共和国の旗の下に   作:旭日提督

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 遂に両軍激突す!

 アクサム星系に集結した銀河帝国、救国軍事会議両者の主力艦隊は正面から戦端を開く。

 全軍を集中し敵中突破を図る帝国軍に対して、救国軍事会議の首魁シャルロット・フォン・ブリュッヒャー上級大将は艦隊を四分し敵の包囲殲滅を目論んでいた……


第二次アナクセスの戦い

~銀河共和国軍第3艦隊旗艦 インペレーター級艦 “リットリオ ”~

 

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「来ました。帝国軍艦隊です。プラエトル級3、インペレーター級13、ヴェネター級37、ヴィクトリー級18、セキューター級6、アクラメーター級9を確認。護衛のフリゲート、コルベットも多数、後続の見込みです」

 

「前衛のコバーン分艦隊が帝国軍艦隊と交戦を開始しました。戦況情報、更新されます」

 

「全艦、機関全速。敵艦隊を正面から迎え撃つ。コバーン提督は応戦しつつ後退、敵を引き付けてくれ」

 

《了解、何とか持たせてみせよう》

 

 遂にアクサム宙域にまで進出した帝国軍。それを迎え撃つは、わが麾下の第3艦隊。ここアナクセスを死守しなければ、フォーロスト=コルサント打通作戦を展開中の第11艦隊が孤立無縁に陥る。絶対に落とすわけにはいかない戦いだ。

 敵の総数は我が方をやや下回る程度だが、決して侮ることはできない。

 

「ラディアントⅡ級各艦、砲撃準備完了。いつでも行けます」

 

「まずは敵艦隊を牽制、漸減する。第101、161戦隊各艦は軸線レーザーによる遠距離砲撃戦を開始せよ」

 

 流石の銀河帝国海軍といえど、射程外からの攻撃には警戒せざるを得ない筈だ。私は長射程を誇るラディアントⅡ級各艦に下命し、主砲発射を指示する。

 コバーン分艦隊が敵を足止めし攪乱している間に遠距離砲戦で敵艦隊を漸減し、敵の数が一定の水準まで減ったところで包囲する。これが今回の戦闘におけるミソだ。

 そのために、此方は4個分艦隊に分散して布陣している。一個一個の分艦隊は敵艦隊よりも規模が小さく、場合によっては各個撃破されかねない。慎重で繊細な運用が求められる。

 

 今しがた砲撃を始めたラディアントⅡ級スター・デストロイヤーは、艦首に超長射程の新型ヘヴィ・ターボレーザーを装備した新鋭艦だ。銀英伝の戦艦から着想を得て私が計画したこの戦艦の砲戦能力は非常に高く、格上のインペレーター級にも勝るほどだ。まだまだ配備数こそ少ないが、今回の会戦に間に合ったのは正に僥倖といえる。

 仮にこの艦級がいなければ、今頃我々は敵艦隊よりも劣勢な戦力差で正面からの艦隊決戦を強いられていたことだろう。

 

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「主砲第一射、着弾! 敵クルーザー2隻を撃沈しました」

 

「射撃速度を早めよ。エネルギーチャージを急げ。コルベット部隊は敵艦隊に向けて突撃し、これを攪乱しろ」

 

「了解。戦術ネットワーク上に命令をアップロード。各艦隊に提督の指示を共有させます」

 

 第一手は好調だ。順調に敵艦隊の外縁を撃ち減らし、主力艦に続く戦力価値を持った敵のクルーザー部隊に確かな損害を積み重ねている。

 

 だがここで、耳元に凶報が届いた。

 

「コバーン分艦隊の戦況、不利!」

 

「───なに?」

 

 帝国軍と交戦を始めた我が艦隊の現状であるが、前衛のコバーン分艦隊は敵の数に押されて早くも瓦解しかけている。私の本隊から遠距離射撃による援護も行っているが、如何せん敵艦隊の規模が大きすぎたか。ある程度の被害はどうしても出てしまうと割りきってはいたが、敵が固まって動いたせいで戦力差が拡大したのが被害続出の原因か。

