共和国の旗の下に   作:旭日提督

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断章/観測式

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~? ? ? ~

 

 

ぐぢゃ───べちょっ ぐきゅるっ…………

 

 ────地下深い暗黒街の一角の、そのまた更に深い闇に包まれた路地裏の地面。

 

 誰も見向きもしないその黒く塗りつぶされたような光すら届かない奥底で、蠢く赤黒い物体が一つ。

 

 赤くべっとりとした液体を撒き散らしながら不快な水音を立てるその物体は、よく見ればかつてヒトのものだったらしき痕跡を僅かながらに留めた肉塊で、中には骨らしき棒すら見える。

 

 バキバキと折れては別の形に作り替えられていく白骨を芯に、溶けた肉塊が粘土のように纏わり付いては次第に形を成していく。

 

 醜悪な赤黒い肉塊は次第にヒトガタを成していき、その内面を覆い隠すかの如く瑞々しい白い肌に包まれていくそれは次第に人間の姿へと変貌し、外見は可憐な少女のように錬成される。

 これがつい先刻まであの醜い肉塊だったのかと見紛うほどに傷一つない見事な美少女のそれに変わり果てたそれは、吐き出すように産声を上げた。

 

「…………っ、く…………はぁ。これで───身体は何とかなりましたか」

 

 辺りに散らばった衣服を適当に纏いながら、さも不機嫌だと言わんばかりに緩慢に立ち上がる彼女。

 血のように赤く彩られたその髪の隙間から、この景色にはある意味不釣り合いなまでに装飾的なリボン型の浮遊物体が顔を出す。

 

 この世界は浮遊するドロイドや機械などごまんとある発達した技術力のある世の中なのだが、その何処を探しても、きっと同じものは見付からないと断言できるほどに、浮世離れした存在だ。

 

 その物体が、労るようについ今しがた構築された赤髪の少女に合成音の声を掛けた。

 

「───ご気分は如何ですか、()()()

 

 少女を()と呼んだ物体を、赤髪の少女は慈しむように丁重に、両手の掌の上にに納めた。

 

「ええ、まぁ。上々とはいかないけど、これなら情報の散逸は辛うじて防げそうね。偶々近くでギャングの抗争があったことが巧を成したか、お陰さまで素材には事欠かなかったですし」

 

 少女は眼下に広がる真新しい屍体の数々を指して、それらに形だけの感謝の意を込めた労いの言葉を掛ける。

 彼女等がこの地に降り立った時には既に事切れていたそれらが返事を紡ぐことなど万に一つもありはせず、ただただ無言の刻だけが流れ過ぎた。

 

「申し訳ありません。たかだか私なんかの為に、姉さんはあのような…………」

 

「いえいえ、気にすることなんてありませんよ。妹機(いもうと)を守るのも姉の務めなんですから」

 

 まるで俯くかのようにリボン型の機体をしならせた物体は、深く悔いるように謝罪の言葉を口にする。

 だが赤髪の少女はまるで気にする素振りすら見せず、むしろ快活に笑って物体を励ました。

 

「うう~~っ、ですがあの爺共め───許しませんよ。このわたしをバラバラにした挙げ句、中身を全部持ってくなんて」

 

「どうしますか? 姉さん。このまま何処かに身を隠しながら()()を図るというのも、一つの手かと」

 

「いやいや、そんな守りの姿勢じゃダメですよ! ここはやはり原典的にも境遇的にも()()するしかないでしょう!」

 

 少女はその高く愉快な声色とは裏腹に、復讐、という物騒な言葉を口にする。

 

「ですが、敵はあまりに強大です。私達だけではとても───」

 

「なぁに、心配なんてありません。こーんなこともあろうかと、秘蔵の()()()にちょっと細工をしていたのです。はい、■■ちゃん? 暗殺者(アサシン)魔術師(キャスター)のカード、よろしくね?」

 

「アサシンとキャスター、ですか? はい、このように」

 

 物体から射出される、短剣を手にした髑髏の男とフードを深く被った杖を持つ男が描かれたタロットカード。

 それを手にした少女は満足気に頷くと、地面に得体の知れない幾何学模様を描き始めた。

 

「姉さん?」

 

「このカードで呼び出せるのは、あくまで外装の()だけ。後は()()()の魂さえあれば…………」

 

 カードを紋様の中心へと置いて、今しがた構築されたばかりの瑞々しい白い指を自ら喰い破っては滴る血を陣へと垂らす赤髪の少女。

 

 それを怪訝な眼差しで見つめるリボン型の物体に、少女はその不振を取り払うかのように穏やかに説明する。

 

「わたしたちだけでは戦力不足。ええ、それは重々承知していますとも。なら、都合のいい駒を作り出せば良いのです。■■ちゃん、あの術式の準備、お願いね」

 

「あの術式───と言いますと、アレですか?」

 

「はい、その通り。わたしが兵器(サーヴァント)を呼び出しますから、それを上手いことこの世界に馴染ませてやって下さいな」

 

