共和国の旗の下に   作:旭日提督

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 惑星アナクセスの軌道上に集結し、来襲する帝国軍艦隊を待ち侘びる救国軍事会議の主力艦隊。

 決戦の火蓋が切られるその時は、刻一刻と迫っていた。

 幾重にも連なった紅白の艨艟は今か今かと、その身に宿す破壊力を発揮するその瞬間を渇望している。


決裂

 

 惑星アナクセス。

 

 有史以来代々続く軍事文化の担い手であり、共和国有数の造船惑星として知られるこの惑星は、今や銀河共和国の残党、救国軍事会議の牙城と貸していた。

 

 救国軍事会議の首魁シャルロット・フォン・ブリュッヒャー上級大将からパルパティーン最高議長の背信と陰謀を聞かされた惑星政府は彼等への協力を快く承諾し、反発する一部民衆を押さえつけながら建造中の軍艦を提供。共和国は有力な大型艦複数を手に入れることに成功した。

 その中には、銀河共和国宇宙軍最大級の巨躯を誇るプラエトルⅠ級バトルクルーザーまでもが含まれていた。

 

 これらの心強い増援を得た救国軍事会議の主力艦隊は惑星軌道上に展開して艦隊の再編を行い、ブリュッヒャー上級大将とネモ提督、ムジーク提督が指揮する主力、エーベルヴァイン、エレイシア両代将が指揮する分艦隊とコバーン提督率いる前衛の4個艦隊に分かれて布陣した。

 

 艦隊は星系内の天体が落とす質量の影から計算された予想会敵宙域にまで進出し、今か今かと帝国軍艦隊の来襲を待ち侘びる。

 

 銀河皇帝シーヴ・パルパティーン率いる第一銀河帝国が救国軍事会議に向けて討伐艦隊を差し向けたのは既知の事実であり、そもそも帝国自体が“救国軍事会議を僣称する反逆者を根絶やしにする”と言って憚らないのだ。討伐艦隊の出撃は勇壮な帝国のマーチとともに銀河ホロネット中にアップロードされ、ブリュッヒャー上級大将の演説は全て虚偽、ジェダイによるクーデターの一環であると厳しく批判され断罪される。

 

 パルパティーンに忠誠を誓う討伐艦隊の士気は高く、嫌が応にも激戦の幕開けを誰もが予想していたその頃。

 救国軍事会議の軍勢を一手に率いるシャルロット・フォン・ブリュッヒャー上級大将は、開幕戦とも言える第三次コルサントの戦いの報告を苦虫を噛み潰したような表情で聞いていた。

 

 

~コア・ワールド アズア宙域 アクサム星系 インペレーター級艦 “リットリオ ”~

 

 

「…………戦況は承知しました、キリアン提督。では、敵の後背を脅かすのは厳しいと」

 

《むぅぅ……済まんな。どうにも、本国防衛艦隊の連中め張り切っているようでな。フォーロストの駐留艦隊こそ破ったが、これはちと難しい戦いになりそうだ》

 

 ブリュッヒャーはこの決戦に先立って、オーダー66の発令時はディープ・コア宙域にいたキリアン提督麾下の第11艦隊を使ってフォーロストを陥落させ、コルサントを挟撃する戦略を描いていた。

 クローン戦争時は分離主義側に属しテクノ・ユニオンの支配下にあったフォーロストを陥とすのは歴戦の猛者キリアン提督にとってしてみれば造作もなく正に朝飯前だったのだが、ことコルサントに至っては事情が違う。

 

 皇帝のお膝元であり成立したばかりの銀河帝国にとって最も象徴的な惑星であるコルサントが陥落するなどパルパティーンが到底許す筈もなく、オナー・サリマ提督率いるコルサント本国防衛艦隊は死に物狂いで艦隊を再建させキリアン提督の前に立ち塞がったのだ。

 第一次、第二次コルサントの戦いと立て続けに失態を見せたサリマ提督には後がなく、それ故に戦意も尋常ではないほどに高い。キリアンはそんな彼女相手に一進一退の攻防を重ね、連日に渡り消耗戦を繰り広げているのだ。