 本来ならコバーン艦隊で敵を足留めし、遠距離砲戦で着実に敵の存外を狙うつもりだったのだが、予備のコルベット部隊で穴を埋めなければ戦略が破綻しかねない。

 

 ───これは、私のミスだな。

 

 幾ら回避性能に長けた艦艇をコバーン分艦隊に優先的に割いたとはいえ、彼我の戦力差があまりにも大きければ意味がない。

 

「エーベルヴァイン分艦隊とエレイシア分艦隊は位置についたか?」

 

「ハッ! 現在所定の位置にて待機中です」

 

 …………多少事前の想定が崩れたものの、まだ作戦の修正は可能だ。コバーン分艦隊が完全に瓦解する前に、両翼の二個分艦隊で敵艦隊を包囲し十字砲火を加える。いまここで攻めなければ、コバーン分艦隊が全滅しかねない。それどころか、今度は此方が各個撃破のいい的になってしまう。

 

 

「両艦隊に前進を指示しろ、敵艦隊を包囲する。わが艦隊も前進する。巡洋戦艦を前に出しつつ突撃せよ」

 

「イエッサー! 全艦隊、突撃します」

 

 戦場のイニシアティブを奪うべく、全軍を挙げての攻勢。

 艦隊両翼のエーベルヴァイン分艦隊とエレイシア分艦隊に加え、私の本隊も敵艦隊に向けて全力で突撃する。

 数少ない4000m級の大型巡洋戦艦であるプラエトル級艦〈プレデター〉〈プリテンダー〉〈プロフェッサー〉の3隻を先頭に立てつつ、その隙間を埋めるようにヴェネター、ヴィクトリー級艦を配置。敵の攻撃を大型艦で受け止めつつ、火力を最大限に発揮できる陣形だ。

 

 敵の動きは…………変わらないな。まずは眼前のコバーン分艦隊を殲滅し、我が方を各個撃破する魂胆と見た。我々の突撃に呼応して艦隊配置を変更することによる余計な混乱を嫌ったな。確かに、堅実な一手だ。

 

「敵艦隊、射程内です」

 

「全艦、砲撃開始! ファイター隊、順次発進せよ」

 

 我が本隊と両翼の分艦隊、それぞれがほぼ同時に敵艦隊を射程に捉えた。一方、敵艦隊はコバーン分艦隊を中央突破し、真っ直ぐに本隊を目指している。艦隊規模では敵艦隊は私の本隊を上回っているから、包囲殲滅される前に私の艦隊を撃破するつもりのようだ。ここで下手に退却すれば、艦隊総数で有利な我が方の合流を許して不利になると踏んだらしい。

 一方、コバーン分艦隊の救援に差し向けたコルベット部隊だが、此方は敵のコルベットに阻まれて思ったほど戦果を挙げられていない。同クラス同士の潰し合いとなって不毛な乱戦を強いられている。だが、敵艦隊から防空能力の高いコルベットを引き剥がせたことは此方にとって有利に働くことになるだろう。ここはファイター隊の活躍に期待だ。

 

「後方の101、161戦隊は現宙域を離脱、所定の位置に向かえ」

 

 作戦は第二段階に移行した。

 第一段階の遠距離砲戦は想定ほど上手く行ったとは言いがたいが、敵は予想通りの動きに出ている。

 ラディアントⅡ級の戦隊による砲撃は敵クルーザー5隻、フリゲート3隻を撃沈したところで一度中断。陣地転換を命じる。

 さて、次の一手を打つには頃合いかな。

 

 

~銀河共和国軍第3艦隊エーベルヴァイン分艦隊旗艦 アクラメーターⅡ級艦 “イストリア ”~

 