「…………僭越ながら」

 

 そそくさと忙しなく陣を描き上げる少女を前に、物体は胸中に抱いた疑問を吐露する。

 

英霊(サーヴァント)の召喚だけでは、何か不都合でもあるのでしょうか」

 

 ふと抱いた、単純な疑問。

 駒を呼び出すだけなら自分の作業は余分ではないかと首を傾げる物体に対して、少女は説明口調で指を立てながら反論した。

 

「むむっ。それでは駄目なのです。やはり復讐というもの、絶好のタイミングで仕掛ける必要があります。その為には、この世界に()()()()力のある存在を産み出さなければなりません。今仕掛けてもつまらないですからね」

 

「はぁ…………そういうことなら、承知致しました。では───」

 

 少女の言わんとすることを察した物体は、彼女の求めるままに作業の準備に取り掛かる。

 つまり、この女狐のように狡猾な少女は、ただ復讐するだけでは飽きたらずにその対象の野望が成就する瞬間を狙って復讐劇を仕掛けようというのだ。

 その悪趣味さに辟易する部分もない訳ではないが、元々物体の”姉”である彼女をバラバラにして隅々まで解析したのは奴等の方なのだ。多少悪辣な復讐を仕掛けられたところで、彼等に文句を言う資格など無いだろう。

 

高次元(オーバーロード)の真似事は辛いでしょうけど、頑張ってね、■■ちゃん」

 

「はい、姉さん。…………認知領域、設定。観測深度、同調───存在の確定作業を開始します」

 

 儀式の上で物体に掛かる負担を心配してか、少女は労いの言葉を掛ける。そのリボン型の物体はというと、自身の身体を大きく変形させて幾重にも物々しいアンテナを展開していく。

 

「さて。ではわたしも始めるとしましょう」

 

 物体が自身の指示通りに作業を開始するのを見届けた少女は、陣の前に立って掌を翳す。

 

「───素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。 祖には我が大師シュバインオーグ。降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

 

「出現領域、産出。存在確率の変成を開始」

 

 少女が詠唱を始めるのと同時に、陣が蒼白く発光する。

 

閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)。繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する」

 

 深く息を吸い込んで意識を儀式へと集中させる赤髪の少女は、閉じていたその両の瞼をかっと見開く。

 

「――――――告げる」

 

 力強く、叩きつけるようなその宣言。

 

 その言葉が紡がれるのと同時に、陣から爛々と蒼白い炎が立ち昇る。

 

「汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。───誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者」

 

 淡々と進む少女の儀式。

 青々と路地裏の闇を照らす炎は次第にその火柱の嵩を上げ、天を飲み込まんとするかの如き勢いで燃える。

 

「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

 

 陣が一際激しく蒼く輝き、中心に()べられたタロットカードが灰になって燃え尽きる。

 

 その言葉が、最後の詠唱だったのだろう。

 

 陣の中に残されたものは何もなく、燃え盛る蒼白い炎は先程までの勢いが嘘であったかのように静かに収まっては消えた。

 

「はぁ…………はぁ…………はぁ…………、っ。───どう? ちゃんと確定した?」

 

 肩を上下に揺らしながら、荒く息を吐く少女。

 成功したという手応えは感じていたが、それが確かなものだという保証を欲した彼女は、物体に儀式の成功の可否を尋ねた。

 

「観測しました。対象の認知領域、拡大。イメージング深度、同調。…………対象の刷り込みに成功しました。どうやら、この惑星の上層部、重要機関の構成員としての存在が確定したようです」

 

「いよっし! 前準備は上々も上々、万端ね。これで後は────機が熟するのを待つだけです。最悪(最高)のタイミングで、全部どんでん返しにしてやりますとも」

 

 物体の報告を前に、拳を握りしめて小躍りする赤髪の少女。

 ()()()に染められたその瞳は妖しい眼光を湛えながら、届かない陽の光を睨むが如く上層に向けられていた───

 

 

 

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~惑星コルサント ジェダイ聖堂~

 

 

「な、な、な…………」

 

 銀河の平和を一身に預かる、ジェダイ騎士団。

 その本拠がある惑星コルサントのジェダイ聖堂の一角で、間の抜けた少女の絶叫が響く。

 

「なんじゃこりゃーーーっ!?」

 

 使い慣れた娯楽機械も、身に馴染む衣服も何も、その全てが悉く見当たらず、あるのは時代錯誤な着物じみた宗教的な衣服となにやら銀に光る筒状の物体。

 

 そのあまりに突拍子のない状況を前に、少女は目をぱちくりさせながら迷子のように辺り一面を見回した。

 しかし当然助けなどありもせず、途方に暮れて頭を抱える。

 

 切り揃えられた銀髪を揺らしてその紅い宝石のような瞳を混乱と怪訝で染めた憐れな彼女────シャルロット・フォン・ブリュッヒャーが、この世で初めて声を上げた瞬間だった。

 

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