一方グリーヴァス率いる独立星系連合軍艦隊は共和国最高議長シーヴ・パルパティーンの誘拐に成功し、コルサントからの離脱を図っていた。
~コルスカ宙域 惑星コルサント上空 ヴェネターⅠ級スター・デストロイヤー ”インテグリティ ”~
「痛っ、た……」
「ああ…………俺の腕が…………」
「衛生兵っ! こっちも頼む!」
負傷兵でごった返すヴェネター級艦〈インテグリティ〉の格納庫は、正に野戦病院さながらの様相を呈していた。
ここにいる兵士の大半は統合作戦本部の防衛を担っていたキャプテン・フォードー率いる部隊の生き残りで、壊滅的な打撃を受けた同部隊にはすぐさま治療が必要な傷を負っていた兵士も少なくなく、格納庫には応急的に野戦医療キットが展開されていた。
「大丈夫か、キャプテン」
「はい。自分は軽傷ですので」
指揮官であるフォードー自身も撤退戦の折に負傷しており、この臨時医療施設で応急手当を受けていた。
「だめですよフォードーさん。軽傷とは言っても相対的なものです。だいぶお身体に無理を強いていたようですからしばらくは安静が絶対です」
「ありがとうございます。本来ならまだ戦いたいところだが、地上戦はある程度片付いたと聞く。なら今は、貴女の言葉に従います」
治療を受けた彼は、それを担当していた一人の女性士官に礼を告げた。
白衣に袖を通した赤髪の女性士官───アンバー大佐は本来なら統合作戦本部長シャルロットの秘書官なのだが、負傷者が多い現状ではその医療手腕を買われて救護班の応援として治療活動に参加していた。
「フォードーが世話になったみたいですね。すまない、私からも礼を言います」
「いえいえ、お気になさらず。医に携わる者として当然のことをしたまでですから」
そこに現れた銀の長髪を靡かせた女性のジェダイ。
フォードーを見舞いに来たドラッヘだ。
戦友であるフォードーの容態を見に来たのだろうが、彼が思いの外壮健なことを確認すると、満足そうに笑いながら駐機区画へと消えていった。
「では、私はこれよりファイターで出撃しますので。それでは。フォードー、医師の言いつけは守っておいた方が得ですよ」
「ハハッ、言われなくてもそうします」
残されたフォードーは、吸い込まれるように灰色と黒のイータ2アクティス級軽インターセプターのコクピットに乗り込んで出撃した彼女を見送る。
「ところで、フォードーさん、でしたっけ」
突如彼の耳元で響く女の声。
彼の治療を行っていたアンバーの声だ。
「ああ…………何だ。まだ身体にどこか異常が?」
いきなり響いた女の声に一瞬身を震わせたフォードーだが、すぐに平常心を取り戻して尋ねる。
わざわざ医者が声を掛けてきたのだから、話さなければならない何かがあるのだろうと彼は考えた。
「はい。実は先程のスキャンの結果が出たのですが、頭の中に小さな腫瘍があるみたいです」
「腫瘍? ああいや、別に気分は普通なんだが」
彼女が告げた予想外の事実。
特段気分は平常だった彼は、殊の他重い症状を抱えていたらしい自分の身体に衝撃を受けた。
「だめですよフォードーさん。こういうものは放っておくと悪化して命に関わってしまうものなんです。もしかしたら戦闘中にどこかにぶつけて内出血を起こしているのかもしれません。先程は軽傷と言いましたがあれは撤回です! ささっ、手術室に行きますよフォードーさん」
「あ、ああ…………」
覚えのないことを告げられて、訝しむフォードー。
だが、医者が言うには事実だろうし専門でもない自分が口を挟むのは気が引ける。ここは大事をとって彼女の言う通りにしようと思い、手術室に向かう。
彼女の口元が妖しく笑っていたことには、気付かないまま────。
……………………………………………………
所変わって、此方は〈インテグリティ〉の艦橋部。
ここでは統合作戦本部長シャルロットは共和国軍艦隊の指揮系統を建て直すべく奮闘していた。
「〈インパヴィド〉、戦線離脱!」
「15戦隊はポイントB4まで移動。敵集団Dの迎撃に回せ」
「前方より敵集団Aが接近中。敵艦隊の旗艦〈インヴィジブル・ハンド〉を確認!」
「ほう。──好機だな。迎撃しろ」
「よろしいのですか? あの艦にはスカイウォーカー将軍と最高議長がまだ……」
「その程度で死ぬ珠じゃないでしょう、アレは。適度に痛め付けてお帰りいただく。我々の主隊はこのまま敵集団Aを攻撃するぞ。まずは取り巻きから排除しろ」
「サーイエッサー。全艦、砲火を敵集団Aに集中」
統合作戦本部の機能を〈インテグリティ〉に移して早々、私の艦隊は敵主力と正面から激突する事態となった。私は正面に見えるグリーヴァス艦隊の迎撃を指示し、戦場全体を俯瞰する作業に戻る。
現在コルサントの上空には両軍合わせて3000隻以上の艦艇がひしめき合い、互いに砲火を散らしている。緒戦は奇襲攻撃に成功した分離主義者が戦闘を優位に進め、我が方のコルサント本国防衛艦隊は壊滅的打撃を受けた。ここで本国艦隊司令官のオナー・サリマ少将が乗艦を撃沈され重傷を負ったことで、我が軍の指揮系統に深刻な混乱が発生する。
しかし、オープン・サークル艦隊主力が戦域に到着したことにより分離主義者を包囲する形となり、戦局は一転して両軍拮抗の乱戦状態に陥った。