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「こいつはいいぞぉ! どっちを向いても敵ばかり! 撃って撃って撃ちまくれ!!」

 

「「「サーイエッサー!!」」」

 

 旗艦先頭の諺通りに、艦首シールド出力を全開にしつつ真っ先に敵陣に切り込む〈イストリア〉。本来は艦隊戦が不特手な強襲揚陸艦であることを感じさせないその覇気は、分艦隊全体の士気にも好ましい影響を与えていた。

 

「やれやれ、…………代将閣下、本艦は他艦に比べたら脆い方なのをお忘れなく。勢いのあるうちに片付けるように頼みます」

 

「勿論、アグラヴェイン艦長。そう易々と反転攻勢なんて許しませんとも! さぁ、次の標的です! 突撃ぃー!」

 

 勢いに任せ、敵艦隊左翼を食い破り続けるエーベルヴァイン分艦隊。既に敵艦隊のフリゲート、クルーザーを十数隻も藻屑へと還し、敵の分艦隊旗艦にまで迫らんとする。

 

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 一方の帝国軍も易々と自陣内部で暴れまわる敵艦隊の存在を許す筈もなく、ファイター隊の一部と残存するコルベット部隊を差し向けてエーベルヴァイン分艦隊の阻止を図っていた。

 三方向から迫る共和国軍第3艦隊を前に敵は当初迎撃に出る構えを見せず愚直に直進を続けていたものの、流石に堪忍袋の緒が切れたのか、艦隊を三分し迎え撃つ構えを見せていた。

 

 

~銀河帝国軍第7艦隊旗艦 アクラメーターⅠ級艦 “レヴェラー ”~

 

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「アークワイテンズ級艦〈ハボック〉、〈エンフォーサー〉、通信途絶!」

 

「巡航艦〈ワスカー〉轟沈!」

 

 銀河帝国軍第7艦隊旗艦〈レヴェラー〉の艦内では、絶え間なく被害報告が繰り返される。

 銀河共和国軍第3艦隊エーベルヴァイン分艦隊による突撃を真っ向から受けた第7艦隊は被害が多発し、外周の護衛艦隊は総崩れに陥っていた。

 元々艦隊司令部の方針もあり正面の敵艦隊撃破を優先していた帝国軍艦隊は側面からの攻撃への対応に遅れ、徒に被害を積み重ねる結果になったのだ。

 尤も、帝国軍とて側面からの攻撃は想定しておりそのための警戒も怠っていなかったのだが、今回ばかりはエーベルヴァイン分艦隊の突撃のペースが早すぎたために予想を大きく狂わされた形となったのだ。

 

「ちっ。だから、艦隊を不用意に分散するなと言ったんだ」

 

 帝国軍左翼集団を務める第7艦隊旗艦〈レヴェラー〉の壇上で、この艦隊を預かる帝国軍将校は、その闘志に燃える眼を萎めながら自軍を指揮する総司令官に悪態を吐いた。

 皺のない新しい軍服を端正に着込み、表情一つ崩すことなく堂々と指揮官の席に立つ中年の男性将校───ギラッド・ペレオン銀河帝国内宇宙軍代将は、自軍の損害を鑑みて隸下の艦隊配置を如何にして再建するか思案に耽る。

 

「閣下、外周の護衛艦隊が総崩れに! 敵艦隊が陣形の内側に突入してきます!!」

 

「狼狽えるな、艦隊を立て直す。インペリアル級各艦は敵に側面を向けつつ阻止行動を取れ。ファイター隊は艦隊防空を最優先に。敵のボマーを近寄らせるな」

 

「は、ハッ!!」

 

 ペレオンは慌て取り乱す部下を諫めながら、敵の艦隊編成を映像データから瞬時に分析し次なる一手を全艦に指示する。

 旗艦の壇上で微動だにせず冷静沈着に指揮を執る彼の姿は配下の将兵にその使命を思い起こさせ、下がる一歩だった彼等の士気を引き上げて秘めた闘志を刺激する。

 ペレオンの姿勢に胸を打たれた将兵達は冷静さを取り戻し、その指示を艦隊全体に一言の漏れなく伝達するべく奔走する。

 

