背後から迫り来るスカイウォーカーの脅威から逃れるべく退避行を続ける彼等の遥か頭上には、それを助けんがために共和国軍第3艦隊エレイシア分艦隊が布陣していた。
しかし、それを阻むべくコルサント本国防衛艦隊司令官オナー・サリマ中将率いるヴェネターⅡ級艦1、ドレッドノート級艦7隻を中核とする艦隊がエレイシア分艦隊に迫る。
オーダー66の発動に伴って、俄に喧騒に包まれゆくコルサント。
だが、大多数の住民は死にゆくジェダイの命など歯牙にもかけず、各々が日々の仕事や余暇に耽っている。まるで、旧態依然な時代錯誤の集団のことなど知ったことではないと言わんばかりに。
”コア・ワールドの宝石”とまで謳われた煌びやかな夜景に溶け込む硝煙と炎は、正にそうした住民の態度を暗喩しているかのようだ。
しかし───唐突にその平穏と無関心は終わりを告げる。
天上から降り注ぐ楔のように、コルサント上空に無数の紅白に彩られた影が現れた。
それはまるで、つい数ヶ月前に来襲したグリーヴァス率いる独立星系連合艦隊のように。
~コルスカ宙域 惑星コルサント上空 ヴァリアント級スター・デストロイヤー ”ユリシーズ ”~
「全艦、ハイパースペースからの離脱を確認。コルサント軌道上に到着しました」
「戦闘配備を維持しつつ降下します。全ファイター隊、発艦準備。各砲座は別命あるまで現状で待機とせよ」
「イエッサー。ファイター隊、発進準備に掛かります」
銀河共和国軍第3艦隊エレイシア分艦隊旗艦〈ユリシーズ〉のブリッジでは、当直士官達が慌ただしく動き回る。
第3艦隊の先鋒としてコルサントに派遣されたエレイシア分艦隊の任務は、孤立する統合作戦本部の救出とカリダへの合流だ。
その使命を果たすべく、分艦隊司令官エレイシア代将は惑星大気圏内への降下を命ずる。
だが、彼女達の眼前に立ち阻むものがあった。
「レーダーに感! 1時の方角より艦影多数! 此方に接近しています」
「───コルサント本国防衛艦隊ですね」
第3艦隊の進路を塞ぐように航行する、コルサント本国防衛艦隊。
互いを敵と確信する決定的な要素を欠くが故に、牽制のように一定の距離を保ったまま双方の艦隊は同航する。
「代将、相手の旗艦から通信です」
「ホログラムに回してください」
「了解です」
エレイシア分艦隊の航行の意図を掴みかねたのか、コルサント本国防衛艦隊旗艦のヴェネター級艦〈コンカラー〉はその航行目的を〈ユリシーズ〉に問い合わせる。
《──に告ぐ。共和国軍第3艦隊に告ぐ。此方はコルサント本国防衛艦隊司令官オナー・サリマ。当方は貴艦らの来訪予定を把握していない。航行の目的を明らかにされたし》
「如何なさいますか」
「返答します。通信をあちらに繋ぎなさい」
応答を選択したエレイシアの前に、青白いホログラムの立体映像が一人の女性の形となって現れる。
コルサント本国防衛艦隊を率いる女傑、オナー・サリマ中将だ。
健康的な黒い肌と男性と見紛うほどの短髪が特徴的なこの人間族の軍人は、10年以上に渡りコルサントの守護を任されてきた名将だ。彼女は先のコルサントの戦いにおいても離脱を図る分離主義者主力を足止めし、乗艦が撃沈されるまで戦い抜いた生粋の戦艦乗りでもある。
「こちらは共和国宇宙軍第3艦隊所属〈ユリシーズ〉。我々は現在特別任務を遂行中である。航路を譲られたし」
《了承できない。我々は現在、最高議長府より惑星封鎖の任を受けている。第3艦隊は直ちに転進せよ》
「あっちゃ~、これはまた剣呑ですね。どうします?」
「押し通る他ないでしょう。恐らく、本国防衛はパルパティーンの手駒に過ぎないかと」
「それはそうなのでしょうけど、いきなり撃つのは幾らなんでも不味いでしょう。あと一度ぐらいは警告しておきますか」
予想外に頑強なコルサント本国防衛艦隊の態度を目にして、エレイシア代将は自身の参謀役であるCC-5869 コマンダー・ストーンに意見を求める。
統合作戦本部からの暴露ファイルを既に閲覧していたストーンはパルパティーンのことを既に”分離主義者”と見做しており、彼に付き従うコルサント本国防衛艦隊のことは忌憚なく”敵”だと発言した。
だが、エレイシアは今一度彼等との交渉を選択する。やはり、元来は友軍であったという事実が、早急な先制攻撃を躊躇わせた。
「こちらは第3艦隊分艦隊司令エレイシア代将です。サリマ中将、今一度、艦隊を引いていただけますか」
《それはできない相談だエレイシア代将。我々は議長から、コルベット一隻たりとも通すなと命じられている》
だが、彼等の返答は相も変わらず。このままでは、議論は平行線のままだと確信するには充分な対応だ。
「では、仕方ありませんね。───各艦、戦闘配置。敵艦隊の陣形に風穴を開けます」
「イエッサー。全砲塔、撃ち方用意」
