオープン・サークル艦隊主力を動員。ジェダイ将軍アナキン・スカイウォーカーに攻撃軍最高司令官の任を委ね、惑星コレリア出身の老提督、ショーン・キリアン宇宙軍中将を艦隊司令官に任じた。

 

 

~コア・ワールド コルスカ宙域 惑星コルサント 共和国軍事作戦センター~

 

 

 私の新たな根城となったこの共和国軍事作戦センターは、いつも以上の緊張感に包まれていた。

 宇宙軍と地上軍、その統合運用を目指す共和国軍統合作戦本部の、初めての実戦の日が来たのだ。

 前線から送られてくる作戦データは逐一本部のコンピューターに蓄積され、絶え間なく変化する戦場を俯瞰しながら最適な戦況分析を試みる参謀の頭脳に叩き込まれる。

 

「敵艦隊、ポイントA-1まで後退します」

 

「増援の心配はないか?」

 

「ハッ! 我が方の情報収集艦が敵の暗号電文を解析中です」

 

「判明次第すぐに伝えろ。攻撃軍は?」

 

「現在ステーションの62%を制圧。スカイウォーカー将軍の本隊は敵司令部を目標に進軍しています」

 

「スカイウォーカーにはそのまま進撃するように伝えろ。敵正面は手薄だ。今なら事前の作戦通りに上手くいく」

 

「イエッサー」

 

 …………とは言ったものの、全て此方で判断していては遅い。ある程度は現場に裁量を任せた上で戦場全体に関わる事象を判断するのが我々の役目なのだが、何分初めての試みだ。その匙加減が分からない。

 今までは直に戦場の空気を感じられていたからいいものの、後方というのは実に厄介なものだ。

 口を出し過ぎれば前線の臨機応変な対応を阻害することになり、逆に無為は存在理由そのものを脅かしかねない。

 

「本部長、情報部より暗号の解析結果です」

 

「随分と早いのだな、ターキン副本部長。それで、情報部は何と」

 

 傍らに、データプレートを携えて現れたのは痩せこけた頬が特徴的な中年の提督、ウィルハフ・ターキン。

 私の本当の目的を考えれば敵もいいところなのだが、それは今は関係ない。

 彼からの報告を促し、情報部の解析内容に耳を傾ける。

 

「どうやらトレンチは援軍を要請したみたいです。それに対して分離主義者はクルーザー級3隻を含む有力な増援艦隊を差し向けた、と。あと4時間ほどで到着するようですな」

 

 ───厄介だな。

 艦隊戦力では確実に此方が勝っているが、司令部の攻略前に増援が間に合えば最悪アナキン達が膠着状態に陥る。その前に敵司令部を落とさなくては。

 情報を渡し終えたターキンは私を軽く一瞥し、何事もなく持ち場に戻る。

 それを秘書官のアンバー先生が、微妙に目元をしかめて睨みながら見送っていた。

 

「…………いいんですかシャルさん。あれ、ほっといて」

 

「今は仕事中ですよ。──仕方ないでしょう。ここでどうこうできる訳でもない。アンバー先生、キリアン提督に通信を」

 

「はいシャルさん。…………なんというか、切り替えが早いというか、割り切りが潔いというか…………」

 

 ぶつぶつと小言を漏らしながら、コンソールを叩くアンバー先生。

 敵の中枢メンバーたるターキンが近くでうろうろしているのが気に食わないのだろうが、今は我慢してもらうしかない。

 程なくして、前線で艦隊指揮を取るキリアン提督とホログラム通信が繋がる。

 

《何用ですか? ブリュッヒャー本部長?》

 

「情報部の暗号解析結果です。クルーザー3隻を含む有力な敵増援が向かっています。予想到達時刻は標準時刻で0538。あと4時間ほどで到着する見込みです」

 

《う~む…………早急に敵艦隊を制圧する必要があるな。スカイウォーカーには私から伝えておこう》

 

「お願いします。現時点では作戦に変更無し。そのまま既定通りに進めて下さい」

 

《了解した。それでは》

 

 通信が切断され、キリアン提督のホログラムが消える。

 全く、ほとんど伝令紛いの仕事じゃないか。指揮らしい指揮も、事前の作戦計画の時ばかりだ。…………いや、むしろ、此方で口を出す必要が少ないのはかえって作戦が順調に進んでいる証か。うむ、それは良いことだ。

 実際にこの席に座って分かったことだが、統合指揮といっても仲介、伝令のような役割が存外に多い。二軍を指揮しているのだからある意味当然ではあるのだが、少々拍子抜けだな。加えて今回は、惑星地表とは異なり狭い宇宙ステーション内の戦い。地上戦のように艦隊や艦載機による援護も限定的にしかできない。地上の押されている部分にすかさず火力支援、という訳にもいかないのが世知辛い。

 

「ほ、本部長……」

 

「どうした。何か問題か」

 

「それが…………スカイウォーカー将軍が攻勢を断念しまして」

 

「何? あの三度の飯より攻撃が好きなスカイウォーカーが?」

 