 そのお陰か、帝国艦隊は統率を取り戻して効果的な反撃に打って出る余裕を取り戻していた。

 

 ペレオンは堅牢なインペレーター級───インペリアルⅠ級スターデストロイヤーを最前線に押し出し敵艦隊に対する盾とした。このクラスは全長1600mクラスの新鋭戦艦で、前級ヴェネター級スターデストロイヤーよりも遥かに強固なシールドと装甲を持っていた。但し、全主砲を正面に指向できないという欠点があったものの、ペレオンはインペリアル級各艦に側面を敵にさらけ出すように指示し、堅牢な装甲で敵を押し止めると共に最大の火力を発揮できるように図っていた。

 

「敵艦隊、インペリアル級に攻撃を集中しています」

 

「〈エグゼキュートリクス〉、シールドダウン! 〈アキューザー〉も危険域に達しつつあります」

 

「…………止むを得ん。2隻を下がらせろ。抜けた穴には〈ローブリンガー〉を配置に就けるんだ」

 

 しかし、新鋭艦には特有の初期不良も付きまとう。2隻のスターデストロイヤー〈エグゼキュートリクス〉と〈アキューザー〉は早々にシールドを喪い、装甲に炎が上がり始めていた。設計上の限界値では未だシールド強度は充分な筈であったが、装置の機械トラブルと短時間で多量の負荷がかかったことが原因で一時的に両艦のシールド発生装置がショートしたのだ。

 殺到した敵のYウィングが投下したイオン爆弾とプロトン魚雷の雨が、この2隻のシステムに悪影響を与えていたのは間違いない。

 

 本来ならまだまだ耐えられる筈の両艦の戦線離脱は痛いものの、ペレオンは仕方のないことと割りきって健在な他艦で空いた穴を埋めるように指示する。

 多少のトラブルに見舞われたものの、インペリアル級各艦が本格的に参戦してからは目に見えてエーベルヴァイン分艦隊の進撃速度は鈍っている。

 ペレオンはその様子を見るやすかさず好機だと確信し、戦況を俯瞰するホログラムを一瞥して次なる命令を演算する。

 

「〈プロテクター〉〈ドミネーター〉〈スタルワート〉の3隻は敵艦隊右舷を砲撃せよ。次は此方のターンだ」

 

 敵の勢いが削がれたこの隙に反転攻勢を仕掛けるべく、ペレオンは艦隊後方に位置していたヴィクトリーⅠ級艦3隻を中心とした艦隊に攻撃を指示した。

 インペリアル級に比べると小柄ながらも重武装で堅牢なこのスターデストロイヤーの砲火力を正面から受けてしまえば、小癪な艦隊機動を続ける敵も今までのようにはいかなくなるに違いない。

 

 だが、ヴィクトリー級艦の接近を見た敵艦隊はインペリアル級からなる壁に対する攻撃の手を緩め、高速を維持したままの同航戦に舵を切り替える素振りを見せた。これによって、ヴィクトリーⅠ級艦の戦隊による攻撃は不完全に終わってしまう。

 敵艦隊が高速のアクラメーター、ヴェネター、セキューター級艦を中心とする編成である以上、逃げられたら亜光速度に劣るヴィクトリー級艦で追撃するのは至難の業だ。猪突猛進かと思えば適切なリスク管理もできる名将、ペレオンは、今しがた対峙する敵将にそんな感想を抱く。

 

「あれは…………〈イストリア〉か。だとすると、敵の指揮官は彼女の弟子。道理で、そう上手くいかん訳だ。これは一筋縄ではいかんな」

 

「如何なさいますか、代将閣下」

 

