ジェダイ評議会に、パルパティーンが分離主義者と”内通”している証拠を渡したシャルロットは、来るオーダー66に向けて軍の内部工作を進めていた。
一方、シャルロットから証拠を受け取ったジェダイマスター、メイス・ウィンドゥは、更にアナキン・スカイウォーカーから「パルパティーンこそシス卿ダース・シディアスである」と報告を受ける。
想像以上に共和国と元老院がシスに侵食されていたことに愕然とするメイスだが、事ここに至れば最早実力でシスを排除する他止む無しとジェダイ評議会は決定した。
3人の熟練ジェダイ・マスターを引き連れ、事実上のクーデターを成し遂げるべく元老院オフィスビルへと歩を進めるマスターウィンドゥ。
その様子を、俯瞰している者達がいた。
~コア・ワールド コルスカ宙域 惑星コルサント 共和国軍事作戦センター~
「なに、ジェダイが動いた?」
報告を聞いて、眉を顰める白髪の少女。
うら若い見た目ながら共和国宇宙軍の軍令部門の事実上のトップに君臨する統合作戦本部長、シャルロット・フォン・ブリュッヒャーだ。
彼女はジェダイの意図を確かめるかのように、傍らに控える彼女の副官──アンバーに尋ねた。
「はい。偵察ドロイドからの映像に誤りはありません。真っ直ぐ最高議長のオフィスを目指しているみたいです」
「…………些か性急に過ぎるな。早まったか、マスターウィンドゥ」
当初の予想より遥かに早いジェダイの動きに対して、シャルロットはうんと唸る。
しかし、元よりいつ”これ”が起こるかは当の本人にも分からなかったのだ。如何に彼女に”原作”の記憶があろうと、時系列の何から何まで把握している訳ではない。その点で言えば、単に運が無かったといえる。
「不味いな。私が出る。アンバー先生は此所に残って……」
「いえ、わたしが行きます」
「…………なに?」
ジェダイの動きに呼応せんと、出陣を決めるシャルロット。だが、赤髪の秘書官はそれを制した。
「ふっふっふ、わたしにはこの時のために用意していた切り札があるんです。なのでここは、どうかわたしに任せて下さいまし」
「切り札?」
「ええ。詳細は申せませんがとっておきの鬼札。幾ら妖怪じみたパルパティーンといえど、食らえばひとたまりもない筈です。むしろここはシャルさんにこそ残るべきかと。貴女にはここで軍隊をコントロールして貰わないと、此方の反撃が上手くいかないかもしれませんし」
「…………わかった。先生の言う通りにする」
アンバーの思い描くシナリオを、慎重に吟味するシャルロット。
確かにそれならば憎きパルパティーンに一泡吹かせることも出来るやもしれぬと判断した彼女は、アンバー言うとおり策があるならそれに乗るべきだと判断した。
「なら話は決まりですね。どうか、シャルさんはどーんと構えていてくださいな」
「ええ、分かりました。───くれぐれも慎重に頼みますよ、先生」
ならば話は早いとばかりに、そそくさと足早に執務室を後にするアンバー。
突然降って沸いた決戦の機会に未だに決意が固まらないシャルロットだったが、意識を切り替えた彼女は戦況を示す地図睨む。
───オーダー66…………運命の刻は唐突に、か。
クローン戦争の趨勢を示す、その銀河地図。
銀河系の全域を映したその蒼く淡いホログラムは、不気味な点滅を繰り返していた。
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~元老院オフィスビル、最高議長執務室~
「───オーダー66を、遂行せよ」
扉の向こう側から聞こえる、しゃがれた醜い爺の声。
どうやら先に向かったジェダイ達は悉く返り討ちにされたらしく、仕舞いにはスカイウォーカーの離反すら許したらしい。
だが、ここまでは予想の範疇。
《…………最高議長閣下、銀河共和国元老院の名において宣言する。”分離主義者への内通”の容疑で貴方を逮捕する!》
レコーダーから微かに聞こえる、今は亡き偉大な
(確かに、軍事力においても支持率においても我々は劣勢だ。だからこそ、私達は”法的正当性”を確保する必要がある。むしろ、私達の勝利はこの一点にかかっていると言っても過言ではない)
頭の中に、彼女の声が反芻する。
正直、わたしにとってジェダイが勝とうが負けようがどうでもよいことだ。シャルロット・フォン・ブリュッヒャー上級大将が企図していたとおり、此方に”正義”さえあればよい。
大丈夫。奴を殺す手段は、もう整えた。
「あらあら、皆様荒事がお好きなようで。もう全滅してしまうとは、情けないですねぇ」
引き連れてきたショック・トルーパー達が、先んじてデスクに悠々と腰掛けるしわくちゃの歪んだ人影───シーヴ・パルパティーン最高議長を包囲する。
「何者か───というのは愚問だな。何をしにきた、女狐。貴様から貰えるものはとっくの昔に全て余のものとした筈だが」
「もう皇帝気取りですか、お気の早いことですね。いえいえ、単純なお話です。───貴方、逮捕を免れましたね? 公務執行妨害って、知ってます?」
「あれはジェダイによるクーデター、即ち共和国に対する反逆だ。アレが公務とは、片腹痛いわ」
