「撃てっ!!」
度重なる銃弾の雨霰。
バリス・オフィーを下したはいいものの、ショック・トルーパーを盾にして既にターキンは逃走済み。
何度目かわからないブラスターのシャワーを掻い潜りながら、一人一人、確実にトルーパーを制圧する。
──しかし、腑に落ちんな。
奴さん、司令部要員を制圧した癖に人質として使おうとしないとは。バイオチップの制御下にあったとしても、”友軍”を無闇矢鱈と傷付けない程度の理性は残っているということか……? まぁ、彼等は直接的にオーダー66を妨害した訳ではないから、積極的な加害対象には成り得ないということか。
「───これで、終わり」
無機質に執拗な抵抗を見せていた、最後の一人を制圧する。
一般兵だけが相手なら、ブラスターをバラして身体をフォースで吹き飛ばすだけの簡単な仕事だ。ものの数分で片が付く。
「………………」
ふと、視界の片隅に映る白と黒のコントラスト。
3年間連れ添った私の副官、CT-01/425。コマンダールキア。最後は意見の相違を見たが、それでも彼は優秀な兵士だった。願わくば───
「既に時遅し、か……」
やはりか、と肩を落としている余裕はない。
戦場で奪われるのは唐突だ。今までだってそうだったろう。そして、これからも。
立ち止まって悼む暇など無い。そんな悠長なことをしていたら、彼の命が無駄になる。為すべきを成せ、故人を偲ぶのは全てが片付いてからだ。
「現時刻を以て共和国軍事作戦センターを放棄する! 総員、定められた手順に従い重要資料の破棄と移転を開始しろ」
「は、はいっ……!」
怯えていた司令室のクルー達が、慌てて司令部の移転作業に取り掛かる。中には、半泣きの形相で顔面をしわくちゃにしながらも必死に手先を動かしている者もいる。
───全て、私が巻き込んだ。
情報を共有していたのは我々”救国軍事会議”の上層部のみ。いわば彼等は被害者とも呼べる。
だが、言い訳などは許さん。
共和国の軍服に袖を通した以上、正当な指揮命令系統に属する義務が彼等にはある。
シーヴ・パルパティーンが希代の売国奴と発覚
「閣下!! ──コバーン准将より暗号通信です!」
「…………読め」
息も切れ切れになりながら、私の元に駆け寄る若い青年士官。
宣伝室長のマガツ少佐だ。
「ハッ!! ──”我が艦隊は〈ヴァロア・ステーション〉を制圧せり”との事です!」
「了解と伝えろ。貴官も所定の作業に掛かれ」
「Sir Yes,Ma'am!!」
…………ふむ。少なくとも、第一段階は上出来か。
〈ヴァロア・ステーション〉は惑星カリダの軌道上に建設された共和国宇宙軍の一大拠点だ。共和国軍戦略会議が置かれたこのステーションならば、此処共和国軍事作戦センターに比べても代替施設として申し分ない。
我々は、新たな本拠地の獲得に成功したのだ。
コバーン艦隊が〈ヴァロア・ステーション〉の制圧に成功したならば、次に落とすべきは惑星ブレンタールⅣ、そして惑星アナクセスか。あそこはカリダからもハイパーレーンで近い上に、共和国有数の造船施設がある惑星だ。
ブレンタールⅣは大銀河戦争の英雄サティール・シャンの生まれ故郷として知られたボーメア宙域に属する惑星で、この近傍に位置するリンガリ星雲はイオン乱流が吹き荒れる航行の難所。防御には向いた地形だ。
唯一の懸念事項は、忌々しいモスマの生まれ故郷が道中にあることか。アレは人間としては出来た人だが、政治思想的には私と対極。果たして素直に通してくれるか……
「将軍! やはり此方においででしたか」
「コマンダーソーンか。何事だ」
「いえ、問題ではありません。退路の安全は確保しました! ポートはフォックスの奴が抑えています! さぁ今のうちに!!」
さて、此方も此方で上々と。
コマンダー・ソーンはオーダー66に従わなかった共和国軍派のショック・トルーパーを率いて退路の確保に成功したらしい。
データの破棄作業を終えた司令部要員達を宇宙船の着陸パッドへと案内すべく、誘導作業に移っている。
続々と司令室を後にする非戦闘員と入れ替わりに、フェイズⅡアーマーを纏ったクローン・オードナンス・スペシャリスト達が司令部の爆破準備のために手際良く散らばって行く。
「将軍も早く! 予定通り、此処は間もなく爆破します!」
「でかしたぞソーン。良い手際だ。カリダで待っているぞ」
「イエッサー!」
爆破部隊の指揮を取るソーンに背を向け、コルベットが待つポートへ急ぐ。
順番は私が最後なんだし、私が代替施設にさっさと着かないことには軍の統率も儘ならない。
慌てず急いで正確に、だ。
ずっと姿を見ていないアンバー先生のことは…………大丈夫だな。まだ”繋がり”を感じる。万が一しくじっていたとしても、
───大丈夫だよな。あの人に限って、そんなことは無いよな…………
「───ゴホ、ゴフッ、っ…………」
血、が…………
こんな時に、足りなくなる、か。
頼むから、もう少しだけ持ってくれ。
なんたってこうも余裕がない時なんだ。
