共和国の旗の下に   作:旭日提督

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 シャルロット・フォン・ブリュッヒャー上級大将率いる救国軍事会議の将校団の大半は、コロニーズに浮かぶ惑星カリダの軌道上、〈ヴァロア〉宇宙ステーションに集結。ここで今後の方針を確認し合い、来るべき軍事行動に向けた準備を重ねていた………


決起

~コロニーズ カリダ星系 宇宙ステーション ”ヴァロア ”~

 

 

 銀河共和国の首都コルサントを始点とし、惑星クワーミアに至る主要なハイパースペース航路の一つであるパーレミアン・トレード・ルート。それに程近い温帯気候の地殻惑星カリダの軌道上に位置する宇宙ステーション〈ヴァロア〉は、銀河共和国宇宙軍の主要な拠点の一つであり、クローン戦争中は共和国戦略会議の開催地でもあった。

 無数のタレットやターボレーザーで防御されたこの宇宙ステーションはシャルロット・フォン・ブリュッヒャー宇宙軍上級大将率いる救国軍事会議の牙城と化しており、その周囲には共和国宇宙軍第3、第5艦隊合計1500隻以上の艦艇が停泊していた。

 

 〈ヴァロア〉の中央セクションに位置する会議室には幾人もの艦隊将校達が集い、異様な熱気に包まれていた。

 それもその筈、この会議室にはブリュッヒャー上級大将を始めとして第3艦隊司令ネモ提督、第5艦隊分艦隊司令コバーン提督、第5艦隊司令代理ムジーク提督、統合作戦本部戦略司令室室長ガスコン准将といった錚々たるメンバーが集い、各々今後の行く末について議論を交わしていた。

 

《───残ったジェダイを全て狩り立て、一人として生かしておいてはならぬ!》

 

 会議室の中央に鎮座する巨大なホログラム・スクリーンには、皺だらけの醜い老人がその姿に反比例するかのような力強い声で演説する姿が映し出されている。

 

《ジェダイめに襲われて───そのときの恐怖から、顔も変わった。だが敢えて言おう。……私の決意は以前にも増して強くなったと!》

 

 演説を続ける赤いローブ纏った痩せ枯れた老人───シーヴ・パルパティーン()()()()()()を凝視する将校団の表情は、一様に固い。

 それもその筈、彼等はこの演説が虚構の紛い物だと誰よりも知っているのだから。

 

《銀河の安全と安定を恒久的に維持していくために、共和国は解体・再編され、新しく第1銀河帝国が誕生する! より安全で、安定した共同体に───変わるのだ!!》

 

 まるで誇示するかのように両腕を天高く大きく掲げ、万雷の拍手喝采に包まれるパルパティーン。

 ホログラムの映像は、そこで途切れる。

 

「───諸君らも知っての通り、我等が祖国、銀河共和国は分離主義者の首魁、パルパティーンの手に墜ちた。その翌日には反パルパティーン派の元老院議員の一斉逮捕までが執り行われ、今や銀河の民主主義は瓦解したと言っても過言ではない」

 

 悲壮な空気に包まれる中、救国軍事会議を統べるシャルロット・フォン・ブリュッヒャー上級大将が殻を打ち破るかのように改めて事実を告げる。

 既に共有されていた認識を、殊更強調するその意図は言うまでもない。

 この場に集う将校団は、彼等彼女等の敵が一体何であるのか、認識を確たるものとして胸に刻む。そのためだ。

 

「統合作戦本部はシーヴ・パルパティーンの逮捕にあたり、我々が収集した事実の全てをジェダイ・オーダーに託し、国家反逆罪の容疑で彼を拘束するように求めた。これは既に諸君らが閲覧した音声ファイルの通りだ。しかし、あろうことかパルパティーンはその顛末を改竄し、偽りの音声ファイルを議会に提出。元老院は彼の証言を認めその動議を追認した」

 

 一言一言、噛み締めるように発するブリュッヒャー上級大将。その意味するところを履き違えるものはこの場にいない。

 

 ───我々は、銀河共和国に残された最後の実力組織なのだ。

 

 既に元老院もシーヴ・パルパティーン銀河皇帝の手に落ちて、あらゆる後ろ楯を失った主権者なき暴力装置。既に亡き祖国の亡骸を掲げる亡国の軍隊。

 それが、救国軍事会議である。

 

「だが、我々はこの無法を決して看過しない。我々の流した血の代償を、奴等に払わせてやらねばならない。我々は、これに抗わなければならないのだ。────宣伝室長、現状の解説を頼む」

 

「了解です。では、我々の現状を説明致します」

 