 戦況は順調に推移していた筈だ。押された訳でもないのに、アナキンが撤退するなんて考えにくい。策を弄するにしても、それが必要ないぐらいに正面火力では勝っているし、事実敵は押されていた。…………何事だ。

 

「どうしたアナキン!? 攻勢を止めた理由は何だ」

 

 すかさず、最前線のアナキンに直通で通信を入れる。

 皮肉にも、感度だけは通信中継艦と中継衛星のお陰で良好だ。

 

《緊急事態だ。ああそれも特大のな。クローンがティプラーを殺した! 原因は分からん》

 

「…………なんだと?」

 

 ティプラーは、双子の姉妹と共にアナキンと同じ攻撃軍の指揮を取っていたジェダイマスターだ。指揮官の一人が突然裏切りにあっただと……? 

 身体の奥から、ふつふつと沸き上がる怒り。

 だが、別の思考がその感情に冷や水を浴びせた。

 

 ───いや、待てよ。確か…………この時期にはオーダー66の誤発動事件があった筈だ。その舞台が…………

 

 今や霞にも等しい前世の記憶。その記憶が、久方ぶりに刺激されて錆び付いた引き出しの戸がガタガタと揺れる。

 

 ああ、そうだ。間違いない。ここだ。リンゴ・ヴィンダだ! 

 

「アナキン! そのクローンは誰だ!」

 

《タップだ。僕の大隊の》

 

 ───繋がった。

 やっぱり、間違いない。あの事件だ。

 

「アナキン、そのクローンは確実に持ち帰るんだ。撃った原因を今すぐ調べてくれ」

 

《了解、マスターブリュッヒャー》

 

 ……………………さて、どうしたものか。

 

 あの件も気掛かりだが、戦場の指揮を放り出す訳にもいけない。今は別の策を考えなくては。

 

「…………アルト。暇か」

 

《は、はいっ、マスター。ご用件は何でしょうか!?》

 

 思い立った私はホログラムのスイッチに手を伸ばし、愛弟子の通信回線に接続する。

 今彼女はマラステア行輸送船団の護衛任務を終えたばかりで、確か手持ち無沙汰だった筈だ。それに、彼女の現在位置はリンゴ・ヴィンダに近い。

 いきなりの通信に驚いたのか、飛び上がりながら振り向く我が弟子。かわいい。

 

「緊急事態だ。エーベルヴァイン代将、至急リンゴ・ヴィンダ攻略作戦に参加して欲しい。可能か?」

 

《え~っと、ああ、……はいっ。多少強行軍になりますが、できます。護衛任務なので疲労もあまりありませんし、武器弾薬も万全です》

 

「頼んだぞ。貴官の第53分艦隊が最もリンゴ・ヴィンダに近い。ネモ少将には後で私から話を通しておく。作戦宙域に入り次第、第5艦隊のキリアン提督の指揮下入れ」

 

《了解ですっ、マスター!》

 

 張り切りながら、堂々とした敬礼を疲労する我が弟子。その成長の感慨に浸りたい気分でもあるが、今は急を要する。それは後回しだ。

 

「キリアン提督」

 

《はい、ブリュッヒャー本部長。状況は既に伝わっている通りです》

 

「それはアナキンから聞いた。今そちらに第53分艦隊が向かっている。合流次第、敵艦隊を制圧して貰いたい。同乗の地上軍は攻撃軍に合流させて第二次攻撃を試みる。敵に一息も着かせずに、此方の不祥事を悟られないようにして下さい」

 

《了解です。必ずや敵艦隊を撃滅して御覧に入れましょう》

 

「頼みます。では」

 

 ───問題は発生したが、これで優勢は保てる筈だ。リンゴ・ヴィンダの攻略自体は遅かれ早かれ、作戦通りに行くだろう。だが…………

 

「───アンバー先生」

 

「はいはいっ。どうぞ何なりと、シャルさん」

 

「…………件のトルーパーに関する情報が欲しい。裏切りならその規模と背後関係、そして動機。それ以外なら医学的見地からの見解を。確定情報ではなくとも、何でも。その"どちら"であったとしても、我が軍にとって脅威だ」

 

「了解です。では少々お待ち下さいまし」

 

「頼みます。私もじきに現地入りするつもりです。それまでに集められるだけ集めてください」

 

 …………これが一過性の裏切りなら、どんなに楽なことか。

 その"答え"を知っているだけに、もう今から胃が痛い。

 ああ、またストレス地獄だよ。もう勘弁してよね、ほんと。

 絶対にゆるさないぞ、パルパルめぇ…………




 次回予告

 リンゴ・ヴィンダの戦いで上官のジェダイ将軍を撃ち殺したクローン・トルーパー、タップ。
 分離主義者が彼の身柄を狙ったことを切っ掛けに、統合作戦本部は本格的な調査活動に乗り出し、シャルロットも程なくしてカミーノ入りを果たすことになる。

 次回、第63話「陰謀」
 銀河の歴史が、また1ページ……
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。