その首魁ダース・ヴェイダーを押し留めるべく、殿を引き受けたシャルロット・フォン・ブリュッヒャー上級大将はかつての旧友と相対する。
~コア・ワールド コルスカ宙域 惑星コルサント地表 共和国軍事作戦センター~
「…………何の用です、アナキン」
背後から、誰かの足音。
静寂に溶け込むような緩慢さで、かつ確かな怒りを滲ませた明瞭なリノリウムを踏む響き。
果たしてそれが誰のものであるか、数秒もしないままに直感できてしまうのはフォースの賜物とやらだろうか。
今更彼と相対したところで、何も変わらないというのに。
伸びる影に向かって私は、無機質な音声で問い掛ける。
彼は応えず、煤を被った黒いフードの奥底から憎しみの籠った赤と金の瞳を向けるだけ。
───ったく、とことんまで、今日はついていない。
暫くぶりに血を吐いたらと思ったらこれだ。全く、嫌な予感というものは本当に厭らしい時ほどよく当たる。
唯でさえ久々に重い病状が来て動きにくいというのに、その上追撃にスカイウォーカーを寄越したか。敵も悪辣なことこの上ない。いや、今はダース・ヴェイダーと呼ぶのが適切か。
ともかく、あのいけ好かない爺の策を食い破らんことには始まらない、か。
「───自分が何をしているのか分かっているのかな、君」
努めて穏やかに、諭すような口調を練り上げる。
そもそも、軍令のトップが私だということを分かっているのかな。まぁ、意識しとらんだろうから私兵のように501大隊を連れ歩いてるんでしょうけど。
その裏で、暗号通信装置に手を伸ばす。
追撃がここまで迫っている以上、コルベットを待たせておく訳にはいかない。着陸パッドのコルベットには先に離陸してもらって、私は別の手段を探さなくては。
「うるさいッ!! あんたも、オビ=ワンも、誰もかも僕を騙していたんだ!」
「落ち着きなさい、アナキン。だから、何かあれば相談しろと言ったんだ。私の言葉はもう忘れたのかな」
「お前の言葉なんて信じられるか!!」
───うん、やっぱり駄目か。
完全に暗黒面に没頭した状態で、所詮友人A程度の関係性にしか過ぎない私の言葉になんぞ、聞く耳を持たれないのは当たり前か。
私も私で、充分に寄り添ったという訳でもないからなぁ。それとなく自然な流れで助言して諭すだけでは、定められた歴史の流れを変えるには至らないか。
元々、私はオーダー66から逃げられさえすればいい、なんて考えだっんだし。そこには全くといっていいほど手を回してないし、そもそも回す伝もコネもない。
だが───今は別だ。
私は共和国の軍人で、彼は軍将として部隊を率いる立場にある。
そこから逸脱しパルパティーンの政治的クーデターにも等しいオーダー66に手を貸すということは、即ち共和国への叛逆に他ならない。
であるのならば、私はただひたすらに敵を斬り殺すのみ。
「そう。なら、これが最後の警告。───軍を引け、
最後通牒。
彼が共和国の軍人として在るべき姿勢に立ち返るというのならば、軍法会議の上で適切な処置を講じなければならない。だが、これを無視するということは即ち…………
「黙れっっっ!!」
───回答を確認。敵対の意思在りと判断。
セーバーを抜き、國の色を冠した刃を滾らせる。
「…………君の答えは分かった。ならば私は軍人として───貴方を斬ります」
「裏切ったのはあんた達だっ!!!」
吠えるアナキンが、腰のセーバーに手を伸ばす。
だけど、私の方が早い。
「ふっ…………ッ!」
「ぐぅっ…………やるかッ!!」
───外したか。
流石は選ばれし者、か。
私が刃を叩きつけるよりも早く、アナキンは起動したセーバーで胴への一撃を防御する。
ならば…………
ブォン───
ガッ───
ヒュッ───
ボゥン───
繰り返されるセーバーの応酬。
”秘剣”の使い処を見極めつつ、敵の斬撃の回避に専念する。
しかし、一撃が……重い、ッ──!?