 

 斯様な状態では到底挟撃など望むべくもなく、ブリュッヒャー上級大将は全軍の3割にも及ぶ戦力を足止めされたまま帝国軍との決戦に臨む他ない状況に追い込まれてしまっていた。

 

「承知しました。では、敵艦隊の迎撃は此方で行います。───健闘を」

 

《うむ分かった。できるだけ早く合流できることを祈っているよ。───ッチ、またサリマの小艦隊か……。では、私はこれで失礼する》

 

 ホログラムの向こう側が大きく揺れて、視線を通信相手のブリュッヒャーから艦窓の先にいる敵艦隊に向けるキリアン。

 どうやら状況は相当切迫しているらしく、彼の表情には疲労の色が強く見られた。

 通信は慌ただしく乱暴に切られ、戦火の激しさと緊迫した戦況を如実に物語っていた。

 

「…………ハァ。キリアン提督の艦隊は当面動けず、か。これはまた、一段と厳しい戦いになりそうです」

 

「そうですねぇ。パルパティーンも寄せ集めとはいえ精鋭を送り込んでくるでしょうし、一筋縄ではいかない戦いになるのは確かかと」

 

 ブリュッヒャーが呟いた愚痴に呼応するように、傍らに控える秘書官のアンバーが相槌を打つ。

 私的な懸念と思うようにいかない戦況で些か苛立ちを募らせていたブリュッヒャーにとって、アンバーの存在はある意味精神安定剤だ。それ故か、彼女と交わす言葉は珍しく棘のない落ち着いた声色をしていた。

 

「どうしたものか。ここが正念場だというのに気が乗らない。───全く、私が始めたことだというのに、情けないですね」

 

「むむっ。いけませんよシャルさん。貴女が皆さんの核なんですから、どーんと構えていただかないと困ります。大丈夫ですよ、いつも通りのシャルさんを心掛けていただければきっと全部上手く行きます」

 

「いやはや、貴女には助けられてばかりですね。───ええ、いざ戦いになればきっと大丈夫ですよ先生。切り替えの速さは数少ない私の利点ですからね」

 

「シャルさんのそれは、切り替えというかなんというか…………」

 

「───何か?」

 

「いえいえ! 何でもありませんとも。ささっ、そろそろお時間ですよシャルさん。艦橋で皆さん首を長くして待っている頃合いです」

 

「もうそんな時間ですか───ハァ。気は乗りませんが、行くしかないですね」

 

「ではでは。お気をつけて下さいまし」

 

 迫り来る決戦を前にしてらしくなく尻込みするブリュッヒャーを鼓舞するかのように、態とらしく明るい声色を作って大袈裟にジェスチャーするアンバー。

 それに僅かばかりでも勇気付けられたのか、椅子に掛けていた軍服に袖を通してブリッジに上がるシャルロットの顔色は良い。

 数刻前には月のような蒼白い人形だったその肌に、仄りと血の気が通う。

 

 その様はまるで再起動したドロイドのようだと、遠くなる彼女の後ろ姿を琥珀色の虚な瞳で見送る女。

 彼女のその貌もまた、機械のように凍てついた能面だった。

 

 

 ……………………………………………………

 

 

 端正に軍服を着込んで艦橋に姿を見せたブリュッヒャーを、将兵が敬礼で出迎える。

 二列に分かれて整列した彼等の姿を一瞥した彼女はまず、現在の情勢を確認するべく参謀長のミーバー・ガスコン准将に向かって尋ねた。

 シャルロットの愛用のアストロメクであるR3の頭に腰を据えながら、このジルキン種族の男性は彼女の質問に応対する。

 

「状況はどうなっています、参謀長」

 

「うむ。つい数分前、敵の強行偵察艦が現れたとの報せを受けた。まぁ、問題なく沈めてありますが」

 

「なら良いでしょう。全艦、第二種戦闘配備のまま待機」

 

「了解です。全く、凪いだ海だ。これから艦隊決戦だとは思えませんな」

 

「そればかりは同感ですね」

 