「決まっておる。全艦、隊列を維持しつつ前進せよ。敵の土俵に付き合う必要はない。我々は我々の成すべきを遂げるのみだ」

 

 敵艦隊の先頭に位置する、一隻のアクラメーターⅡ級艦。

 

 その白い艦体に刻まれたハイ・ギャラクティックの艦名を視界に入れたペレオンは、相対する敵の素性を察して感服と敬意の念を密かに懐いた。

 

 ───なるほど、確かに”彼女”の薫陶を受けていた奴らしい手だ。中々どうして、一筋縄ではいかない訳だな。

 

 クローン戦争最初の日、第一次ジオノーシスの戦いを共にして以来幾度も同じ共和国の戦士として数々の戦場を共にした彼女、シャルロット・フォン・ブリュッヒャー。

 

 それに軍人として敬意と信頼を覚えていたペレオンにとって、彼女と同じ旗の下で戦うことができないという事実は誠に至極残念なことだった。

 

 

~銀河共和国軍第3艦隊エレイシア分艦隊旗艦 ヴァリアント級艦 “ユリシーズ ”~

 

 

 帝国軍第7艦隊左翼がエーベルヴァイン分艦隊の活躍により大きな損害を被っていた頃、共和国軍第3艦隊の左翼を務めるエレイシア分艦隊は帝国軍右翼と交戦していたが、堅牢な敵陣を前に攻めあぐねていた。

 

「巡航艦〈ドロマンド・カス〉〈タイソン〉が戦列を離れます」

 

「第119駆逐戦隊が突破されました! 敵ファイターが右舷上方より陣形内側に侵入してきます!」

 

 絶え間ない被害報告とは対照的に健在な陣容を保つ帝国軍を前に将兵達の焦燥が蓄積するが、艦隊指揮官を務めるエレイシア代将は、冷静に戦況を俯瞰して分析の手を緩めない。

 

 ───右翼こそ勢いがあるものの、敵左翼は行き足を止め、中央軍集団は膠着状態か…………

 

「防空隊を右舷上方ポイント2α-5へ。陣形に隙を作るな、第132、155駆逐戦隊を前へ。損傷艦は随時交代し応急修理に取り掛かりなさい」

 

「ハッ!!」

 

 友軍艦隊───猪突猛進に突撃し帝国軍第7艦隊を混乱に陥らせている同僚、エーベルヴァイン代将率いるもう片方の分艦隊の戦況から自軍が有利と判断したエレイシアは、自艦隊の統制を保ちつつ敵を拘束することに注力した。

 当初の予定であれば3個分艦隊で一気に敵を包囲殲滅する作戦であったものの、その目算が崩れた今は中央の本隊と敵左翼を抜けたエーベルヴァイン分艦隊で敵中央軍集団を撃滅するのが次善の策だと判断したのだ。

 その障害となる有力な敵艦隊、敵右翼集団を釘付けにし膠着状態に持ち込むことこそ、自らに課せられた役割だと確信したエレイシアは、突出を避け堅実な用兵を以て敵に相対する。

 彼女が予測したとおり、ブリュッヒャー上級大将は敵中央軍集団の撃滅を最優先とする旨の暗号通信を発出しており、修正された作戦内容も概ねその通りだったのだ。

 

「いよいよ正念場です。敵に一兵たりともこの場所を通させるな」

 

「了解!!」

 

 敵の攻撃により落伍した艦の間を縫うように、フリゲート、コルベット、軽クルーザーの隊列が穴を埋める。

 エレイシア分艦隊と相対する帝国軍艦隊右翼集団は火力を一点に集中して突破と撃滅を図りたい模様だが、一丸に堅牢な壁となって立ちはだかる相手を前にして焦りが出てきたのだろうか。その火線は次第に乱雑さを増していき、接近速度も上昇していく。

 

「敵艦隊、更に増速!」

 

「増速? まぁいいでしょう。全艦、ポイント4-δまで後退。馬鹿正直に乱戦に付き合う必要はありません」

 