 次第に高揚するブリュッヒャー上級大将の演説。

 その熱が頂点に達したとき、自ら冷や水を浴びせるかのように、浮わついた空気を現実に引き戻す。

 

 上級大将は自軍の置かれた状況を鑑みるべく、端正な顔立ちの若い少佐に命じて自らを取り巻く情勢を解説させる。

 

「現在、わが軍はパーレミアン・トレード・ルート一帯を支配下に置き、アナクセス、ブレンタール、シャンドリラ、及びここカリダを掌握しています。領内には若干の混乱が見られるものの、比較的落ち着いているといるでしょう」

 

「領内における不満の大半は自由航行を規制されたことに起因する経済活動への懸念が大半です。一般民衆は我々をあくまで共和国軍の一部隊として認識していることから、我々が”決起”した際には更なる混乱が見込まれます」

 

 解説を担当する青年士官───マガツ少佐の言葉とともに、ホログラムスクリーンには次々と情報が表れる。

 図面、文章の別なく表示されるそれを凝視する将校団のうちの一人、ミーバー・ガスコン宇宙軍准将は、そこから推定されるある一つの懸念を口にした。

 

「つまり、我々が名実ともに”賊軍”となれば、後背の安全は定かではないと」

 

「残念ながら、そうなります」

 

 未だに、独力勢力として名乗りを上げていない救国軍事会議。

 それを察知する手段など当然民衆にある筈もなく、彼等は無邪気にこの艦隊を新しい帝国の頼れる執行者として見なしていることだろう。

 ガスコン准将は、その認識の擦れからくる不協和音に起因する混乱を危惧していた。

 

「…………参ったな。シャンドリラはともかくとして、アナクセスとカリダは掌握しておきたいところだ。情報統制はどうなっている?」

 

「ハッ! 既にアナクセスのホロネット通信網は我々が掌握しております。カリダについても、地表の主要な軍事拠点は我々の支配下にあることから、支配体制の確立にはそれほど時間はかからないかと」

 

「それなら結構。銃後の憂いはできるだけ取り除くに越したことはないからな」

 

 しかし、その懸念はブリュッヒャー上級大将等指導者層も当然持ち合わせていたものであり、マガツ宣伝室長の隸下にある艦隊情報部の手によりできる限りの情報統制が敷かれていた。

 万全な体勢とまでは言い難いものの、当面の対策が打たれているという事実に一先ず胸を撫で下ろしたガスコン准将。

 

「同感ですな。して本部長、予想される民衆の混乱にはどう対処されるおつもりで? 事が事だけに、相当な反発が予想されますが」

 

 だが、懸念事項は何もそれだけという訳ではない。

 ガスコン准将に続いて現状の不備を指摘したのは、第5艦隊司令代理のコバーン宇宙軍准将だ。

 彼の明逹かつある意味冷酷な危惧を前に、ブリュッヒャー上級大将は現状の方針を伝達する。

 

「警察力を以て臨むしかないだろう。彼等に銃を向けた瞬間、我々は軍隊からゴロツキに変貌するのだからな。場合によっては、希望者の帝国領への亡命を認めて人道回廊を設置する必要があるやもしれん」

 

「帝国への市民の脱出を許すと? それでは帝国に大義名分を与えるようなものではありませんか。帝国派の市民はスパイ容疑で拘束した方が良いのでは?」

 

「それは駄目だ。我々はあくまで、民主主義国の軍隊であったことを忘れてはならない。今や変貌したわが祖国といえど、その主権者に力の矛先を向けることがあっては本末転倒だ。───まぁ、そこは私が何とかするさ。プロパガンダについては宣伝室長が上手くやってくれるだろう」

 

 あくまで人道的見地から強制力の行使を否定するブリュッヒャー上級大将の方針に対して、軍事諜報上の欠点を指摘するコバーン提督。

 議論は平行線を辿るかに思われたが、あくまで上官である彼女の判断を優先すべしと判断したコバーン提督は、持論を取り下げる素振りを見せた。

 

「はぁ…………。ならば、私から言うことは何もありませんな」

 

 いかにも腑に落ちないといった形相で腕を組み直しながら、形だけの賛同を示すコバーン提督。

 私に丸投げですか、と唖然とする表情に内心が滲み出るマガツ宣伝室長がなにかを発しようとするのを抑えて、今度は第5艦隊のムジーク提督が反論するかのように口を開いた。

 恐らくは、コバーン提督の様子が癪に触ったのだろう。彼に対して、ムジーク提督は誇示するかのように持論を展開する。

 

「コバーン提督、帝国派の市民がゲリラ化するぐらいなら、いっそのこと追い出した方がずっと良い。何より敵味方が明確に可視化される。無用な殺生をせずに済むからな」

 

