共和国の旗の下に   作:旭日提督

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 共和国軍事作戦センターから撤退し、ヴァリアント級スター・デストロイヤー〈ユリシーズ〉にて再起を図るシャルロット。

 同じ頃、銀河共和国元老院ビルで対決したシーヴ・パルパティーンことダース・シディアスの圧倒的な力からほうほうの体で逃げ出したグランドマスター・ヨーダは、ベイル・プレスター・オーガナ元老院議員の乗るCR70コルベット〈タナヴィーⅢ〉に身を寄せていた。

 〈タナヴィーⅢ〉のオーガナ議員は志を同じくすると思われたシャルロット・フォン・ブリュッヒャー上級大将と合流すべく、〈ユリシーズ〉のドッキングポートに接舷するのだった………


〈ユリシーズ〉艦上の会談

~惑星コルサント上空 ヴァリアント級スター・デストロイヤー ”ユリシーズ ”~

 

 

「本部長に、敬礼!!」

 

 共和国軍のクルーザー〈ユリシーズ〉のフライトデッキに吸い込まれるようにして着艦する、一機のシータ級T-2cシャトル。

 

 コルサント地表の共和国軍事作戦センタービルから統合作戦本部長シャルロット・フォン・ブリュッヒャー上級大将を回収した、コマンダー・グリーが駆る機体だ。

 

 着艦したシャトルのタラップから艦内へと一直線の道を形作るように、純白のアーマーを纏ったクローン・トルーパー達は左右に別れて整列し捧げ銃の姿勢を取る。

 

 シャトルから降りたシャルロットは彼等を一瞥すると機敏な答礼を披露して、白の回廊を堂々と進む。

 

「……現在の戦況はどうなっている? コマンダー」

 

「ハッ! 残念ながら、コルサント近郊の制宙権は一時的なものです。本国防衛艦隊残余はパルパティーン派の艦隊と合流して再度攻勢を仕掛ける素振りを見せており、その規模はわが軍を大きく上回っております」

 

「そうか…………ご苦労、コマンダー。なら、カリダへの合流が先決──か」

 

 兵卒のクローン達で造られた回廊を歩きながら、コマンダー・グリーに戦況を問い合わせるシャルロット。

 どのみち、コルサントからの撤退は彼女にとってほぼ規定事項にも等しいことだったため、大戦略に大きな影響はないと結論付ける。

 わざわざ敵中に孤立して各個撃破の好機を与えるより、カリダから進軍するコバーン提督の第5艦隊主力と合流して磐石な態勢を築くことが最優先だと彼女は判断した。

 

「本部長、加えてお伝えしたいことが一つ。ヨーダ将軍とオーガナ議員が会談を望んでおられます」

 

「マスターヨーダとオーガナ議員が? それはまた面倒な……」

 

 グリーからの伝言を耳にして、僅かに表情を歪めるシャルロット。

 幾ら元ジェダイといえ、本来彼女はオーダーでは鼻つまみ者。加えてオーガナ議員自体の人柄は信用しているものの、彼が属する派閥、ロイヤリスト・コミッティーには政治思想的に対立する人物が多い。

 加えてベイル・プレスター・オーガナ議員本人も、非武装惑星オルデラン出身であることを象徴するように共和国軍の創設に反対していた人物の一人である。

 彼が高潔な倫理観を持ち貧民や難民といった弱者の視点に立った政治を志していたことはシャルロットとて疑いを持たないが、元来銀河の無法ぶりは中央権力が法を普及させるに充分な暴力を持たないからだと考える彼女とは、到底馬が合うとは言えない。

 故にシャルロットは頭を抱えたのだが、回廊の先に見えた二つの人影を視認すると再び毅然とした表情に立ち直る。

 

「シャルロット。無事であったか」

 

「ええ。見ての通り、五体満足です。そちらこそよくぞご無事で、マスターヨーダ。………それで、私に一体どのような要件で?」

 

 社交辞令もそこそこに、早速本題をと言わんばかりにヨーダに尋ねるシャルロット。

 それに応えるように、ヨーダの左隣に佇んでいたベイル・オーガナ元老院議員が半歩前に進み出た。

 

「貴女とは初めまして、かな。私はベイル・オーガナ。元老院議員を務めている。貴女には、是非とも今後の展望をお聞かせ願いたいと思いまして」

 

「展望? と言われましても。現段階で我々が目指すのはシーヴ・パルパティーンに対する軍事裁判です。戦後のことなど、まだ手が回りませんよ」

 