 ガスコン准将の呟きに応じて、頷きながら司令官の席に腰を据えるブリュッヒャー。

 蒼くて暗い深宇宙の海はまるで無風状態のようで、確かにこれから起こり得るであろう動乱を微塵も予感させない静けさだ。

 

 だが、その静寂を打ち破るが如く。

 

 遥か遠方の宇宙空間に、一面灰色を纏った大小のスターシップが出現した。

 

「提督! 帝国です! 帝国軍艦隊が現れました!!」

 

「コバーン分艦隊よりも緊急電! "我敵艦隊見ユ"!!」

 

 けたたましく鳴り響く警報とともに、俄に喧騒を増す旗艦〈リットリオ〉のブリッジ。

 それを鎮めるが如く、ブリュッヒャー上級大将はクルー達に向かって一喝した。

 

「狼狽えるな! 敵はまだ遠い。ジャンプした位置も想定の範囲内だ。何をしている、敵艦隊の分析を急げ!」

 

「は、ハッ!!」

 

 彼女の怒号で我に返り、各々与えられた役割に集中する旗艦のブリッジクルー達。

 その中の一人であったあるオペレーターの当直士官が、更なる報告を彼女にもたらす。

 

「敵艦より通信です!」

 

「…………開け」

 

 眼前の帝国軍艦隊からの通信。

 降伏勧告か、はたまた宣戦布告の名乗り上げか、この不可解な事態に首を傾げるブリュッヒャー。

 暫しの思案を耽らせた後、彼女は応答を選択する。

 そこに現れたホログラムは、彼女にとっても馴染みのある知己の姿を形作った。

 

「───ペレオン提督でしたか。要件は何です」

 

《本部長。どうか、剣を納めてはいただけませんか》

 

 ───は? 

 

 開口一番、降伏勧告と来たか。と、苛立ちを露にするブリュッヒャー。

 顰められた瞼の間から放たれる眼光は、鋭利な刃のように蒼白いホログラムに突き刺さった。

 

《貴女の力は、新しい帝国にとっても大きな利益になります。今はこの銀河を改革し、秩序を取り戻すチャンスなのです。どうか、我々と共に…………》

 

「愚問だな、ペレオン大佐」

 

 懇願するかのように細々しいペレオンの、勧告ともいえないような要請を前にして、それを毅然と跳ね除けるブリュッヒャー。

 彼も最初から、望み薄だと分かっていたのだろう。固く結ばれたその表情は微動だにしない。

 

「言った筈だ。我々は、我々の誇りのために起つと。貴官がたとえ何を言おうと、我々の決意は変わらない」

 

《それは、ジェダイの…………》

 

 陰謀ではないのか、と諭さんと試みるペレオンの言葉を一刀の下に伏すブリュッヒャー。

 彼女は端から交渉などするつもりもなく、まるで聞く耳を持たない。

 

 そんな彼女にあしらわれるペレオンを見かねてか、更に別の通信が二人の間に割り込んだ。

 

《ほぅ。余の誘いを断るばかりか、更に邪魔をしようとはな。全く以て、度し難い裏切者なことだ》

 

 しわくちゃにせがれた老人の声で、不愉快なまでに粘着質な声色で見下す新たな乱入者。

 

 その正体を悟ったペレオンは恐縮のあまり佇まいを思わず正して、ブリュッヒャーの額には跳ね上がる彼女の不機嫌指数を象徴するかの如く更に皺が浮かび上がる。

 

「"共和国"を裏切ったのはそちらではありませんか? パルパティーン()()()()閣下」

 

 殊更に、"最高議長"の四文字を強調して闖入者を看破するブリュッヒャー。

 余程、彼を皇帝と呼びたくないのだろう。その声色は、まるで罪人を処断する裁判官のように冷たく、鋭い。

 

「今更何の用です妖怪爺。断頭台にでも出てくる気分になりましたか?」

 

《おやおやこれはまた手厳しいな、ブリュッヒャー本部長。其方の振るうその権力、誰が与えたものなのか分かっておろう。まさか、恩を仇で返すとでも言うのかね》

 

「私は厳然たる事実に基づいて、共和国軍法の下行動しているに過ぎない。先に規定を外れたのは貴方ではありませんか」

 