軽やかに繰り出される牽制のセーバーですら、受け止める度に逆に此方の消耗が加速する。
そもそもの地力の違いが、如実に現れている形だ。
せいぜい上回っているのは剣の腕だけ。先の戦いから昂り濁ったままの私のフォースでは、剣先の予測計算ですら霧のように朧気だ。それを全て、直感と心眼で捌ききるのは骨が折れる。
「ふっ…………ッ!」
唐突に繰り出される、アナキンの左腕。
直接打撃を仕掛けるつもりかと防御の構えを取るが───
「っ────がぁッ、!?」
───しくじった。
打撃に見せ掛けたアナキンのフォース・プッシュをまともに食らい、一気に数十メートル先の壁に全身を打ち付けた衝撃で全身が悶える。
「ごふ、ッ!?」
突然の衝撃で喉を逆流する血液に気管を灼かれ、せり上がる血が吐き出される度に身体が凍る。
その隙を見逃す敵ではない。
アナキンは跳躍で一気に私との距離を詰めると、その青い刃を一刀に振り下ろす。
「ふ───っッ!」
ジュウ……っと、肉が焼き斬れる匂い。
喘ぐ身体を無理矢理起こし、捻って躱すも左肩が間に合わずに刃が掠る。
「ちぃ、っ」
青と赤の、交わる剣戟。
一撃の重さを強化したシエンの型の発展型、ドジェム=ソを扱うアナキンの剣と、所詮は我流の邪剣でしかない私のそれでは、確固たる基礎のレベルが違う。
私のそれは、身体が覚えていた”沖田総司の剣”に強く引かれているものの、それをセーバーの戦いに未だに生かしきれていない。バリス・オフィーのような半端者ならば決して遅れを取ることはないが、ソーラ・バルグやアナキンのような達人相手では”秘剣”に頼らざるを得ないところが大きい。
だけど、アナキンの剣は違う。
ドジェム=ソの真髄は、鞭を撓らせるようなセーバー捌きで予測が極めて難しい剣筋を連続して繰り出すことにある。加えて軸となる足元に重心が行く故に、態勢を崩すのも容易ではない。
「はぁぁっっっ!!」
「っ、
追撃のフォース・プッシュを、咄嗟に繰り出したフォース・シールドで防ぐ。が、地力の差が故か、防壁はガラス片のように粉々に砕け散った。
《───長、本部長!!》
「チッ、…………何だ、こんな時に!」
更なるアナキンの攻撃を防ぐべく剣を交わしている最中、場違いなコムリンクの呼出音が鳴り響く。
《本部長! こちらは第41精鋭兵団のコマンダー・グリーです!! マスターヨーダの命令で救援に参りました!》
「マスターヨーダが…………? いや、丁度良いタイミングだグリー。回収任せた!」
《イエッサー! タイミングはそちらに合わせます。本部長、さぁ早く!!》
アナキンの背後から、高度数十メートルで迫る一機のシータ級T-2cシャトル。
あれがコマンダー・グリーの操縦する脱出艇か。
「逃がすかッ!!」
しかし、だだ漏れな会話はアナキンの闘志に更なる火をつけてしまったようだ。
剣戟はより重く、より過激さを増して私を果敢に攻め立てる。
「ち───っ、今!」
そのうち幾らかは捌ききれずに私の皮膚と肉を少々刻んでいくが。今は雌伏の時。痛みを無視して離脱の機会を窺う。
果たしてその瞬間は訪れた。
アナキンが上段からセーバーを大きく振りかぶったその瞬間、フォース・プッシュで彼の身体を押してバランスを崩させ、その隙にシャトルに飛び乗る。
「出せ、コマンダーグリー!」
「イエッサー。最大速度で離脱します」
機に取り付いた私は捻るようにハッチへと身を滑らせて、パイロットを務めるグリーに命じる。
そういえば何故彼が、とは思ったが、成る程三年前のあれか。
初対面のときに予めチップを抜いておいたから、彼はオーダー66には従わずにマスターヨーダに付き従ったのか。いやはや、こればかりは昔の私の采配に救われた。
加速するシャトルの窓からふと、古巣のジェダイ・テンプルと共和国軍事作戦センターを覗き見る。
立ち上る煙はまるで一時代の終わりを告げているようで、共和国の終焉と帝国の勃興を嫌が応にも予感させられた。
───私は、共和国の軍人だ。そう在るべしと自ら定め呪ったのだ。なればこそ、パルパティーンを軍法会議の陽の下に引き摺り出し、正しき民主主義をこの銀河に再建しなければならない。
壊すには、責任がいる。
帝国という世が始まってしまった以上、それを踏み越えるというのであれば相応の責任を取らねばなるまい。
共和国のような自由と民主を笠に着た無法ではなく、帝国のように必要以上の恐怖と暴力に頼らずとも過ごせる銀河の実現。それが、壊すものに課せられた義務なのだ。
前途は想像以上に多難だが、私が成し遂げなければならない。
それが、共和国軍人に殉じて戦争を引き伸ばした私が取るべき責任なのだから。
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「っ────こんの裏切り者がぁぁぁ!!」
一人地上に残された青年の、芯から溢れ出す怒りの慟哭。
愛が故に進み続け、引き返せなくなった狼の、哀れな遠吠えが大気に響く。
その激情が彼女に届くことは遂になく、ただコルサントの空を揺らしていた。