 差し出されたオーガナ議員の右手と握手を交わしながら、正直な感想を告げる。

 そもそも、蜂起も決起も未だにしていないのだ。彼女としては、現在の状況は単なる共和国軍人としての軍務の延長でしかない。

 

「まぁ、こんなところではなんですし、先ずは場所を移しましょう。───エレイシア艦長、頼めますか?」

 

「了解です。さぁ、お二方とも、こちらへ」

 

 彼等の一歩後ろの位置で控えていた艦長のエレイシア大佐に促されて、会議室に移動する三人。

 ヨーダとオーガナ議員の着席を確認するや、シャルロットは徐にホログラムの銀河地図を起動する。

 

「先程は展望など無いと言いましたが、まぁ、あるにはあります」

 

 銀河地図が拡大され、コルサント周辺のコア・ワールドの星図が浮かび上がる。

 

「わが軍は現在、ここカリダに集結しつつあります。艦隊の再編が完了次第、ブレンタール、シャンドリラ、アナクセス一帯の航路を確保。コルサントに圧力を加えつつ南下し、シーヴ・パルパティーンの席を脅かす」

 

 地図右上の惑星カリダを出た矢印はパーレミアン・トレード・ルートに沿って銀河系南西方向へと進み、コルサントに到達する。

 

「敵がそれで怯めばよし、奴が今の地位にしがみつくというのであれば、パルパティーン軍主力の到達前に元老院ビルを攻め落とす。然る後に、我々は共和国領に()()を敷きコアの腐敗と汚職を一掃してアウター・リムの開発と安定化に乗り出すことになるだろう」

 

 シャルロットが口にした、軍政という二文字。

 

 それはヨーダとオーガナ議員にしてみれば全く予想外と言ってもよく、彼等にとって青天の霹靂にも等しい衝撃的な言葉だった。

 

「───正気かの、シャルロット」

 

「ええ。私はいたって正気ですが」

 

「其方が幾らオーダーの問題児だったとはいえ、共和国に殉ずるという信念は揺らいでおらんと思っていたのだがのぅ。よもや、パルパティーン議長ことダース・シディアスと同じ轍を踏むというのか? ん?」

 

「軍政…………ということは、貴女が銀河の全権を握るおつもりなのですか」

 

 彼女を蝕む暗黒面が遂にここまで来たか、と落胆の情を禁じ得ないヨーダは、彼女をこの戦争を引き起こしたシスの暗黒卿に(なぞら)えて批判する。

 オーガナ議員もヨーダに比べれば控えめながら、あからさまに警戒の色を隠そうともしない。

 

「無論です。この銀河は───民主制を敷くにはあまりにも幼稚過ぎる。永い銀河史を考慮に入れれば尚のこと、です。然れば、中央に権力を集中し先ず普遍的な法秩序と経済体制を確立しなければ自由や民主主義など紙に書いた画餅にも等しい」

 

 珍しく、熱の籠った視線で二人に訴えるシャルロット。

 褪めた空気の中、警戒心を露にした二人とは対照的なその姿は、見方によっては滑稽ですらある。

 

 ──そうだ。今更、何が民主だ。何が自由だ。ここまで腐敗と犯罪が蔓延る銀河、一度根本から作り替えなければ真の民主主義など無いじゃないか。

 結局、程度の差はあれど”帝国が正しかった”んだ。

 パルパティーンは確かに共和国の売国奴だが、帝国の方向性は間違っていない。曲がりなりにも、アウター・リムの果てにクレジットを普及させたその力は馬鹿にできない、か…………

 

 その実、内心ではかつての故郷と比してあまりに未熟な銀河政治に怒りの色が溢れ出すシャルロットは更に語気を強めて演説を続ける。

 自らの主義主張が打倒すべき帝国そのものだと気付いても尚、今更止まることはできないと言わんばかりの剣幕に圧され、語気を失う二人。

 そんな彼等の内心を知ってか知らぬか、彼女の共和国批判は続く。

 

「そもそも、犯罪者や海賊が蔓延るのは何故か。共和国に力がなかったからだ。海賊船をヘヴィ・ターボレーザーで焼き払い、奴隷船に強襲接舷して犯罪者を蹂躙する勇気。真に共和国に必要だったのは力ではありませんか。自由の名の下に無法が我が物顔で闊歩する状況は、自由とは言わないのですよ」

 

 堂々と武力の正当性を訴えるシャルロットを前に反論を試みるヨーダとオーガナ議員であったが、遂にその言葉は紡がれずに口籠る。

 彼女の言わんとすることは過激ではあるものの、確かに正鵠を射た批判であった。

 

 非武装。

 