《あれはジェダイめによるクーデターだ。よって、法は余の味方である。これが最後のチャンスだぞ本部長。"オーダー 66 に従え"。さすれば、兵士達の命は助けてやろう》

 

「お言葉ですが、違法な命令には従えません。正当であると仰るなら、その法的根拠を明らかにして頂きたい、パルパティーン()()()()閣下」

 

 平行線を辿る、互いの応酬。

 意識してフォースを放ち、無言の圧力を加えるパルパティーンを前にしても尚折れない鋼のように敢然と立つブリュッヒャー上級大将の佇まいは、将兵にとって確かな勇気と信頼となって映る。

 それを知ってか知らずかしてパルパティーンの帝国の違法性を訴える彼女の姿は、彼の素性を知る者からすれば命知らずもいいところであった。

 

《堅い奴め。全くどうして、そんな()()()()()ものに固執するのか。────シャルロット、()()()()()()()()ぞ。その欲望も、何もかもを憚ることなく自由に振るうことができるのだ。其方にとって、悪い話ではない筈だ。さぁ、()()()()()()()()()

 

 ────────────

 

 暫しの、無言。

 

 言葉にはならない透明な圧力は確かな力を持ってブリュッヒャーの全身に降りかかり、その固く閉ざされた殻に入った亀裂から内側へと雨水のように染み込んでいく。

 彼女の暗く澱んだその内面に纏わり付くようにして腰を下ろさんとするそれは…………

 

「────何を」

 

 ───刹那の暴風によって掻き消された。

 

「───何を言うかと思えば、そんな()()()()()戯言ですか。貴方も墜ちたものですね、最高議長閣下。その顔のように、志まで腐ったと見える」

 

《───なんだと》

 

 シャルロットからの、確かな拒絶。

 

 彼女に巣食う邪な欲望を刺激せんとした暗黒面の波動は、呪いじみた自己暗示によって塵のごとく吹き飛ばされる。

 

「私は()()()()()()です。共和国軍の勝利という大義の前では、私個人の欲望などゴミ同然の価値しかない。───公人たる貴方は当然理解しているものと思ってましたが、とんだ勘違いだったようですね」

 

 決定的な、価値観の断然。

 

 暗黒面を信奉し、千年の妄嫉を継いだ暗黒卿パルパティーンと、自らをひたすら軍人と定義してそれ以外に存在価値を見出ださないシャルロット。

 

 両者の応酬がどこまでも並行線を辿るのは、当然の帰結とも言えた。

 

「もう何を話しても無駄でしょう。私は貴方には降らないし、貴方を必ず軍法会議の場に引き摺り出す。その首、洗って待っているがいい」

 

 一方的に、パルパティーンからの介入を遮断するシャルロット。

 唖然と口を開く老人のホログラムが、砂嵐に呑まれていくかの如く消滅した。

 それと時を同じくして、ペレオンの旗艦〈レヴェラー〉から繋がれていた通信回路も強引に切断される。

 

 回線のホログラムの消滅を見届けて、ブリュッヒャーはマイクを片手に取って立つ。

 

 それは、艦隊決戦の開幕告げる火蓋───

 

 

「───聞け、我等共和国軍の勇敢なる兵士諸君!! シーヴ・パルパティーンは最早地に落ちた!! 祖国の亡骸を苗床として、欲望に邁進する彼奴を決して赦してはならぬ!! …………全艦、第一種戦闘配備! 我等共和国軍人の誇り、今ここに示す刻だ!!」




【次回予告】

 遂に衝突する救国軍事会議主力、共和国宇宙軍第3・第5連合艦隊と銀河帝国軍第4、第7艦隊。
 幾多のレーザーが飛び交い、ファイターとボマーが乱舞するその戦場に、果たして勝利の女神は微笑むのか。
 統合作戦本部長シャルロット・フォン・ブリュッヒャー上級大将が仕掛けた一世一代の勝負の行方は果たして如何に。

 次回、第88話「第二次アナクセスの戦い」
 銀河の歴史が、また1ページ……
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