「イエッサー」

 

 敵は優勢なうちに小癪なこの分艦隊を叩き潰して直接此方の本隊を叩こうという魂胆なのだろう。共和国軍が劣勢なことをいいことに、勇猛果敢にエレイシア分艦隊を攻め立てる。

 

「サウザーン級艦〈ヴァーネット〉が戦列を離れます」

 

「バーゼル級艦〈D827〉〈D591〉の反応をロスト! カンサラー級艦〈F688〉も撃沈されました」

 

「進路そのままです。敵を引き摺り出せ」

 

「更にコルベット3隻が落伍! 閣下…………!」

 

「───命令に変更はありません。後退を続けなさい」

 

 しかし、敵は優勢になり過ぎる余り友軍の状況にまで気を払う余裕を失ってしまったらしい。

 彼等が気付いたときには既に本陣とペレオン率いる左翼集団から引き離された後であり、最早後戻りはできない状況に片足を突っ込みつつあった。

 この時点で帝国軍右翼集団に残された選択肢は、眼前のエレイシア分艦隊と不毛な乱戦に持ち込むか、はたまた敵前回頭してエーベルヴァイン分艦隊と主力に包囲されつつある本陣と左翼集団の救援に回るか、二者択一の状況であった。

 

 だが、敵前回頭などすればエレイシア分艦隊の格好の餌食になるのは目に見えている。今でこそ優勢を保っているが、敵に背を向けた瞬間にその優位は崩れ去ることは誰の目にも明らかだ。

 

 故に、帝国軍右翼集団の指揮官は頑迷に敵中突破の方針を堅持する選択を下した。

 

「敵艦隊、航路そのまま。我が方と乱戦に持ち込むようです」

 

「心中するつもりですか? 全艦、近接戦闘用意! 敵が雪崩れ込んできます。ファイターも全て出しなさい!!」

 

「サーイエッサー!」

 

 急速に距離を縮めつつ迫る敵艦隊を前に、覚悟を決めたかのようにありったけのファイターを続々と射出して態勢を整えるエレイシア分艦隊。

 

 彼女達と帝国軍右翼集団が互いにもつれ合うような形で近距離戦闘に移行するその最中、帝国軍中央軍集団はエーベルヴァイン分艦隊とブリュッヒャー上級大将率いる本隊の攻勢を前に総崩れに陥っていた…………

 

 

 ……………………………………………………

 

 

 ………………………………………………

 

 

 …………………………………………

 

 

 ……………………………………

 

 

 戦況の大勢は決した。

 

 エレイシア分艦隊が敵右翼集団を引き付けている間に、私の本隊と帝国軍第7艦隊を突破したアルトの分艦隊とで敵中央軍集団に十字砲火を加えてこれを完膚なきまでに撃滅。

 敵は旗艦を沈められたのか、統率は目に見えて乱れている。

 右翼集団の誘引に成功し、優勢な戦力で敵を叩くことができたのが一番の勝因だ。

 

「敵プラエトル級艦、撃沈!!」

 

「まだ応射してきている艦がいる。集中砲火を浴びせろ」

 

 旗艦〈リットリオ〉は言わずもがな、最前線を張るプラエトル級艦やインペレーター級、ヴィクトリー級各艦から弾薬庫を空にする勢いで震盪ミサイルやターボレーザーの嵐が続々と繰り出される。

 

 私の手の一振りで浴びせられるそれは生物非生物を問わずして等しく行く手にあるものを塵に還し、幾つもの小太陽が現れては消えていく。

 

 敵は主力のインペレーター級はおろかプラエトル級艦までもが落伍し、最早中央軍集団は艦隊としての体を成していない。

 

「エーベルヴァイン分艦隊の位置は?」

 

「ハッ!! 現在、敵中央軍集団後方に食いついています!」

 