開戦を決断したエレイシア分艦隊の各主力艦から、唐突にターボレーザーの全力射撃か放たれる。
本来友軍艦であるエレイシア分艦隊からの攻撃に対応が遅れたコルサント本国防衛艦隊は数隻のクルーザーが傷を負うも、態勢を建て直すと負けじと此方もレーザーとミサイルを撃ち返す。
《何の真似だ、エレイシア代将!》
突如としてホログラムに割り込む、焦燥した様子のサリマ中将。
エレイシア分艦隊の発砲のタイミングがあまりにも早かったためか、意表を突かれたと言わんばかりの形相だ。
「我々は統合作戦本部の指揮下で行動しています。パルパティーンが分離主義者の首魁と明らかになった以上、最高議長府に従う貴官らもまた分離主義者と判断せざるを得ない。当方はそう結論付けました」
《な…………っ!? 貴女はあの怪文書を信じると?》
「正当な命令です。軍人であれば、正当な指揮命令系統に服するのは当然のこと。貴官らが分離主義者の首魁を奉るというのであれば、我々はそれを押し通るのみです」
サリマ中将の非難に対して、毅然と返すエレイシア代将。
自らも統合作戦本部に与した以上、最早後戻りなどできないのだと雄弁に物語るその瞳を前に、サリマ中将はこの若い代将を遂に敵だと確信する。
「最早問答は無用です。全砲門、撃て!」
〈ユリシーズ〉のDBY-827重ターボレーザーが炎を吹き、〈コンカラー〉の艦体を揺らす。
コルサント本国防衛艦隊は勇壮に抵抗するものの、序盤に受けた奇襲攻撃が痛打となったことで第3艦隊に対する火力が全く足りていない状況にあった。
更に言えば、グリーヴァスによるコルサント襲撃から未だに回復しきっていない不完全な戦力しかないコルサント本国防衛艦隊は、そもそもの基幹戦力がエレイシア分艦隊に比べて大きく劣っている。
エレイシア分艦隊は主力艦としてヴァリアント級艦〈ユリシーズ〉を始めとしてヴィクトリーⅠ級艦〈プロテクター〉、ヴェネターⅡ級艦〈レパルス〉〈レナウン〉〈レゾリュート〉〈レディーマー〉の6隻を有するのに対してオナー・サリマ中将直率の艦隊戦力はヴェネターⅡ級艦〈コンカラー〉を除くと旧式で貧弱なシールドと火力しかないドレッドノート級重クルーザーが7隻と、彼等の艦隊戦力は非常に限られたものだった。
これが全てクローン戦争期の新鋭艦ならまだしも、この戦力でエレイシア分艦隊に立ち向かうのは無謀とも言える自殺行為だった。
しかし、サリマ中将はパルパティーン最高議長を信じ、この”反逆者”の艦隊を阻むことを選択する。
コルサント本国防衛艦隊のドレッドノート級艦は瞬く間にヴェネターⅡ級艦とヴィクトリー級艦に討ち取られ、その数を着実に減らしていく。
対してエレイシア分艦隊の被害はコルベット3隻を喪ったのみで、主力艦に落伍した艦は見られない。
加えてファイター隊による猛攻が始まると、コルサント本国防衛艦隊は総崩れに陥った。
旗艦〈コンカラー〉は機能の凡そ7割を喪って緩慢な足取りでよろよろと地表の非常用滑走路に向けて墜落しつつあり、残存するドレッドノート級艦の掃討も間もなく終わりを迎えるだろう。
エレイシア代将はこの段階になりコルサント本国防衛艦隊を制圧したと判断。増援艦隊到着の前に、統合作戦本部から脱出したシャトルとコルベットを回収する。
コルベットにはミーバー・ガスコン宇宙軍准将ら統合作戦本部の重鎮が乗艦しており、要員の救出作戦は成功したかに見えた。
だが───
「…………もう一度、お願いします」
「本部長は未だに司令部に残っておられる。魔に取り憑かれたスカイウォーカー将軍から、我々を守るために」
俯き、無念と唸るガスコン准将。
その発言は、未だに作戦が不完全であるという事実を如実に物語っていた。
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「───自分が何をしているのか分かっているのかな、君」
「うるさいッ!! あんたも、オビ=ワンも、誰もかも僕を騙していたんだ!」
「落ち着きなさい、アナキン。だから、何かあれば相談しろと言ったんだ。私の言葉はもう忘れたのかな」
「お前の言葉なんて信じられるか!!」
燃え盛る、共和国軍事作戦センター。
その混沌と惨劇を作り出した張本人が、憎悪と怒りに取り付かれた黄金色の瞳を滾らせる。
「そう。なら、これが最後の警告。───軍を引け、
「黙れっっっ!!」
戦場の気が、瞬く間に反転する。
努めて穏健な言葉遣いでアナキンに語り掛けていたシャルロット・フォン・ブリュッヒャー上級大将の薄黄色の瞳が彼の姿を射抜いた途端に、絶対零度と紛うばかりの冷気が一面に張り詰める。
その䙧んだ薄黄には情熱も怒りもなく、ただ敵を斬ることのみを演算する。
「そうか。──ならば、貴方を敵として処断する」