共和国の旗の下に   作:旭日提督

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統帥権越権問題

「どういうことですか、これは…………」

 

 手に取った一枚の戦闘詳報。それに目を通した瞬間、ふつふつと怒りが沸き上がる。

 

「どうかされました? シャルさん」

 

「全く話にならん。奴はいつから皇帝になったつもりだ! 越権行為も甚だしい。見ろ」

 

 怒りのあまり思わず投げ捨てた資料。それを一瞥したアンバー先生もははぁ、と納得気味の表情を浮かべた。

 

「なるほど。ドゥークー殺害の顛末ですか」

 

「ええ。アレの扱いは共和国全体の問題だ。仮にも敵国の元首だぞ。捕らえて交渉を迫るのが我が軍の基本的な方針だった。それを奴は土壇場でひっくり返しやがった! 議会の承認も、我々軍の助言も無しにだ!! 不愉快にも程がある」

 

 ダンッ! 

 

 拳が机に真っ逆さまに落ちる、暴力的な音が響く。

 

 資料の中身は、アナキンがドゥークーを殺害するに至った顛末について。私がジェダイ評議会から取り寄せたものだ。

 アナキンはパルパティーンに唆されてまんまと敵国の元首の首を刎ねたわけだが、やはりと言うべきかジェダイ評議会内部でも少し問題になっていたらしい。今でこそ戦争状態で余裕がないが、元々彼等は武器を持たぬ者を殺めることを教義で固く禁じていた。

 あの時ドゥークーは両手を落とされ抵抗力は無きに等しい状態だったというから、これを殺すことの是非が問われた訳だ。まぁ、結果的にはシスだから無問題! で片付いたみたいだけどね。

 

 そもそも、ドゥークーをどう扱うかなんて問題は非常に政治的なものだ。これが唯の犯罪者であれば逮捕するなり、凶悪極まりなければその場で射殺已む無し、となるのは普通である。だが、ドゥークーは戦争相対の国家元首。殺害なんぞ、共和国にとって何ら利益を生み出さない。だからこそ奴は捕縛というのが基本的な方針だったというのに、パルパティーンは個人の独断でそれを反故にした。幾ら奴の茶番とはいえ、到底許されるものではない。政治的見地が全くないジェダイ評議会にも呆れるばかりだが、奴も奴で論外にも程がある。ヤマモト・ストライクとは訳が違うんだぞ馬鹿めが!! 

 

「そもそも、高度に政治的な問題は議会なり委員会を通すべきだし、作戦行動中のジェダイの指揮権は軍にある。我々も議会も面子を潰されたんだ。只ではおかんぞ」

 

「まあまあ、どうか落ち着いて下さいな。ここで怒っていても何も解決しませんよ?」

 

「それは分かっているのですが…………いいえ、駄目だ。アンバー先生、しばらく留守を頼みます。少しばかり用事ができましたので」

 

「ちょっ、シャルさん!?」

 

 思いたったら即断即決。カチコミでもしないとこの淀んだ気分は晴れそうにない。

 

「では行ってきます!」

 

「待ってくださいよーシャルさん! せめて対策の一つや二つ…………」

 

 今日という今日は許さん。奴め、一泡吹かせてやるわ。待っていやがれ糞爺! 

 

 ……………………………………………………

 

 

 ………………………………………………

 

 

 ……………………………………

 

 

 ………………………………

 

 ~惑星コルサント 元老院オフィス・ビル 最高議長のオフィス~

 

 

「どういうことだ! 糞爺閣下!」

 

 ガンッ!! 

 

 構える衛兵をものともせず、シャルロットはパルパティーンの執務室へと半ば蹴り入るように足を進める。

 

 当のパルパティーンはというと、ただ事ならぬ彼女の様子を見ても尚、悠々と執務に励んでいた。

 

 そんな彼の眼前の机目掛けて、勢いよくシャルロットの左掌が振り下ろされた。

 

 バンッ、と勢いよく響いたその音で漸く、パルパティーンは顔を上げる。

 

「おやおや何の用かね? ブリュッヒャー本部長。君がそんなに怒るとは、珍しいこともあるのだな」

 

「惚けないでいただきたい。ドゥークーを殺させたのは何故です」

 

 開口一番、怒りを滲ませて言い放つシャルロット。だがパルパティーンはさも何でもないと言わんばかりに、余裕綽々と彼女の質問に応えた。

 