「無用? 帝国のスパイを排除することが無用だと?」

 

「その”スパイ狩り”の過程で膨大な市民の犠牲が出ると言っているのだ。我々にそんな大弾圧を行う資源的余裕がない以上、彼等の方から出ていってくれた方が有難い」

 

「ムジーク提督の言うとおりだな。我々には何より市民の理解と協力が必要だ。決して彼等に銃を向けてはならぬ。コバーン提督も、どうか抑えてください」

 

 一度は収まりかけた話題だったが、第5艦隊の二人の将校の手により再びヒートアップするこの議題を鎮めるべく、ブリュッヒャー上級大将が仲裁に入る。

 流石に現共和国宇宙軍最高指揮官たる彼女の手を煩わせるのは不味いとでも思ったのか、彼等の語気は見るからに沈静化していった。

 

「───本部長がそこまで仰るのならば。ですが、防諜体勢の拡張は急務かと。認めたくないことですが我々も帝国も元は一つの国だったが故に、何処にパルパティーン派が潜んでいるのやら」

 

「提督の懸念も確かに尤もなものだ。情報部には帝国主義者の洗い出しと不穏分子の特定は勿論やってもらうつもりでいるが、場合によっては市民集会に対する情報収集も許可する予定だ」

 

「市民集会まで? それがバレたら大変なことになるんじゃないのかい? 何せマスコミのことだ。水を得た魚のように大はしゃぎするだろう」

 

 コバーン提督の危惧を宥めるべく、情報収集に関する方針を付け加えるブリュッヒャー上級大将。

 しかしそこで、今度は今まで口を噤んでいたネモ提督からの指摘が飛ぶ。

 彼方を立てれば此方が立たず、という現状に辟易としながらも、上級大将は一つ一つ丁寧にその懸念事項に対処するべく方針の共有を図った。

 

「仕方ないだろう。我々は強く自制しなければならない立場ではあるものの、コバーン提督の懸念にも対処する必要がある。───尤も、この舵取りが難しいんだがなぁ…………」

 

「まぁ、それは分かっている。彼等の危険性を認識しているというのであれば、僕から他に言うことはないかな」

 

 最後は自嘲気味に呟くブリュッヒャー上級大将の解説を受けて満足したのか、ネモ提督は自らの指摘を引き下げた。

 

「さて。これで情勢については以上かな。では宣伝室長、次は我々の戦力について説明を頼む」

 

 この話題はこれにて打ち切り、とでも言いたげに強引に話の流れを帰るブリュッヒャー上級大将に従って、彼女のアストロメク・ドロイドであるR3がホログラムスクリーンの起動装置に新たなデータプレートを差し込んだ。

 そこに表示された新しい情報に基づいて、マガツ宣伝室長が次なる解説に取り掛かる。

 

「分かりました。続いて艦隊戦力についてです。我々は三個艦隊、計2328隻を指揮下に置いています。これは共和国軍全軍の約一割に及び、主力艦については256隻を獲得しました。我々に賛意を示しているショーン・キリアン中将麾下の第11艦隊は現在フォーロストにあり、我々とは分断された状況にあります。したがって、我々本隊が保有する戦力については艦艇1680隻となります」

 

 二千隻以上、と聞くと多いように聞こえるが、全軍で数万単位の稼働艦艇を誇っていた共和国宇宙軍全軍からすれば微々たるものだ。

 オーダー66に伴って発出された統合作戦本部からの暴露ファイルは既に全軍に共有されている筈だが、集結した艦艇の数はそれをしても尚大多数がシーヴ・パルパティーンの治世下を選び、それに忠誠を捧げたという事実を如実に物語っていた。

 尤も、日和見に徹する中立派もいるにはいるのだろうが、この事実は救国軍事会議の将校団をひどく落胆させるには十分過ぎるものだった。

 

「我が軍は、ここカリダで態勢を整えた後にアナクセスへと進出。キリアン提督の第11艦隊と共同してコルサントを包囲し、シーヴ・パルパティーンの身柄を確保。然る後に軍事法廷で彼を裁くことになるだろう。共和国の統治に関しては、混乱を除去し腐敗を一掃するまでの間は我々救国軍事会議が担当することになる。なにか異論はあるか」

 

 ブリュッヒャー上級大将から示された、今後の自軍の行動方針。

 それに異論を挟む将校はなく、誰もが彼女の提唱した方針を認めた。

 元々救国軍事会議は資源的余裕に乏しく持久戦に向いていないことから、拙速なる挟撃以外に帝国に対する勝利を描けるものが誰一人として居なかったというのが一つ。

 そしてまた、彼等も共和国に身を捧げた軍人といえどその腐敗ぶりと硬直化には辟易としており、これを一掃しないことには第二第三の分離主義者を生むだけであること。そして今や、元老院にその機能を期待するには彼等はあまりにも頼りなく汚れているという事実を誰もが認識していたが故に、()()という民主主義の理念理想からは相反するこの方針に何ら異を唱えなかったのである。