 確かにその理念は素晴らしい。尊ぶものだ。

 シャルロットが敬愛してやまないかの提督も、たかが国家、軍隊など本質的にはろくでなし、と常々口にしていたものだ。

 

 しかし、実際問題として個人の力はあまりにも弱く、実質的に権利を保障するのは国家であり、犯罪者の無法や侵略者の軍事力から市民を護るのもまた国家なのだ。

 彼女の故郷ではこうした考え方が社会契約説*1として根付いており、その触りだけでも知る彼女にとって、銀河共和国のコア優先、アウター・リムに対する放任主義といった姿勢はけっして容認できるものではなかったのだ。

 力の放棄とは、則ち国家が市民を脅威から護らない、ということに他ならないのだ。

 

 将来あるいは過去にわたって存在する惑星破壊兵器のような過ぎたる力は銀河の平和にとって脅威であるが、力なき中央政府もまた弱者にとっては脅威なのである。

 

「…………シャルロット。やはりお主もあの過激論者の系譜という訳じゃったか」

 

「マスターヨーダ、我が師は関係ないでしょう。これは、私が導き出した結論だ。付け加えるならば、今の状況を見ればむしろ我が師が正しかったではありませんか」

 

 師であるサイフォ=ディアスを引き合いに出され、不快感を露にするシャルロット。

 ヨーダは批判のつもりで口にしたのだが、結局のところ、クローン戦争の勃発を予期していたサイフォ=ディアスの方が銀河情勢を正しく理解していたのだ。例えそれがフォースによる予知だとしても、それが未来だと確信してクローン軍の発注という行動に移したということは、(ひとえ)に彼がそのビジョンを信じる値すると判断した政治的感覚を有していたからに他ならない。

 

「…………故に、この銀河は一度生まれ変わる必要がある。───共和国は、この問題をあまりにも放置しすきだ。硬直化し改革を忘れたジェダイ・オーダーもまた、この共和国の無為無策を支持していたに等しい」

 

 シャルロットの批判の矛先は遂にかつての古巣にまで及ぶ。

 教義に固執し、政治に携わりながらあまりにも政治感覚が欠如したかつてのジェダイ・オーダーは、彼女にとって無責任なものだった。

 分離主義運動に対しては場当たり的な対処に終止し、クローン戦争に至っては教義を曲げて単なる戦士に落ちぶれたジェダイ・オーダーは、最早崩壊は時間の問題。パルパティーンによるオーダー66が無かったとしても、共和国もろとも崩れ去る運命にあることは誰の目にも明らかだった。

 

 それを口にせずとも自覚していたが故に、ヨーダの口は固く閉ざされたままだった。

 

「だが覚えておいて欲しい、ブリュッヒャー上級大将殿。数多くの歴史が示しているように、絶対的な権力や武力を手に入れた時ほど人は醜く変わるということを。あの、()()()()()()()()()の貌が象徴しているように」

 

 オーガナ議員は、つい先刻行われたパルパティーンによる銀河共和国の解体と皇帝への即位を宣言する演説、ニュー・オーダー宣言を引き合いに出してシャルロットを批判する。

 

「…………それを言われると、返す言葉がありませんね。──ええ、ですがご安心を。確かに貴方と道は違うでしょう。ですが、目指すところは共にある。帝国は言うならばシス独裁そのものが目的。私と手法が似ていようと、根本は全く異なるのですから」

 

「───今は、その言葉を信じたいものだな」

 

 眉間に皺を寄せたまま、立ち上がるオーガナ議員。

 世辞とも取れるその言葉を最後にして、彼は会議室を後にする。

 

「ありがとう、ブリュッヒャー上級大将殿。我々は、我々なりの方法で立ち向かうことにするよ」

 

「それが一番かと。───フォースと共にあらんことを、オーガナ議員、マスターヨーダ」

 

「…………フォースと、ともにあらんことを」

 

 斯くして互いの道は違えられ、交錯することなく進む。

 オーガナ議員とヨーダを乗せたCR70コルベット〈タンティヴⅢ〉はヴァリアント級スター・デストロイヤー〈ユリシーズ〉のドッキングポートを離れ、一路溶岩惑星ムスタファーへと旅立った。

 

 それを見送るシャルロットは、艦隊の舵を軍事惑星アナクセスへと切るように指示する。

 

「…………旗艦ユリシーズより第3艦隊各艦に達する。我が艦隊はアナクセス方面に向け転進。然る後にヴァロア・ステーションの友軍と合流する。全艦発進せよ!」

*1
国家権力を個人の意思と結び付けて説明するもの。国家権力は、個々人の自由な意思に基づき結ばれた契約を根拠として存在するという考え方


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