「ああ、何だそのことか。何をわざわざ尋ねるというのかね? あれは放置すればするほど危険な敵だ。当然だろう」

 

「戦闘詳報を確認させていただきましたが、わざわざ殺させるほどのものとは思えませんね。むしろ、両腕を落としたなら捕らえて交渉材料にした方が遥かに有益だ。我が軍と議会が策定した事前の方針もそうなっていた筈ですが」

 

「其方の言い分も一理ある。だが、あれはジェダイが言うところの暗黒卿とやらなのだろう? ならば捕らえた方が危険ではないか」

 

「如何に最高議長といえど、土壇場で戦争指導をひっくり返されては困るのは我々だ。そもそも、作戦行動中のジェダイの直接的な指揮は我々統合作戦本部の仕事。命令を出すというならば然るべき手続を取っていただきたい」

 

「…………なるほど、君が怒っているのはそういう訳か」

 

 平行線を辿る議論。

 シャルロットの言葉を聞くうちに、パルパティーンは漸く彼女の意図を察する。

 ようは、軍の面子を潰されたことに彼女は大層立腹なのだと。

 具体的な大戦略の策定はもとより、戦場で戦う個々の部隊や人間に対する命令件は軍のもの。統合作戦本部を設置する上で事前に取り決めたにも関わらずその権限をかっ拐われたのが、年若い本部長は大層お気に召さないらしい。

 

「漸く察しましたか。だいたい、殺されかけていたならともかく身の安全が確保された状態で、ヒステリックにドゥークー殺害を執拗に命令する道理は無いでしょう。事の仔細はアナキンから聞いてますよ」

 

「ふむ…………確かに、言われてみれば筋が通らんな。だが私の事情も考えてくれ。直前まであの恐ろしいドゥークーとグリーヴァスめに捕らわれていたのだぞ。恐怖の一つ二つは残っていただろう。如何な私とて、少しは感情的になるというものだ」

 

「だから、それを命令にされると困ると言っているのです。独裁者ならまだ許されましょうが、閣下は共和国という装置の重要な一要素なのです。権限は正当な手続の下に運用していただかなければ、被害を被るのは下々なのですから」

 

 情に訴えるパルパティーンの言葉を、斬り伏せるかのように退けるシャルロット。酷く官僚的な思考ではあるが、正当性でいえば明らかに彼女の方が上だった。

 彼女が言わんとすることはただ一つ、”共和国という装置の歯車以外の働きはするな”と。要約すれば、その一文に集約された。

 権力の運用は正当なプロセスを経て初めて有効かつ意義のあるものと考える、彼女らしい冷徹な視点だった。

 

「今回の件で我々統合作戦本部の大戦略は大きな修正を余儀なくされた。ゆめゆめ、権限を逸脱した軍の私兵化は、厳に謹んでいただきたい」

 

 氷のような無機質な瞳を向けながら、パルパティーンに”進言”するシャルロット。

 それでは、と言い残し、怒り肩のままパルパティーンに背を向ける彼女。それを静かに、呼び止める声が響く。

 

「仮に…………もしもの話だが。この国に独裁者が現れたとしたら、君はどうするのかな」

 

「何も。その時はその時ですよ。私は軍令の長としてあるべき行動をするまでです」

 

 パルパティーンに背を向けたまま、抑揚のない言葉を淡々と紡ぐシャルロット。あたかもそれが唯一の正解だとばかりに断言する彼女を前に、パルパティーンは面白くなさげに顔をしかめた。

 

「それとも何か。今の答えはお気に召しませんでしたか? パルパティーン最高議長(・・・・)閣下」

 

「いや……忘れてくれ。ただの老人の気紛れだよ」

 

 振り返り、パルパティーンを一瞥するシャルロット。

 しかし彼女は無言のまま、足早に彼の執務室を後にした。

 

 

 

「…………止むを得んな。あの女狐めも対象とする他なしか」

 

「御意…………」

 

 シャルロットが立ち去った執務室で、静かに呟くパルパティーン。

 貼り付けられた笑顔が消えたその表情から発せられた声は、彼の傍らに控えるマス・アミダ副議長にだけ微かに届いていた。




 ぶちぎれシャルっちの巻。
 パルパルの土壇場の思いつき(予定調和)で軍の面子を潰された挙げ句余計な仕事を増やされたので残当ですね。
 あの末期的衆愚政治のなかシャルっちだけ日本的官僚メソッドなのですこぶる浮いて見えます。
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