 

「───では、今後の方針は全会一致での承認を以て決定されたと見做す。宣伝室長」

 

「ハッ!!」

 

 席を立ち、ホログラム装置の前に立つブリュッヒャー上級大将。

 その意味するところを察知した将校団は、彼女の一挙一動を固唾を呑んで静かに見守る。

 

 ───遂に、この刻が来たのだ。

 

 自らの正義。

 自らの思想。

 自らの流血に報いるべく、彼女に託した軍人としての誇り。

 それを銀河全域へと高らかに謳い示し、行動に移すときが来たのだ。

 

 忙しなくホログラム装置を調整する宣伝室長から準備完了の合図を受け取ったブリュッヒャー上級大将は、マイクを片手にその全身を装置の眼前へと晒した。

 

 

─────────────────

 

 

『───私は、シャルロット・フォン・ブリュッヒャー宇宙軍上級大将です。突然で申し訳ありませんが、本日は皆様に重要なお話がありこうして話させていただいております』

 

 突如として銀河ホロネットに流れる、少女然とした容姿に似つかわしくない勲章を下げた軍服を端正に着込んだ軍人の声。

 

 まるで3年前、鮮やかにホロネット網を乗っ取り高らかに銀河共和国批判を展開して分離主義勢力を結集した、かのドゥークー伯爵を思わせるその手腕を前にして道行く通行人も思わずその行き足を止めた。

 

『私がこれからお話することは、全て事実です』

 

 そして少女の口から語られる、ジェダイ叛乱の隠された真実。

 

『ジェダイの叛乱など、事実ではありません。全ては、ある男が銀河を自らの手中に収めるために仕組んだ陰謀だったのです』

 

 努めて穏やかに語りかける彼女の瞳には確かに、その声色とは似ても似つかない怒りの炎が爛々と渦巻いていた。

 その狂気的とすらいえる瞳に当てられた数多の銀河市民達は、思わず彼女の演説に魅入られて立ち竦む。

 

『我々共和国宇宙軍は、その陰謀の一端を遂に掴むことに成功しました。───今日は、その事実を全て包み隠さず、皆さんにお話します』

 

 クローン戦争に始まって、ナブー危機に起因する銀河情勢の混沌。その全てが銀河皇帝シーヴ・パルパティーンが仕組んだ壮大な茶番劇だったと高らかに暴露した彼女は次第に語気を強め、群衆の眼前に掲げた掌を怒りの如く握り締めた。

 敬語を崩さない穏やかな口調から一転して、彼女は熱烈にシーヴ・パルパティーンの所業を糾弾する。

 

 遂に語られたその言葉は反旗の宣言。

 

 帝国の旗に下るのを良しとせず、共和国の旗に殉じる決意を固めた軍人達の決意であった。

 

『故に、我々は決起する! 共和国の旗の下に死んでいった兵士達に報いるために! 我々が3年間、祖国の旗に忠誠を誓いひたすらに戦い抜いたのは、(ひとえ)に共和国と民主主義を護らんがためである!! ……故に、帝国の存在を認めるわけにはいかない。このような茶番、決して認めてなるものか!!! 進め! 我が同胞よ! 今こそ我々を裏切った銃後に鉄槌を下す時だ…………!! 我々救国軍事会議は今日この日を以て、シーヴ・パルパティーンによる銀河支配に終末の楔を撃つ!!』





【次回予告】

 パルパティーンによる元老院議員の一斉逮捕から命からがら逃げ出したバーナ・ブリームー議員を回収したバロー・オイカン艦長代理とジェダイ将軍ディーガ・ドラッヘ率いるヴェネターⅡ級スター・デストロイヤー〈ガーララ〉は、帝国軍の追撃により窮地に陥っていた!
 オーダー66で傷つき、更に帝国軍の脅威に晒される同艦を救援するべく、シャルロット・フォン・ブリュッヒャー上級大将は部隊の派遣を決断する。

 一方その頃、CR90コルベット〈トネリコ〉に移乗しカリダへの合流を急いでいたアルト・エーベルヴァイン宇宙軍大佐も〈ガーララ〉からの救難信号を傍受し、その救援へと向かっていた。

 次回、EPISODE 3.03 『カリダ戦役』 第85話「ジャプレイル星域会戦」
 銀河の歴史が、また1ページ……
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