「おかしいですねぇ、確かに罪名は告げた筈ですよ? 要件は満たしています」
メイス・ウィンドゥらによる逮捕行為を指して、クーデターだと一笑に付す翁。だが、それはおかしいのだ。
確かにわたしの知る並行世界の記録ではそうであろう。だが、そうならないように細工したのは我々なのだ。奴にとっては、多少なりとも想定外の打撃にはなっただろう。まさか自分の計画が一部でも漏れていたとは思えまい。
さては、最初から偽造する気満々か、あるいは単なるハッタリか。
「何より、彼等に”証拠”を与えたは他ならぬわたしですから」
「ッ、お前か女狐ぇ!!」
瞬間、迸る蒼い雷撃。
ショック・トルーパー達は瞬く間に薙ぎ倒され、あっという間にわたしと奴の一対一。
「ソーンさん、どうぞ退却してください。アレは此方で引き受けます」
「イエッサー。どうかご無事で」
薙ぎ払われたトルーパー達に命じて、彼等をここから下がらせる。
さて、お次はどう出るのやら。
「キィヤァァァァ!」
ふと気付けば、天井まで跳ね上がる黒い影。
迸る赤い刃が、わたしの喉元を目掛けて突進する。
「サファイアちゃん!」
《はい、姉さん!》
刃を立てて、その吶喊を受け流す。
白い光刃を迸せる
後ろに飛び退いて間合いを取ったその隙に、懐からわたしは”とっておき”を取り出した。
「
掲げたるは一枚のカード。
古ぼけた甲冑を着込んだ剣士が描かれたそのカードを
───視界が、塗り変わる。
───セカイが、/反転/する。
一面の赤は、無機質なモノクロへ。
幾多に浮かび上がる”線”はどくどくと脈打って、頭がスパークしそうになる。
黒い喪服じみたいつもの着物は無垢な純白のそれへと姿を変え、琥珀色の瞳は爛々と宝石のように蒼く染まる。
杖の形をしていた
───
わたしたちの別の縁を辿って用意したクラスカード。文字通り英霊をその身に宿し己自身を英霊と化す魔術礼装。その中でも、用意したのはとびっきりのジョーカーだ。
この日のために、確実に敵を仕留めるために。
白黒に彩られた景色は四方八方に罅割れて、今にも崩れてしまいそうなぐらい脆く見える。
赤く脈動する”線”は
こんなにも世界は継ぎ接ぎだらけで儚いものだと、如実に物語るかのように溢れ出すそれを”直視”する。
「ぐっ、う……っ!」
頭のナカが、異界に繋がるような錯覚。
何せ普段は使われていない回路を開いたのだ、その反動の規模など言わずもがな。わたしを内側から突き破るように、ぐちゃぐちゃに掻き回される。
セカイが塗り変わる度に、迸る頭痛。
思わず膝をつきそうになるぐらいの激痛に抗って、瞼の視界に”敵”を捕らえる。
「───無垢式、開境」
ああ、これが…………貴方が視ていたモノなのですね。
線を直視する度に、頭が割れそうなぐらいに沸き立つ。
身体は最早私のものではないかのようで、痛みに逆らいただ一撃のためだけに前へと進む。
遠い記録に見えた”彼”。
わたしの記憶ではないけれど。どこかの原典が恋い焦がれた
その彼に想いを馳せたのは一瞬で、気付けばもう、わたしは敵の目の前にいた。
「な………ッ!」
その数、十五。
あれこそが、この化け物を終末に導く致死の運命。
───── 一閃。
「では、両儀の狭間に消えて下さいまし」
刃を翻し、十五の線を綺麗になぞる。
爛々と赤く輝く十五の”線”。───見えた。
刀を滑らせるのは刹那的で、機械的に、ただ導かれるままに。
彼岸より放たれた幽世の一太刀は、希代の妖怪を完膚なきまでに解体した。
「が、は…………」
滑らかに崩れ去る、さっきまで人間だったモノ。
バラバラにされた肉片は血飛沫一つ立てることなく、綺麗に重力に引かれていった。
「────はぁ、っ…………う…………」
───これで、わたしの”復讐”は終わり。
反動に喘ぐ身体から、
《大丈夫ですか、姉さん!?》
「ええ、なんとか、ね。っ……」
どうやら、反動は予想以上らしい。
カードを夢幻召喚したのはほんの一瞬だというのに、
───早く、離脱しないと。
ともあれ、いつまでもこの場に留まっているのは不味い。騒ぎを聞き付けたセネト・ガードやレッド・ガードが駆け付けてくるかもしれないし、ベイダーの名を与えられたアナキン・スカイウォーカーが戻ってくる可能性だってなきにしもあらず。
「それよりもサファイアちゃん、ここを早く──」
「いやはや、先程はひやひやしたよ。一体、どんなカラクリを使ったのかな」
───え?
───なんで。
「まるで信じられないといった目だね。私の方が信じられないよ。一体どんなカラクリで、私を”殺した”というのだね、君」
───なんで、貴方が立っているんですか。
間違いなく、”直死の魔眼”でバラバラにした筈なのに。
「…………さて、叛乱者にはきちんと仕置きせんとならんな。余の統治に女狐などいらぬ。死ねぇい!!」
確かにこの手で切り裂いた筈なのに、なんで生きているのか分からない。
肉塊は未だに床一面に散らばって綺麗な赤い華を咲かせているにも関わらず、平然と動き回る醜い爺の姿をナニカ。
それはまるで、
わたしに向かって迸る蒼い稲妻の数々は、ひどく緩慢なものに見えた───