我が軍は敵の包囲にこそ成功したが、シーヴ・パルパティーン最高議長を確保した独立星系連合艦隊主力は戦域からの離脱を企図して我が軍の包囲網に真っ正面から突っ込んだ。加えて両軍の増援があちこちにジャンプしてくる影響で戦場は混迷を極め、至近距離での偶発的遭遇戦が多発している。
地上への被害を考えるならば、早々に敵艦隊を撤退に追い込みたいところなのだが……
「全く、これではウロボロスどころの話じゃないな」
「本部長? 何か」
「いや、何でもない。ただの独り言ですよ。──副本部長、我が方の損害はどうなっています」
やはり、アスターテのように綺麗にはいかないか。
かつての愛読書を思い出し、自らの指揮未熟を覚る。全く、これでは何も変わらないじゃないか。
いや、とにかく今は自軍の秩序を維持することに労力を割くべきだ。感傷は後だぞシャルロット。
今後の方針を策定する上で参考にするために、私はターキン副本部長に自軍の損害を尋ねた。
「既に115隻のコルベット、フリゲートと42隻の主力艦を喪った。戦場を離脱した艦も多い。統制はぎりぎり取れているようなものですな」
「───そうか。全く、こんな事になるなら強引にでも本国艦隊だけは残しておくべきだった」
「お言葉ですが、アウター・リム包囲作戦は最高議長肝煎りの決戦でした。成功を確実なものとするためには致し方ない決断でしょう。あまり最高議長閣下を責めるのも酷な話では?」
…………こいつめ。
私の内心を知ってか知らずか、この隣にいるヤングカッ◯ングモドキはいつも癪に障る言動をする。
まあ軍事作戦センターからの撤退戦でこき使ってやったから普段の憂さ晴らしはできたけどさ。──いや、逆に根に持たれたか。まぁいいさ。どうせ一時的な関係だし、この手の輩も幕僚団には一人ぐらいいた方がいい。居心地のいいイエスマンばかりでは機能不全を起こしかねない。
「──確かに、貴官の言うことも一理ありますね。今はとりあえず置いておきましょう。して、地上軍の様子は?」
「奴等は地上のドロイド軍を完全に捨て石にしたようですな。グリーヴァスが去ってからというもの、組織だった動きはない」
「なら地上は向こうの指揮に任せて大丈夫ですね。地上軍には改めて残敵掃討を命じます。あとは、───」
「目下、此奴らだけ、ですな」
私も、副本部長も、艦橋の窓越しに見える一隻の戦艦───グリーヴァスの旗艦〈インヴィジブル・ハンド〉を睨む。
僚艦と共同で我が方のプラエトル級艦〈プリテンダー〉を撤退に追い込んだ奴の旗艦は、次なる獲物としてヴェネター級艦〈ガーララ〉を目標に選ぶ。
一方の〈ガーララ〉も損傷が激しい〈インヴィジブル・ハンド〉に引導を渡すべく砲門を開き、雌雄を決するべく接近していく。
…………一応、伝えた方がいいか。
この混乱した状況下にあって、あれに議長が囚われているということが全軍に徹底されているという保証はない。
「〈ガーララ〉、聞こえるか、此方は統合作戦本部だ。貴艦の目前に迫る敵旗艦には最高議長閣下が囚われている。敵艦の武装と推進機関を集中攻撃しろ。然る後に拿捕するんだ」
《───了解です本部長。やってみます》
両艦はかつて見た映画さながらの動きで接近し、重ターボレーザの応酬が始まる。
先手を切ったのは〈ガーララ〉だ。
4基のDBY-827重ターボレーザが〈インヴィジブル・ハンド〉のシールドを削り、装甲表面にダメージを蓄積させる。
既に我が軍から少なくない攻撃を受けていた〈インヴィジブル・ハンド〉のシールドは瞬く間に禿げ上がり、両艦が側面砲郭による近接戦に移行する頃には至る所から火を吹いていた。
───唐突に、〈インヴィジブル・ハンド〉の艦首が下がる。
一度に多量のダメージを受けた艦体が耐えきれなかったためか、制御を喪って墜落していく。
…………あっちゃ~、これも変わらないかぁ。
一応、打てる手は打ったつもりではいるんだが。内心では別にパルパルなんて死んで構わないと思ってこそいるが、それはそれ。奴の企みが明るみに出ていない以上、あくまで議長の身の安全は確保しないといけないからなぁ……
「…………スカイウォーカー、聞こえるか? 統合作戦本部だ、応答しろ」
返事はない。ただの屍のようだ。
彼のコムリンクの周波数に向けて通信を送ったものの、応答がない。
「ああもう、この際オビ=ワンでも誰でも構わん、〈インヴィジブル・ハンド〉に突入した決死隊、応答しろ!」
《……なんだ、五月蝿いなぁシャルロット。お前さんのお陰でこっちは大変なんだ! できるだけ手短に頼む》
応答したのはアナキンだ。
墜落する〈インヴィジブル・ハンド〉は艦体が真っ二つに割れて、コルサントの大気圏に焼かれて真っ赤に燃えている。彼の声色が乱暴なのも仕方ない。
「最高議長閣下は無事か?」
《ああ勿論だとも!》
「そうか。では閣下のことは頼んだぞ。空港には此方から連絡しておく。後のことは任せた」
《おい待…………》
プツン。
さて、一応パルパルも無事みたいだし、此方は此方の仕事に戻るとしましょうかねぇ。
次回予告
共和国軍の勝利に終わったコルサントの戦い。しかし、受けた損害は大きい。地上では戦いの傷を癒すべく復興作業が行われていた。
統合作戦本部長シャルロットは、シーヴ・パルパティーン最高議長が統帥権の範囲を越えて個別的な命令を軍務に就いていたアナキン・スカイウォーカーに与えていたという事実に不快感を露にする。
次回、第70話「統帥権越権問題」
銀河の歴史が、また1ページ……