「誤射だけはするな。エーベルヴァイン分艦隊は引き続き敵中央軍集団を攻撃しつつ、敵右翼集団と乱戦状態にあるエレイシア分艦隊の救援に向かえ」

 

《了解です、マスター!!》

 

 通信回路の先にいるアルトから、元気のいい溌剌な返事が飛ぶ。

 この好機を作るために貧乏くじを引いた形になったエレイシア代将には申し訳ないが、もう暫く耐えてもらおう。

 

 敵中央軍集団は今や散り散りになって個艦毎に動いている状況であり、最早脅威とは言えない。次なる目標は、未だ余力を残しているペレオンの艦隊だ。

 あれに残存艦艇が合流されると些か厄介なことになる。アルトの分艦隊を敵右翼集団の掃討に向けた以上、この艦隊だけで有力なペレオンの艦隊と再び真っ向勝負を挑まなければならない。

 互いの残存艦艇でもほぼ同数だから、不毛な潰し合いになるな。

 

「全艦、敵中央軍集団の殲滅が優先だ。ペレオンの艦隊が立て直すにはもう暫く時間がかかる。その隙に敵主力を完膚なきまでに叩き潰すぞ」

 

「イエッサー!」

 

 分の悪い追撃戦はしない。

 今は着実に、刈り取れる敵から潰すべきだ。

 彼の艦隊は確かに脅威ではあるが、後方に再編中のコバーン分艦隊が位置しているのだ。頭が切れる彼のことだ。そう易々とは包囲殲滅を許してくれることはないだろう。

 

 此方の態勢が万全になったところで、戦場を塞いで一気に仕掛ける。

 

 そう、考えていた刻だった。

 

「…………マスター」

 

「どうした? アルト。なにか問題発生か?」

 

 慣れ親しんだ、愛弟子の声。

 通信回路に手を伸ばして応答するが、肝心のアルトの姿はどこにもない。

 

 ───通信、じゃない…………!? 

 

 ふと、背後で微かに響く踏み込みの床を蹴る音。

 

 彼女の声が、〈イストリア〉ではなくこのブリッジの中で響いていると悟った時にはもう既に遅く。

 

 ───セーバーは……ッ! 

 

 咄嗟に振り返りながら腰のセーバーに手を掛けて、"敵"の迎撃を試みる。

 

 ───間に合わ、っ…………!? 

 

 演算、演算、演算、ERROR。

 あらゆる全ての計算結果が、致命的な初動の遅れを指摘する。

 セーバーのスイッチに手を掛けるよりも早く、私の胸に向かって飛び込む愛弟子の姿をしたナニカ。

 

 金色のそれが肩口に触れたその時には既に、()()()()()()()()が私の腸を貫いていた。

 

 

「おまえが、貴女が…………私のモノにならないから、ッ──!!」

 

 

 ぐりっ、と。更に腸に深く捩じ込まれる刃。

 

 内側から焼かれる激痛が迸る中、開いた両眼に映り込むその景色は───

 

 

 …………憎悪を滾らせた表情で、私の胸を切り裂いたアルトの形をしたナニカだった。

 

 

────────────────────

 

 

「…………マスター?」

 

 戦場の火花が消えていくその最中。

 

 突如として、いいようのない気持ち悪い()()()()が私のフォースを刺激する。

 

 さっき一瞬だけ入ったマスターの艦からの通信が、嫌が応にも不吉な前兆を予感させる。

 

「どうかされましたか、代将閣下」

 

 横にいるなにかが発した言葉も、ただの音にしか聞こえない。

 

 ざわめく波のように()()()()は次第に明瞭な形を成していき、一つのビジョンになって私の眼球に投影される。

 

 その景色は、マスターが()()姿()()()()()()に切り裂かれて、崩れ落ちている光景で……………………

 

 

「マスターーーっ!?」

 

 

 或る軍艦の艦橋で、誰かを必死に呼ぶ少女の悲鳴が反響した。

 

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