ああ、ひたすらこの身体が忌々しい。
私は、為すべきを成さなければいけないというのに……
「ゴホッ、ゲホッ、……ゴフッ!?」
……………………………………………………
………………………………………………
…………………………………………
……………………………………
「作業はどうだ?」
「ハッ! 全て予定通りです!!」
「よし、その調子だ。確実に頼んだぞ」
「イエッサー!」
もぬけの殻と化した旧統合作戦本部司令部にて、数人のトルーパーともに爆破作業を監督するソーン。
この任務さえ終われば、一足先にカリダへと発った筈の同僚達のところへと戻れるなと考えていた彼であったが、ふと微かに聞こえた足音に眉を顰めた。
「…………誰だ、そこに居るのは」
既に統合作戦本部の運用要員の撤退は終了している。
ならば、ここにわざわざ足を踏み入れる輩なんぞ招かれざる客に決まっているとばかりにソーンは慣れ親しんだDC-15Sブラスターを構え、影の先にいるであろう人影に向かって誰何する。
………………………………
カツ、カツ、カツ───
人影は無言のまま、次第に薄暗い照明の袂へと足を踏み入れる。
顕になったその輪郭を目にしたソーンは、
「スカイ…………ウォーカー、将軍……?」
人影の正体とは、他ならぬクローン戦争の英雄、彼等クローン・トルーパー達にとって憧れといっても過言ではない偉大なジェダイ・ナイト、アナキン・スカイウォーカーその人だった。
しかし、その瞳は憎悪の灼けつく眼光に溢れ、固く結んだ口元からはこれでもかとばかりに怨念に漏れだしているように見えた。
「スカイウォーカー将軍!? 何故───ぐあぁっ!?」
突如、アナキンが近くのクローン・オードナンスをフォースで手繰り寄せてはライトセーバーで瞬く間に一突きにして絶命させる。
「っ、奴は”敵”だ! 撃て、撃て!!」
直感的に、ソーンは目前のアナキンを他ならぬ共和国の敵対者と判断した。
かつて相対したときのような、部下と弟子への情に溢れた好青年などもう何処にもいない。そこにあるのはただ、憎しみのままに殺戮を繰り返す厄災なのだと自分自身に言い聞かせて、ソーンはブラスターのトリガーを引く。
あれこそが噂に聞くシス卿なる邪悪の権化なのだろうと直感したソーンに最早迷いはなく、トリガーは確実に引き絞られる。
「がはっ」
「ぐわ、っ……!?」
「ぎっ、ッ!」
ザンッ───
ズシュ───
ブォン───
だが、アナキンがセーバーを一振りする度に、苦楽を共にしてきた部下が一人、また一人と倒れてゆく。
ある者は心臓を一突きにされ、またある者は胴と足が泣き別れになった状態で無惨にも打ち捨てられる。
「ッ───此処は絶対に通さないぞ!!」
残るはソーンと、決死の覚悟で作業を続けてきたオードナンス一人のみ。
その彼も、たった今作業完了と同時に息絶えた。
セーバーを振るうアナキンの裏で501大隊のトルーパー達が放つブラスターに耐えながら、必死に任務を遂行した彼等は文字通りの決死隊となって散ったのだ。
「共和国の為に!!」
弾の切れたブラスターを捨て、背に担いだZ-6ロータリー・ブラスター・キャノンを構えてアナキンと501大隊に向け乱射するソーン。
「ハンマー」と名付けてこの3年間を共に過ごしたその火器を振るう彼の姿は悪鬼羅刹の如き様、瞬く間に8人のトルーパーを薙ぎ倒した。
しかしその弾幕も此処までか、幾らトリガーを引こうとも一向に火を吹かない相棒の姿。
「っ、ああぁぁぁッ!?」
その様を見たソーンは即座に思考を切り替えて、「ハンマー」を其の名の通り、鈍器として振るうべくアナキンに向けて横凪ぎに払う。
「ふっ、はぁぁぁつ!!」
ガン、ゴンッ、とアナキンの青いセーバーと打ち合う度に、その身を削る「ハンマー」。
だが、ソーンは必ずや勝利を掴まんと彼を振るい、彼もまたその信頼に応えんとアナキンに襲いかかる。
果たして遂に捉えた一瞬の隙、がら空きの頭部。
僅かなその間を見逃さず上段から振りかざすソーンの期待に応えるべく、その質量を以てアナキンの頭を粉砕する。
───が
ザンッッ…………
「が、はっ…………」
しかして勝利の女神は微笑まず。
ソーンの身体は、アナキンの手によってセーバーの串刺しにされていた。
まるで興味など無いとでも言わんばかりに、ソーンの身体を打ち捨てるアナキン。
既に心臓を突かれ、血液を循環させることも叶わず冷えてゆく一方の身体。
最早取るに足らない、塵芥に等しいガラクタ。
アナキンの目にはそう見えていたのであろうソーンの深く紅いヘルメットが、まるで謀ったかのように不敵な笑みを浮かべていた。
「────!?」
気付いた時には既に遅し。
最期のトリガーは、もうとっくに引き絞られていたのだから。
オードナンス達が決死の覚悟で繋いだ任務、その最後の仕上げの1ピース。
彼が爆破装置に指を掛けたその直後、司令部は瞬く間に紅蓮の華に包まれた。
「───じゃあな、